霊晶石物語   作:蟹アンテナ

39 / 92
5月末に追加した紙芝居が2話分くらいの体力をもぎとっていきました。
元からもやしっ子なのにカフェインブーストなんてするからダウンするのです。
季節の変わり目でモチベーションの維持が大変ですが、何とか続けていこうと思います。


地母神の雫

砂漠の交易路である緑の帯の集落を襲撃し、交易路を使用不可能にし、大河国際会議の議場に破壊工作を行い、大河の連合と戦争状態になったウラーミア王国。

 

非人道的な死霊術によって自軍問わず戦死者を死霊と化し手駒とするウラーミア王国は、物量で迫る大河の連合軍に対抗し、現在は膠着状態が続いていた。

 

膨大な量の魔石が眠るウラーミア王国の魔術は侮れず、強力な魔法を使う魔術兵と疲れを知らぬ死霊軍に大河の連合軍は手を焼き、物資の消耗も激しかった。

連合軍は対策を練り死霊軍を粉々に砕き再利用できない様にしたり魔術師を狙うなどの戦術を採用するが、ウラーミア王国もそれにすぐに対応し新型の魔道具を装備させて死霊軍と魔術兵そのものを強化するなど鼬ごっこを続けていた。

 

「くそっ、奴らはどれだけ膨大な魔力を操れるんだ?」

 

「奴ら見たことも無い魔道具を身に着けていた、恐らく強力な魔力の触媒か何かだろう。」

 

「あの不気味な薄汚い黒いもやの範囲も前回戦った時よりも広くなっていた。」

 

「やり難いったらありゃしない。」

 

「彼方も余裕が無いみたいだが、こっちも消耗が激しい、いつまで続くんだこんな事。」

 

 

大河の連合とウラーミア王国の戦争中も大河は細まり、双方は疲弊していった。

 

しかし、最近になってホトリア王国から多めの支援物資を提供され、大河の連合軍は息を吹き返しつつあった。

 

現在の大河は干ばつにより水量が大幅に低下し、どの国も農業用水を始めとする水資源の調達に必死になっていると言うのにホトリア王国は、衣類・医薬品や食料品などの物資を同規模の国よりも多く支援したのである。

 

大河の水量が干ばつ前ならばそこまでの負担ではないが、降水量が減り細まった大河では食料や衣類の原材料になる農作物は多く育てられず、ホトリア王国の負担も相当大きい筈である。

 

しかし、ホトリア王国を訪れたある国の外交官が平常通りに暮らすホトリアの民と、用水路の隅々に農業用水が行き渡ったホトリア王国を目にする。

 

「これは一体どういうことだ?節水の為に塞がれていた用水路が元に戻っている。」

 

「どの畑も青々と芽吹いているが、農業用水をこれだけ贅沢に使える状況なのか?」

 

「それに、枯れ噴水もいつの間にか新調されて水が流れているとは、これはまさか・・・?」

 

 

・・・・ホトリア王国が勝手に大河から大量に水を引き、水を独占している。

 

幾つかの国が非難声明を出すが、後の調査で特に大河から多量に水を引くような工事をした形跡も無ければ、ホトリア王国よりも下流域の水量が減っている訳でも無かった。

むしろ、何故かホトリア王国の下流の方が水量が増えている様でもある。

 

それから程なくして、ホトリア王国は緑の帯を去った砂漠の民を探し出し、彼らと接触し交渉の結果、正式に国交を結び、砂漠の民と協力して緑の帯の集落を再建させると発表した。

 

「行方をくらませていた砂漠の民を見つけただと?」

 

「国交を結んだ?砂漠の民は国を持たぬ民だったのではないか?一体どこの誰が建国を許したというのか?」

 

「我らは認めぬぞ!砂漠の民はそもそも国と呼べる程の規模では無い!」

 

「ウラーミア王国との戦争に兵を殆ど寄こさず物資しか支援しない国が裏で一体何をやっているのか!」

 

 

大河ほとりの国ホトリア王国が、何の根回しもなく砂漠の民と勝手に接触したことに抗議する国もあったが、莫大な富を生む交易路の再建は無視できなかった。

 

そして信じられない事に、大砂漠の奥地から大地に命を宿す神の御神体を砂漠の民から託され、神の秘石を持ち帰り、その力で枯れた大地を蘇らせたと言うのだ。

 

「話が出来過ぎている。」

 

「大河どころか渇きの象徴たる大砂漠に神など降臨するわけがない。」

 

「しかし、ホトリア王国より下流域の水量が増えた事はどう説明するのか?」

 

