霊晶石物語   作:蟹アンテナ

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片道切符輸送

迷宮核は、大河ほとりの国ホトリア王国に派遣している従属核の出力をさらに高めるために運搬手段を模索していた。

 

(ふむ、相変わらず砂漠の民を狙った盗賊団が活動している様だな。流石に緑の帯の集落を襲撃する様な動きは無いが、大河の近くに踏み込んだ瞬間襲撃される事を考えると、何処かの国や組織がバックについている可能性もあるな。装備が充実しているのも気になる。)

 

(緑の帯の分身体は人が住み着いている分、魔力的にも余裕があるし、盗賊を撃退するくらいは出来るが、オアシスの管理を放り出してホトリア王国に向かわせる訳にもいかないな。)

 

(ホトリア王国との交易が本格化したころに、緑の帯の村に大規模な盗賊団の襲撃があったが、即席で作ったバリスタで一度撃退してそれ以来緑の帯の村に襲撃は無いな。よっぽど恐ろしかったのか知らないけど、もうこれ以上愚かな真似はしないで欲しいものだ。)

 

緑の帯の地下水脈を管理する従属核は、村ごとにオアシスの泉の地下に埋め込まれており、時折出現する魔物や盗賊などの襲撃者を撃退するために、砂をバリスタ型に固めて、砂漠の民の集落などから縄を失敬してそれを弦に使い、村の防衛の任を果たしていた。

 

水流操作で押し出される柱状の部品は人間の力では引く事の出来ない領域まで弦を引き、砂を固めた高硬度の鏃は、巨大蠍の一番分厚い部位の外殻すらも粉砕する。

それが生身の人間ならば鎧を身に着けてようが盾を構えてようが関係なく、その身を肉片と化した。

 

緑の帯に住まう砂漠の民は、砂漠の神の大弓として畏怖の目で防衛装置を眺め、時に仕組みを学んだ。

村を覆う干しレンガの防壁に取り付けられたそれは、砂漠の神の大弓には大きく劣るが、予め弦を引いておけば直ぐに矢を射出することが出来、弓の扱いに慣れていない女子供でも短い訓練で扱えることから砂漠の民の間で重宝された。

後の交流でホトリア王国にも流通し、資源豊富なホトリア王国で改良され複合素材で強化された弩はウラーミア王国との戦いで大いに活躍したという。

 

ちなみに、砂漠の民を襲った盗賊団の鎧や剣盾などは従属核に回収され、地形操作能力の応用で金属繊維化されバリスタの弦が鋼線に換装され、より強力な防衛装置へと生まれ変わっていた。

 

(キャラバン隊に私の分身体を運ばせる手段は、水の魔石の存在が知られた今迂闊にとれる手段ではない。最悪キャラバン隊と共に盗賊を撃退する事も可能だが、リスクがあまりにも大きすぎるので封印せざるを得ないだろう。)

 

(そうなると、自力でホトリア王国まで移動する必要があるか。植木鉢を乗せた外殻は確かに長距離移動が可能だが、あれは時間がかかり過ぎる上に無防備すぎる。まだまだ改良する必要があるだろうな・・・。)

 

(ともすれば・・・・空路からの輸送になるが、打ち上げに砕け散る限界まで火の魔石を使い分身体に魔力を大量に込めてもホトリア王国にギリギリ届くかどうか、どの道片道切符になるのは間違いないだろう。)

 

(魔力不足な状況なのに殆ど空の器を届けても仕方がないが、出力強化には私の分身体がある程度の質量が必要になる筈だ。魔力吸収効率も多少向上するだろうし、この地に住まう生物たちを干ばつから救うにも大河に拠点を構える必要がある。)

 

(この前の小雨で多少猶予が出来たとはいえ、時間はそれ程残されていない。ホトリア王国に急がなければ。)

 

迷宮核は岩山オアシスの管理と並行して、ホトリア王国へ分身体を派遣するための準備を進めていた。

岩山オアシス周辺では大河に近い環境になりつつあり、植生も大河から持ち込まれた植物が生い茂り、その根は硬い岩肌を貫き新たな芽を生やした。

そして、その植物を住処にする虫などの小動物が繁殖し、それを捕食する大型動物も個体数を増やしていた。

岩山オアシスに住まう人を含めた生物たちの営みが迷宮核に力を与え、ホトリア王国へ迷宮核の分身体を放つための魔力が溜まりつつあった。

 

(これだけ魔力が集まれば十分にホトリア王国まで飛ばすことが出来るな。)

 

(しかし、私はこの身をあれだけ切り分けているのにそれ程昔と体積が変わっていない様な気がするが、魔力や魂を吸い取るうちに膨れているのだろうか?)

 

(まぁ、この世界に生まれ落ちた時と比べ物にならない程に私は力をつけた、それは間違いないんだ。石の体となっても成長するものなのだな。)

 

 

迷宮核はその身を切り分け、一抱えもある欠片を水の魔石や地の魔石など複数種類の魔石でコーティングし、最後に岩石で覆った。

そして、不活性化処理をしたうえで粉末化した火の魔石を圧力で押し固めた成形炸薬を込めて、岩山オアシス頂上の射出口に続く筒に装填し、安全確認をする。

 

(山頂付近に生物の気配なし、付近にオアシスの住民もおらず、晴天なり、パッケージ弾頭発射準備・・・・発射!!!)

