そんな世界で生きるため   作:ぶつ切りローマ
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うぇーい
やっちまったやっちまった


特異点F 蝶の羽ばたき
プロローグ/01


 

 

 

 

 ――これは決して、風化して途絶えた物語などではない。

 

 彼らの人生は怒涛の様な苦難の連続であり、それはまさしく激流に抗うようなものなのだろう。

 

 こんなことが本当にあったのか、とそう思う人も、これから先の世界では存在するのかもしれない。

 しかし、私は断言しよう。それはまさしく『真実』だったと。

 

 無数の命の危機をくぐり抜け、時に歴史へと印を残し、数多の悪意を振り払う。

 身命を賭してその軌跡を辿った彼らを、私は心の底から尊敬する。

 

 彼ら――ヘラクレス/アルケイデスを筆頭としたその『英雄』たちの残した『世界』を、精一杯生きることが彼らへの恩返しだろうと、私はそう思っている。

 

 彼らの残したその足跡は、決して歴史に埋もれるものではない。

 人は真にかくあるべし、と告げる彼らの生き様を私はこの本に嘘偽りなく記した。

 この物語は、我々が残す『命題』への手掛かりであり、本書がそれを解明する手立てとなれば幸いである。

 

 それでは――良い夢を。

 

 

 

 

 

グレムリア・ラプラス

 

 

 

 

 『神話原典・ギリシャ"英雄の物語"』

 ――――――――著者あとがきより抜粋。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ▽▽▽

 

 

 

 

 

 

 

 ――それは、西暦2015年のこと。

 人類史を永遠に存続させるため、秘密裏に設立された「人類継続保証機関フィニス・カルデア」で恐るべき事実が確認された。

 

 

「2017年、人類は絶滅する」――――

 

 

 そんなことは認められない、認めてはならない。霊長を自称する人類にとって、その滅びは如何ともしがたいものだった。

 原因を模索するうち、未来観測用レンズ・シバによって2004年次に本来存在しないはずの観測不能な領域があることが判明。

 ありえならざる事態に直面したカルデア職員は、これが人類史絶滅に至る理由と仮定。テスト段階ではあるものの実行可能レベルになった霊子転移(レイシフト)によるこれへの時間的介入を敢行。

 その目的は、西暦2004年に行われた歪なる聖杯戦争。『特異点F』――その狂った歴史を修正することである――

 

 ――――だったのだが(・・・・・・)

 

 

 

 

 

「いい!? 絶対に、絶対に高位のサーヴァントを召喚するのよ!? いいわね!?」

「は、はいっ!? 了解です所長!?」

 

 少女――藤丸立花は直立したまま敬礼を取る。高貴な雰囲気を纏った、どこか余裕の見えない女性に詰め寄られ、思わず上ずった声を上げた。

 その側で自身の持つ『盾』を軸にした召喚サークルを組み立て終えた少女――マシュが、その……と少し居心地が悪そうに、女性――カルデア所長、オルガマリーへと告げる。

 

「あの、所長……その、非常に言いづらいのですが……」

『カルデアの召喚式、英霊召喚使役システムは触媒を用いない完全な運試しになるので、彼女の呼ぶサーヴァントが必ずしも高位のものになるわけではないんですけど……』

 

 ザ・ゆるふわ、な感じの声の持ち主であるロマンがそれに説明を重ねた。彼の姿はこの場には見えないのだが、それはまぁ兎も角。

 

「わかってるわよそんなこと! でもこんな状況じゃ何がなんでも高位のサーヴァントを呼んでもらわなきゃ困るってことなの!」

『それはそうなんですけど……高位のサーヴァントだと彼女に大きな負担が……』

「……とにかく召喚しなさい!」

「は、はい!」

 

 ロマンの台詞を聞かなかったことにして指示を飛ばすオルガマリーに、少女の肩に乗るリスに似た、猫のような白い生き物な呆れたように溜息を零す。

 オルガマリーの吊り上がった瞳から目を離し、立花は静かに空を見上げた。

 

 空一面に広がる黒い煙と赤い火。今にも崩れ落ちそうな廃墟が眼下にあり、立ち込める黒煙に立花は瞼を閉じたくなる。

 

 ああ――と。

 どうしてこうなったのか、そんなことを想起しながら。

 藤丸立花は、真っ黒な空を仰ぐのだ。

 

 

 

 藤丸立花は、元来どこにでも居る一般人だった。当たり前に家族がいて、当然みたいに友人が居て、悲しいことに彼氏はいないがそれでも不満げなく毎日を送っていたのだ。……だが。

 

 ――成績が悪かったのがいけなかった。

 

