そんな世界で生きるため   作:ぶつ切りローマ
<< 前の話 次の話 >>

3 / 14
休日だし、ちょっと頑張りました。

文章が荒いなー。後で手直しするかもしれません。


始まり/03

 

 

 

 何か、不満があるという訳ではなかった。

 特段嫌なことがある訳でもなかった。

 

 ただ――欲望にかられただけだった。

 

 

 

 『神話原典・ギリシャ"英雄の物語"』

 

 

 

 俺をこの世界で俺足らしめる唯一無二の存在であり、世界の命題を(ほど)くための足掛かり。

 人理の始まりを記した物語――俺の、原典。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――作家人生(ちゅうにびょう)の始まりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ある男の手記"空から見た世界"』

 ――――――――――▶︎月%日より抜粋。

 

 

 

 

 

 

 

 ▽▽▽

 

 

 

 

 

 上から聞こえた男の声に、その場に立つ者の視線が集まった。

 壊れかけの街灯の上に、一人の男が立っている。賢者を思わせる肩を覆う青色のローブを着込んだ、結んだ藍色の髪をたなびかせる男がこちらを俯瞰していた。

 

「……キサマ、キャスターか!!」

「応とも、アサシン」

 

 バサリとローブをはためかせて立花の横に男――キャスターが降り立った。ししっと笑いながらぐしゃりと立花の頭をめちゃくちゃにかき回す。

 唐突に頭を撫でられた立花は、慌てて頭を振ってキャスターの手から逃げた。

 

「あわ、な、なにさ!?」

「嬢ちゃん、なかなかいい胆力してんじゃねぇか。窮地に置かれて尚闘争を選ぶとは、ケルトの流儀がわかってんな。気に入った、嬢ちゃん。オレと仮契約ってことで契約結ばねぇか?」

「え、ええっ!?」

 

 突然の申し出に、慌てふためく彼女を見ながら、キャスターは朗々と笑った。そのまま親指で後方を突き刺して告げる。

 

「それにほら、(やっこ)さんのお出ましだ」

 

 指を刺された方向を目を凝らすと見える、二つにの黒い人影。どちらも黒いモヤがかかったように、鮮明に見えない。

 だが、殺気を垂れ流しながら高速でこちらを目指して来るそれらを見て、立花の頰に冷や汗が流れた。

 

「ランサーにライダー。それとアサシン。おいおい、ここらを彷徨いてたのが大集合じゃねぇか」

「の、呑気に言ってる場合!? どうするのよ!?」

 

 顔を真っ青にしたオルガマリーがヒステリック気味にキャスターに吠える。対して、キャスターは小さく肩を窄めるだけだった。

 

「さぁて、どうする嬢ちゃん。状況は変わったが、さっきのと同じように動くか?」

「――」

 

 状況は変化した。

 二騎対して一体から、一体から三体。そして二騎から三騎へと。この悪環境へと一瞬にして叩き落とされたにも関わらず、それでもまだ冷静さを保っている彼女は、肝が据わっているに違いない――否。

 冷や汗は止まってはいない。玉のような汗が絶え間無く伝っていた。

 けれど。死がそこにある、吐き気を催しても可笑しくない状態において尚、その瞳はブレない。然りとそれを見据えている。敵性反応を逃すまいと、前を向いている。

 その心には、小さな覚悟があった。

 

「……みんな、勝てる?」

 

 だから。彼女は選んだのだ。

 『勝つか負けるか』――その、たった一つの選択以外を捨て。

 マシュに、グレムリアに、キャスターに、問う。

 お前は――勝てるのか、と。

 

 それが、その若きマスターの選び抜いた答え。

 それは無茶無謀に近い選択だ。オルガマリーがあんぐりと口を開ける。

 だが、マシュは一瞬唇を噛み締めたが瞳に決意の火を灯した。グレムリアは静かに頷いた。キャスターは獰猛に笑った。

 これに答えずして、何が英雄か。

 この瞬間、彼らの意思は間違いなく一致した。

 

