そんな世界で生きるため   作:ぶつ切りローマ
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シリアステイスト。
頑張った。

……夏休みの宿題が終わる気配を見せない。


冠位・前/07

 

 

 

 ――そして、沈黙が訪れた。

 彼女たちがその全霊をかけて争ったそこには、焦げた大地しか残っていなかった。息をすることすら苦しい環境。僅かながら、焦熱地獄がそこに生み出されていた。

 

「……終わった、のでしょうか?」

 

 立花の腕に収まっていたマシュが、盾を杖にしてゆっくりと立ち上がり、キャスターの宝具解放直後の光景を見て呟いた。

 大空洞内の気温が上昇するほどの熱量を浴びて、生き残る者などそうそういて溜まるものではないが――彼女はブリテンの王、騎士王である。安心は出来ない。

 悲しきかな、やはりその予感は的中する。焼けて焦土と化した大地からセイバーが立ち上がった。

 嘘でしょっ!? とオルガマリーが金切り声を上げた。立花は体を強張らせ、マシュが震える体に鞭を打ちながら盾を構える。――が、一方のキャスターは立ち上がったセイバーの姿を見て杖を下ろした。

 

「キャスター! もう一度宝具を!」

「必要ねぇよ。安心しろ、オレたちの勝ちだ」

 

 構えを解いたキャスターを見て、立花たちはセイバーへと再度視線を向ける。それを見て、セイバーは諦観の念を浮かべながら静かに笑った。

 

「――フッ。やはり、私一人ではこうなるのか」

 

 セイバーの肉体が、ゆっくりと綻んでいく。サーヴァントは、魔力によって現世へと姿を現している。彼ら英雄は全て一時の稀人、ひとつの儚い夢でしかない。砂になるように、風に揺られて崩れていくその身体は、徐々に魔力となって宙へと消えていく。

 

「どうやら私は、間違えていたらしいな。聖杯を守り通すつもりだったが、己が執着に固執した挙句、その果てにあったのは敗北。……いやはや、どう運命が変わろうと、私ひとりでは同じ末路を迎えるらしい」

「どういうことだ、セイバー。テメェ何を知っていやがる」

「……なに、心配はない。貴方もいずれ知ることとなる、アイルランドの光の御子よ」

 

 キャスターの質問に明確に答えることはなく。聖剣を傾け、その刀身をゆっくり眺めるセイバーは、徐ろに立花たちへと振り向いた。その顔に、優しげで、儚げな笑顔を浮かべながら。

 

「そして。世界最後のマスター、藤丸立花。願わくば、我が剣をこれより起こるであろう戦いで振るいたいものだ」

 

 見れば、セイバーの足元は金色の粒子へ変わってきていた。彼女がここに在れる時間もそう少ない。これで、もう終わりか――。そう呟くと、セイバーは彼女たち四人の瞳を然りと見つめて、告げた。

 

「――グランドオーダー。聖杯を巡る戦いは、まだ始まったばかりだ。託したぞ、人類最後のマスターよ」

 

 ――そう言って、穏やかな表情のまま。彼女は消えて行く。

 あまりにも不吉な言葉を残しながら。

 グランドオーダー。聖杯。()()()()()()()()()

 

 光の見えぬ謎を彼らに遺し。聖杯の守り手は、この戦いを敗退した。

 

 

 

 

 ▽▽▽

 

 

 

 

 

「――グランドオーダー!? なんでそれを唯のサーヴァントが知っているの!? いや、それよりも藤丸が人類最後のマスター!? どういうことよ!?」

『しょ、所長。混乱する気持ちは僕もわかりますけど、お、落ち着きましょうよ』

「ええ、そうね――って無理に決まってるでしょ! これで落ち着けって!? ロマニ貴方私のこと舐めてるの!?」

『ですよねー!! キレッキレのノリツッコミとかホント誰か助けてー!!』

 

