霊晶石物語   作:蟹アンテナ

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種を蒔く者

水圧推進式飛行従属核と言う新型のパッケージ従属核を開発した迷宮核は、より広範囲に植物を繁殖させるために岩山オアシスや動植物保護区の植物の種子を集め、砂漠の緑化の準備に取り掛かるのであった。

 

(私の支配領域の砂漠の表面を覆いつつある草原は、地下貯水槽の水を散水管で少量ずつ水を滲ませる事で維持しているが、早くも虫などの小動物が草木を拠り所に繁殖を始めている。)

 

(元々大河の国に生えていた植物も多いが、半分以上はこの砂漠原産の植物だ、この大干ばつに耐えていた砂に埋もれた種子が発芽し、それを拠り所とする生態系が復活しつつある様だ。)

 

(私本体から延ばしていた散水管で形成した浮島の様なオアシスは、既に草木に覆われ草原に飲み込まれているが、砂漠の民が植林してくれた低木も生えていて、今なおこの砂漠に生きる生物が体を休める場として機能を果たしている。)

 

(嗚呼、今までこの大地に生きる生命の灯が消えない様に環境整備を続けていて良かった・・・十数年、そう十数年の成果が実を結びつつあるのだ。)

 

(枯れかけた交易路を結ぶ水脈を私の力で復活させ繋げた小型オアシス群は、現在砂漠の民に緑の帯と呼ばれているが、そこと私の支配領域の間にあるひび割れた荒野は、水源が無いために集落同士の間隔が開きすぎているのが問題だ。)

 

(砂嵐が比較的発生しにくいだけ砂漠よりはマシとは言え、補給なしに長距離移動するキャラバンの負担になっているのは間違いない。中間地点に防砂の小屋を幾つか設置していてその内の一つはそれなりの規模の拠点であるとはいえ、水源が無いために本格的な集落が生まれる事は無いか・・・。)

 

(前回の新型パッケージの運用実験中に蒔いた種がそれなりに発芽しているので、中継地点の設置も兼ねて荒野の緑化も始めてしまおう。)

 

迷宮核は従属核に地表に自生する植物の種子を回収させ、密かに地下に作っていた物資集積所に保管していたが、迷宮核の支配領域と交易路である緑の帯を草原で繋げる緑化計画を実行するために溜め込んでいた種子を従属核パッケージに詰め込むことにした。

 

魔石をコーティングし稼働時間や魔力変換効率を上げたパッケージ弾頭に、比較的に手荒な扱いにも耐えられる種子を吸水ポリマーのゲルに入れて封入し、長距離を飛ばすために火の魔石による砲弾式で初速を稼ぐことにした。

 

(パッケージ弾頭の強度面に問題は無し、薬室に火の魔石粉末を充填完了、発射口付近に生物の反応なし、発射準備・・・・・発射!!)

 

 

砂漠化の最前線であるひび割れた荒野に向けて射出された5つの影は、ある程度の高度に打ち上げられ速度が低下してくるとグライダー形態に移行し、新たに搭載された風の魔石と増量された水の魔石を組み合わせ圧縮空気と共に大量の水を噴射しながら荒野へと編隊飛行する。

 

飛行型従属核本体はガラスのように半透明なため観測され辛いが、大量に噴射される水は空に白い線を描き、偶々下を通りかかったキャラバン隊が空に浮かぶ奇妙な白い線を目撃した直後お天気雨にあい、空飛ぶ水の精霊の噂が本当だったとより強く確信するのであった。

 

(荒野上空に到達。さて吸水ポリマーのゲルごと詰め込んだ種子を散布するか、成るべく広範囲に出来る限り均等に、緑の帯の交易路まで続く草原が出来るように・・・・。)

 

編隊飛行する従属核の表面が波打ち、カエルの卵あるいは水を吸ったチアシードの様に吸水ポリマーゲルに覆われた植物の種子を一粒一粒くっつかない様に間隔を離して散布し、推進力を得るために噴射されているウォータージェットが副次的に水やりになり、ひび割れた荒野に吸水ポリマーと植物の種子と水が絨毯のように撒かれた。

 

緑の帯上空まで飛行した後、従属核の編隊は空中で融合し、五つの従属核は一つの大きな従属核となり、緑の帯と岩山オアシスを結ぶ荒野の丁度中間地点に鏃の様な形になりながら勢いよく突き刺さった。