「全員――勝って!」

「「「了解!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦場は二つに別れた。

 近場いたアサシンをマシュが迎え撃つ。立花とオルガマリーがマシュの背面に周り、サーヴァントを補助しながら戦うという最もスタンダードなマスターとサーヴァントの戦い方で行くのだろう。

 もう片方――立花たちから少しばかり離れた場所には、グレムリアとキャスターが並んで立っていた。後ろから追ってきたサーヴァント――ランサーとライダーを迎え撃つのだ。

 ざっと、土煙が舞う。各々が戦闘準備を整えながら、隣のキャスターが声をかけてきた。

 

「キャスター……いや、俺もだから真名で呼ばせてもらうが、アイツらに宝具はねェぞ」

「汚染されているから……いや、そもそも正規の英霊ではないのか」

 

 影の姿をした彼らからはサーヴァント特有の気配がない。若干にはそのような匂いを漂わせているが、それは明確に異なっている。アレはサーヴァントの形をしただけの魔力の集合体。体裁のみを整えた英霊の影に当たるモノ。言うなれば、シャドウサーヴァントという存在だろう。

 

 詳しく視認できるまでの距離にシャドウサーヴァントが近付いてきた。グレムリアは目に魔術を施して敵の姿を確認する。

 槍を片手に持った黒ずくめの男と、目を隠した艶かしい姿の女性――ライダーだ。

 

「……そうか。君が相手か」

「あん?」

「いや。アイツは、ライダーは、俺が倒す。文句はないな」

「……はん、訳ありみたいだな。別に構わねェぜ。さてと。それじゃあ――行くぞ!」

 

 そうして、同時に二騎は駆け出した。迫り来る二体のシャドウサーヴァントに、キャスターは炎を杖に灯して走り抜ける。グレムリアは藍色の巨大な魔法陣を展開して半透明の剣を展開した。

 

 

「――踊れ(Vision Schwert)

 

 瞬間的な魔力放出。展開した剣たちに、刹那的な速度と威力を上乗せする。

 ズビュンと、特異な音を鳴らしながら音速を超える速度で数本の剣が射出された。

 

「――っぅ!」

 

 突き抜ける程の剣の投擲を、ライダーは首を傾げることで回避する。不意打ちならまだしも、正面から撃たれた弾丸(つるぎ)ならば英霊モドキですら回避が可能。

 だが、そんなことはも承知の上。これは単なる牽制でしかない。

 

「その程度――っ!」

「――――ハァッ!」

 

 再度の魔力放出でもって、グレムリアはライダーの死角へと潜り込んでいた。右手に召喚した片手剣で跳ね上がるようにして斬りつける。

 風切り音。それをライダーは体を晒す形でよけた。左手に魔力を集中し――術式を起動。青白い閃光を放出した。

 

「ぬっ、ぐぅっっ!?」

 

 ライダーは回避は不可と判断したのか、魔力を腕に回して眼前でクロスさせる。すぐさま閃光が直撃し、響く爆音――だが耐えた。

 ライダーは釘のような剣を振り下ろした。右の片手剣で応戦する。鍔迫り合いへともつれ込んだ。近距離での刃同士の交錯に、火花が散る。

 

「……ふ、ふふふ」

「――――」

 

 押し込んだのは、ライダーの腕だった。その細い腕では想像できなほどの膂力でこちらを斬りつけようとする。その剛力に、グレムリアは少し背を逸らした。

 

「――平らげテしまイまショウ」

 

 チロリと、ライダーは唇を舌でなぞる。男の劣情を駆り立てるほどの妖艶なその仕草。だが、目の前の存在は男を血の一滴まで絞り尽くす怪物の化身。

 

「"Ein Stift"」

 

 けれど。

 それを目の前にしたグレムリアの瞳は酷く悲しげだった。

 

「ぐ、がっ!?」

 