 消滅間際にセイバーに告げられた情報に、動揺を隠し切れないオルガマリー。それを画面越しに感じ取ったのか、ロマニが彼女を諌めようとしていた。うぎゃー! とオルガマリーがヘッドバンドをかましている。ロックである。

 

 と思えば、人類最後のマスターなどと言われた立花は立花で、肩にフォウを乗せながら、状況に全く理解が追いつかずに首を傾げていた。

 

「……どういうこと?」

「ふぉーう?」

 

 立花の肩で顔を掻いていたフォウも、彼女が首を傾げたのと同時に顔を捻らせた。そしてオロオロするマシュ。可愛い。

 

「……ったく。奴さんもよく分かんねェこと残してくれたな」

「キャスター!? その体!」

 

 頭を掻き毟りながら立花へと近付いてきたキャスター。見れば、体の端から黄金の粒子となっている。徐々にその存在が薄くなりつつあった。どうやら、体を保持する魔力が尽きかけていたらしい。

 

「――これで聖杯戦争は終わった。納得のいかねぇ部分はあるが、サーヴァントはいずれ消える定めだ。仕方ねぇ」

 

 ボヤきながら、キャスターはセイバーのいた場所へと指先を向ける。つられて視線を移せば、そこには七色に光る一つの結晶体が落ちていた。

 

「アレは回収しとけよ。相当な量の魔力が込められてんだ、拾っといて損はねぇだろうよ」

「わかった」

「よし。んじゃ次呼ぶ時がありゃあ、そん時はランサーで呼んでくれや」

「うん、わかった」

「満面の笑みってオイ、こき使う気満々じゃねぇか。……ったく、精々貧乏クジじゃないことを祈ってるよ。じゃあな小娘(マスター)、仮契約じゃねぇ、その時はテメェの槍として戦ってやる」

 

 あばよ、とキャスターはヒラヒラと手を振ってあっさりと消えていく。その様子を見つめて、立花はようやく、終わったんだ、と理解する。

 寂しくはない。きっと、また何処かで出会えると、分かっていたから。

 思わず体から力を抜いて倒れこむほどに疲労が込み上げてくる。だけど、立花は座り込むことはせずに、何となく空を仰ぐ。

 数秒して、立花はパチンッと頰を叩くとオルガマリーへと向き直った。

 

「所長」

「……ええ、そうね。あの水晶体、すぐに回収しましょう」

「了解しました、私が取ってきます」

 

 そう言って、二人が頷いたのを確認してマシュが盾を右手に吊り下げながら水晶体へと歩いていく。特に危険は見当たらない。マシュは水晶体の目の前へと近づき、本能的に盾を翳した。

 と――その時。

 

「――やぁ、諸君。それは待ってくれないか?」

 

 大聖杯の前から――声が、響いた。

 

 

「いやはや、まさかここまでやるとはね。流石のこれは私の想定外だよ、48人目のマスター適正者。見込みがないからと、善意で君を見逃してしまった私の失態だ」

 

 パチパチと、乾いた拍手と共に大聖杯の裏から現れた一人の影。子供のように巫山戯た口調ではあったが、その声色は何処までも冷たい。

 緑色の外套に、同系色のシルクハットという、どこかこだわりを感じされるような服装をした男。ニヤニヤと薄気味悪い笑顔を顔に貼り付けている彼は――オルガマリーが唯一信頼していると言っても過言ではないカルデアの魔術師。立花が、ここ冬木に来る前にお世話になった、彼は。

 

「レフ教授――!!」

 

 レフ・ライノール。カルデアスを作り上げた魔術師の一人。そしてカルデアの謎の爆発に於いて、未だその死体が見つかっていない男の名前である。

 

『……レフ教授だって!?』

 

 通信機越しにそれを聞き取ったロマニが声を荒げる。当然だろう、先の爆発で彼は死んだと思っていたのだから。

 

