霊晶石物語   作:蟹アンテナ

84 / 92
交易路整備

大河と砂漠を結ぶ交易路、緑の帯。

少し前まで干ばつに飲み込まれかけていたとは思えないほど活力に満ちており、盛んに交易が行われている。

しかし、砂漠の玄関口と言う事もあって、ゴツゴツとした岩場が多く、踏み固められて自然と出来上がった道がある程度で特に整備されているわけでもなかった。

これは、大河の複数の国が領有権を主張している事と、過酷な環境が故に元から人が寄り付かず定住者が少なかったことが起因する。

住居を追われたり大河の国から追放されたりして流れ着いた流浪の民が僅かな水源に定住し、集落が形成されたことで商人たちが体を休める中継地点が出来たことで交易路が開拓されたので、利用価値が見出されてから途端により強く領有権を主張し始めたのである。

だがしかし、それを主張する国の中で強行措置に出た国が現れたせいで大河を巻き込む大戦が始まってしまい交渉どころではなくなっていた。

また、砂漠に定住する民が一つにまとまって国として独立を宣言し、一部の大河の国がそれを後押ししたことでより混迷している。

主戦場は大河なので戦渦は殆ど砂漠の集落まで届いていないのだが、怪しい動きをする者が出没するので、砂漠の民は警戒心を持って異国のキャラバンを監視していた。

情勢は不安定ながら交易自体は盛んに行われているので、経済自体は悪くないのだが、その裏には砂漠の民と迷宮核の尽力があっての事であった。

 

(なんだか最近、盗賊らしき集団が岩場に身を潜めているな)

 

(私の分身体が近づくと警戒してすぐに何処かに行ってしまうし、そもそも私の分身体遅いからね)

 

(せめてもう少し平らな道だったら素早く動けるんだけど、あの交易路整備出来ていないからなぁ)

 

(普段の移動が地下水路だから特に困っていなかったんだけど、地上の巡回となると整地が必要かな?)

 

(たまたま怪しい人たちが地下水路の真上を通っても地上に出るまでに結構時間かかるから、やっぱり道の整備は必要だね)

 

(折角だから休憩所と繋げて行商キャラバンの人たちも使えるようにしようっと!)

 

早速迷宮核は、緑の帯の集落の分身体に信号を送って地上パトロールがてら整地ができるように魔力を蓄えさせ巡回をさせた。

 

「おおっ?何だ何だ?」

 

「岩山の主の使者様が荒れ地を平らにしている」

 

「成る程、確かに交易路に使われている緑の帯には道は必要ですな」

 

「ありがたや、ありがたや」

 

珍しく従属核フレームが緑の帯の集落内部を歩き、踏み固められ自然とできた道を滑らかで硬質な石畳に変化させ、整地してゆく。

多くの住民は行商人も兼ねているので、道の重要性は身に沁みるように理解しており、物資に乏しい砂漠の集落で大河の国の都市の様にしっかりと整備された道が作られるのは大変有り難かった。

村の主に利用されている広場を一通り整地した後は、そのまま隣の村の方向に地面を平らにしながら歩き去っていった。

すでに日課となっているが、従属核フレームが去った後に村人たちが祭壇に集まりより深く感謝の祈りを捧げた。

 

(ふぅ、村からある程度離れたし脚部を履帯に変更しよう、これで少しは早く移動できる)

 

(車輪とかにすると確かに早いんだけど、子供が飛び出してくるから危ないんだよね。歩行用の脚部でも踏み潰さないか注意が必要だけど)

 

(緑の帯は砂漠と違って岩地とか荒れ地なんだけど、砂じゃないからしっかりとした道を舗装できるんだよね。もっと早くに気づいておくべきだったメンテナンスも楽だしね)

 

(お、休憩所が見えてきたな、幾つか馬車が止まっているね)

 

(デコボコした場所に止めるのもあれだから、道だけじゃなくて駐車場も作っておくか、ちょっとお邪魔しまーす!)

 

独特な駆動音を響かせながら突如現れた従属核フレームに驚く行商人、休憩所の横に停車すると従属核フレームを中心に光が地面をなぞるように走り、ゴツゴツとした岩場が平で滑らかな質感に変化し、休憩所の周りが石畳の様になった。

愕然とした表情で佇む行商人に、フレームの油圧機構を使って本体をお辞儀するように傾けると、隣の村の方向に道を舗装しながら進み始めた。

 

その事が行商人同士に伝わり、緑の帯を守護する土地神の噂が現実味を帯び始め、幾つかの大河の国が正式に調査に赴くことになるのであった。

 

(よーし、定期巡回の序だったから流れ自体はいつも通りだったね)

 

(しかしながら、今回は怪しい人たちは出なかったな、まぁ村の近くをうろつかれても困るんだけどね)

 

(元の交易路に使われていた場所は水路になったし、そっちはそっちで上手く利用されているんだけど、あれとはまた別に陸路が開拓されたみたいだし、そっちの方も整備しておこうかな?)

