その引き金は平穏の為に   作:野鳥

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 書く意欲が溜まり、ようやく再スタートです。

 皆さん大変お待たせしました。
 こんな拙作ですが、また見てくださると幸いです<m(__)m>


それは命を賭けるに値するか 後編

 春休みも終わりを迎え、小学生はまた学校に通う運びとなった。

 

 例に洩れず俺もまた学校に通い始め、今は学校の教室で一人自分の席に座って過ごしていた。

 給食も食べ終えてクラスメイト達はグラウンドに行ったり友達と話したりとこの時間をめいいっぱい楽しむ為動いている。

 周りに共通しているのはまた学校で友達と過ごしたり、学年が上がる事で始まる新しい日々に心躍らせている連中ばっかりだという事だ。

 

 けれど俺はそういった気分にはなれない。

 元から学校には友達もいなくて、周りに馴染まないのもあるが、

 

 

「あいつへの執着……か」

 

 

 どうにもあいつの。未だ名前を語らない俺のデバイスの言葉が頭から離れないからだ。

 

 ……結局あの日から今日まで、あいつを納得させられるだけの理由は見つからず、はやてを助けるのに協力させる事は出来なかった。

 

 その間にできた事と言えば……

 

 

 ポケットから例の蒼い宝石を取り出す。

 宝石は窓から入る日差しに照らされ、妖しい輝きを放っていた。

 

 ただの人には綺麗な宝石にしか見えないそれは、本当は人が持つべきではない特級の危険物。

 俺ができたのは、あの事件で手に入れたこの宝石──『ジュエルシード』の特性を知る事だけだ。

 

 まだ魔法に入門しただけの俺でも感じる、中に封じられた膨大な魔力の波動。

 俺の予測とデバイスからの情報を合わせるとこいつにも願いを叶える力はあるが、それは必ず捻じ曲がったものに置き換わる。

 

 ただ、こいつは俺に足りない"魔力"を補うタンクとして扱えば使い道はありそうだった。

 一つだけで俺一人分が石ころに思える程の魔力量。

 ナンバリングされていた事から複数個あるのは確定で、こいつを使えばレイジングハートの力を全て引き出す事も可能になるだろう。

 

 ……そこでまた"デバイスの協力が得られない"という問題が出てくるんだが。

 レイジングハートをもう一度使えばいいとも考えたが、そもそもこいつを使ったのは数回程度。

 さらに俺は魔法について知識がない上、魔力量もそう多くないらしい。そんな状態でレイジングハートを使ったところでデバイスの代替品になるような力を手にできる筈もない。

 

 そうなるとやはり、こいつの協力を取り付ける他ないだろう。

 

 今の奴はジュエルシードといった魔法の情報を与える気はあっても、俺を戦いに行かせる気は一切ない。

 奴の態度は頑なだ。どんな理由を考えようとあいつを納得させられるとは思えず、それがさらに頭を悩ませるのに一役買っていた。

 

 ──どうしたもんかな……

 

 今のまま悩んでいても答えは出ないと知りながら、相談できる相手もいない以上自力で答えを見つけるしかない。

 そうして物思いにふけっていると…

 

 

「どした? なにか困ってんのか?」

 

 ひょっこりと机の向こう側から顔を出して、クラスメイトが声をかけてきた。

 

「……別に何でもねぇよ。誰かに言う事でもない」

 

 

 よりによってこいつが来たのか……。

 

 俺は煙たがる内心を隠し切る事ができなかった。

 

 目の前のクラスメイトの名は通称「サル」こと佐竹慶太郎。

 1年の頃から同級生のクラスメイトだが、距離をとっている他のクラスメイトと違って、何かと俺に構ってくる唯一の例外だ。

 性格ははっきり言って猪突猛進な暴走機関車と言っていい位の明るさだが、クラスメイトと分け隔てなく仲の良く、壁というものを感じさせない。

 俺とは真逆を行く男。所謂愛されキャラやムードメーカーという奴だろうか?

