そんな世界で生きるため   作:ぶつ切りローマ
<< 前の話 次の話 >>

13 / 14
取り敢えず、こそっと投下です。

……うぬ、グレムリアの一人称にした方がいいのだろうか。


竜と踊る/12

 

 

 

 

 敵に一切の容赦無く。

 心は冷徹に、けれど体に熱を秘め。

 張り詰めた糸を――解放する。

 

 ビュルンと、風切り音。全力での付与(エンチャント)を施した鉄製の弓矢は鮮血を撒き散らしながらワイバーンの脳天を打ち砕く。眉間の間から、首の骨に沿うような軌道で――脳髄をぶち撒く。

 

「――ぁ、ッッ……!!」

 

 残心を取るよりも早く、響くような鋭い痛みが体を蝕んだ。一瞬で意識が真っ白に塗り潰されて、思わず小さく声が漏れた。歯を強く噛むことで、既に淵まで迫っていた身体を無理に動かした。

 これは時間との戦いだ。一刻でも早くワイバーンを片さなければならない。

 血管が浮かび上がる程に、エティエンヌは無意識の内に右手を握りしめていた。悔しさに血が滲む。慢心はなく、けれど彼らの心には焦燥があった。

 

 故に、それは起こってしまった。起こり得てしまった。

 

 堕ちた竜が暴れだす。

 

 最後の一押しとばかりに、ソイツは大声で声を上げる。

 油断してはならない――それは、嫌という程知っていたはずなのに。

 

 

『宝具開帳』

 

 

 防ぎきれなかった、どうしようもないほどの絶望が――竜の大群が、既にエティエンヌの目前へと迫っていた。

 

 

 

()()()()

 

 

 

 

 

 ▽▽▽

 

 

 

 

 

 立花が見たのは、紛うことなき地獄だった。

 

 バサバサと揺らめき、眼前へと迫り来る埒外の化け物。蜥蜴のような体躯に腕と一体化した翼。それは子供ですらよく知る幻想生物。神話の中に生きているはずの生物種。

 

「――ワイ、バーン」

 

 立花の声が、それらの存在を肯定した。ドラゴンには届かずとも、生物ピラミッドの頂点に君臨する竜種の一つ。刃を通さず、弾丸を通さない鱗、弓を弾き返す分厚い翼に、容易く人を引き千切るアギトの膂力。あらゆる面において人類を上回る生物。それを前にして、蛮勇にも戦闘を繰り広げる兵隊たち。

 砦の上に立つ男が()()()()()()()()()()()()()()()()、それでも戦力差が大き過ぎた。如何様にもできないのだろう――悔しさが空気を伝ってきた。

 

 覚悟していたとはいえ、眼前に広がる地獄絵図に立花は思わず歯を食いしばった。偵察から帰ってきたエミヤに、小さく告げる。

 

 

「――投影、開始(トレース・オン)

 

 

 瞬間。一振りの矢が空間を貫いた。

 

 それは大振りな刀剣を捻って創られた、歪んだ形状の弓矢だ。変則的な形状である筈のそれ。類稀なる才を持つ射手によって放たれ――高速で弧を描きながら突き進み、数キロ先のワイバーンの口元に寸分違わずに着弾した。

 

 砕けた幻想(ブロークンファンタズム)と、弓兵は小さく呟き。

 漏れ出した閃光。間も無くして、ワイバーンが内側から破裂した。血肉が弾ける生々しい音と共に、鮮血が辺りに斑らを描く。手を込めることなく再度魔剣を投影して弓に違えて放つ。その数は三。貫くことを主軸に据えたそれらは、ワイバーンの元へと刹那のうちに到達し、見事にワイバーン数匹の頭を食い破った。

 敵の注意がこちらに向く――、

 

「全員――突撃!!」

 

 張り裂けるような立花の指令。パーティーメンバー全員が頷く。グレムリアは魔本を展開し、マシュが盾を構えてマスターを脅威から防ぐように立ちふさがる。

 エミヤが両の手に白黒の夫婦剣を投影し、後ろを斜め見る形で告げた。

 

「手癖が悪くてね。……マスター、ここで君に、英霊の力というものを教えてあげよう――」

 

 

 

 

 

「はーい! 開幕カリバーどーん!!」

 

 

 

 

 振るわれた白黒の聖剣。

 発光するアルトリウム粒子によってブーストされたその二振りから斬撃が放たれる。溢れんばかりの閃光を零しながら振るわれたそれは――一瞬のうちにワイバーンたちを葬り去った。火力。圧倒的火力である。

 

