大河国際会議の議場に破壊工作を仕掛けた疑惑のあるウラーミア王国は、死霊を用いた軍勢で連合軍を迎え撃つが、死霊の依り代となる白骨死体を再利用不能まで粉々に砕く、または魔術師を狙うなどの対策がされるようになり、次第に押されていった。
本国が劣勢になった事で、緑の帯の村に駐屯していたウラーミア軍は撤退し、再び緑の帯は静けさを取り戻した。
しかし、砂漠の民は姿を消したままでオアシスも枯れ果ててしまった為、少しずつ緑の帯の植物はその数を減らしつつあった。
砂漠の民が姿を消すのと時を同じくしてオアシスの湧水が枯れた事で、緑の帯の復活と砂漠の民に深い関係があると大河の国々は注目するが、肝心の砂漠の民が行方不明で、ウラーミア王国との戦争もあって殆どの大河の国は調査を後回しにしていた。
しかし、砂漠の民と祖を共にするホトリア王国は緑の帯に暮らしていた砂漠の民の身を案じ、大河の国々に抱いたであろう不信を払うために砂漠の民の捜索も兼ねて調査団を派遣することにした。
事実上の使節団である調査団は、実戦経験豊富な戦士を護衛とし、それなりの地位のある者を使節に選出する予定である。
「交易路が再び開通したのは良いが、オアシスが枯れて水の補充も出来ず、食料を大量に持ち込まなければいけなくなってしまった。」
「砂漠の民が姿を消すだけなら兎も角、同時期にオアシスが枯れるなど、どう考えても彼らと関係しているとしか思えない。」
「まったく、道中の集落で水と食料を補充で来ていたからその分荷物を詰め込むことが出来ていたのに、これでは折角の交易路も意味がない。」
「ウラーミア王国め、余計な事をしてくれたな。」
「しかし、連合軍の戦闘に加わらずに呑気に砂漠の民に使節を派遣していて良いのか?後方支援が主で直接刃を交える事は多くない様だが・・・。」
「後方支援も立派な貢献だ、それに我が国は一応大河の連合に属しているが、国力から言えば小国だ。ウラーミア王国相手には分が悪い。」
「確かにそうだが・・・ふむ、連合には不興を買うかもしれんが、砂漠の民と交流を深める良いきっかけになるかもしれん。」
「砂漠のオアシスを復活させた方法や水の魔石の出処・・・は恐らく無理だろうが、水の乏しい環境での生活の工夫や技術など得られるものは少なくない筈だ。」
「出来れば説得して緑の帯の村を復興してほしいものだが、うーむどうしたものか?」
部屋の扉が開かれ一人の若者が・・・いや、少年が会議に割り込む。
「砂漠の民への使節の派遣、僕も参加してよろしいでしょうか?」
「!!っ・・・・アルジャン殿下!?」
「なりませぬ!大砂漠は過酷な地、ましてや王位継承権一位のアルジャン殿下の身に何かあれば・・・っ!!」
「砂漠の民は我らと同じ祖を持つ民、ならば彼らの苦難に手を差し伸べるべきでしょう。それに、まだ王位継承権を持つ弟のアミルが居ます。」
「しかし!」
「かつて遊牧民だった我らホトリアの民と砂漠の民は、平原を旅して回り、時に宴会を開いて交流を持っていたそうです。そして、我ら王族がかつて大河のほとりに集落を築いた遊牧民の族長だったのならば、その地位の者が例に倣って彼らの長と話し合うべきでしょう。」
「確かに我らと砂漠の民は大砂漠が平原だった頃には、そのように交流をしていたと記録に残っておりますが、彼らは国と呼べる程の規模では・・・・・。」
「ウラーミアを撃退するほどの勢力でもあるのですよ?もしかしたら、もう既に国を名乗っても良い民族なのかもしれない。僕は、ますます興味を持ちました。」
「む・・・むぅ・・・・・。」
その後、ホトリアの王城でちょっとした親子喧嘩が起こり、深夜から日の出まで口論が続き、王妃と第二王子が止めに入ることで糸が切れるように轟沈して使節団の参加の話は数日後まで持ち越された。
結局のところ、ホトリア王国の人材不足から、第一王子派遣が通り、更に護衛が増強されることになるのであった。