「まさか本当に地母神様がホトリア王国に加護を与えたのか?」

 

それと同時期に、緑の帯の枯れた泉の中央部の地中から突如社の様な水晶体がせり出してきて、こんこんと湧水が溢れ出し、瞬く間に緑の帯のオアシスが復活するのを偶然居合わせた行商人が目撃し、その情報を耳にした大河の国々は驚愕に染まったのであった。

 

 

・・・・・・・ただ事ではない、何かが起きている。

大河の国々は、大河ほとりの国ホトリア王国に注目する。

 

 

何処からともなく現れた砂漠の民と、彼らを護衛するホトリアの兵士たち、ウラーミア王国の襲撃で損壊した建物の修復と、荒らされた畑を復活させるまでの物資の支援、元の住民達の帰郷。

 

ホトリア王国は宣言した通り、砂漠の民と深い交流をしており、互いが盟友と呼び合う姿を大河の国々に見せつけ、緑の帯の交易路を利用していた行商人たちに衝撃を与えた。

 

「ホトリア王国につけば大儲けできる!」

 

「緑の帯のオアシスをどのような方法で復活させたのか?そもそもあの祭壇らしきものは一体何か?」

 

「砂漠の民の本拠地を教えてほしい!幾らでも払う!頼む!!」

 

「是非我が商会にも地母神様の祝福を、あの神々しい噴水が御神体なのですか?ありがたや、ありがたや。」

 

ホトリア王国は殺到した商人達の対応に追われて処理限界を超えて一時機能不全に陥る珍事が発生したが、交易路が開通し交易が再開した事で、干ばつと戦争で疲弊した経済が再び回り始めるのであった。

 

しかし、幾ら緑の帯の交易路を復活させたとは言え、戦争に兵力を送らず自ら血を流すことなく、裏で砂漠の民と交流し、勝手に国として認定したホトリア王国に不満を覚える国は多く、また各国の地母神教徒も神の加護が齎されたという情報に疑問を呈し、神に祈りを捧げているのに何故ホトリア王国にだけ奇跡が齎されたのか説明を求めるのであった。

 

ただ、ホトリア王国よりも下流域の国は、従属核から生成される水のおこぼれを貰っているお陰か、それ程ホトリア王国に悪印象を抱いておらず、ちゃっかり地母神教徒をホトリア王国に派遣し交流を図る国もあった。

 

(大河の国々も色々独自に動いているみたいだな。)

 

(本当はこんなくだらない事で戦争なんかしている場合じゃないのに、それ程に人間は欲深いのか。)

 

(ホトリア王国に注目が集まって人も集まってきている、そのお陰でかなり魔力を吸収できているけど、元がペンダントサイズだからどうしても機能が限られているな。)

 

(ある程度魔力が集まってきたら、私本体から分身体をホトリア王国に送っても良いかもしれないな、距離の問題があるから片道切符だけど、既に拠点を構えているならリスクも低くなる。)

 

(本当は砂漠の民に私の分身体を運んでもらうのが一番消費が少なくて済むのだけど、変に気負ったり盗賊に狙われたりするかもしれないから、少し気が引けるな。)

 

(別に砂漠の民を疑っている訳では無いけれども、私の体の一部とはいえ分身体は強力なエネルギーの塊で、もし悪用されたらとんでもない事になる。)

 

(二本の足で大陸を横断しうる人間の走破力は、分身体移動用のフレームでは真似できないものだから、是非彼らに協力して貰いたいけど、そんな大役を務めてくれる人は居るのだろうか?)

 

(まぁ、今は目の前の問題を片付けるのが先決か、えぇと砂漠のオアシスの地下貯水槽の残量は・・・後は、ホトリア王国の農業用水の偏りが・・・。)

 

 

干ばつと戦争によって荒れる大河の国々と、その試練に立ち向かう人々。

迷宮核は大地に命を宿すために、力の限り水を生み出し、地質を弄り保水力を持たせ、効率的に水が行き渡るように水脈を広げていった。

人間の愚かなる過ちもいつかは正されると信じて、そしていつか互いに分かり合えるようになる日が来ると信じて、祈りを捧げるのであった。




頭の中のキャラクターを形にするのって楽しい事だと思います。
昔は創作に自由さがあって、SSを書くのも、イメージを絵にするのも、どのように動作するのかアニメーションにするのも自由でした。
今は個人HPを運営している人は昔に比べて減ったように感じますし、その機能をSNSとかに移している人も多いのではないでしょうか?
絵が下手でも文章が壊滅的でも、創作活動ってとっても楽しい物だと思うのです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。