大河と山脈の向こう側を結ぶ荒野の交易路、緑の帯。
少し前までは水脈が途絶えかけ、各オアシスの村は壊滅の危機に追いやられていたが、突然オアシスが復活し水脈も元に戻った事で息を吹き返し、再び交易路として利用されるようになった。
当初は、純粋に交易路として利用されていたが、砂漠の民が出所不明の水の魔石を大量に保持している事が判明して以来、盗賊が出没するようになってしまった。
しかし、緑の帯には砂漠の民と友好関係を結ぶホトリア王国の兵が駐屯しているので、直接緑の帯のオアシス村を襲撃する事はなく、交易路の出入り口付近で襲撃される。
「くそっ!待ち伏せだ!応戦しろ!」
「水の魔石は渡さんぞ!!」
盗賊団は神出鬼没かつ、一盗賊団にしては異様なまでに武装されており、まるで軍隊の様に訓練された動きで砂漠の民や各国のキャラバン隊を襲撃していた。
「引いたか、何人生き残った?」
「半数位だ、畜生!荷車を丸ごと1台奪われた。」
「奴らも手口が巧妙化してきたな、この人数での遠征は危険だな。」
当初こそは砂漠の民も撃退に成功していたが、度重なる戦闘で遂に砂漠の民側に死者が出てしまい、緑の帯を横断するキャラバン隊は大人数での行動を余儀なくされた。
「緑の帯に出没する盗賊の略奪行為は座視することは出来ん。」
「このままではウラーミア王国との戦争の補給物資にも悪影響が出る。」
「兵站の為にも、緑の帯の盗賊の討伐を実行するべきだ。」
事態を重く見た砂漠の民とホトリア王国は、緑の帯の治安維持活動を定期会議で大河各国に呼びかけ、その結果有志の国が討伐隊を派遣するのであった。
「全く、何故ウラーミアではなくこちらに回されたのか。」
「雑魚を相手に消耗するのも馬鹿馬鹿しい、ある程度の所で切り上げるぞ。」
しかし、大河各国から討伐隊が派遣されたは良い物の、盗賊の数は一向に減らず、派遣した国によっては負傷者が出ればあっけない程簡単に引いてしまい、結果的にホトリア王国と砂漠の民が盗賊と応戦しなければならなかった。
「撤退?馬鹿な!敵はまだ崩れていないぞ!」
「当てにするな、俺たちだけで賊共を倒すんだ!」
「まったく忌々しい!」
「装備の質こそこちらの方が上だが、奴らも武装している、打たれ強いぞ!」
ホトリア王国と最後まで盗賊団と戦った大河の国は、想定していた以上の消耗をしてしまい、適当に切り上げた友軍に非難の目線を送る。
「はぁはぁ、くそっなんて被害だ。」
「これだけの武装、ただの盗賊団とは考えづらいぞ?」
「一体どこの国の工房が作った装備なのか、それが分かればやりようがあるのに。」
「見た所、対魔物用の狩猟用防具の様だが、廉価版とはいえただの盗賊団がこれだけの人員に回すことが出来るというのか?」
盗賊団の装備があまりにも充実している事から、何処かの国が背後についているか、そもそも盗賊団ではなく非正規軍の可能性も浮上した。
全ての国がそうではないが、実は討伐隊を派遣した国の一部で水の魔石を求めた軍部が一部暴走して、盗賊に扮して砂漠の民を襲撃していたのであった。
「結局やられてしまったか、まぁ罪人など、この程度だろう。」
「罪を犯した兵の刑の減軽で動かしても得られた水の魔石は極少量か。」
「次の襲撃はもう少しまともな兵を使うか、所詮辺境の蛮族だ、水の魔石を大量に保持するなど分不相応と言うものだ。」
直接手を下していない大河の国の中でも事態を把握していた国もあったが、裏の流通経路で水の魔石が流れてくるならそれはそれでよいと、あえて放置する国もあった。
「勝手な事をしおって!」
「今はウラーミア王国と戦争中だと言うのに、足並みを崩す様な事は慎んでもらいたいものだ。」
「だが、比較的安価でこちらに水の魔石が得られるのは捨てがたいな。」
「確かに、水の補充の難しい汚染領域の横断には水の魔石は欲しい所だが・・・・。」
「奴らに乗るのも非難するのも面倒だな、放置で構わんだろう。」
一方、迷宮核は砂漠の民に犠牲者が出てしまった事で憤っていた。
皆が等しく干ばつの脅威にさらされているのに、身勝手な理由で命と物資を奪われ、その尊厳までも穢されてしまっては許す道理も無かった。
(成程、そう言う事か、ただの盗賊では無いと思っていたが、彼らの記憶から裏で動いている国が読み取れた。)
(皆が団結して干ばつの脅威に立ち向かっているのに身勝手な理由で戦争を起こして、仲間同士で騙し合い裏切った挙句盗賊の真似事だと?)