「……ん? その声はロマニだね。なんだ、君も生きていたのか。……全く、私の指示に従わない屑ばかりだな。人間というのは統率すらできないというのか。嗚呼――本当に、吐き気がする」

 

 酷く醜悪な顔だった。見ていられないほどに、嫌悪する顔だった。

 

 立花自身は、レフに一度会っている。ここに来る前に親切に色々と教えてくれたのだ。理解のある理知的な大人だったと、その時は思ったものだ。だが、今は――明確に異なる。

 アレは、目の前に立つあの存在は本当に自分と同じ人間なのか、――いや、生物だとでもいうのか。

 身の毛のよだつ感覚が止まらない。他者を見下す笑み、侮蔑するその醜悪に過ぎるその表情に、立花は人間味を感じ取れない。

 吐瀉物を撒き散らしそうだった、足が震えて止まらない、()()()()()()()()()()()()()()――

 

 それは異質だった。セイバーと対峙した時に感じた恐怖とはその本質が根本的に違う。嫌悪感にも似た――その感覚。

 立花は本能的に理解する。あれは、違う。

 アレこそが、星に害をなす悪であると。

 

 マシュが、盾を構えながら立花の前に立って叫ぶ。

 

「下がってくださいマスター! アレは――アレはレフ教授ではありません!!」

「――――ッ」

 

 歯を食い縛り、立花はレフへと瞳を向けた。

 だが、立花のその心とは裏腹に――自分の横に居たはずのオルガマリーが、レフに向かって駆け出していた。

 

「レフ、レフ! 生きていたのね!」

「やぁ、オルガ。元気そうで何よりだ、君も大変だったね」

「ええ、本当よ! 管制室は爆発するし、街は廃墟だし、カルデアには帰れないし、本当に散々だったわ! でも、もう大丈夫よね、貴方がいるんだもの! 」

「ああ、本当に大変そうだ、かくいう私も予想外のことで困っているんだ――――君が生きていたからね。態々君の足元に爆弾を設置したというのに、まさか生き残るとは。私もツメが甘い」

「………………レ、フ?」

 

 空気が止まった。レフの胸元へと飛び込みそうなほど走っていたオルガマリーすら、その足を止める。

 

「……あ、レフ? それ、どういう、意味、なの……?」

「ああ、そうか。言い方が悪かったか、オルガ。正しくは君は生きているのではなかったね。とっくに君の肉体は死んでいる。ここにいるのは、言うなれば肉体の残留思念――魂、というヤツさ。よかったじゃあないか、オルガ。死んで始めて、君が欲してやまなかったマスター適正が手に入ったのだから――まぁ、カルデアに帰った時点で君の意識は消えるが」

「…………………………え」

「……クフッ。くハッ、ハ、ハハハハ――――ッ!! ――ああ、実に面白い。面白いよオルガ。不思議には思わなかったのかい、君がなぜ冬木にいれたのか、なんて。……だとしたら傑作だ、実に傑作だよ! 長年の悲願を叶えたというのに、カルデアに帰れば消え去ってしまう、――ああ、哀れ、哀れ過ぎて、オルガ、私は笑いが止まらないぞ!」

 

 今度こそ、本当にオルガマリーの顔が死んだ。

 理解なんて、できるわけがない。できて溜まる訳がない。今、自分は生きているのに、ここにいるのに、――お前は死んでいると言われて、納得できるものなどいる筈かない。

 茫然とするオルガマリーに、レフの言葉はまだ止まらない。水を得た魚のように、その舌は流暢に動く。

 

「…………嘘よ、嘘、うそうそうそ! そんなのレフがする筈がないわ!ねぇ、レフ、嘘でしょ!?」

 

 オルガマリー・アニムスフィアという女性は聡明だ。努力家で、臆病で、意地っ張りで。脆い。

 でも、だけど。だからこそ、彼女は依存はすれど弱音を吐くことはなかった。勇敢に、立ち向かったのだ。

 笑って、レフ・ライノールは続ける。

 