 

 そんな奴がどうして自分から壁を作ってる俺に構ってくるやら不思議でならないが、一向に態度を変えないので毎度適当にあしらっているのが毎日だ。

 今回はどうやら、悩んでいた俺を見つけてやってきたらしい。

 

 

「ほんと素っ気ないなぁ相馬ー。唯一の話し相手にその言い草はなしだぞー」

「それこそ頼んだ覚えはねぇよ。俺が自分から誰かと一緒にいたがる事なんて──」

 

 適当にあしらって追い払おうとしたが、

 

 

「………」

 

 そこで、はやての事を思い出し言葉が詰まる。

 "誰かと一緒にいたがる事なんてない"──言葉にすれば簡単なこれを、はやてと友達になって、あいつを助けようと考えている今言うのにどこか抵抗を覚えてしまった。

 

 

「…黙っちまってホントにどうしたんだよ? いつもはまた俺とのあつーい関係を否定するとこじゃん」

「変な言い方してんじゃねぇ! 男同士なんて寒気が走るわ!! …ったく」

 

 

 お前とは仲良くなった覚えなんてない!

 

 こうしていつものようにあいつのノリにツッコミをいれつつ、今度こそ佐竹を追い払おうと口を開く。

 

「もしかしていい出会いでもあったか?」

 

 が、どこから読み取ったというのだろう。

 佐竹は学校の連中に話していないはやてとの事に気付いたように、そう問いかけてきた。

 

「……なんでそう思う」

「だって俺との事じゃあ絶対そんな反応にはならないだろ? なら春休みの間に何かあったかって思ってよ」

「……ハァ、正解だよ」

「やっぱな! にしてもちょっと羨ましいなぁその相手。俺はこんなに嫌な顔されるってのによー」

「頼んでもないのに絡んでくるお前とは違うっつーの」

 

 そう告げつつも、内心妙な所で聡い奴だと感心する。

 

 とはいえ早く離れてほしいのに変わりはないが。

 横目で確認すると、佐竹は俺とはやての話が気になるのか期待した目で俺を見つめている。これは話さないと絶対に離れる気はないだろうな……。

 

「……ま、そんなに気になるなら話はする」

 

 仕方なく、お望み通りあいつの話をするとしよう。

 デバイスの説得についても行き詰ってた所だし少しは気分転換になる事を祈り、俺は佐竹へとあいつとの出会いから語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

     

                 ───◆◇◆───

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ~……」

 

 

 魔法の部分はばっさりカットした上で全てを語りつくした俺へ、佐竹は気味が悪い位に晴れやかな笑顔を向けて感嘆を溢した。

 

 ……自分から語っといてなんだが、嫌に気味の悪い反応だな。

 

「何だよ、妙にニヤニヤしやがって…」

「いや~、すっげー良い子だと思ってさ!」

 

 

 そう思い口に出して返ってきたのは、純粋なあいつへの誉め言葉だった。

 

 思わず気恥ずかしくなって頭を掻く。

 佐竹の反応を気味が悪いと思っていたから気まずいのもあるが、友達であるあいつが褒められるって事にまるで自分の事のように嬉しさを感じてしまう。

 

 今までだったらよぎりもしない気持ちだったろう。でもこんな気持ちになるのも……悪くないものだと思う。

 

 

「そうだな。俺にはもったいない位良い奴と出会えたよ」

「そうやってすぐ自分を悪く言うー」

「その子だってお前と友達になりたいって思ってなったんだから、そんな風にいうなよ?」

 

 俺みたいな奴とよく友達になってくれたものだと、あいつの事を称賛していると佐竹はブーと不満そうに口を膨らませる。

 不満なのは自分を下げた俺の言葉に対してだ。こいつからの評価が高くなるような事はしていない筈だが、そこがどうにも気に入らないらしい。

 

 

「"友達になりたい"……か」

 

 けど、佐竹の言ったその言葉が引っ掛かった。

 そうだ、はやてと友達になりたいと願ったのは……

 

 

「どした?」

 

 

 急に黙った俺を不思議がって佐竹は顔を覗き込んでくる。

 男に顔を見つめられる趣味はない。さっさと止めさせる為また喋り始める。

 

 

「いや、その通りだと……お前の言葉を聞いたらなんで悩んでたのかって思えてきただけだ」

「なんじゃそりゃ。まさかその子と友達になった事で悩んでたのか?」

「それこそまさかだ」

 

 

 今回ばかりは佐竹に感謝しなくちゃならない。

 実に簡単な事で、今思うと何故悩んでたのかってくらいのシンプルな答えだった。

 

 佐竹に向けた俺の顔は、きっとさっきまでとは違った曇りのないものになってると思う。

 そんな確信を以て、佐竹へこう返した。

 

