霊晶石物語   作:蟹アンテナ

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紛争

大河の国々は砂漠の民が水の魔石を何処からか調達している事を疑問視し、本格的な調査を行った。

殆どの国は、商人を装った諜報員による聞き込み調査によって水の魔石の出所を探っていたのだが、大抵ははぐらかされてしまう。

 

「済まないね、水の魔石の価値はお宅も知っているだろう?出所を知られるわけにはいかないんだよ。」

 

「そこをなんとか!鉄製品をもうちょっと多めに仕入れるからさ!」

 

「鉄製品は魅力的だが、水の魔石は我々が生きるために必要な物資なんだ、流石に生命線の秘密は明かせない。」

 

「そうか、それは残念だ。」

 

「干ばつの影響は大河の国々にも及んでいると聞く、そちらも大変だな。」

 

「ああ、そうだお詫びと言っては何だが故郷の水モロコシから作った焼き酒を飲んでみないか?すっきりした味で人気の商品なんだ。」

 

根気強く、酒に酔わせるなどして何とか聞き出した情報は、砂漠の神様が水の魔石を産出する土地を与えてくれたのだという突飛な内容であり、信憑性の薄い情報であった。

緑の帯付近には水脈はあっても鉱脈は存在せず、水の魔石が掘り出されたという話も聞いた事が無かった。

 

更に出所を探ると、定期的に緑の帯から大砂漠方面に向かうキャラバン隊が確認されたという。

この事から、大砂漠の奥地に彼らの本拠地となる集落が存在する事が予測できた。

しかし、砂漠と言う乾燥した土地に水の魔石を産出する場所が存在するなど俄かに信じがたかった。

 

砂漠を歩くための技術を持たない大河の国は、遭難する恐れのある大砂漠に挑むリスクを冒したく無かった。

幾らごく最近になって荒野が草原に変わり家畜の飼料の確保が容易になったとは言え、水源の位置が特定できていない場所の調査は文字通り命がけの行為である。

 

大河の国々は慎重に水の魔石の出所を探っていたが、しびれを切らしたある国が緑の帯のオアシス村に強硬的に水の魔石の出所を迫った。

 

「そんな大勢で武装した人間をこんな辺鄙な村へ寄こすとは・・・一体どのようなご用件で?」

 

「御託は良い、水の魔石の出所を吐け、そうすれば褒美をくれてやる。」

 

「褒美も何も我々は大河の国の何処にも属していない、独立した民族だ、何処かの国に与する事は無い、水の魔石の出所は話せない。」

 

「何を勘違いしているのか知らんが、我々は貴様らに頼み事をしているのではない、いいか?これは命令だ!素直に水の魔石の出所を吐け!!」

 

「一体何を!?幾ら何でも横暴が過ぎるぞ!」

 

「あくまで逆らうつもりだな?おい、やれ。」

 

「何をする!?止めろ!やめろぉ!!・・・ぎ・・・ぐあああああああ!!」

 

水の魔石をラクダに積んでいた商人を囲んで棍棒で袋叩きにし、ラクダの手綱を引き積み荷ごと奪おうとする武装集団。

 

「貴様ら一体何をしている!我らの同胞に暴行した挙句、村の資産たるラクダまで奪うつもりか!」

 

怒った村の守り手たちが農具や槍を持って武装集団へ向かって走ってくる。

 

「この者は我らが運搬していた水の魔石を強奪したのだ、ならば積み荷の水の魔石は元よりラクダも没収して構わんだろう?」

 

「あ・・・ぐ・・・嘘だ・・・ごぇっ!?」

 

「まだ殴られたいのか盗人め、四肢の骨を砕いてやろうか?」

 

金属で補強された木製の棍棒の先端を商人の胸に打ち付ける。

 

「何を言うか!俺は見ていたぞ!水の魔石の在処を吐かせるためにそいつに襲い掛かったところを!」

 

「すぐに同胞を解放するんだ!盗賊め!」

 

倒れた商人の頭を蹴り飛ばし首の骨をへし折ると額に青筋を浮かべた隊長格の男が片手をあげ、背後に控えていた男たちが武器を構える。

 

「盗賊だと?我らは大河を制する国に仕える軍人であり、この地を治める正当な血筋を持つ高等民族であるぞ?我らの土地に不当に居座る土人共が我等に楯突くというのか?」

 

「おのれ!よくも!!」

 

