霊晶石物語   作:蟹アンテナ

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なるべくテンポを維持したいです。


農業効率化

迷宮核の支配圏と同じくその勢力を拡大し続ける砂漠の民。

迷宮核や砂漠の民の努力の結果、死の大地は灌漑され続け農地に利用可能な土地が増え、元々砂地だった場所にも農地を広げる案が岩山オアシスの村の定期会議で上がっていた。

栄養状態が改善され乳幼児の死亡率が低下し、薬品の材料になる植物の供給により医療設備も物資も整ってきたことで、砂漠の民そのものの死傷率も低下し、人口が増えつつあった。

更に、昔に比べ減少したとは言え大河方面から様々な事情で移民してくる者も居るので、増えた人口への対策を打たねばならない状況であった。

 

特に、食料の増産は急務であり有事の際の備蓄がまだ十分でない事も課題であった。

幸い農地として利用可能な土地が増えたことで解決への道筋は出来ているので、後は実行に移すだけであった。

 

(ふむ、定期会議での議題は食料の備蓄と増産か)

 

(確かに岩山オアシスの岩地に猫の額ほどの小さな畑が沢山あるけど、オアシスの湖で育てている水モロコシの補助くらいにしかなっていなかったし、やはり農業面積の狭さは問題だろうね)

 

(これでも大分改善されている方なんだけどね、岩山だって土は殆どなかったし砂地ばかりだったし、農地に使える場所なんてほぼ存在していなかった)

 

(岩山みたいなごつごつした場所じゃなくて平らで広い面積の草原が農地の候補に挙がるのも当然だろうね)

 

(ふむ、特に農地に利用するには問題なさそうだね。少し深く掘ると砂の層が出てきちゃうけど腐葉土が積もってきて大分微生物が生育できる環境も整ってきたし、作物も元気に育つだろう)

 

(私も何かしなくちゃね。そう言えば遠くに隔離している動植物研究所も手狭になってきたし、もう少し拡張しちゃおうかな?)

 

意識を死の海方面に向けると、広大な敷地を持つ人工的な造形の草原が視界に広がる。

新たに増築した区画は、岩山オアシス周辺の草原を模した緑の絨毯の様な区画で、一部新たに持ち込んだ大河の植物が生態系にどのような影響を与えるのか研究する場所でもあった。

地下水路を伸ばし動植物研究所と接続したことで、従属核フレームを向かわせるときに地表を通る必要がなくなり目撃される事を防ぎ、浮力が働く事で物資の運搬のコストが大幅に下がった。

そして、今まで肺魚しか居なかった動植物研究所の人工池には大河さながらの色とりどりの魚が入り乱れ、地形操作能力で取り除いていた藻類は海老や貝などが食べて生育を抑制し、手入れが楽になっていた。

それらの営みによって沈殿した水生生物の死骸や分解物は栄養に富み、地表の農園の肥料として利用されている。

 

(地下水路に沈んだ泥は、岩山オアシスの土壌改良に大きく貢献しているんだよね。たまに取り除かないと酸素濃度が低下したりしちゃうけど、これのお陰で随分と助けられた)

 

(水流操作や風の魔石を使ったエアレーションで酸素濃度を調節してあげないといけない区画もあるけど、地下で繋がっているおかげで生物相も各オアシスと共有できるし、こうして陸の植物の運搬も楽にできる)

 

物資の運搬効率が上がったこと、緑の帯の往来が増えたことで魔力供給量が上がり、大河周辺での活動がしやすくなり、大河の植物の種子や苗が日夜この動植物研究所に運ばれてくる。

 

(コンテナの種子は保管庫に移動させておいて、今は前に植えた植物の生育具合を確認しないとね)

 

(ふーむ、ポリマーと砂の混合物の栄養が少ない土壌で育つ植物と栄養豊富な地下水路の泥で育つ植物と、結構個性があるなぁ)

 

(栄養があれば元気に成長すると言う訳でもないし、引き算も考えないといけないから植物の栽培は奥が深い)

 

(よしっ、試行錯誤して色んな植物の育て方も分かってきたし、区画の再構築のついでに作物栽培を効率化しよう!)

 

緑の絨毯が突如左右に分かれ、大型プランターが従属核の力によって再構築される。

元々スプリンクラーによって水路から水を吸い上げ散水していたが、運用しているうちに水やりの箇所に偏りが出ていたのが判明したので新たな試みとして、可動式の油圧アームを利用した散水が出来る機能を追加した。

プランター間の溝に敷かれたレールに沿って散水管が稼働し、そこに取り付けられた油圧アームの先端から霧吹きの様に水が噴射される仕組みである。

 

(陽光麦と砂利麦の生育に早くも影響が出始めたね。やっぱり水やりに偏りが出ていた影響が大きかったのかも)

 

(前育てたのは収穫して保管庫にしまってあるけど、中身がスカスカな種籾もあったから泥水選で取り除いて中が詰まった種籾を植えてみた影響もあるかもね)

 

(本当は塩水の方が良いんだろうけど、塩の生成も結構な魔力を使っちゃうんだよね。こんなんだったら、海から海水でも汲んでおくべきだったか)

 

(まぁ、あの時は魔物の群れに追いかけられていて切羽詰まっていたからその余裕も無かったし、仕方が無いか)

 

回転する鎌に切り取られ、履帯の構造を応用したベルトコンベアで穀物を収穫した後に残された茎や根を、らせん状に取り付けられた刃で土ごと切り裂かれ混ぜ込み耕され、地下水路の泥が油圧アームの管から噴射され肥料が散布される。