 

(5つの分身体を融合させても魔力の残量は乏しいか、しかし小さな水源を生み出すには十分だ、人間の肉眼で見える範囲に防砂の小屋もある、此処が新たなキャラバンの拠点になる事であろう。)

 

地中に深々と撃ち込まれた従属核は、地の魔石で地形操作をし、従属核をより深く埋め込みつつ窪みを作り、水を逃しにくい陶器の様な質感にコーティングし、推進剤であった水の魔石の残存魔力を絞り出し小型オアシスを形成する。

 

それから暫く経ち、ひび割れた荒野にぽつぽつと草が生え始め、荒野に出来た新たな水源に野生動物が集まり始め、そこに住まう生物の拠り所となった。

 

いち早く荒野の異変に気付いたのは緑の帯の小型オアシスの村の住民であった。

飛砂に悩まされていた村はある日、暫く飛砂が発生していない事に気づき、飛砂の発生源である荒野の様子を見に行った村人が疎らながら青々とした草が広範囲に生え始めている事を発見し、キャラバンの経験のある村人を岩山オアシスに向かわせた。

 

その道中で、誰かが建てたであろう防砂の小屋で一休みしようと立ち寄った時に、この前来た時には無かった水源を発見し、事の重大性を再認識した村人は、大急ぎで岩山オアシスへと向かった。

 

岩山オアシス付近は草原が広がっているので旅は楽な物であった。

相棒のラクダに食ませる草には困らず砂嵐も殆ど無く砂に足を取られるような事も無かった。

 

緑の帯の村人によって荒野の緑化と新たな水源の発生の情報が齎された岩山オアシスの村は、砂漠の神である岩山の主の奇跡を確信し、より信仰心を深め、岩山オアシスに立ち寄った緑の帯の村人も社に祈りを捧げた。

 

今砂漠は、かつてそこが草原だった頃の姿を取り戻しつつあった。

 

荒野に新たに確認された水源は、すぐさま物資が持ち込まれ、水源近くに設置されていた防砂の小屋も解体され建築資材にされ、キャラバン隊が休息できる開拓村が作られることになった。

 

小石と砂利だらけの硬い地面であったが、不思議と水源付近に限り水を貯える性質があり、ラクダの糞や枯草などでじっくりと念入りに土地改良を続け、農作物を植えられるようになった、砂漠の民は忍耐強いのだ。

 

(荒野には幾つか防砂の小屋が点在しており、無人かつより中心部に近い防砂の小屋にオアシスを形成したが、既に集落規模に発展した場所にパッケージを打ち込むのは安全面から出来なかった。)

 

(陸上フレームで建設した施設付近をオアシス化させる事が出来なかったのは残念だが、拠点同士の間隔も開きすぎていないし、増築して大型化した防砂の小屋・・・いや、防砂の旅宿に滞在する人員も施設の物資補給の為に訪れるだろう。)

 

(防砂の旅宿は水源が無いながらも、キャラバン隊が体を休めるための重要な拠点だったのだ、近くに水源のある開拓村が出来れば交流も生まれ、村が発展してゆくにしたがって二つの拠点は融合するかもしれない。)

 

(大河の国々と砂漠の民が交易するための下地は整いつつある、荒野の緑化がより進めば荷車を引くラクダや馬などの餌にも困らなくなり、物流が強化される。)

 

(そして、大地に生命力が戻れば私の分身体の魔力供給力が大きくなり、何処にいても生物から放出される余剰魔力から活動するための魔力を得ることが出来る。)

 

(今まで距離の問題で実現できなかった大河の国への遠征も可能となる日も近い、人口の多さは恐らく岩山オアシスの村の比ではない筈だ。)

 

(彼らも干ばつの影響で水源としている大河の水量も減少傾向だと伝え聞く。ならば彼らもこの大地に生きる民、この大干ばつが治まるまで大河の水量を幾らか増やして持ちこたえられるようにしなければ・・・。)

 

(偉大な大地よ、地上に生きる民に安息を齎したまへ・・・。)

 

迷宮核はより強く干ばつに苦しむ民が平穏を取り戻す事を願い祈るのであった・・・。


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