そんな世界で生きるため   作:ぶつ切りローマ
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一応冬木編はこれで終わり。


冠位・後/08

 

 

「――『英雄神話・七天の月(アカシックレコード・ムーンセル)』」

 

 宝具を開帳する。魔力を回して魔本の権能を起動する。それは月と現世を繋ぐ、ある世界の欠片。光の結晶体。

 それが発動されるのに、長い時間は必要ない。ただ敵を殺す為だけに起動したソレは――硝子を砕くような音と共に、レフ・ライノールの右腕を弾き飛ばした。

 

「…………は?」

 

 間の抜けた声。ぼたぼたと地面に血が垂れる音だけが妙に響く。レフが、視線を右へと向けた。そこに――見慣れたはずな右腕が、ない。

 

「――ギッ」

 

 唐突に理解する。

 苦悶と痛み。喀血。訳も解らずに全身を横断した鋭い痛みに、レフの口から絶叫が零れ落ちた。

 それを側から見ていた立花も、マシュも――ましてや死にかけのオルガマリーですら、言葉もなくその情景を見ていた。勢いよく顔を上げると、立花は赤い球体の上に立つ、一人の影を目にする。

 

「――グレムリアッ!」

 

 ふわりと浮かぶように、カルデアスの目の前へと現れ、オルガマリーを胸元に引き寄せた黒髪の男。ことさらゆっくりと魔本を閉じ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()グレムリアは降りてくる。

 

「すまない、マスター。待たせたな」

「…………あの、グレムリアさん。今、カルデアスに触れてませんでした?」

「そうだが、それがどうかしたか?」

「え、えぇぇぇ!! それでなんで生きてるの!? カルデアスだよ!?」

「別に大それたことではない。()()()()()()()()、それほど情報量は多くはないだろう」

「ええぇぇ…………」

 

 あの擬似地球を作るたびにどれ程の資源を浪費したのか、そして、どれぐらいの神秘が関わっているのか。それを少し理解させられた故、驚き過ぎてものも言えない立花であった。

 マシュも理解出来ずに目をパチクリとさせている。オルガマリーに至っては人形みたいに驚いた顔のまま瞬きすらしていなかった。

 よし、と一つ呟いてオルガマリーを地面に立たせると、グレムリアはその頭を優しく撫でた。

 

「よくやったな、オルガマリー。少し休んでいろ。……マスター、少し下がっていてくれ。時間がないんだ、後は俺がやる」

 

 

「こんの、低俗サーヴァント如きがァァァアアアッッ!!」

 

 何かが弾かれた音が響く。

 後数センチ。たったそれだけの距離で、レフの攻撃はグレムリアへと届くはずだった。

 失われた右腕を補完するように、肉を引きちぎりながら出現したその()()()()を弾速で射出する。

 ()()()()()()

 超えられないほどの大きな壁が、そこには存在していた。

 

「クソがァ!!」

 

 侵食が進む。ただの赤く拍動するだけだったその触手は、赤暗くその体色を変化させ、スジのようなものが縦長に走った。ボコリと気泡が弾けるように、均等に並ぶ黄色い瞳が現れる。

 ギュルリと再度触手を掲げ、敵の足を狙うように叩きつける。対するグレムリアは、ゆっくりと魔本のページを開きながら、莫大な魔力をその身に纏って――掌を向ける。

 

「邪魔だよ、レフ・ライノール」

 

 ――その程度じゃ世界は燃やせない。

 

 放たれたのは閃光か。

 視界をひたすらに埋め尽くす莫大な光。それらに意識が塗り潰されるその刹那、冷たい瞳に見つめられながら、レフ・ライノールの意識は闇に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 ▽▽▽

 

 

 

 

 

 

 昏い。酷く、昏い。

 空が暗い、大地が熱い、何もない。

 レフ・ライノールの裏切り、即ちカルデアへの爆撃。カルデアトップであるオルガマリーが最も信頼を寄せていた幹部の襲撃により、カルデアは甚大な被害を被ってしまった。

 カルデアに所属していた優秀な事務員、研究員の半数は死傷し、サーヴァントとの契約が可能なマスター候補生は四十七人が致死傷を受け、たった一人を除いて冷凍保存。せめてもの救いは、いざという時の為に貯蓄していたという物資のみか。

 

 人理は焼却された。

 

 カルデアの外壁近くの廊下から俯瞰できる景色は、レフ・ライノールの言葉が真実であると理解するには余りに分かりやす過ぎた。

 窓の外には何もなく、人の営みなど見る影すらない。人々が積み重ねた歴史は全てが破壊され尽くし、世界は無へと返された。

 唯一のその例外は、通常の時間軸から外れることの出来たカルデアのみ。人理救済という大義名分の為に、魔術と科学が入り混じっていたからだろう。

 友人は死んでしまったし、家族ですらもういない。

 加えて助けもない。当然だ、既に誰もいないのだから。

 

