霊晶石物語   作:蟹アンテナ

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魔石加工術

(今日も給水キャラバンが他のオアシス村へ出発か・・・。)

 

ラクダの背中に荷物を載せて手を振る男達、そして青く透き通った石を麻袋へしまい込み、砂漠の奥へ消えて行く。

 

(そう言えば、水の魔石を砕いて小分けにして運搬している様だが、どのようにして爆散させないように砕いているのだろうか?)

 

迷宮核は小さな水の魔石を生成すると、地形操作能力でプレスし砕いてみるが、水が迸りコアルームの床がびしょ濡れになってしまう。

 

(普通に砕けばこのように水を噴き出して残りは魔力として霧散してしまうのだが、まるで普通のガラスの様に砕いて小分けにしている仕組みが理解できないな。)

 

(そう言えば、水の魔石は発見され次第、一度魔術師の研究所へと一まとめに送られるんだったな、今一何をやっているのか分からないが、もしかしたら何かしらの処置をしているのかもしれない。)

 

迷宮核は視覚移動をして、魔術師の研究所の内部を覗き見てみると、黒いローブの魔術師達が、回収された魔石の山に何やら手を加えている様だった。

 

「ふぅ、暇だな」

 

「そうだな」

 

「外に巨大湖が出来たから地底湖から水を引く必要もなくなったし、漁のついでに魔石を調達してくれる者も減ったから魔石の調整もしなくなったな」

 

「想定していたよりも水の魔石を使わなくなったから別にいいんじゃないか?」

 

「それは岩山の主様が干ばつを抑えてくれているからだろう?各地に水場が現れているが、そのお陰で水の魔石を使わないでいられるだけだ、備えは必要だ」

 

「確かに干ばつの影響でわれら砂漠の民だけでなく、大河の国でも水の魔石が高騰していると聞くな」

 

「キャラバンでも水の魔石は生命線かつ主力商品でもある、我らは仕事をたたむわけにはいかんのだ」

 

「まぁ、我々が仕事をたたんでしまったら長距離運搬に向かない未処理の魔石をキャラバン隊に持たせる羽目になるからな・・・」

 

「不活性化処理をしていない魔石なんて持たせたら、運搬中にドカンだ、水の魔石だからまだ良いものの、これが火の魔石だったりしたら目も当てられない」

 

「火の魔石かぁ・・・そう言えば村長が特注品の加熱調理器具を持っていたなぁ、確か此処を見つけたときに、巨大サソリの幼体を調理したって話を聞いたことがあるな」

 

「見つかるのは水の魔石と少量の土の魔石だ。この時点で色々とおかしいが、火の魔石は此処では見つかっていないんだったな」

 

「砂漠のど真ん中で水の魔石が見つかるのがそもそもおかしいが、火の魔石と言うのは火山の山頂付近で産出するものだしな」

 

「岩山の主様のおわす神聖な土地だ。我らが一番に必要としているものが水とお考えなのであろう」

 

「その気になればどんな魔石も生み出せたりして・・・なんてそう旨い話は無いか、何にせよどんな事も神頼みと言うのはどうにも格好がつかない、岩山の主様のお手を煩わせることが無いように頑張らないとな・・・」

 

「もっとも、肝心の魔石が無ければやる事と言えば、薬草弄りくらいしかないのだが・・・」

 

迷宮核は、普段無口で黙々と作業している魔術師が珍しく雑談しているところを耳にして、魔石が不活性化処理をされている事を知った。

 

(なるほど、不活性化処理か、そうすれば安全に魔石を砕けるのかな?まぁ、いきなり火の魔石みたいな危険物で実験するのは危ないから、比較的無害な光の魔石でやってみるか・・・。)

 

魔力を込め、光の魔石を生み出すと、硬い音を立てて光の魔石が地面に転がる。

 

(不活性化処理・・・ふむ、魔術師の人の作業の際に生じる魔力の流れを真似してみると、確かに魔石の内部に揺れる炎と言うかエネルギーの流れが感じられるな・・・)

 

(これを少しずつ緩やかにして、安定化させるといいのか?・・・あ、光の魔石の光量が治まって内部が透き通って見えるようになった・・・へぇ、少し白っぽい見た目なんだな、これが安定化か・・・)

 

迷宮核は、先ほどと同じく地形操作プレスで不活性化処理をした光の魔石を砕いてみると、閃光を放つ事も無くガラスの様に砕けた。

 

(ほほう、これは興味深い、あまりにも細かく砕けた魔石の粉末はそのまま揮発して魔力になってしまうのか、逆にこの砕けた破片を活性化させるとどうなるのかな?)