「まぁ、そんな君にもプレゼントを上げよう。不憫、同情というヤツだな。カルデアにその人生の全てを捧げ、ここまで頑張った君に、今のカルデアスを見せて上げよう」

 

 パチンッ、と。指を鳴らした。レフの後ろに何もない空洞が開き、僅かながらにその大きさを広げたその孔は、中央管制室を写していた。――そして、そこから()()()()()()()()()()()()()()

 擬似地球観測モデル・カルデアス。星に魂があると仮定し、それを観測することによって人理を知るための装置。そしてそれは、今明確にその役割を果たしていた。

 

「う、そよ。カルデアスが、真っ赤に……」

「嘘ではないさ、態々時空を繋げたんだ。見えるかい、これが君の選択したミッションが引き起こしたその結末。今回もまた、君の至らなさが原因の悲劇という訳だ。しかとその目に焼き付けるといい。――冥土の土産に、だかね」

 

 ――人類は、人理は赤く焼却された。

 

「よく頑張ったね、オルガマリー・アニムスフィア。君のお陰で、私は彼の王の目的を果たすことができる。そう、()()()()()()

「……嘘、嘘、嘘よ! 私はまだ何も成し遂げてない! まだ失敗してない! ……何も、何も成し遂げてなんかいない! 私は死んでない!」

 

 オルガマリーは泣いていた。滂沱の涙を止め処なく流していた。鎧のない、剥き出しの心が現れて、彼女は全霊で叫んでいる。

 だが全ては現実だ。一夜限りの夢ではない。

 だからそれを――レフ・ライノールは嘲笑う。

 

「そうだね、だから君には優しくして上げよう」

 

 この世界に正義の味方(ヒーロー)は居ないんだと、サンタクロースなんてこの世にはいないんだと、親が子供に教えるように。優しく。穏やかに、――絶望を、告げる。

 

「……な、なによ、これ」

 

 ふわりと、重力がなかなったように、オルガマリーの体が浮く。空を漂うように浮いていたソレは、明確な意思を持って動き出した。

 燃え盛る、人理(カルデアス)へと。

 

「――ヒィッ! レ、レフ、やめて、やめてよ!!」

「なにを言っているんだい、オルガ。優しくしてあげるって、言ってるじゃないか。最後に君の宝物に触れさせて上げようっていうのに」

「カルデアスよ! 超高密度の情報体よ! そんなのに触れたら!」

「ブラックホール、あるいは超新星爆発(スーパーノヴァ)か。まぁ粉々に砕け散るのは間違いないだろうね。しかも君は魂のみ。永遠に生き地獄を味わうことになるだろう。精々楽しんでくれ」

 

 早くなる。引っ張られるように、吸い込まれるように、欲されるように、カルデアスへと引きずり込まれる。

 

「しょ、所長ォォォォオオオ――ッッ!!」

「い、行けません、先輩!」

 

 手を伸ばす。

 引きずり込まれる――だが、今はそれどころではない。考えるより先に体が動いた。

 叫ぶ。走る。伸ばす。

 一メートルでも、一センチでも、少しでもその距離を縮めるように。立花は走る。

 

 届け、届け、届けッ!

 

 掴むように、その命を守るように。命を投げ打つその行為。

 祈るようにして伸ばしたその手は、

 

 

 

 

 ――――何も、掴むことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――アカシックレコード・ムーンセル」

 

 これから語るは最新にして最大の英雄神話。

 神話の語り手による、一人の少女が世界を救う物語。

 

 

 ――貴方は、こんなお話を知っているかい?




次回、冬木編終了予定。
注)本作では藤丸立香ではなく立花ですのであしからず。fgo本編の立香とは同じであって違う人間なので。


ぐれむりあ「ステンバーイ、ステンバーイ」


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レフが書いてて楽しい。すごい名脇役だ。
ただし捨てゼリフは言えない。……ん?





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