それは、未だ家畜や人力で行われているこの世界の農業技術から遠い未来の技術であり、迷宮核の生前の世界で当たり前に行われていた光景であった。

見よう見まねとは言え高度に効率化された農業技術は、粗削りで課題も多いが大河の農業大国のそれに迫る収穫量を実現していた。

流石に面積は劣るが、迷宮核なりの品種改良も行われているためか実りも多く、砂漠の環境でも育ちやすくなっているため、砂漠の民の畑にこっそりと改良種子を紛れ込ませることで収穫量を増やしていた。

 

(やろうと思えば精麦も製粉も出来るんだけど、まだ品質管理に不安はあるんだよね。コンテナ丸ごと黴に汚染されて焼却処理した奴もあったし)

 

(前みたいに食料不足で危険な状態になるオアシスの村も出るときがあるから、備蓄を増やしておく事も重要だね。研究も大事だけど)

 

(しかし、この砂利麦って言うのは触れると簡単にパラパラ地面に落ちるし見た目も質感も砂利そっくりだから落ちたら回収諦める人が多いのも納得だなぁ)

 

(まぁ、砂漠の砂は乳白色だから鼠色の砂利麦が落ちても比較的拾いやすい地域でもあるんだけどね)

 

(見た目が砂利そのものだから鳥害が少ないと言うのは利点だけど、混ぜ物が多いし騙しやすい見た目なのも問題だ)

 

(本物の砂利みたいに硬い籾殻を取り除くにはよりしつこく叩き続けないと精麦できないし、陽光麦の方が人気があるのも頷ける)

 

(その代わり硬い籾殻に守られていて保存性も高いし栄養価は他の穀物を抜きんでていて味も良いから、砂利麦の穀物粉は最高級品として大河の国々の王族や貴族に愛されているらしいね)

 

(うーん、砂漠の民には負担が大きい作物なんだよねぇ、私にはそれ程でもないんだけど)

 

(保存性の高さは目を見張るものがあるから備蓄するなら陽光麦よりも砂利麦かな?どうせひん剥いちゃえば見た目は大差ないし、緊急時に放出する時に精麦すればいいか)

 

(そう言えばラーレが嬉々として輸入したものの、取り扱いに難儀して匙を投げかけたんだよね、砂利麦)

 

(砂漠の民の植物学者たちをも手こずらせた穀物は後にも先にもこの麦だけだろうな)

 

(ま、その後ラーレが収穫した砂利麦を麦飯にして幸せそうな顔で食べていたから、その後も少量生産はしているみたいだけど美味しいのかな?こればかりは石の体では体験できないしねぇ)

 

(さて、穀物の次は芋類だな、まだまだやることは多いぞーっ!)

 

迷宮核も砂漠の民も過酷な環境で生き抜くために試行錯誤を続けて行く。

この手の分野はすぐに成果が出る訳でなく、地道に基礎研究や品種改良を続け成功と失敗を積み重ね、膨大な時間と予算をかけて行われてゆくのである。

迷宮核には貨幣取引を行う機会も資金を必要とすることも無いが、それでも莫大な魔力的なリソースを払っている。

これ程の計画を実行するにも先立つものが必要なのである。

 

 

 

 

改良型散水装置

 

今まで埋め込みの固定式散水管から作物に水やりが行われていたが、偏りが出てしまう場所も出てきたので再設計され大きく改良された。

レールに沿って散水管が移動し、それに取り付けられた油圧アームから水やりが足りていない場所に水を噴射することが可能である。

油圧アームはアタッチメントを交換することで種まきや雑草の除去も行えるので、農作業の効率は大きく向上している。

しかし、操作方法が複雑なので迷宮核的には難易度が高く、その制御には従属核の結合が必要不可欠である。

 

 

複式収穫機

 

回転する車輪型の鎌と、ベルトコンベアが一体化した装置で、切断した作物をベルトコンベアに乗せてコンテナに移動させることが可能。

こちらもレールに沿って移動するので散水管と規格は共通している。

回転刃の出力を強化するために従属核が結合するためのアタッチメントが搭載されており、高出力水流が回転刃のトルクを上げる。

 

 

 

 

耕耘機

 

回転する刃によって収穫後に残された作物の茎や根を引き裂き、土と混ぜるために迷宮核によって開発された装置。

規格化されたレールに沿って移動する。

スクリューの様な刃がらせん状に配列されていて、水力タービンによって回転する構造で、直接従属核が結合することで強力なトルクを実現している。

基本的に人が立ち入る場所で運用しないので、トラクターのように安全カバーが取り付けられていない。

 

 

砂利麦

 

鼠色の籾殻に覆われた麦の様な穀物で、陽光麦の近縁種。

表面が石のように固く、質感そのものも砂利に酷似している為に専門としている農家でも砂利と砂利麦を見分けるのは難しい。

硬い籾殻に覆われている為に高い保存性があり、味も良く栄養価も高いために穀物としては非常に優秀である。

しかし、悪徳商人による混ぜ物被害が後を絶たないので、取引には互いに強い信頼感が必要で、厳重な確認が行われている。

この穀物を製粉すると、穀物特有のほんのりとした甘みを持った上質な穀物粉になるので、王侯貴族からの需要が高い。

加工処理のしやすさは陽光麦の方が上なので、砂利麦を育てている農家は比較的少なく、それが希少価値を高めていて一般家庭には滅多に流通しない。

 

 




なんか前よりも思考回路が働かないです。
うーん、ポンポンアイディアが浮かんでモチベーションも維持できれば良いのですが、上手くいかないものです。

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