 

迷宮核の分身体、従属核を覆う岩石は炸薬の爆轟から本体を保護すると同時に燃焼ガスを受け止め弾頭を加速させ、発射口を飛び出すと同時に切り離され弾頭のみが天高く打ち上げられる。

 

垂直ではなくある程度角度を設定して射出された従属核弾頭は、超高高度を飛行し、減速し始めた頃に自身を薄く平たく変形させてグライダー滑空形態へと移行する。

更に駄目押しとして、コーティングしていた水の魔石と風の魔石を使用して高水圧のウォータージェットを噴射して推力を得て飛距離をさらに伸ばし、遂に緑の帯を飛び越える。

 

(見えた!大河ほとりの国、ホトリア王国だ!)

 

ありったけ込められていた魔力も長距離飛行によってすっかり枯渇しており、僅かに残った魔力を姿勢制御に使う従属核砲弾は、ホトリア王国王城前広場にある祭壇めがけて急降下する。

 

ウォータージェットを逆噴射する事で若干減速したものの、殆ど速度を落とさず祭壇に直撃した事で盛大に水柱が立ち上り、破片が飛び散り噴水広場を水浸しにし、偶々付近にいた住民をずぶぬれにしてしまう。

受け入れ態勢を整えていた祭壇側の従属核の地形操作能力によって破片が周辺住民に命中しない様に軌道をそらし、かなり際どいが負傷者は出なかった。

 

「うわぁぁぁ!?」

 

「い、一体何が起きて?」

 

「あぁ、そんな!地母神様の祭壇が!!」

 

災いの前兆か、地母神の怒りか、先ほどまで優しい光を放っていた祭壇が突如砕け散り、凄惨な姿を晒している。

ホトリア王国民にとって衝撃的すぎる出来事で、まさに青天の霹靂ともいえる超常現象であったが、それは悲劇で終わる事は無かった。

 

ずぶ濡れの瓦礫の山と化した噴水広場は、突如すり鉢状に地面が凹むと、その中心部から波紋が広がるように地面が隆起し始め、飛び散った瓦礫を吸い込みながら新たな形を作り出し、水路が再構成されより広く深く作り直され、大樹の如く中心部からせり出した柱は表面を光がなぞるようにして削られて行き、花の様な彫刻が出来上がる。

そして、柱の中央に鎮座する花の彫刻の中心部には、さらに肥大化した御神体の秘石が収められていた。

 

「な・な・な・・・何と言う事だ!」

 

「地母神様の祭壇が更に神々しくなった!?」

 

「だ、誰か国王陛下にお伝えしろ!神官様もだ!」

 

「あぁぁ、何と美しい!」

 

眩い光と共に変化した祭壇の噴水は、更に大量の水を噴き出し、美しい水の曲線を宙に描いた。

視覚的な演出もさる事ながら、従属核の融合による出力の強化によって、地下水脈は更に太く水量も増加し、ホトリア王国周辺に置いてほぼカバーする事が出来るようになった。

大河の国としては比較的小さいホトリア王国とは言え、その全域をカバーするのは並大抵ではないのだ。

そして、複数の従属核が融合したとは言えその能力は迷宮核本体の何分の一にも満たないのである。それだけ岩山オアシスの迷宮核は規格外の存在なのである。

 

長距離フライトによって内包魔力はほとんど失われてしまった追加の従属核であるが、ホトリア王国噴水広場の従属核と融合した事により魔力吸収能力と制御力、容量が強化され大河の橋頭保は十分に整えられたのであった。

 

(多少乱暴でダイレクトなアクセスだったけど、祭壇の分身体と無事に再結合することが出来たぞ。)

 

(岩山オアシスから大して魔力を持ち込むことは出来なかったけど、一度に制御できる領域が一気に広がったんだ。これでホトリア王国だけに関しては干ばつから救うことが出来る。)

 

(まぁ、流石に大河全域ともなると焼け石に水状態なんだけどね。はは、大自然が相手だとこうも無力だとは・・・。)

 

(私の一部となったホトリア王国の兵士の記憶からすると、大河はもっと広く深かった筈、その筈だけど干上がって沢と化した分流と普通の川よりも若干広い程度の本流を見るとどうしようもない無力さを感じる。)

 

(部分的とはいえ大河の民を救うことが出来るんだ、絶望している場合では無いぞ。更に強化されたこの器、その力を行使する時が来たのだ!)

 

(大地穿ち命脈を広げよ!大地抱く水脈よ!地平まで翡翠と花で満たせ!滅びの運命をねじ伏せろ!)

 

その日ホトリア王国周辺から大地のひび割れは消え去った。

迫りくる渇きの大地を押しのけるが如く広がる草花は、その身に水をたたえ微小な生命を育み、何層にも連なる生命の環を紡ぎだす。

ホトリア王国を中心に広がる水脈は、枯れた水脈とぶつかると瞬く間にそれを満たし、そこを通り道に放射状に広がって行く。

 

滅びの運命をたどる筈であったこの地は、確かに小さく鋭く光り輝く粒によって希望が生まれつつあった。




時間を見つけて少しずつ進めて行きたいと思います。

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