 元々の立花の成績ではどこの大学にも行くことができず、途方に暮れていた時に立花宛てにポスト入れられていたカルデアという会社の募集要項を見て、兄の後押しもあってかその場のノリで応募。

 なんとなしに受かってしまった。

 藤丸立花十八歳。海外赴任決定の瞬間である。

 

 そこからは怒涛の様に時が流れていった。

 曰く、魔術は実際に存在し、立花にはその才能があると。曰く、自分にはマスター適性という希少な才能があると。曰く、彼らカルデアは、日々人理を護るために戦っていると。

 ――世界を救って欲しいと、そう言われたのだ。

 

 それは余りに唐突で、判然としなくて、余りにも彼女の知る現実からかけ離れていた。

 それでも、彼女には断る理由が見つからなかった。

 正義感から、なんて大層なものではない。その人が嘘を言っているようにも見えなくて、立花よりもっと相応しい人が居るのだろうが、なんにしろ、立花はその誘いを受けたのだった。

 

 荒れ狂う雪山を登って就職先――カルデアに着いてからは、本当に早かった。

 そこで、自分を『先輩』と呼んで慕ってくれる後輩――実際には先輩なのだが――マシュ・キリエライトと出会った。色素の薄い髪色の目立つ、眼鏡の似合う少女だ。

 不意に眠気が襲って来た自分を、施設の廊下で起こしてくれたのが彼女との出会いだった。

 

 彼女と教授――レフに連れられていったブリーフィングで寝落ちしてファーストオーダーから外されて、自室に行こうとしてみたら、医療チームのトップを自称する男のサボり現場に居合わせ、彼と談笑していたら事故が発生。自分以外の四十七名ものマスター候補生が死にかけになっていて――――瓦礫の下敷きになっているマシュを見つけた。

 

 彼女を助けようと四苦八苦しているうちに、どうやら緊急時シェルターが作動してしまったらしく、レイシフトルームに閉じ込められてしまった。

 

 ――仕方ない、か。

 

 マシュの手を握りながら、これから起こるであろう最悪を受け入れ、

 

 

 そして、生き残った。

 

 

 運良く意味消失を避けてレイシフトに成功し、あの絶望的な状況から抜け出せたらしい。英霊の魂との融合を果たし、デミ・サーヴァントとでもいうべき存在になったマシュと契約を交わし、なんとか生き延びることに成功した。

 その後爆発の中心にいたはずなのに何故か生き残っていたオルガマリー所長と再会、あのリスみたいな、猫っぽい生き物であるフォウくんもどうやら着いてこれたらしく、簡単に合流できた。

 

 先程から所長が金切り声を上げているのは、資材やマスター候補がほとんど――いや、全く足りていないからだろう。そんな状況で燃え盛る市街に立たされているのだ。ヒステリック気味なってしまうのも無理はない。

 マシュは確かにサーヴァントではあるが、正規の英霊ではない。サーヴァントとしての能力はあるが、圧倒的に経験が足りていない現状、全く動けない――という可能性もあり得るのだ。そこで、オルガマリー所長の下に()()が存在したため、早急に召喚サークルを組み立て、新規に英霊を召喚して戦力増強を図る、というのが今までの経緯なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 立花は聖痕――令呪の宿る左手を掲げ、教えられた通りに『呪文(スイッチ)』を口ずさむ。

 カチリ、と回路が開いた。やはり慣れない全身を蝕む魔力の感触。手に魔力を集めて、召喚サークルと繋げるイメージを思い浮かべた。既にシステム化されているらしく、夢もない話だが祝詞を唱える必要はないらしい。

 マシュの盾の上に設置された召喚サークルが蒼い光を帯び始める。

 吹き荒れる魔力の渦。引き込まれるように、引き裂く様にサークルがその大きさを縮めていく。――視界が、狭まった。

 

「これが……英霊、召喚」

 

『サーヴァント召喚まで後五秒、四、三、二、一…………くるぞ!』

 

 四散していた魔力が巻き戻るようにサークルへと収束する。雷光の様な青白い光が弾けた。ソレが徐々に形を成して行き、人型へとその姿を成していく。

 ――そして、爆ぜた。

 

「うわっ!?」

「先輩!?」

 

 弾け飛んだ光の衝撃に思わずたたらを踏んだ。後ろのマシュが支えてくれる。

 ――開いて。開いて。開いて。閉じる。

 埋め尽くすような閃光の次に現れた、青年。

 青みがかった黒髪に、純黒の大きめのコート。底の見えない黒い瞳がこちらを覗き込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――問おう。

 君が、俺のマスターか?」

 

 

 

 

 

 

 ――刮目せよ。ここに命題は(ほど)かれる。

 星の観測者が、その身を現した。




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