 

砕けた光の魔石の小さなかけらを操作して、内包魔力を再活性化させてみると、発光ダイオードの様な光を放ちながら徐々に昇華して行く光の魔石、最終的にカメラフラッシュ程度の閃光を放つとそのまま魔力に分解されて消えてしまった。

 

(ふむ、変わった性質があるものだな、だがこれを上手く利用すれば様々な魔石の加工品が作れそうだ)

 

(まぁ、私が彼らに口出しするわけにも行かないし、素材だけでも用意しておこうかな・・・)

 

迷宮核が覚えた不活性化処理技術は、魔石合成の為の魔力変換効率を引き上げ、エネルギーロスを大幅に抑える事に繋がり、迷宮核は今までよりもより多くの魔力を魔石に変換できるようになった。

 

今まで取り扱いが危険すぎて、サイズ調整に難儀していた火の魔石の合成にも恩恵を齎したので、定期的に打ち上げられる従属核砲弾の炸薬として扱われる火の魔石の燃焼法を改良する事にも繋がり、パッケージ化従属核の飛距離は更に高まる事になった。

 

(魔力制御技術を向上させることによって、魔石を生成する時に水が垂れたり、火花が散ったりする現象は殆ど無くなった、厳密に言えば起きている事は起きているのだが人間が知覚できない程度まで抑えられている)

 

(これだけ効率的に魔石が合成できるのだから、魔石の鉱脈くらいは用意しておいても良いだろう)

 

(・・・しかし、火口付近でしか採掘できない火の魔石か・・・まさかラナのガスコンロもどきがそれほど貴重品だったとは、キャラバン隊の長と言うものは本当に大した立場なんだろうな)

 

迷宮核は、従属核のフレームの実験やオアシスを生成した従属核の調整を行いながら、少しずつため込んだ魔力を魔石に合成して、不活性化処理を行い洞窟の壁の中に埋め込み続けていた。

 

ある日、地底湖の肺魚を捕りに来た主婦が、岩山の洞窟に訪れると、突如地鳴りと共に地底湖の壁の一角が崩れ落ち、内部から色とりどりの魔石が露出し、悲鳴じみた声を上げながら村へ伝えに行き、岩山オアシスの村は大騒ぎになった。

 

確かに、そこには色とりどりの魔石が埋まっており、大小さまざまなサイズの魔石が床に散らばり魔力が暴発している様子もなかった。

天然魔石が安定して存在している事は極めて珍しく、水の魔石と火の魔石、そして風の魔石が同じ地層に埋まっている事も含めて、魔石の知識を持つ魔術師を大きく悩ませる事となった。

 

「ありえない、ありえない、全く理解できない」

 

「水・火・風・地・・・他にも見たことも無い魔石が複数、どのような魔力の流れがあればこんな結晶の仕方をするのだ!?」

 

「何れも極限環境が魔力流を変性させて結晶化する魔石群が複数同じ場所に埋もれているのが明らかにおかしい、岩山の主様の奇跡の一言で片づけるのは楽であろうが、それは思考の放棄に他ならない・・・考えろ・・考えろ・・・仮説を出せ・・」

 

「掘り出したころには既に不活性化して安定状態だったと言うのも腑に落ちない・・・朗報なのには変わらないが、我らはこの魔石を使って何をなせと・・・?」

 

「あ・・・頭から煙が出そうだ・・・ちょっと服を脱いで頭と体を冷やそう・・・」

 

