霊晶石物語   作:蟹アンテナ

37 / 92
神の秘石

大砂漠の岩山オアシスで祀られる砂漠の神から従属核を託された大河ほとりの国、ホトリア王国はアルジャン王子が持ち帰った御神体をどのように扱うのか会議し、その結果地母神教の祭壇で祀り上げる事になった。

 

だが、小さな祭壇はあっても神の秘石を祭るような本格的な祭壇は小国であるホトリア王国には存在せず、新たに作る必要があった。

 

神の秘石は、それを持ち帰ったアルジャン王子本人の首に下げられており、地母神の祭壇を建築する候補地を視察するために彼方此方を回るたびに多くの国民の目に神の秘石が映る事になる。

 

「はぁ、幾つか良さそうなところはあったけど、見て回るたびに枯れた川の跡が残されていて悲しくなって来るよ。」

 

「アルジャン殿下、そう気を落とさずに、きっと地母神様がこの大地をお救いになってくれる筈です。」

 

「そう・・・ですね、あの大砂漠の奥地で起きている奇跡を見ると、我々も諦められません。必ず、何としてもこの大干ばつを乗り越えなくては!」

 

「次の視察場所は王城前の枯れた噴水ですね。」

 

「あぁ、少し前まで王城前広場を美しく飾っていた水の曲線が今やただの彫刻ですからね・・・。」

 

「大河に繋がる地下水脈を上手く繋げて作り出された我が国が誇る大噴水、そして各地区の水源でもあったのに・・・。」

 

王城広場の大噴水は放射状に作られた用水路を通じて街中に広がりそれぞれの地区の水源となっていた。

生活用水・農業用水共に利用されており、ホトリア王国の象徴的な存在であったが、干ばつの影響で枯れてしまっている。

 

「まだ辛うじて溜め池や沢などから水を引いて持ちこたえているけど、水の魔石を使わないといけなくなるのは時間の問題だし、早く何とかしないと・・・。」

 

アルジャン王子と護衛の兵士が、王城前広場の枯れ噴水に到着すると、アルジャン王子の首に下げられていた神の秘石が突然光り輝く。

 

「えっ?」

 

「な・・・こ・・・これは!?」

 

まるで流体の様に吊り下げていた紐を通り抜け、神の秘石は枯れ噴水へと飛んで行き、噴水の上に収まると、突如光が地面を這うように広がり枯れ噴水が変化を始める。

 

「な、何が起きてっ!?」

 

「で・・・・殿下、私は夢でも見ているのでしょうか?」

 

噴水に使われた石材が粘土の様に変形し、神の秘石をはめ込む台座の様な形状に変化しつつ、元々あった噴水の噴出口が湾曲し、まるで植物を思わせる美しい曲線を描き始めた。

大砂漠の岩山オアシスで見られた奇妙な質感の石材の様に粘土状になっていた石材の材質が変化し、独特の陶器の様な光沢を帯びた硬質な石材になる。

 

「こ・・・・この形は、まさしく我が国の紋章!」

 

「いえ、それだけではありません、大砂漠の岩山オアシスで使われている紋章にも似ております!」

 

「まさか神の秘石が自ら祭壇を作り上げるとは!!」

 

神の祭壇に変化した枯れ噴水から溢れていた燐光が治まると一瞬光が脈動し、祭壇を覆う植物の蔦の様に変化した噴出口から勢いよく水が噴き出し、枯れ果てその機能を停止していた用水路に再び水が流れ始めた。

 

「み・・・水が、あぁ・・・枯れ果てていた用水路に再び水が流れ始めている!」

 

「おぉ、殿下・・・これぞ地母神様の奇跡です。」

 

「こうしてはおられません!早く父上に報告しなくては!」

 

アルジャン王子一行は、慌てたように王城へと駆けて行く。

 

(ジダン!確かに、神は我らの祈りに答えてくれましたよ!)

 

その日、枯れた噴水があった王城前広場に突如現れた謎の祭壇に国民たちは驚きと共に疑問を持った、この彫刻された噴水の様な祭壇の様な物体は一体何なのかと。

 

だが、心当たりはある。

国民が慕うアルジャン第一王子が、砂漠の奥から地母神の秘石を持ち帰ったという発表があり、実際に第一王子の護衛を務め魔物との戦いで戦死した兵士の遺族がその秘石を見たと言うのだ。

砂漠の奥におわす地母神は、その分身たる秘石に戦死した兵士の魂を刻み込み、この地を末永く見守るという話らしいが、あまりにも突飛な内容で本気にしている国民はそう多くはなかった。

 

