ガンダムビルドファイターズプレジデント   作:級長

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 ガンプラ甲子園、それはジュニア部門が設立される前から存在する、中高生のガンプラバトル大会である。独特なルールの下行われるバトルは今も人気で、ジュニア部門設立後も細々と続いていた。


7.結成! ガンプラバトル部!

「ガンプラバトル部を復活させる?」

 放課後の教室で、詩乃は継人の提案を聞いて首を傾げる。あの、誰も使っていなかった部室を再利用するのだが、一つ問題があった。

「それはいいけどあのめんどくさそうな三人組はどうするのよ」

 以前、あの部室を使っていたチームがまた邪魔をしに来ないとも限らない。一応、必要な書類は継人がまとめていた。入部する部員の入部届けならなんやら。一応、部員は継人、詩乃、霞に加えて響と衛士も入ってくれるらしい。これで部活の最低人数は確保できた。

「あのチームについても調べさせてもらったよ。チーム『トロイア』、奴らは『リバティーゾーン』。ガンプラ甲子園において白楼高校が設置した仮想国家だ」

「ガンプラ甲子園? 選手権のジュニア部門じゃなくて?」

 詩乃もガンプラバトルについていつまでも無知ではなかった。ガンプラバトルの世界一を決める選手権、その中高生の部が今、主流の大会になっているのだ。が、その大会にも問題が無いわけではない。また、ジュニア大会が行われるようになったのはたった7年前のことだ。

「トロイアのチーム名はジュニア部門のものだな。ジュニア部門は競技人口に対して一校三人しか出られないという大きな問題を抱えていた。ベンチとか含めりゃもっと参加できるかもだが埋没選手の数は高校野球を笑えないことになるな。そこでジュニア大会以前に行われていた学生向けのお祭りめいた大会、ガンプラ甲子園は細々続いてんだ」

 そのルールは至極単純。学校を一つの仮想国家に見立てた戦争ごっこである。

「甲子園はオンラインシステムを使って行われる。これは説明を省こう。百聞は一見にしかずだしな。で、各地のラボやマスドライバーみたいな要所を奪い合いながら『ゲート』を目指す。このオンラインフィールド各地にあるゲートを通過した仮想国家に本選出場権が与えられる」

「随分大規模な予選ね」

 話を聞く限り、スケールが大きい大会に見えるがこれには理由がある。

「ビルドダイバーズの影響だろうね。GBNを現実に作る叩き台として作ったものを有効活用したいヤジマ商事の思惑もある。ともあれ、あの三人がリバティーゾーンの旗を掲げて甲子園に出たのは間違いないよ」

 それが今や新たな部員を勧誘するどころか妨害しにきている始末。これは一体どうしたことか。とにかく、申請の書類を持って二人は職員室へ行く。職員室では富士川が二人を待ち受けていた。ついでにショウキもいる。

「よし、持ってきたな。これでガンプラバトル部は正式に再開できるぞ」

「やったね」

 しかし一筋縄ではいかなかった。彼らを待ち受ける様に、職員室の付近に隠れていた三人がいた。あの時のガンダム使い達だ。もう特徴のないモブといったもっさり感のある三人組だった。何か文句を言いたげだが、先に文句を言ったのはショウキだった。

「お前ら三年生だろ。模試の講習はどうした?」

「そんなものより大事なことがあります。そう、この場で我らチーム『トロイア』の力を示すこと!」

 先生に向かってそんなこと言おうものなら怒られそうなものだが、富士川とショウキは黙ってみていた。無言で内申点下げる、怒るより怖いタイプだった。

「あの部室は本来、我々チームトロイア及び仮想国家リバティーゾーンのもの。それを無条件で後輩とはいえ譲るつもりはありません」

「いや普通卒業するんだから後輩に譲るでしょ。留年すんの?」

 詩乃は詩乃で先輩に対してこの態度。この三人から陰キャ臭が凄くするので完全に舐めてかかっている。

「我々を超えられない程度では、この岡崎のガンプラバトル圏を生き抜けない、いわば後輩に対するやさしさですよ」

「あー、よく初心者狩りする奴が言ってる『選別してる』ってやつ?」

 継人も三人をなめ切っていた。ともかく、この三人が面倒なことに引き下がらないので仕方なく勝負する流れになった。

「しかたねーな。じゃ、勝ったら部室寄越せよ」

「勝てるものならな」

 三人は何やら強者臭を漂わせようとしているが、残念ながら小物臭と男脂臭しかしない。

 

   @

 

