人気の少ない砂丘で動植物を生育させる実験である程度まとまった量の魔力が供給される事が分かったので、迷宮核はその技術を応用して従属核の移動用フレームを改良することにした。
(今までなんで気付かなかったんだろう?大河の国周辺は何処にでも草木が生えているから自然と余剰生命エネルギーを吸収できるし、私の分身がアルジャン王子の首に下げられて運ばれている最中も魔力を補充出来たから、常に何らかの生物が近くに居る状況を作れば良かったんだ。)
迷宮核は岩山の洞窟の人が入りこめない区画で特殊な従属核用のフレームを建造し始めた。
砂を固めただけの使い捨て前提ではなく、長時間運用するために岩山の鉱物の中でも特別軽くて丈夫な鉱物を使用し、耐久性を持たせるようにした。
(よし!取りあえず本体は完成したぞ!後はこれに植物の苗を植え付けてっと・・・・。)
油圧式アームで岩山オアシスに自生する乾燥に強いサボテンやアロエなどの多肉植物を植え付け、根を吸水ポリマーで覆い、従属核を稼働させるための水流パイプから部分的に水が滲み出るように加工する。
(これで本体も外付けパーツも完璧だ!これぞプランター一体型の分身体用フレームの完成だ!)
(・・・・・・・・・・・。)
(・・・・・・・。)
(う・・・・うーん、勢いで作ってしまったけど、何だろうこの物体は?)
見た目は通常型の4足歩行用フレームそのものなのだが、本体の上には多肉植物が、脚部には芝がくっついている。
まるで、場違いなギリースーツか陸上のイソクズガニを思わせた。
(まぁ、フレームの中に取り付けた分身体にはちゃんと魔力が供給されているみたいだから、歩かせるだけ歩かせてみるか。)
岩山オアシスの隠れ発進口が開き、油圧式歩行で従属核フレームがのっしのっしと、重そうな足で砂を踏みしめ歩いて行く。
(確かに魔力は供給され続けているんだけど、草木を植えたおかげで大分重量が増してしまったな、後吸水ポリマーに含まれた水も地味に重い。)
植物を背負う従属核フレームは、生体を運ぶ以上は乱暴に動かす事は厳禁で、坂道を滑ったり転がって移動する耐久力に任せた運用方法は取れなくなっていた。
あくまで、一歩一歩砂に足を取られない様に地道に慎重に歩みを進めて行く。
(これは、ちょっと微妙かなぁ・・・いや、使えなくはないけど機動力は皆無だし、常に植物の手入れをしないといけないから無駄に手間がかかるぞ?)
とは言え、通常の運用ならば近隣のオアシスの祭壇に従属核を移して、村人や周辺の動植物から魔力を補充するのだが、このフレームでは常に少量ながら魔力が従属核に供給され続けるので単純に移動距離は増えていた。
(足が遅いし、砂漠では目立つし、何度か砂漠の民にこのフレームを目撃されてしまったが、大丈夫なのだろうか?魔物か何かと勘違いしなければ良いのだが・・・・・はぁ。)
プランター一体型フレームが人に目撃されたときは、足を広げて半ば砂に埋もれる事で植物の生えた岩に擬態するのだが、何処からどう見ても怪しさ抜群で、実際砂漠を歩く植物の魔物と勘違いする砂漠の民も居た。
実際、砂漠を歩く内に背負ったサボテンなどを目当てに砂虫が住み着いたり、その砂虫を狙って小さな蠍が住み着いたり、小規模な生態系がプランター一体型フレームの上に出来上がっていた。
小動物の休憩地となったプランター一体型フレームの魔力供給量はますます増え、そして重量が増した分魔力の消費量も多くなり、ますます足が鈍るのであった。
(大分日数がかかったけどやっと緑の帯を超えたぞ、大河の国まで長い道のりであった。)
休止状態と移動を繰り返して移動を続けてついにホトリア王国の国境付近まで到達したプランター一体型フレームは、噴水に使われている分身体の影響圏に到達すると、フレームを蹲る形で稼働停止させ、ホトリア王国まで移動してきた従属核と噴水に使われている従属核が共に地形操作能力を使い地中に管を両方から延ばし、地中を通って従属核を噴水まで送る。
