霊晶石物語   作:蟹アンテナ

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少し体調を崩しておりました・・・頑張って続きを書きたいです。


建築資材

干ばつに襲われる砂漠の灌漑を行うために広範囲に展開する従属核は、地形調査を終えて岩山オアシスに戻る際に、砂漠の移動に使用した外殻を破棄するが、その外殻はオアシス付近の砂場に放置され、砂漠の民に回収されて建築資材として再利用されている。

 

砂漠の民は岩山オアシスの岩石を切り取って建築資材にする事も多いが、従属核のフレームは魔力を使って砂や鉱物を高密度で固めて作られるので唯の岩石よりも丈夫で折れにくく、砂嵐にも耐えられるので重宝されている。

 

最初の頃は、迷宮核も調査のたびに使い捨てる外殻を毎回魔力を消費して砂に戻すコストに困っていたが、住民が恐る恐る機能を停止した外殻に近づき回収して魔術研究所で調べられた後、資源として再利用する様になった様子を見て、外殻をわざと残したまま岩山オアシス付近の砂場に放置するようになった。

なお、殆ど劣化していない状態の良いフレームは再利用するために地下に埋めて再出撃に備えて砂の中で整備されている。

 

(砂嵐に晒されて調査を終える頃には風化作用で劣化してしまう遠征用フレームだが、砂漠の民には貴重な建築資材の様だな。)

 

(思えば、砂漠には石切り場に適した岩場なんて殆ど無いし、風化していない岩地は枯れた大河跡が残っているだけで水源が無いから長期滞在も出来ないし、遠征用フレームのリサイクルは確かに合理的な利用方法なのかもしれない。)

 

(そうなると、岩山オアシスから岩石を切り取って建築資材として使うのは、砂嵐から守ってくれる風除けを減らしてしまう事に繋がる訳か、なるほど難しいものだな。)

 

(私としては、地底湖の洞窟を居住区に改造しても構わないのだが、あの落盤以来、岩山オアシスの洞窟は神域として扱われて入り口付近しか整備されていないのが少し勿体ない。)

 

(まだ各オアシスの村の寄せ集め程度の人口しか居ないが、次々と新しい命がこの村で生まれてきているから、将来的に今よりももっと多くの居住区が必要になってくるはずだ。)

 

(私自ら家を建てる・・・確かにそれは可能かもしれない・・・だが、それは何か違う気がするし私をこの地の守り神として崇めてくれる砂漠の民の為にもならない気がする。)

 

(緊急時にはそうも言っていられないが、まぁ地底湖の洞窟を使えばよいか、後で整備しておいた方が良いな。)

 

迷宮核が村の様子に意識を向けてみると、砂漠の民は丁度遠征用フレームの解体に取り掛かっており、大河の国で購入した鉄製品を使って砂を固めたフレームの板を切り取っているところであった。

 

「岩山の主様の使者様の抜け殻は本当に丈夫だな・・・。」

 

「触ってみた感じ岩の様な質感だが、岩の様に凹凸がなく、綺麗に切り取られたように平らで滑らかだ。」

 

「使者様が砂の様に崩れて消えたのを目撃した奴も居るらしいが、此処最近は使者様は抜け殻をよく残すようになったな・・・。」

 

「村に祀られている御神体と同じ石が使者様から抜け出して地面に吸い込まれていったそうだな、つまりあの魔物の様な姿は仮初の体で、使者様そのものは岩山の主様と同じく石なのであろう。」

 

「最初は罰当たりなと思ったが、祟りが無い事を考えると、岩山の主様もお許しになってくれたのであろう。」

 

「何にせよ、岩山の主様のご加護の宿る抜け殻だ。丁寧に扱わねば」

 

砂嵐で多少劣化しているとはいえ、まだまだ稼働できる状態で破棄した外殻は、砂漠の民にとって滅多にお目にかかれない建築資材であった。

 

(鉄製品とは言え、地球の合金製工具に比べると強度が足りないみたいだな、摩耗が速い・・・。)

 

(魔力を込めてかなり頑丈に作ってあるから、切り取るのも大変そうだな・・・しかし、器用なものだ。)

 

(岩山の洞窟はあまり金属を含有した地質でないが、魔力で固めればそれなりの強度を持った鉱物を生成する事は可能だ。)

 

(まったく金属を産出しない訳では無いが、それでも極少量だ。村全体に行き渡らせるには厳しいな。)

 

(石英の類はそれなりの量があるから、黒曜石刃に適した鉱脈を作っておいても良いかもしれないな、何も金属にこだわる必要はない、使えればそれでいいのだ。)

 

(あとは、周辺の見回り用の分身の外殻を少し工夫して、工具類の摩耗を抑えるように手を加えてみるか、強度を維持しつつ細かく分解する様に切れ込みを入れておいて・・・・。)