「不当に他人から物を奪う者が高等民族であるものか!貴様らは唯の盗賊だ!」

 

「おい、お前たち、どうやら蛮族に躾が必要なようだぞ?」

 

「蛮族に死を!」

 

「黙れこの略奪者どもめ!!」

 

オアシス村の守り手と大河の国の兵の戦いは一人の商人の男の死と共に始まった。

辺境に住む野蛮人はまともな装備すらないと楽観視し、少人数かつ軽装備で向かわせた兵士たちは、砂漠に生息する魔物の素材で作られた強力な武器の前に思わぬ苦戦を強いられた。

 

対人戦の経験こそ少ないが、地上で猛威を振るう巨大蠍や岩トカゲの大型種などが緑の帯にも出没するので交易路の村々も魔物と命がけの戦いを何度も経験しているため一定の練度は持っていた。

 

村人と兵士双方に死者が出て、隊長格の男が巨大蠍の尾で作られた大槍に胸を貫かれた所で兵士たちは撤退し、オアシスの守り手の半数が戦死し、戦いは痛み分けに終わった。

 

その出来事によって、緑の帯を通過する商人達や慎重に情報収集をしていた大河の国々は一気に緊張が走った。

緑の帯のオアシスの村々は、蛮行を働いた大河の国の一国に怒り狂い、先走って水の魔石の在処を吐き出させようとした国に、他の大河の国々は非難の目を向けた。

 

一方、従属核を通じて情報が伝わった迷宮核は、この出来事に強い憤りを覚えていた。

 

(砂漠の民の魂と襲撃者の記憶を取り込むことでおおよその背景が分かった。)

 

(水の魔石が目的か、確かに干ばつの影響で大河の水量が減少したと聞いていたが、まさか略奪してでも手に入れようとしてくるとは・・・。)

 

(近くに巡回している分身体のフレームが偶々無く、村の祭壇の分身体もオアシスの整備に魔力を使って身動きが取れず、最悪のタイミングで取り返しのつかない事が起きてしまった。)

 

(油断していたのかもしれない、話し合えば分かり合えると思っていたのかもしれない・・・しかし、これでは・・・これでは・・・。)

 

(あぁ、無念だ・・・私は、我々は・・・砂漠の外の世界に対してあまりにも無知だったのだ。)

 

(奴らの目的は水の魔石、そして水の魔石の調達先との繋がりを持つ人材の拉致・・・まだ、私と言う存在をあの国は把握していない・・・。)

 

(偏見に満ちた思考と逆恨み、奴らは間違いなく再び緑の帯のオアシスの村を襲撃する筈、それも一つの村だけではない!)

 

(あまり時間がない、オアシスの整備で魔力に余裕はないが緑の帯のオアシスの村々に救助部隊を向かわせなければ!)

 

岩山オアシス周辺の灌漑や整備で魔力的な余裕が無い迷宮核は、従属核砲弾で分身体を派遣するのではなく、燃費の良いハーフトラック型の従属核部隊を陸路で向かわせるのであった。

 

(この十数年で水力タービンのノウハウは大分蓄積されている、半無限軌道の足を舐めるなよ!!)

 

迷宮核は報復よりも、先ずは人命救助を優先し異形の石像たちは履帯を回し砂煙を上げながら緑の帯へと直進するのであった。

 

 

・・・・・・・とある大河の国

 

 

「それは真か!?」

 

「ええ、間違いありません、例の国は緑の帯の集落を襲撃し、水の魔石の在処を吐かせようとしました。」

 

「あの愚か者どもめ!!」

 

「もう既に緑の帯の村々には伝わっているそうで怒り狂っている様です。我が国の商人達も長くオアシスに滞在できず、水と食料の補給で手一杯だそうです。」

 

「砂漠の民は元同胞、我らと近しい血を引く者達・・・この憤りどうしてくれよう。」

 

「既に隣国はかの国に抗議文を出したそうです。」

 

「我が国もそうするべきであろう、特に元同胞達が傷つけられたのだ、黙っていることは出来ない。」

 

「次の大河国際会議は荒れますね。」

 

先走った一国の蛮行により、大河周辺の国々は唯でさえ干ばつで不安定な情勢をさらに悪化させられた事に憤り、非難の声を上げるのであった。




うーん、敵国の名前どうしよう・・・おふざけ路線か真面目路線か・・。

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