 

「俺があいつと友達であるのに、一片の迷いもねぇよ」

 

 

 

 

 

 

                  ───◆◇◆───

 

 

 

 

 

 

『──それが貴方の答えですか』

 

 

 ──そして現在、放課後になり下校途中。

 誰の姿も見えない住宅街にて、俺はデバイスに改めて答えを伝えていた。

 

 

「そうだ。俺はあいつを……友達を助ける」

 

 

 以前と変わりのない答え。対するデバイスは相も変わらず冷静に俺の答えを評価する。

 

 

『言った筈ですよ。それで命を賭けるにはあまりに安すぎると』

『あの時死にかけたというのに…貴方は命が惜しくないのですか?』

 

 

 ……確かにその通りだろう。

 けれど、今度こそこちらも引き下がる気はない。

 

 

「死ぬのは御免だよ。だけど……」

「あいつは、俺にとって命を賭けるだけの価値がある」

「だからこそ俺は勝手な理由で、はやてとの日常を奪われたくないんだよ」

『ですが──』

 

 

 尚も平行線のままな俺達の問答。

 デバイスは今度も俺を黙らせるために語り掛けてこようとするが

 

 その時、普段は感じない奇妙な感覚を感じ取った。

 

 

「……この感じ」

 

 すぐに見渡せば住宅街はついさっきよりも人の気配を感じなくなっている。いや、人の気配どころか虫や動物の姿さえ見当たらなくなっている。

 

 そして体全体で感じ取れる奇妙な力の波動。

 

 間違いない。誰かが魔法を……それもすぐ近くで使ってやがる!

 

 

『待ちなさい、マスター!』

 

 

 デバイスの制止を無視して、魔力の根源へと走り出す。

 住宅街にある雑木林から波動を感じ、柵を飛び越え草木を分けながら感覚を頼りに目的地まで進んでいく。

 

 

「この反応、またジュエルシードの影響だろう?」

『……えぇ。だからこそ、貴方は踏み込んではいけない』

 

 

 俺の問いにデバイスは即答した。

 だがそれに続くのは、俺を止める為の説得だ。

 

 

『また魔法を十分理解し、己のものとしていない貴方では勝てる保証などない』

『たとえここで勝てたとしても、あれ程のロストロギア。狙ってくる魔導士がいてもおかしくありません』

『だというのに戦おうなどど、無謀にも程が…』

 

 

 やろうとしている事はバレていたようだ。

 確かに俺は戦うつもりだ。ジュエルシードが生み出した化け物とも、ジュエルシードを狙う魔導士がいるのなら、そいつらとも。

 けどそいつらと戦おうなんてデバイスの言う通り無茶が過ぎる事で、いくら時間をかけて魔法に慣れたとしても勝てるかどうか分からない連中ばかりだろう。

 

 確かにこいつの言う事は正しい。

 

 

「一つ言っておく」

 

 

 けど……それを鵜呑みにして従う気はない。

 走りながら、俺はデバイスの言葉を遮り伝える。

 

 

「俺はそんな忠告じゃあ意志を変える気はない。それで逃げるようなら、レイジングハートもさっさと捨ててる」

「たとえお前の援護が貰えなかろうと、やってやるさ」

 

 これが俺の意志。たとえどれだけ無謀な戦いでも、戦う前から諦める気なんざさらさらないんだ。

 

 

『魔法無しで戦う方法があるとでも……』

「無かろうと……やらなくちゃならないんだよ!」

 

 まだ続けようとするデバイスを遮り、声を張り上げる。

 何があろうともうこいつに引く気はない。

 

 

「今あいつを助けられる。助けようとしてる奴なんてどこにいる」

「いるのは”はやてを殺したがってる奴”だけだ」

 

 

 ……あいつは何も悪い事なんざしていない。

 だというのに、闇の書の事を知っていながらその監視者とやらはあいつを自分たちの復讐の巻き添えにしようとしてやがる。

 

 やっぱり許せたものじゃない。けれどそれは単なる正義感や情で片付けられるものでもない。

 

「……俺は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「本当にはやてを監視している奴らの目的が復讐なら、それこそふざけんじゃねぇ」

「あいつは闇の書に巻き込まれただけなんだ。だっていうのに俺の友達を、勝手な理由で殺そうなんて許す訳ねぇだろ?」

 

 