 

迷宮核は複数に分けた意識のリソースを資源開発に少し傾けて岩山オアシスの営みを陰から支えるのであった。

 

岩山オアシスの村人が一風変わった砂漠の神の使者を目撃するのは、それから暫く経ってからの事であった。

 

レンガを組んだ様な規則正しい長方形の石の集合体が岩山オアシス付近を歩いており、岩山オアシス山頂の見張り台からも観測できた。

村の守り手たちが様子を見に砂漠の神の使者に近づくと、切れ込みに沿って青白い光が流れ、見事にバラバラに崩れ堕ち、長方形のレンガの様な形をした石が散らばる。

 

その場に居合わせた守り手たちは、今まで見たことが無い種類の砂漠の神の使者に驚き、慌てたように使者の一部を回収して、魔法研究所へと持ち込んだ。

 

研究の結果、同じ大きさの干しレンガに比べて丈夫かつ軽量で摩耗に強い様であった。

砂漠の民はそれに驚くと同時に歓喜し、ますます砂漠の神こと岩山の主に感謝の祈りを捧げるのであった。

 

(大分建築が捗るようになったな、やはりパーツ別にバラした方が使いやすいのかもしれない。)

 

(幾らか岩山が影になって砂嵐を防げるとは言え、砂鮫の皮をなめした天幕ばかりでは完全に防ぐことは出来ない。洞窟を利用してくれれば良いのだが、彼らは神域として扱うためか、相当きつくても洞窟内部に避難してくることは、あまり無い。)

 

(石造りの建物が増えてきたおかげで、村に活気が溢れてきたな、大河の国に近いオアシスから訪れる商人もやってくる事があるし、良い傾向だ。)

 

(そう言えば、大河の国も雨がほとんど降らずに困っているみたいだな・・・機会があれば行ってみたいものだな、まとまった人口があるなら魔力吸収には困らないし、彼らの助けになれるかもしれない・・・。)

 

迷宮核がまだ見ぬ土地への思いをはせらせている一方、その大河の国では異変が起きていた。

 

「何!?それは本当か!!?」

 

「間違いありません、地方の領主が無理に徴収したせいで飢饉が発生し壊滅した村がいくつか出てしまいました。」

 

「くそ、その愚か者を処分しろ!それと同時に今出来る干ばつへの対策を考えるのだ!」

 

「いえ、その領主は打ち壊しが発生してその際、村人に磔にされた後処刑されています。」

 

「むぅ何たることか・・・我が国の象徴であり、生命線である大河は細まるばかり、時々雨は降れど水量は減るばかり、やはり水の魔石の調達を急がせるべきか・・・。」

 

「周辺諸国も同じような状況で国民の不満が溜まっているみたいです。国によっては戦の準備をしているところもあるとか・・・。」

 

「このような状況で余計に消耗を促す様な事をしようと言うのか?愚かな・・・。」

 

「国民の不満を外に向けさせるための常套手段です。あとは、略奪によって生き永らえようという魂胆でしょう。」

 

「我々も備えなければならないな、他の国に比べて被害は抑えているとはいえ、いつ攻められるか分からん。」

 

「そうならない事を祈りますが、もし戦になればこの土地も荒れ果て、砂漠の民の暮らす土地と同じような不毛の地へと変貌してしまうかも知れませんです。」

 

「そうだな・・・・しかし、元から砂漠に住む砂漠の民はその昔我らと同じ民族でありながら不毛の土地とうまく付き合っている様だな。」

 

「まぁ、元をたどれば草原で農業を営んでいた集落が砂漠化が進んで砂の上に取り残されたのが彼らの始まりで、大河に近く農業を維持できたのが我々だったという話でありますし、彼らから乾燥した土地での生き方でも学んでみてはいかがでしょうか?」

 

「はははっそれは良いな、とは言え、様々な人種や文化的に分かれている集団も居るから、完全に文化的に繋がっている訳でも無いから一まとめに砂漠の民として扱うことは出来ないな、まぁ確かに彼らから知恵を学ぶのも悪い選択ではないか。」

 

「彼らがこの大干ばつの猛威をどのようにして生き延びたのか気になるところですしね。」

 

「ああそうだな、さて、今は愚か者の後始末を優先するか、忙しいのに余計な事をしてくれたな・・・・。」

 

 

大干ばつの猛威は水源に恵まれた大河の国々すら蝕んでいた。

国によっては、大河以外からも雪山からの雪解け水で賄う事も出来るので、その深刻さは国によって異なるが、いずれにせよこの地域の人類の生存圏に危機が迫っている事は明白であった。




少し短めですが、今回は此処まで・・・。

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