 ――ライダーの胸の中央から、剣が生えた。

 口から鮮血が零れ落ちる。先程射出した剣を、空間転移と同じ要領でライダーへと転送したのだ。

 

「か、はっ!」

 

 最後の足掻きだろう。血を吐きながら、ライダーはその細腕をグレムリアの顔へと伸ばす。

 

 ――嗚呼、ライダー。

 

「……せめて、安らかに死んでくれ」

 

 指を鳴らした。

 彼女の手が届くよりも早く――空から降ってきた雷光が、全てを塵に返していった。

 

 

 

 

 

「――中々いい手際じゃねぇか。キャスターのくせに接近戦をこなすのか、珍しいな」

「……それを君がいうのか、キャスター」

「はっ、違いねぇ」

 

 軽々と瓦礫の山を飛び越えて、キャスターがグレムリアの横へとやってきた。その後ろで燃え盛っているランサーがいたが、直ぐにそれも塵となって帰っていく。

 

「そちらも終わったようだな」

「まぁな。……たく、今回はキャスターとして呼ばれてるからなぁ。肩が凝ってしかたねぇ」

「思いっきり杖で殴っていただろう」

「……なぁ、グレムリア。あの嬢ちゃんはサーヴァントか?」

「無視か」

 

 はぁ、とグレムリアは小さく溜息を吐く。カリカリと頰をかくと、キャスターの質問に答えた。

 

「彼女はデミ・サーヴァント。英霊と人間が融合した存在だ」

「となると、あの嬢ちゃんはこれが戦士としては初陣ってわけだ」

「まぁ、そうなるな」

 

 そういったキャスターの目には焦りや高揚といったものはない。ただ冷静に戦いを分析していた。その目は武人や、賢者や隠者といった俗世から離れたものではなく、戦場に生きた人間の、そんな色を帯びていた。

 

「ならオレたちは行かないほうがいい。この程度の戦場を生き延びれないのなら、この先死んだも同然だ。ここである程度の"戦う術"ってやつを身につけといた方がいい」

「…………そうか」

 

 それはつまり、この先に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、という訳だ。

 グレムリアやマシュと違い、彼はこの聖杯戦争で直接呼ばれた英霊だ。これから戦う敵を、このような状況になったのか、その歪みや原因を知っている。

 その上で、キャスターは手を出さない方がいいと提案しているのだ。

 ジャリッと、キャスターは砂を退かしながら膝を立てた。その瞳はマシュたちのいる戦場を覗いている。

 グレムリアも、静かに笑ってマシュへと視線を移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ▽▽▽

 

 

 

 

 

 

 

「――くっ、っぅ!」

「ク、クハッ。鈍重、愚鈍。重鈍の極みデアる!」

 

 俊敏にして瞬足。その名に相応しいほどの速度で、アサシンはマシュの周りを動き回っていた。

 目で追えても体がついて行かない。身体能力が足りないのではない。ただ、有り余るほどの膂力を扱う為の技術が欠如しているだけ。

 戦い方はわかる。知っている。融合した英霊が、その霊基が教えてくれた。盾の振り方は体の芯に溶け込んでいる。だが、それでは足りない。その全てを引き出しきれていない。

 盾を振るおうにも、その前にアサシンに妨害される。

 その度に投げかけられる侮蔑の言葉が、棘となって心に刺さった。

 

「マシュ! キチンと前を見なさい! 暗殺を捨てたアサシンに、貴方が負けるはずが無いわ!」

 

 オルガマリーの言葉は適切だ。確かその通りなのかもしれない。だが相手は英霊だ。歴史に名を残す、人間という枠組みを超えた英雄。

 ――そんな相手に、自分が勝てるのだろうか。

 そんな諦観にもにた感情が、不意に(こぼ)れた。

 負の感情に体がゆっくりと蝕まれて重くなっていく。――駄目だ。これ以上重くなっては駄目だ。

 