噴水の従属核と再結合すると、一回り大きくなり、更にホトリア王国に派遣された従属核は地形操作能力と水生成能力が向上し、ホトリア王国周辺での力を行使する範囲が広がった。
「これは一体なんだろうか?石像か?」
「まるで蜘蛛みたいな見た目していておっかないなぁ、一体誰が作ったんだろう?」
「いや、良く見ろ足跡らしきものが残っているぞ?もしかしてこれ、歩いて此処まで来たんじゃ・・・?」
「ひぇっ、やめてくれよ!魔物か何かなんじゃないか?」
「見たところ動く様子は無いが、一体どこから・・・いや、まてよ?」
「何か紋章の様な物が彫り込まれている?」
草や多肉植物に覆われて判別しにくいが、良く見ると六角形とそれを覆う柱の様な意匠の紋章が刻み込まれており、それは砂漠の民が衣服や所持物に描く紋章と同じものであった。
「ま・・・まさか、これが噂の砂漠の民が祀るという神の使者様なのでは?」
「砂漠の神様の使者だって!?な、なんとつまりこれが、地母神様の使者なのか?」
見た目は岩などの鉱物で出来た4脚歩行の蜘蛛や蟹を思わせる形状で、ある種の恐ろしさを感じる見た目をしているが、そこに地母神の使者と言う要素が加わるとその不気味さも神々しさや畏怖を帯びてきて、急に神聖な物に見えてしまう。
「では、何故蹲ったまま動きを止めてしまったのだろうか?」
「もしや、力尽きてしまったのか?」
ホトリア王国の国境を警備していた兵士たちが抜け殻となったプランター一体型フレームを心配していたが、何時までもそこに居てもどうにもならないので報告に城まで戻ると、その道中異変を感じた。
「うん?何か噴水の水量が増えている気がしないか?」
「心なしか、御神体の秘石も大きくなっている気が・・・・。」
少し大きくなった水色の秘石が薄っすらと角度によって虹色に見える光沢を放ち、ホトリアの国章と砂漠の神の紋章が幻想的に明滅していた。
噴水に祀られる御神体を拝む人々は、その変化に真っ先に気づき信仰深い者は朝から跪き祈りを捧げている。
「間違いない、御神体が大きくなっている!」
「国境付近の石像の件も含めて報告しなければ!!」
慌てた様子で国境警備兵が王城に戻ってきた事で若干色めき立ったが、神の使者の遺骸と、御神体の肥大化が確認され、急遽調査が行われることになった。
その結果、土地の保水能力が向上し、噴水の水量が増え、枯れていた水源の幾つかが復活していた。
ますます、神の感謝と畏怖と信仰を深めたホトリアの民は、それまでさほど気に留めていなかった者も祭壇の祈りに参加する者が増え、御神体の秘石は幻想的な美しい光を放つ事でそれに応えるのであった。
(ホトリア王国の分身体は、単純に人口の多さと自然の豊かさで魔力供給量があったけど、あちらでも私が認識されるようになってから意図的かつ大量に魔力が供給されるようになった。)
(長い旅であったけど、長距離移動した甲斐があったかもしれないな。)
(とは言え、今度は素直に誰かに運んでもらう事にしようかな。)
(丁度交流を深めるために、村長の子供たちがホトリア王国に向かうみたいだし、そのついでに私の分身体を運んでもらおう。)
迷宮核は、新型従属核用フレームの実験を終えて、大河の国方面への橋頭保を固め、更なる強化のために砂漠の民とホトリア王国の交流に従属核の運搬を挟ませようとするのであった。
従属核移動用プランター一体型4脚歩行フレーム
従来の4脚歩行型フレームをベースに強度の高い鉱物で補強し、長距離移動に耐えられるように改良したフレームに、更に植物を植えるプランターを装備させたもの。
植物そのものや吸水ポリマーに含ませた水の分、重量が増しており移動に余計な魔力が必要になってくるが、その分魔力は常に供給され続け、稼働停止状態ならば魔力の消費も無いので従属核に魔力が補充される。
休止状態と移動を繰り返す様は、まるで生物を思わせ、実際に魔物の一種と誤認される事もある。
あくまで試作品の為、まだまだ改良の余地はあるが、乗せた植物が枯れない限りは移動距離は幾らでも伸びる。