 はやては俺が初めて自分から友達になりたいと思えた相手だ。

 今まで好き好んで一人で居続けた俺が、やっと見つけた両親以外に心を許せる相手。

 

 相手に正当性があろうとなかろうと関係がない。

 俺が望んで俺の日常に引き込んだあいつを、誰かに奪われるなんてまっぴら御免なんだよ。

 これは俺にとって命を賭けるに値する想いだ。

 

 佐竹の言葉でやっと定まり、言葉にできたはやてを助けたい理由。

 その想いを伝えても、デバイスは変わらず俺へ協力しようとはしない。

 

 ただ分かってはいた事だ。

 このデバイスは俺を殺したくないらしい。会ってまだ間もないというのに、こいつは知識を与えてもはやてを救い出すのに決定打となる情報だけは寄こさない辺り、俺を戦いから遠ざけたいのは明白だった。

 

 だから、一か八かどうしても協力せざるを得ない状況に持っていく。

 

 草木を掻き分け、ついに目的の場所まで辿り着く。

 

 ───そこに広がっていたのは、あの夜とまた違った不定形のの化け物が血を滲ませながら倒れ伏す小動物を見下ろす光景。

 

 それを見た瞬間、俺は地面に落ちていた枝を拾い上げて怪物に投げつける。

 

『マスター、なにを!?』

 

 驚くデバイスが声を張り上げるがもう遅い。枝は怪物の傍へ落下して鈍い音を響かせる。

 その音を拾い上げ、怪物はこちらへゆっくりと顔を向けた。

 

 

「ほら、あいつも俺に気付いた。これでもう逃げられなくなった訳だ」

 

 

 怪物は喉を唸らせ歯を剥き出しにしたかと思えば、こちらに向け空高く跳び上がり襲い掛かってくる。

 

 

「……っと!!」

 

 

 予め来ると予想していた俺は怪物が跳び上がった瞬間にその場から走り出し、余裕を持って強襲を躱した。

 とはいえ相手はあの時と同じ化け物だ。こんな風に避ける芸当がいつまでもできる訳じゃない。

 

 追いかけてくる怪物を尻目に、走り続けながらデバイスへ向け話を持ち掛ける。

 

「どうする? ここでマスターが食われる様を特等席で見物してるか?

 啖呵を切った以上、お前を責めはしないよ。好きにするといい」

 

 

 自ら命の危機に飛び込んで、嫌でもデバイスに力を貸させる。

 こいつが俺を戦いから遠ざけようとしているといっても、この状況になって力を貸す保証はない。だが俺の予想通りなら、確実にこいつは俺へ手を貸さざるを得なくなるだろう。

 

 心臓が胸に手を当てなくとも感じ取れる程に、早く重く鼓動を響かせていく。

 無茶だとわかっていても実行したこの行動が実る事を祈り、デバイスの返答を待つ。

 

 返ってきたのは、重苦しい沈黙の後に続くデバイスの溜息だった。

 

 

『……貴方という人は、本当に…』

 

 

 呆れなのだろう。

 どこか責めるような、諦めたような声色で口を開いたデバイスは続けざまにこう告げた。

 

 

『ヒンメル』

「……ん?」

『私の名前と呼べるものです。以後はそうお呼びください』

 

 

 ……今まで聞いても教えられなかったデバイスの名。

 それを口にしたという事は、つまりは届いたのだろう。無茶をしてでも貫いた俺の願いが。

 

 俺は立ち止まり、迫りくる怪物へと目を向ける。

 

 

「OK、ヒンメル。これからよろしく頼むぞ」

 

『えぇ、不承不承ですが引き受けると致しましょう。

 ──あなたの彼女を救う為のサポートを』

 

 

 敵はすぐそこまで迫っている。

 悠長にしていればあの夜辿る筈だった凄惨な死を迎える事になるだろう。

 

 それを避ける為、腕に装着しているデバイスを胸の位置まで抱え準備を整える。

 

 

『さぁマスター叫んでください。あの時のように、己を変える呪文を!』

 

 

 そして促されるまま叫ぶ。

 あの時と同じように戦う為。俺の日常を護る為の一歩踏み出す為に──

 

 

「──セットアップ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして俺の戦いは本当の始まりを迎えた。

 ジュエルシードを集め、はやてを救い出す力を得る為に……俺は引き金を引いたんだ。

 

 

 


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