霊晶石物語   作:蟹アンテナ

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蠢く陰謀

度重なる大河の連合軍とウラーミア王国軍の衝突により、大河そのものが死霊や戦死して腐敗した両軍の兵士によって汚染され、木々も蹂躙され自然の回復力を上回る破壊が続き、部分的に大地その物が腐り始める地域が出始めていた。

 

死体を糧に菌糸を伸ばす真菌類や、毒素を溜め込む微生物、そして感染力の高い細菌類などまるで地獄の様な禍々しい光景が広がっていた。

 

大河の水量そのものが減った事により流れの勢いが衰え、水は淀み、大地に蓄積した毒素や死霊の瘴気によって草木の種子も芽吹かず死滅した。

 

ウラーミア王国は、旧・ウラツァラル帝国の遺産でもある各要塞で連合軍を待ち構え、強力な破壊の魔法や禍々しい死霊術で迎え撃ち、連合軍の物量攻撃を逆に自軍に取り入れてしまう。

しかし、幾らウラツァラル帝国譲りの魔法技術や遺産を使っても多勢に無勢であり、死霊化に怯える一般兵は元より、死霊を操る魔術師達の消費も激しく、疲労困憊の様相を呈していた。

 

そして、ごく最近になって雨も降っていないのに奇妙な事に大河の水量が増え始め、淀んでいた分流も毒や瘴気を押し流し、上流から運ばれてきた種子が芽吹き、大地を蝕んでいたもの達は、次第に分解されていった。

 

ある意味では、その汚染領域は大河の連合軍がウラーミア領への進軍を妨げる要因であったため、ウラーミア側にとって守りが崩れることになり、電撃的な連合軍の進軍によって幾つかの旧・ウラツァラル帝国の要塞は、死霊術を使う暇もなく陥落する事になった。

 

ホトリア王国が砂漠の民より学んだという大弓が使用されたと言うのも大きかった。

予め弦を引いた状態で固定し、金具を引くと張り詰めた弦が鏃を押し出し発射される仕組みであり、通常の弓よりも鍛錬の時間が少なく済み、馬やロバ等の家畜の力を借りれば人間が引くことが出来ない張力の弦でも引くことが出来るのだ。

 

魔術師を執拗に狙った遠距離攻撃に、物量が加わると、幾ら無数の死霊を操ることが出来る魔術師とは言え、対処は難しく、一人一人と討たれていった。

 

「おのれ連合軍め、おのれ蛮族共め!大河を統べるウラツァラル帝国の正当な後継者、ウラーミア王国に逆らうなど!許さぬ!許さぬぞおぉぉ!!」

 

「一度殺すだけでは足りぬ、死霊として蘇らせ何度もその身を切り刻んでくれる!」

 

「緑の帯の交易路だけではない、行く行くは大河全てをわが手によって掌握する!万物はウラツァラル人の為に存在するのだ!」

 

「ツラーミア公国を名乗る反逆者共も粛清し、従属する者のみウラツァラル人として迎え入れるのだ、我らの手によって新生ウラツァラル帝国が誕生する!」

 

「連合軍め、我らが誇る新・帝都に足を踏み込めば最後、骨の髄まで腐り溶かしてくれるわ!!」

 

 

ウラーミア王国は上手く戦況を操れない事に苛立ちを見せていた。

大河の連合軍は、部分的とはいえ大河の水量が増えた事で物資の補給の目処が付いた事で一息つくことが出来、膠着状態にあった時に兵を休ませることが出来たため、士気は高かった。

態勢を立て直しつつある連合軍に対し、大河を汚染する事で時間を稼いでいたウラーミア王国は土地が痛んでいたために生産力が低下し、死霊化の恐怖によって兵士の士気も低下していた。

 

戦況悪化に伴い、ウラツァラル帝国の遺産である各要塞の装置を起動し、要塞を自壊させる事によって多くの連合軍を巻き添えにさせる事に成功したが、後が無くなってきたウラーミア王国は不安定化していった。

 

 

一方、ツラーミア公国、旧・ウラツァラル帝国帝都にて・・。

 

「そうか、連合軍が優勢か。」

 

「はっ、簒奪者共は新帝都と称する城塞都市まで押しやられ、このまま行けば籠城せざるを得なくなると思われます。」

 

「ふん、所詮は簒奪者は簒奪者よ、浅はかな動機で大河の国々に手を出し、結果的に全てを失いつつあるのだ。」

 

「緑の帯の交易路と水の魔石に目がくらんだ愚か者共です。」

 

「王位継承の儀も行わず帝王を名乗り、帝都の次に栄えていた都市を乗っ取った愚かな親王の血筋も政争によって、とうの昔に途絶えていると言うのに、滑稽なものよの。」

 

「王位継承の儀を行ったのは皇太子であり、王弟はどうあがいても正統な後継者ではありませぬ、一時的にウラーミアが実権を握ったとは言え、本来公国を名乗るのはウラーミア側の筈なのです。」

 

「砂漠に逃れた裏切り者さえいなければ、いや、野垂れ死にした者達などもはやどうでもいいか。」

 