 

(一応私は砂漠の民を守護する存在っていう位置づけらしいから、あまり緑の帯から外れた場所で好きにやると睨まれちゃうからね)

 

(友好を結んだホトリア王国は、どちらかというと身内になるし、こういうのは本当に難しいし面倒くさいな)

 

(よしっ、また魔力が溜まってきたら緑の帯のギリギリまで舗装しよう!)

 

それから何回かに分けて緑の帯の岩地は石畳のように平らな質感に合成され、摩耗に強くしかし滑りにくい道となり、荷車を傷めずに通行できるようになっていった。

交易路の整備のインフラを整える国が今まで存在しなかったので大河の国は困惑し、どこの勢力が交易路を整地したのか調査される事になった。

多くの国は緑の帯の集落の者たちが言う砂漠の神の使者の存在を空想上の存在として切り捨てており、諜報員から齎される情報も正気を疑う様な内容で多くの解任者を出していたが、同じ報告が何度も続けられると流石に動かざるを得なかった。

何よりも、現在は大河を巻き込んだ戦争中であり、余計なことに力を割きたくなかったのである。

 

そうしている内に、いつの間にか自国の行商人たちも緑の帯を守護するという神を信じる者たちが現れており、実際にその恩恵にあやかられた者が相当数存在したのだ。

 

道が整地され荷車の車輪が取られにくくなった。

隣の集落まで道が続いているので、方向感覚がわからなくなるということも無くなった。

村と村の間に屋根付きの休憩所が建設されており、仮眠すら取れるようになった。

更に、夜間は村の中央部にそびえる塔が発光するため、それを目印に進めば中継地点にたどり着けるようになった。

そして、時折出没する魔物から動く石像が守ってくれることもある。

 

どれもこれも信じられない内容ながら、諜報員と同様の事を行商人が話すのである。

ホトリア王国や地母神教の国の様に素直に信じる国ばかりでないので、非現実的な情報は本気にせず切り捨てていたお陰で、それらの国々は遅れを取っていた。

慌てるように集まっていた情報を整理すると、共通して動く石像の存在がちらついていた。

また、意外なところから話が繋がり、大河の国々にプレミア物として出回っていた陶器の人形の質感が、舗装された交易路と酷似していたのだ。

 

今まで砂漠の民を辺境の土人として扱って、戦後に交易路を国際会議で交渉し我が物にしようとしていた国々は、砂漠の国という新興勢力が侮れない存在だと認識するのであった。

 

(デコボコ道を平らにするだけで本当に快適になるもんだね)

 

(沢山の人達が感謝してくれたからか、魔力のたまり具合も良い感じだ)

 

(きっともっと多くの人達がこの交易路を往来して、沢山の品物が運ばれてくるはずだ)

 

(それで、この地も潤って欲しいものだけど先は長いね)

 

(道を平らにするだけじゃなくて、もっと色々とやるべき事が沢山あるはずだ)

 

(私一人では考えつかないことも砂漠の民やホトリア王国の人たちが思いついてくれるだろうし、助け合って発展してゆきたいね)

 

(今でこそ水源近くは草花が生えているけど、少し外れるだけで岩地だらけなんだ。もっと沢山緑に覆われて生命に満ち溢れた美しい自然が広がってほしいな)

 

迷宮核は、そう祈りながら整地を続けるのであった。

 

 

 

 

舗装された交易路

 

今まで領土問題で手がつけられていなかった荒れ地に突如として出現した舗装された道。

砂漠の玄関口である緑の帯は、広大に広がる岩地が大半を占めており、砂漠の民が暮らす水源付近にのみ草原が広がっているだけであった。

一部の国が領有を主張するも実効支配している訳でもなく、すでに砂漠の民が住居を築いており交流も納税も行われていなかったので、交易路としての価値が見出されるまで放置されていた。

その広大さと農地に向かない荒れた土地故に、多額の資金を叩いてまで街道を整備する国は無く、そこに住まう砂漠の民も資材の問題で踏み固める以上の事はせずに道らしい道は存在していなかった。

だが、地平線まで続く滑らかな石畳は、車輪を傷めず行商人や馬の足を疲れさせず、多くのものが恩恵を得た。

無断で石畳の道を敷いた謎の勢力に憤る国もあったが、実際に資材を投入して道を整備した場合、馬鹿馬鹿しい程の資源と資金が必要になると分かり口を噤む事となる。

現在も整備が続いており、少しずつ問題点が改善され利便性が上がってきている。

 

 




交易路は、迷宮核的にはまだまだ発展の余地があると見ておりますね。
ver1.1といったところでしょうか

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。