 大変なことになったと、立花はゴチる。

 

 マシュ・キリエライト。隣に座る後輩、自身と契約を交わした英霊。己と初めて契りを結んだサーヴァントであり、人間と英霊が融合したデミ・サーヴァント。立花の、相棒。

 大変だと。それ以外に何も言葉が浮かんでこない。人類が、歴史が、文明が、家族が――消された。彼女にしてみれば、それはたった一日で為されたことだ。脳が情報を認識して、ドクターから説明を受けたが、どうにも夢見心地で実感がわかない。

 

 残る七つの特異点。

 カルデアスが観測した人類史における七つのターニングポイント、その異変。現在の人類史を決定付けたそれらのイレギュラーを解明し、解決する。それは、歴史を戻して、世界を救うこと。

 人理守護指定・グランドオーダー。

 冬木より帰ってきてから、オルガマリー・アニムスフィア、及びロマニ・アーキマンより託された尊命。それを遂行し完遂できるのは現状、マスター資格を持つ藤丸立花のみ。

 元々魔術に携わることがなく、一般人として生きていた彼女。魔術なんて知らなくて、けれど世界の存命が自分に関わっているという重責。それを気にするな、なんて。軽々しくいうべきではないと、マシュは口をつぐむ。これから先に起こることは筆舌に尽くしがたいことばかりなのだろう。世界でも最高峰の魔術師であるオルガマリーですら匙を投げかけて――ただヘタレなだけだったか。いや、それは今はいい。

 どの様な言葉が、彼女は欲しいのか。

 先程までカルデアの外へ出たことがなく、話す人物すら限られていたマシュには思いつかない。

 

 先輩、と。わからないけれど、何か言葉にしようと口を開けて。パチンという乾いた音が響いた。

 

「――やるしか、ないよね」

「先、輩?」

「……あ。ごめん、マシュ。心配かけちゃった?」

 

 思考を振り払うように頰を叩いた彼女は、何か吹っ切れたようにベンチから立ち上がった。マシュが思っていたほどその表情は暗くない。どこか気丈に振る舞おうという節が見て取れる。

 

「……大丈夫。もうどうしようもないというか、絶対命令的なもの、ていうのはわかった。やばいよー、どうしよう、本当どうしよう……」

「……せ、先輩?」

 

 もう一度、立花は大きく息を吐く。

 

「でも、やらなきゃいけないっていうのは。やらないとどうしようもないっていうのはわかったんだ。まだ大層な覚悟なんてないし、世界を、人理を救うとかそんなことはよくわからない。でも。――誰かが、悪意を持ってこれをやったというのは、嫌ってほどわかってる」

 

 立花本人も、マシュも死にかけた。オルガマリーに至っては本当に死が目の前まで迫っていた。誰もかれもが、ソイツに殺されかけたのだ。

 人の努力を、献身を、人生そのものに等しい信念を踏みにじって、嘲笑った。それは決して許していいことでは――許しちゃいけないことだ。

 

「人類を救うとか、特異点を解決に導くとかそんな大きいことは私にはできない。でも、これを起こした張本人のことだけは、今知りたいって思ってる、許しちゃいけないって思ってる。だから、私は私にできることをやる。今、そう決めたの」

 

 できることからは逃げない。一つ一つ積み重ねて、手の届かない場所へと手をかける。それが私に――藤丸立花にできることなのだから。

 それが人が人たり得る――弱者が持ち得る最弱(さいきょう)の力。

 

「……だからマシュ、私を手伝ってもらってもいいかな?」

 

 そうして、マシュは。

 

「――――はいっ!」

 

 満面の笑みで、立花に応えた。




これにて第一章、完! ありがとうございました!!
まだまだ続きますよ!
感想、評価、お気に入り登録などお待ちしてまーす!


【朗報】オルガマリー生存【祝】
ただし特異点には参加しない模様。




アイコントーク!

ぐれむりあ「心臓よこせや!」(キュインキュイン
レフ「ぐぁぁぁあああ!!」




アイコントークそのに!

ムーンセル「……被告人、何か言い分は?」

ぐれむりあ「子供達の夢が壊されると思った。見た目(ビジュアル)的にも見ていられなかった。だからヤりました。後悔はしてない」

カルデアス「……裁判長。わかったでしょう、彼はこのように意味不明な言動を我々に繰り返した挙句、俺は悪くねぇ、世界が悪いなどと中二病全開な発言を我々に語り続けたのです!
 あと私掴むな! 痛いでしょーが!」

ぐれむりあ「今は満足してる」

カルデアス「無視すんなゴラ」


ムーンセル「……判決を言い渡す、被告人グレムリアは――」





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