ツラーミア公国側は、戦況を冷ややかな目で見ていた。

強欲な簒奪者の無計画な大河国際会議場の破壊工作によって開戦し、結果的に自滅の道を辿ろうとしているのだ。

 

「王弟の血筋が途絶えた今、新帝都と嘯く城塞都市の仕掛けは起動する事はおろか、存在にすら気づくまい。」

 

「大河を不当に占拠する連合軍も、血筋の途絶えた簒奪者共もやがて我らに下るのだ。」

 

「世界に存在するのは我らだけでよい!!」

 

ツラーミア公国は大河の連合とウラーミア王国の決戦に合わせて、策略を企てるのであった。

 

 

 

大河の連合軍は、ウラーミア王国の要塞の自壊装置によって想定外の打撃を受けつつも、安定した補給によって速度を殆ど緩めず、ウラーミア王国首都へと目指していた。

 

未だに、新帝都まで遠く、汚染から回復していない土地を横断しなければならず、制御下を外れたはぐれ死霊や汚染で凶暴化した原生生物に襲撃される事もあり、予定通りには行かないが着実にその足を進めていた。

 

大河の連合軍もウラーミア王国も干ばつや戦争によって疲弊していた。

優勢状態にあるものの苦しい状況の大河の連合軍と、本拠地まで追いやられつつあるウラーミア王国、そして不気味な沈黙を続けるツラーミア公国、大河の情勢は混迷を極めていた。

 

 

 

大砂漠、岩山オアシスの村にて・・・・。

 

「ふぅ、見違えるね、ルルちゃん。」

 

「以前のあたしとは違うわよ!」

 

「それが魔法剣って奴なのかな?練習用の剣じゃなかったら真っ二つにされてたよ。」

 

「武器を選ばず威力を高めることが出来るから使い勝手は良いわよ、流石に砂神剣には負けるけどね。」

 

「本当にルルちゃんの一族は器用な事する・・・なっ!!」

 

ジダンは練習用の骨剣を上段に構えて突進し、勢いよく振り下ろす。

 

「たあぁぁぁ!!!」

 

下段から振り上げられたルルの骨剣がジダンの骨剣と衝突する。

 

「えっ!?」

 

体格と位置エネルギー的な不利のある様に思えたルルだったが、剣同士のぶつかり合いとほぼ同時に小さく炎が爆ぜ、ジダンの剣筋がずれ、すかさずルルが体をねじ込みジダンの服を掴み、その勢いのまま投げ飛ばす。

 

「かはぁっ!!」

 

「ふふん、どうだ見たか!!」

 

地面に叩きつけられ肺から空気が抜けたジダンに骨剣が突きつけられる。

 

「まいりましたー、いてて。」

 

ルルが手を差し伸べると、ジダンはそれに捕まり立ち上がる。

 

「早く、鋭く、でもそれだけじゃだめ。」

 

「重さも必要、でしょ?お父さんとアイラお姉ちゃんが良く言っていたよ。」

 

「まぁ、どうやってもジダンの力には敵わないんだけどね。」

 

「いやぁ凄い威力だったよルルちゃん?今も手のしびれが取れないんだから。」

 

「魔法の発動の機会の見極めって難しいのよ?でも、多少非力でも威力の底上げが出来る訳。」

 

「ルルちゃんの眼力凄かったよ、ちょっと光ってたし。」

 

「この深緑の瞳を持つあたし達ウラツァラル系は瞬間的に魔力を高めることが出来るからね、でもジダンはジダンで砂神剣が使えるんだから落ち込まなくていいのよ?」

 

「んー、確かに砂神剣はついて来てくれるから僕から離れる事はそんなにないけど、もし仮に使えない状況があったら純粋な剣術で挑まなきゃいけないしなぁ。」

 

「ジダンなら練習すれば行けるんじゃない?あたしも付き合うわよ?」

 

「僕にも使えるかなぁ?」

 

「カシム様は魔法剣使えるって言っていたし、ウラツァラル人じゃなくても使おうと思えば使えるわよ、適性はあたし達の方があるけどね。」

 

「そう言えば、ルルちゃんたちはツラーミアの方から来たウラツァラル人なんだって?魔法技術凄いのはそのお陰かな?」

 

「そうね、何かウラツァラル帝国が恐ろしい事をしようとしているのに気付いた上級貴族だったみたいなんだけど、何かしらの方法で食い止めて砂漠まで逃げて来たみたいなのよ。」

 

「ふぅん?なんか歴史を感じるねー。」

 

「大河の方ではウラツァラル人が暴れているみたいだけど、早く終わって欲しいわね。」

 

「そうだね、人間同士が争う何てこと、無くなれば良いのに。」

 

 

少年少女たちは、遠い世界で行われている戦争に、愁いを帯びた表情で思いをはせた。

近しい先祖を共にする民族同士が、水を廻って、資源を廻って争い続ける。

いつかこの不毛な戦いが終わり、大地を襲う干ばつに共に立ち向かうことが出来れば、無垢な少年少女たちはそう願った。




岩山オアシスの剣士の女の子ルル
一応岩山オアシスの中でもお嬢様な子。

【挿絵表示】


ウラツァラル系の砂漠の民、魔術の素質がある。

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