「アルにぃさま・・・行っちゃダメ・・・。」
「アミル、僕が居なくてもお勉強頑張るんだよ?」
「やだ!せんせいじゃなくてアルにぃさまがご本読まないといやなの!」
「それじゃぁ母上に読んで貰いましょう、いつもお部屋で一緒に読んで貰っているでしょう?」
「ちがうの!いなくなっちゃいやなの!」
「困った子だなぁ・・・。」
アルジャン王子の自室の扉が開かれると王妃が入ってくる。
「アル、砂漠の民との交渉を任せますよ。」
「母上!」
「お母さま!」
「アミル、またアルを困らせていたのね?大丈夫、アルが留守の間は私があなたと一緒に居ますからね。」
「でも、でも・・・・。」
「母上、ホトリアの王族として、砂漠の民への交流を結ぶ任を果たしてみせます。」
「・・・・本当は私も反対したかったけれど、あなたの決意が固いならばお行きなさい、そしてその目で大砂漠の彼方にある彼らの治める地を見てきなさい。」
「ははは、僕の好奇心を見抜いておられましたか、そうですね、僕は外の世界が見てみたかった。」
「アルにぃさま?」
「平原で生きる事を捨て、大河のほとりに定住の地を築き上げた僕たちと、平原で生きる事を選び砂漠に飲みこまれても彼の地で生き続けている彼らの有り様に惹かれる所があって、砂漠の民の事をもっと知りたいのです。」
「ふふふ、流石私と陛下の子供です。ああ見えて陛下も若い頃はとてもやんちゃだったのですよ?」
「あ・・あはは・・父上もそうおっしゃっておりました。」
「おとうさま?」
「大河のほとりの民の代表として決して恥じぬように、アルジャン、頼みますよ。」
それから暫くして、砂漠の民を捜索するための調査隊兼ね使節団が編成され、ホトリア王国の代表としてアルジャン第一王子が参加した。
干ばつから逃れるためにホトリアに避難してきた砂漠の民出身者の案内もあって、緑の帯の集落跡地を順調に回って進み、遂に大砂漠と緑の帯を結ぶ荒野の前まで到達した。
大砂漠に挑むには十分に準備を整えた上で、休息を取り態勢を立て直す必要があり緑の帯の集落跡地の施設を借りて体を休めている最中、奇跡か偶然か枯れていた筈の泉の水が滲み出るように湧き出て、量を減らしていた水筒を満たし、ラクダに水を与えることが出来た。
「まるで天が我らを祝福してくれている様だ。」
「案外砂漠の民が祀る神様ってモンが居るのかもしれんな。」
「砂漠の神様・・・かぁ、ふふふ・・・きっと居るのではありませんか?干ばつに襲われるこの地方でこの奇跡、この大地を見守ってくれる存在が居ると信じてみたいです。」
「殿下・・・・そうですな。」
事前情報で、飛砂が飛ぶ乾燥した水気のない荒野が続くという事を聞いていたのだが、疎らながら草が生えており、言う程飛砂が酷い訳でも無かったので、順調に進むことが出来た。
岩石の混じる荒野から、砂地に変わり始めた頃、使節団は干ばつに襲われている筈の大砂漠が部分的に草で覆われている光景を見て案内役の元砂漠の民の難民と共に衝撃を受ける。
砂漠の神が降臨したという噂が本当の事だったのではないかと疑問を持ち始めた頃、草に覆われていない砂地から無数の砂鮫が飛び出し、使節団に襲い掛かるのであった。
大河のほとりの国 ホトリア王国
かつて大砂漠が平原だった頃、そこに無数の遊牧民族たちが暮らしており、ある遊牧民が平原の砂漠化に追いやられるように移動し、大河のほとりに拠点を築き、その遊牧民の族長が王として戴かれ建国された国。
大河の一部分を領土としており、国土の多くは現存する平原である。
大河から農業用水を引いており、大河に近ければ近いほど農業が盛んでそれ以外の所は牧草地である。
大河の国の中では小さく、比較的穏健な国であり、他の大河の国へ行くための中継国として多くの商人や旅人が休憩に利用する。
蜂蜜と牛乳が特産品である。