 クルクルと器用にも両手の剣で円を描かせ、地面へと聖剣をクロスするように突き刺した。そのまま少女――謎のヒロインXは満面の笑みで高笑いをかます。

 

「はーっはっはっは!! 見ましたかマスター! これが自重をやめた真のセイバーの実力ですよ! ビーム撃つだけが王様の仕事じゃないんです!! 見てましたかガウェイン卿!! はーっはっはっは!!」

 

 そう言った謎のヒロインXを見て、エミヤが夫婦剣を捨てて蹲りながら言った。

 

「座に帰りたい」

 

「エミヤが死んだ顔してる!!」

「しっかりして!! エミヤのご飯美味しいし、私たちには必要だから!!」

 

「……そう、か。……ああ、そうだな。すまないマスター、助かった」

 

 エミヤさん死相浮かんでるんですがそれは。

 

「……君たち。いい加減にして援軍に行くぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幻想散りばむ黒点の海、迫り来る竜の大軍。

 『竜の魔女』

 海の如く空を埋め尽くす竜の大軍はまさに圧巻の一言。その正体はフランスへの反逆者ジャンヌ・ダルクの保有する『旗』の効力だ。

 それは憤怒の炎、絶望に彩られた反逆の印。世界へと自身を刻み込もうとした彼女(ニセモノ)の対城宝具。

 

「――いくぞ」

 

 戦場はリコン周辺の森の中。時刻は既に夕闇を回り、けれど一行に竜の大軍が絶える気配は見えない。キラリと光る星屑の下、グレムリアの瞳は蒼白く光る。

 視界が緩やかに広がっていく。百八十度にも満たないはずの視界がその幅を大きくし――その果てには、半径数キロもの円形全てを視界として捉えていた。

 

 紡がれる言霊。それは刹那の間に色彩を帯び、染み込むようにして大気に波紋を描いて広がった。

 虚空を埋め尽くす青白い魔法陣――指を弾く乾いた音と共に、空から閃光弾が落ちてきた。グレムリアの青い燐光は、寸分違わないほどの精密さでワイバーンらを呑み込んでいく。

 血は飛び散らなかった。ありえないほどの大火力で既に塵となっていた。灰のように、それの残骸が空を舞う。

 

 片手間の内に脅威を撃退。続け様に第二波――ワイバーンの援軍がやってくる。手に灯る火を消さずにグレムリアは再度魔術を発動し、ワイバーンがチリとなっていくのを視界の端に収めながら下を向く。

 キリがないな、とグレムリアは静かに嘯いた。

 

 続き様に飛ぶ指令――対して、全くだ、と弓を構えたエミヤがニヒルに笑い、貫通力重視の剣弾を撃ち放った。脳髄を打ち砕き、続いて放つ第二射――を打とうとしたのだが、八艘飛びの要領でワイバーンの頭を跳ねているヒロインXを見て、エミヤの目が死んだ。ため息と共に狙いを変えて再度の射撃。ワイバーンが幾つと落ちる。

 

 いやぁぁああ!! と、背後に響くソプラノの声。盾でワイバーンを押し潰(プッシュ)し、立花を守護し続けるマシュも疲労を隠さずにいた。このままではジリ貧か。そう判断したグレムリアは、聖剣でワイバーンの頭を落とすヒロインXへと指示を出す。

 ライン越しに伝えるなら敵軍を統制している個体を探してくれ、というもの。グレムリアの声にヒロインXは静かな頷くと、虚空に体を溶け込ますようにして、移動を開始した。

 

「――"焼却"」

 

 いつもアレくらい真面目だったらなぁ……と。

 再度の魔術でワイバーンを蹴散らしながら、グレムリアはそんなことを思うのだった。

 

 

 

 ――だが、である。

 その進軍以降、ワイバーンたちがこちらに襲撃をかけてくることはなかった。ヒロインXが統制種を御したのもあるのだろうが、それにしてもおかしい。

 訪れる不気味な静寂、立花の息を飲む音が無駄によく響いた。

 今の内に補給しておけ、というグレムリアの言葉で、各々がレイシフト以前に渡されたダ・ヴィンチ謹製の魔力回復薬を煽った。

 スキルを発動し――そして、それよりも早く。

 

「――ッッ!!」

 

 貫く閃光。

 そして、現れたのは。

 

「――」

 

 棚引く緑色の髪。

 美しく伸びる両腕と、二房の獣耳――けれど、瞳に映る感情だけが嫌に鋭い。

 携えられたのは、女神の弓矢。

 

 彼女はギリシャに名高い弓兵の一人、女神アルテミスの信奉者。

 

 ――麗しのアタランテが現れた。

 

 



※この小説はログインせずに感想を書き込むことが可能です。ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。