 ブレーキをかけようとする理性とは裏腹に、感情は止め処なくあふれてくる。芽吹いた心が体を浸していた。駄目だ、これ以上重くなったら――。

 

 

 

 

 私では、駄目なのだろうか。

 特異点以外で外に出たことのない自分では、駄目なのだろうか――。

 

 

 

 

「――――マシュッッ!! 前を見て!!」

 

 

 

 藤丸立花のその言葉に、マシュの目が開く。

 目の前に迫るナイフ。すぐさま盾で叩き落とした。金属音が響く。

 投擲の姿勢のままアサシンが舌打ち。

 ぞっとする。――今のは、マスターの言葉がなければ死んでいた。

 嗚呼、やっぱり私では――。

 

「大丈夫! マシュならやれる! 多分私より軽いし!」

「何言ってるのアンタ!?」

「フォウフォーウ!」

 

 響く応援。ただ必死にこちらを応援してくれているのが分かる。勝てる根拠なんてないし、ましてやその具体的な内容もない。でも、だけど。

 

「マシュは私のサーヴァント! だったらやれる、私はマシュ・キリエライトという存在を信じてる! だから――絶対に、勝てる!」

 

 心だけは、伝わった。

 暖かい気持ちになる。なんだろう、とても、嬉しくて。でも、その嬉しさはいつもと毛色が違って。言葉にできない、感情。

 力が体に漲る。

 

 ――思えば、とても強い先輩だ。

 訓練も受けず、ただの数合わせのためだけに召集された一般人なはずなのに、逃げてもよかった筈なのに、ただ――役に立てればいいとそこを動かなかった。

 私はそんな人のサーヴァントなんだ。

 私は、藤丸立花のサーヴァント。

 そんな彼女が、認めてくれて、信じてくれている。

 

 

「マシュ・キリエライト――いきます!」

 

 

 盾を握って、一歩踏み出す。

 走る。ただ走る。

 

「愚かモノめガ」

 

 侮蔑の色を一切隠さず、アサシンがナイフを投擲した。今までのマシュなら間違いなくそれを防いでいただろう。

 

「はぁ――っ!」

 

 だが忘れてはならない。彼女は『成長する英霊(デミ・サーヴァント)』――学び続け、進化する。

 この短期間の決戦で彼女は学習した。盾のサーヴァントだからと言って、全てを防ぐ必要なんてない。構える必要はない。

 避ければ、済む話だ。

 

 足を地面へと叩きつけ――スライディングの要領でアサシンの前へと踊り込む。アサシンの顔が驚愕で強張った――今っ!

 アサシンの上半身を下から盾で殴り上げた。アサシンの体が宙に浮かぶ。マシュも同時に飛び上がり、盾を空中で構え直した。

 

「やぁあああ――――っ!!」

 

 突撃(チャージ)。盾の質量で押し潰せばいい。押せ、押せ――!

 衝撃に、大地が揺れた。煙が舞って地面に罅が入り、コンクリートが砕かれる。

 

「はっ……、はあっ、はぁっ」

 

 ゆっくりと盾をどかす。下に轢かれていたアサシンの体が黒いチリとなって消えていった。そこには誰もいない、だが、誰かはきっといた。

 

「マシュ〜!」

 

 マスターが、手を振ってこちらへと走ってくる。その上で、フォウも嬉しそうに鳴いた。そこで、マシュは初めて理解した。

 ――勝ったんだ。

 これが、英霊との戦い。マスターたちと初めて勝ち取った、勝利。辛勝ではあったが、私たちでもぎ取った、勝利。

 

「せんぱ――い!」

 

 報告しよう。報告しなければならい。私は、私たちは――

 

 

「勝ちました!」

 

 

 

 




 彼女は、少しづつ成長する。
 だからきっと、人形なんかではないのだろう。


感想、評価、お気に入り登録などお待ちしてます!
こ、高評価くれてもてええんやで?で?(明らかすぎるステマ)







※この小説はログインせずに感想を書き込むことが可能です。ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。