しかし、今目の前に親愛なる国王とその家族が王城前広場に姿を見せて祭壇に祈りを捧げている、祭壇の中心にはめ込まれた美しい宝石はそれに呼応するように明滅している。

 

ホトリア王国の地母神教徒たちはもう疑問を持たなかった。

ごく自然と両手を握りしめ、跪き、王城前に現れた地母神の祭壇に祈りを捧げるのであった。

 

「ありがたや・・・ありがたやっ!!」

 

「地母神様は、この枯れた大地に命の源を満たしてくれた!」

 

「おお神よ!我らを救いたまえ!」

 

街中から集まってきた国民たちの祈りに呼応するように神の秘石は光り輝き、より多くの水を祭壇から噴出させ、首都の各区画に大量の水を供給させる。

それどころか、小さな秘石はその表面に魔石を形成し年輪の様に魔石の層が積み重なり、その体積を肥大化させていった。

 

「我が王国民よ、愛するホトリアの民よ!我が息子、アルジャン第一王子は地母神様に認められ、その御神体である神の秘石をホトリア王国に齎した!我が国はこの大干ばつを必ず乗り越えられる!希望は確かにここにある!」

 

「我らホトリアの民の新たなる盟友、砂漠の民は大地再生の鍵をこの地に齎してくれた!私は、あの大砂漠の奥地で起きている奇跡をこの目に確かに焼き付けた!渇きの大地に命を齎すものは確かに存在した!」

 

「かつて、平原が広がっていた頃、彼らは同胞であった。平原が砂漠と化してなお彼の地で生き続けていた彼らは、我らとその教えを共にする兄弟であり盟友である!」

 

「ホトリアへ栄光を!新たなる盟友砂漠の民に黎明を!」

 

ホトリア王国民は、爆発したような大歓声を上げた。

それと同時に、砂漠の民への好感と、緑の帯を犯したウラーミア王国への怒りを高め、兵士たちはより厳しく鍛錬し、農民たちは溢れる水を使って灌漑を続けた。

この短期間、少なくとも戦争中に成果が出る事は無いだろうがしかし、確実にホトリア王国民の中に変化が表れていた。

 

干ばつで細まりつつある大河に必要以上に不安を持つことも無く、偉大な存在と親愛なる王子を身を挺して守った英霊たちの加護がある、その実感が明日を未来を信じて生きる力となり、その湧き上がる力がより神の秘石を成長させる。

その好循環が、大河ほとりの国を大きく成長させる事になる。

 

(岩山オアシスよりも人口が多い大河ほとりの国では、かなりの効率で魔力を集めることが出来ると予想していたけど、想像以上の成果だ。)

 

(この地でも、生物の生死が繰り広げられているんだなぁ、私の分身体である石が少しずつ体積を増やしていっている気がする。)

 

(まぁでも、当たり前か、これだけ草木が生い茂り生命に満ち溢れている大地では小さな虫から、大型の獣まで広く食物連鎖が続いている、当然ながら得られる霊体も多くなるという事か。)

 

(しかし、こんな形で里帰りする事になるとは、我らは身を挺して殿下を庇った甲斐があると言うものか、ははは・・・・なんてね。)

 

(ホトリア王国の英霊たちとして振舞おうと思えば、それは自分自身の事だから当たり前に出来るし、今でもアルジャン殿下を守れてよかったと思えるが、我らを束ねる意志はただ祖国に魂を運んでくれた訳ではない。)

 

(そう、この大地を襲う大干ばつは砂漠の民だけの問題では無いのだ、この地の大規模な水源である大河が細まる事はホトリア王国だけでなく、大河の国々が直面する危機であり、沢山の人命が関わる問題である。)

 

(この小さく切り分けられた身がどれだけの命を救うことが出来るのか分からないが、それでも出来るだけの事をやってみよう、魂すらも擦り切れようと、この大地に命と黎明を齎すのだ!)

 

(地母神様、もし貴方が本当にこの大地を見守っていると言うのならば、この石の体に大地を救う力を!枯れ果てる大地に再び命を齎したまへ!)

 

 

祈りの数だけ水を生み出す祭壇は、ホトリア王国民の心の支えとなり、その噂は他の大河の国にも届く。

ウラーミア懲罰戦争で目を向ける余裕はないのだが、ホトリア王国は確実に大河の国々の中でその存在感を増していった。

余談だが、ホトリア王国よりも下流域の大河の国が副次的に水の恩恵を得られ、ホトリア王国付近から新たな水源が発生したのではないかと学士たちは考え、件の地母神の秘石の噂もあってより注目されるのであった。




結構感覚が開きましたが、何とか勢いで更新です。
うーん、無理やりな展開にならない様に注意したいところですね。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。