ガンダムビルドファイターズプレジデント   作:級長

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11.基礎拠点を守れ!

『この度は皆さんに悲しいお知らせがあります』

 その日の放課後、いつもの様に五人がガンプラバトル部の部室に来た途端、運営からの放送が入った。これはガンプラ甲子園の運営部愛知支部からの通達であり、どの参加校も聞いている内容になる。

『昨年、皆さんは覚えているでしょうか。あの痛ましい「ウヴァル事変」を。その主犯がこのガンプラ甲子園に公式戦出場停止処分にも関わらず参加しているのです。そのチームは白楼高校「リヴァティーゾーン」』

 急にチームを名指しされ、メンバーの間に動揺が走る。事情を知っていると思われる衛士は完全に呆れていた。

「全く、その出場停止処分は愛知県内でしか通用しないローカルルールだろう」

「そうなんだ」

 詩乃はよくわかっていなかったが、所詮は地区連盟が勝手に吠えてるだけの処分なのでヤジマ商事が直接主催するガンプラ甲子園や、地区大会を抜けた後の全国大会では通用しないルールだったりする。

「ウヴァル事変……確か、エンボディを用いた強制アシムレイトを行ったファイターに愛知県の強豪と呼ばれる学校が次々に壊滅させられた事件って聞いてるけど……」

 当時、愛知にいたもののまだ引きこもっていた響は事件の顛末をよく知らなかった。そのファイターが継人であるということも。

『この事実を重く受け止めた我々は、ペナルティとしてリヴァティーゾーン基礎拠点への侵攻を解禁いたします! 皆さんの手でどうか、この事件に幕を引いてください!』

「ねえ、基礎拠点が侵攻されちゃったらどうなるの?」

 詩乃はまずそれを継人に聞いた。本来侵攻されることのない安全地帯、それが基礎拠点である。にも拘わらず、それの侵攻を運営が可能にしてしまうというのはどういうことなのか。

「基礎拠点がやられたら失格、その時点でゲームオーバーだ。とにかく基礎拠点だけは守らないといけない!」

 継人は言うが早いかバトルシステムにガンプラをセットする。霞も次いで、ガンプラを取り出した。

「だったら、守る!」

「そうね、わけわかんない言いがかりでチームが解散させられて堪るかっての!」

 詩乃もガンプラをセットする。呼応するように、衛士や響もガンプラをセットする。

「全くだ。罰するべきは大規模カルテルを組んでるデルタロウだろうに」

「今度はボクがみんなを守るよ」

 こうして五人が基礎拠点の前に集結した。おそらく攻め込んでくる戦力は大半がデルタロウ連合だろうが、油断はできない。数ではこっちが負けているのだから。

「とにかく敵を倒しまくって時間内耐えればいいんだ。まともにやりあってたらすり潰されて終わっちまうぞ!」

 アストレアに乗る継人が全員に指示を出す。すると早速敵がやってくる。デルタロウのグレイズ軍団だ。

「これ見てるとオルフェンズのラスト思い出すね」

「こんな絶望的な状況なのオルフェンズって!」

 響がストライクリペアードのビームスマートガンで敵を牽制していると、詩乃は流星号に持たせたグレネードランチャーを放ちながら戸惑う。まだ一期しか見ていない詩乃にとっては、あそこから何をすればこんな状況になるのか不思議でしょうがなかった。

「しかしいつも敵が多い……」

 Gエグゼスに乗る霞は換装したバルバトス脚部の機動力で敵の攻撃を回避しながら、手にしたバインダーガンで敵を撃っていく。一方、衛士はクロスボーンネクロでゴリゴリ敵陣に突っ込み戦力を削っていく。付近にはクロスシルエットのSDフレームにジム頭を付けたものと思わしき使い魔を連れ、数をカバーする。

「よっしゃ、一気に決めるぞ!」

 一番ヘイトを稼いでいると思わしき継人も敵陣に突撃し、手にしたアメイジングGNソードを振り回す。熟練者のうち二人が前衛で敵陣を掻き乱し、残る響が初心者の二人をフォローする作戦が自然に出来上がっていた。

「オラオラどうした! そんなんで俺を倒せると思ってんのか!」

 継人が前へ吶喊する度、敵の勢いが衰えていることに詩乃は気づいた。

「あれ? 敵が引いていってる?」

「まあ、主犯格がこうも全面に出てくるとにわか仕込みのファイターは怖気づくよね……」

 響はそれがデルタロウ連合の烏合の衆さ、そして継人の持つ箔によるものであると見抜いた。

 しかし、敵もそれだけではなかった。ストライクリペアードの強化されたセンサーが後方に接近する敵を確認した。この拠点は、別に一方向からしか攻撃出来ない場所にあるわけでないのだ。