「ちょ・・おま、男がいる場所で下着姿になるのは・・・このバカ女をつまみ出せ!」

 

暇な状況から一気に脳をフル稼働させる状態に陥ったため、知恵熱を発症し奇行に走る魔術師も出始め、一時的に魔術師の研究所は機能不全に陥ったが、暫くして吹っ切れたのか黙々と魔石の加工と魔道具の製造を行うようになり、砂漠のオアシスの生活は更に快適になるのであった。

 

(パッケージ化した分身体の消費魔力が大幅に節約できるようになったぞ!ふふふ、自走状態の分身体の燃費を上げて行動範囲が一気に広がった)

 

(微妙に魔力不足で遠征できなかったが、大河の国とやらに行けるようになれば、人口の多さは砂漠の比では無い筈・・・まだ繋がりは無いから一人当たりの魔力供給量は岩山開拓初期と同じくらいだろうけど、そこは人口の多さでカバーできそうだ)

 

(あちらの方も水不足で困っているみたいだし、何かしら協力できればな・・・まぁ、向こうで補充した魔力で死の海の調査用フレームを稼働させる足しにさせてもらう事もあるかもしれないけど・・・)

 

(砂漠の向こう、人々が住みやすい生命に満ち溢れた土地は一体どんなところだろうか?どんな人々が住んでいるのだろう?)

 

(我々の一部になった砂漠の民の魂の記憶でも、取引を終わらせて長居せずに帰ってしまった記憶しか残されていないから、まだその全貌はつかめていないけれど、難民を奴隷として扱う国も存在するみたいだから、油断してはいけないか)

 

(まぁ、砂漠の民にはどの道、外の国から工具類を調達しないと開拓なんてやってられないから砂漠の外の国々との交流を持たないといけないか)

 

(さて、交易ルートの水脈調整を開始するか・・分身体同士の水脈をつなげたからか、交易ルートに沿って草が生え始めたな、旅の目印には丁度良いのかもしれない)

 

迷宮核は、岩山オアシスの村の生活が安定し、砂漠の民の表情がどことなく明るくなったことを喜びつつも、砂漠の外の国々や悪化し続ける干ばつの影響にどこか不安を覚えていた。

しかし、確証がある訳でも無く、それは小さな違和感として迷宮核の思考にまとわりつくのであった。

 

「砂漠の交易ルートが再びつながったか、何処に避難していたかは知らないが、存外砂漠の民もしぶといものだ・・・」

 

「大干ばつの影響で大河の水量が大幅に減っております。もう既にいくつかの畑が水不足でやられてしまっております」

 

「次の大雨が来るまでに溜め池をなるべく多く作るのだ、くそ忌々しい・・・」

 

「水の魔石でも手に入れば良いのだが、渦巻き沼は山脈を越えた先にある場所・・・常に霧や雨に晒される土地の魔力溜まりに生成される水の魔石なんて安定供給は出来ないし、当てにはできないだろう」

 

「まぁ、こんな状況でも砂漠の民よりはマシな状況なのだ、今すぐ滅ぶという程でも無いが、何の対策も打たないままという訳にも行くまい」

 

「あくまで保険だが、渦巻き沼に隣接した亜人共の国の市場に水の魔石が出ていないか見るため、交易隊を派遣しておけ、連中にとって水は空気のように当たり前に存在するもので、水の魔石は殆ど必要としていないが、連中はその価値を正確に理解している。吹っ掛けられるのを覚悟で金を持たせておけ」

 

「強欲トカゲ共に金が渡るのは頭に来るが致し方あるまい・・・砂漠の交易ルートが復活してくれて本当に良かったよ」

 

 

大干ばつの影響で大河の国々はそれぞれ、自分たちの国を守るために動き始める。

大河と呼ばれた川は次第に細くなりつつあるが、それでも沢山の生命を育んでいた。

大河の国々と呼ばれる国の中で大砂漠に面した国は、砂漠化の最前線に立っているので、余裕をなくしつつあるが、現状を打開しようと水を求めて水の魔石が生まれる土地へと交易キャラバン隊を派遣するのであった。


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