(ふざけるな!そんな下らない理由でどれだけの人間が犠牲となったのか!?許しておけぬ。)
迷宮核は一時的に緑の帯のオアシスの従属核を動かし、一晩限りの従属核フレーム部隊を編成し、空間感知能力を最大に生かし、砂漠の民を狙う盗賊団もとい大河の国の非正規軍の拠点に向けて進軍を開始するのであった。
「あれ?何か泉の祭壇の光が消えている様な?」
「本当だ、今までこんな事は無かったのに。」
「最近ここら辺も物騒になって来たが、不吉の前兆でない事を祈るな。」
緑の帯の各集落の従属核を動かした事で一時的にオアシスの集落群は無防備になるが、脅威になりそうな魔物が感知された所は居残り組なので留守を狙った襲撃は起きなかった。
(一見、防砂の小屋に見せかけた隠れ家だが、奴らはあそこから出入りしているんだ。)
(まずは狐を穴ぐらからいぶりだしてやる。)
(炸裂の矢、装填完了!発射!!)
鏃の根元が火の魔石で作られた槍の様に太い矢が弩砲から放たれ、干しレンガで作られた小屋は爆発炎上する。
「うぎゃああああぁ!」
「何だ?一体何が起こった!?」
「見ろ!巨大な蜘蛛の化け物だ!」
「くそっ、奴を止めろ!組み付いてしまえばこちらの物だ!であえ!であえ!」
崩れた小屋の中から生き残った盗賊たちが這い出て、従属核フレームに向かって突撃する。
しかし、従属核の長距離攻撃は強烈で、中々接近できなかった。
人間の力で引けない程硬く引き締まった弦を、水流操作能力を応用した油圧機構で引き絞り、砂を合成して固めた鏃を装填して一斉射撃を行った。
「ぐはぁっ!!」
「馬鹿な、革鎧とは言え多少の刃など弾く硬さだぞ!?」
「俺は鉄の盾ごと貫かれた奴を見たぞ!奴の弓矢は防御力なんて意味が無いんだ!」
「この、化け物どもめぇぇぇ!!」
革鎧は元よりあらゆる攻撃を受け止める金属製の大盾も分厚い板金鎧も、もはや無駄であった。
人外の怪力で引き絞られた鏃は目の前の障害物を容易くなぎ倒し、板金も容易く貫通及び木っ端みじんに粉砕した。
「ぐぬぅ!なんて硬さだ!」
「刃が!刃が通らぬ!」
ほんの少人数が従属核フレームに到達して、それぞれの獲物を外殻に叩きつけるが、異様な硬度の外殻に弾かれ刃は欠け戦槌はひしゃげた。
(鬱陶しい!)
四つ足の従属核フレームに組み付いた盗賊を振りほどくために脚部を組み軸として独楽のように高速回転し、更に関節部分から水を噴射して駄目押しに加速する。
「あがああぁぁぁ!!」
「うぎゃあああああ!!」
あまりの水圧に体を刻まれ肉片と化す者、脱落した後に踏みつぶされる者など、残った者達は無残な死を遂げた。
(それぞれの思想を持って対ウラーミア王国の連合軍を結成したとはいえ、一応砂漠の民やホトリア王国の味方陣営の筈だったんだ。)
(それを、こんな形で裏切って、皆で分け合うはずの水の魔石を独り占めにしようとして、無辜の民を傷つけて。)
(なんて愚かなことを、これではこの戦争が終わってもまた同じような事を繰り返すだけではないのか?)
(呑気に戦争なんて本来する暇も無い筈なんだ、この干ばつはそれすらも全て飲み込む脅威の筈、なのに何故?何故なの?なんで?)
(全ての民が愚かでは無い事は知っている、けれどもこれでは・・・こんな事では・・・・。)
大河連合軍定期会議にて・・・。
「先日発見された盗賊団の拠点で、貴国の者と思われる兵士の遺体が確認された、これは一体どういう事だ?」
「知らぬ、下賤な者と関りは持たぬ。」
「指示書も見つかっている、隠し立ては出来んぞ?奇襲を受けて処理も出来なかったのだろうな。」
「知らぬと言っている!仮に我が国の者だとしても跳ね返りどもだ、我が国の本意ではない!」
「話にならんな、それではまともに軍部の意思を統一も出来ず、それぞれバラバラに勝手に行動しているという事になるぞ?その様では連合軍としてまともにウラーミアと戦えまい。」
「待て、待ってくれ!不遜なるウラーミアに致死の一撃を与えて見せる、毒の沼地など水の魔石なしで横断してやる!」
「勝手に動かれては困ると言っている、貴国は裏手に回って補給に従事してくれれば良い、少し頭を冷やすべきだ。」
「くっ!ぐぬぅっ!!」
しかし、目論見がばれて戦後に各国から非難される事が分かり切っている国は、それを打ち消すだけの武功を求めて更に暴走を極め、不要な行動やそれが原因の負傷などの消耗を招くのであった。
抜けがけで勝手な行動をした大河の国は、連合軍の足並みを崩し、ウラーミア王国首都攻撃が遅れた原因の一つになった。
少々リアルが忙殺され気味なので更新が不安定になります。
ご了承くださいませ。