「後ろから?しまった!」

 それに加えた左右からも敵影が迫る。デルタロウお得意の飽和攻撃である。

「分散するぞ!響、正面任せた!」

「俺はそっちいくからな!」

 衛士が右、左に継人が分散し迎撃に向かう。しかし後方の敵までは手が回らない。その時、詩乃が響に向かって言う。

「いつまでも私たちのこと初心者だと思ってないでよ!後方行って!」

 響が動かないのは自分たちのフォローであると彼女は知っている。なので発破を掛けて後方へ向かわせることにしたのだ。響はそれに答えるべく、ストライクリペアードを走らせる。

「Xコネクト!すぐ戻ります!」

 リペアードのビームスマートガンがバックパックへ変形する。右の義手からビームソードを抜き、後方の敵へ襲いかかる。

「支えるよ、詩乃」

「おうよ!」

 霞も気合いを入れ、正面の敵を迎撃する。流星号は斧を手に、同じグレイズ同士の戦いに臨む。手を掛けた分流星号の方が運動性が高く、先に斧の射程へ入り込む。そしてコクピットを抉り取る。

 霞はバインダーガンのビームを二本とも一体のグレイズに集中させ、一体ずつ確実に倒していく。二人もいれば、ただ烏合の衆でしかないデルタロウに遅れを取らない。

 しかしわらわら沸いて出てくる敵に二人とも押され気味になってしまう。響もすぐ戻りたかったが、後方からの敵もなかなか途切れない。一体一体を確実にビームソードで斬り倒しているのに、全然数が減らないのだ。

 それは継人や衛士も同じで、前方の護衛に行きたいのに自分のところだけで手一杯になってしまう。敵は途絶えることなくやってきて、少しでも手を抜けば一気に押し切られてしまいそうだった。

「10時の方向、新手だと?」

 その時、グレイズを纏めて三体横一閃に両断した継人がセンサーで敵の存在を感知する。しかも、これまでにない熱量を持った敵だ。それは二つの大きなアームで、赤く発光していた。そのアームの間から極太の粒子ビームを放つと、グレイズ部隊を次々に飲み込んでいった。

「どうして? 敵同士で?」

 センサーのシグナルはグレイズと同じデルタロウの機体であることを示していた。が、その機体がデルタロウのグレイズを次々に撃破していたのだ。その事実が詩乃を困惑させた。そのアームが戻っていった先には、新たなガンダムの姿があった。黒い大型のバックパックを上に被った機体、それはラファエルガンダムであった。

「ラファエル? グレイズじゃないのか?」

 突如現れた機体に響も混乱する。それどころか、遠距離からのビーム狙撃を受けて倒れる機体も多くいた。

「今度はジムスナイパーだと?」

 黒いジムスナイパーⅡが遠距離から支援していた。こちらはデルタロウではなく、『アークゼロス』というチームの機体であった。衛士はその機体に見覚えがあったが、今は黙っていることにした。

『なんだ? 何が起きている?』

『撤退! 撤退だ!』

 突然の事態に混乱させられたデルタロウ連合の部隊は撤退を選んだ。今、この新手に攻撃されるとダメージレベルAの損傷が機体を襲う。この戦場には、デルタロウの機体は突如現れたラファエルだけが残っていた。ラファエルは詩乃の流星号の前に立っていた。そしてオープン回線で話をしてきた。

『こちらレジスタンス、権藤辰摩だ。そちらの代表と話がしたい』

「レジスタンス? どういうこと?」

 詩乃は回線をオープンにし、返答を求めた。

『デルタロウ連合はこの地区の公立高校の連合だけどね、それに反対している勢力もいるってわけさ』

「そうか、甲子園では一校一チーム制だからデルタロウにチームを取られて動けないファイターが多く存在するのか」

 響は察した。市内の公立高校を纏め上げたのがデルタロウだが、組織が大きい分内部に不穏分子も抱え込んでしまう。また、こうして数で押さえつけるやり方は他の学校からも反発を招き易い。故にレジスタンスが存在するのだ。

「なるほど、そういうことね」

 全ての元凶である継人はようやく事態を理解した。デルタロウも一枚岩ではないということか。ここから、一つの大きなうねりが生まれようとしていた。

 


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