 というわけで部室までやってきてバトルの流れになった。部室には既に霞、衛士、響もいた。相手が三人なのでこちらも三人選出することになるのだが。

「私はガンプラ改造中」

 霞がまず辞退した。どうやらおもちゃ屋のバイトで何かを掴んだのか、改造に熱が入っている。

「それじゃ、俺と衛士で響、合わせられっか?」

「はい、できます」

 必然的に経験者三人のチームになる。詩乃は今回は見学だ。継人はビームスピアを装備したプレジデントカスタム、衛士はクロスボーンを改造したSDガンダム、響はストライクリペアードだ。今回は右足もちゃんとストライクのものになっている。

「今度はボクが助ける番です!」

 響はいっそう気合が入っていた。飛行機を無事に降りたあと、お家騒動でも響は継人の力を借りて何とか両親の遺したものを守ることが出来た。その恩返しをしたいのだ。

『BATTLE START!』

「佐天継人、ガンダムプレジデントカスタム! 出る!」

「守屋衛士、クロスボーンネクロ、出陣する!」

「継田響、ストライクリペアード、スクランブル!」

 フィールドは宇宙。やはり陸戦ベースのプレジデントには不利なフィールドが当たってしまった。が、そこはチームワーク。センサーを全員が強化しているので、相手より先に敵の位置を全員で把握できた。

「見えた!」

「散開させるぞ!」

 衛士がクロスボーンの背中を向ける。後ろのカメラにも目が付いており、スラスターの部分に付けた緑の水晶からビームが放たれる。それは収束して一本の太い光線になり、固まっていたトロイアのガンダム達を襲う。

「なんだ!」

「敵襲?」

 想定通り散開したガンダム4号機、5号機、6号機。ここからが勝負の仕掛けどころだ。

「忠臣蔵作戦で行こう」

「あ、じゃあボクが他を引きつけますね」

 継人の一言で作戦を察した響がマントを変形させて背中へ移動させる。継人と衛士は孤立した4号機目掛けて加速する。

「Xコネクト、ブレイドドラグーン!」

 響の放ったドラグーンが5号機と6号機を襲い、合流を妨げる。特に5号機の得物はガトリング。遠隔操作系武器の迎撃がしやすいので自身も突っ込み妨害する。右手の義手からビーム刃を出し、積極的に斬り掛かる。

 一方、一足先に4号機へたどり着いたクロスボーンは手にした剣で接近戦を試みていた。が、SDガンダムはリーチが短い。ビームサーベルでいとも容易く受けられてしまう。

「これだからSDは……」

「余裕こくのは早かったな」

 遅れたプレジデントがスピアの柄をギリギリまで長く持って突きを繰り出しながら迫ってきた。

「何ぃ!」

 反応は出来たが回避は出来なかった。見事にコクピットを貫かれて爆散する4号機。メガビームランチャーの出番はついぞなかった。ボクシングの練習で棒の先端に付けたグローブによる突きを避けるというものがあるのだが、その速度はプロボクサーのラッシュに匹敵するという。長物の突きは、それだけ神速なのだ。

「よ、4号機ー! ホヂュア!」

 爆散した味方に気を取られ、5号機もブレイドドラグーンに串刺しにされる。そして爆散。これは作戦の想定外。忠臣蔵作戦とは実際に吉良を襲った藩士達が取った戦法で、必ず相手より多い人数で戦うというもの。今回は継人と衛士が4号機を相手取ったのがそれにあたる。

「継人、思ったがこれ新選組作戦でも通ったんじゃね?」

「それもあるな」

 衛士はそうぼやく。数の利を作ること、これこそ戦術の基本。すっかり3対1になってしまった6号機の運命は、まぁ皆さんの想像する通りである。

『BATTLE ENDED!』

 

「ま、参りました……」

 まさかのパーフェクト負けに意気消沈する三人組。これで約束通り、部室諸々継人達のモノになった。

「これでガンプラバトル部、結成ね!」

 今回は何もしていない詩乃、こういう宣言で仕事をとっていくスタイル。が、三人は去り際に意味深なことを言って帰る。

「お主たちはまだ知らない……この地区を支配する『デルタロウ連合』の力を……」

「デルタロウ連合?」

 それはともかく、晴れて仮想国家リバティーゾーンの旗揚げである。詩乃は流星号をセットして、拠点を見に行く。オンラインフィールドはバトルシステムのスキャン部分だけを使うもので、そこをガンプラが動きまわる。ガンプラが動くというよりフィールドが動く、に近い感覚かもしれない。ただガンプラの座標はオンライン上で動いているので、普通にバトルが可能だ。

「ようするに粒子エフェクトで相手ガンプラの動きをこっちに反映させて……って技術的なことはどうでもいいか」

 継人もプレジデントを拠点に出撃させる。拠点はコンテナや倉庫のある普通の陸上基地である。境界線らしき部分に緑のラインが浮かんでおり、そこから外はバトルフィールドだ。

「この先がバトルフィールドかぁ」

 詩乃が一歩外へ踏み出すと、物陰から一斉にグレイズが現れる。紺色のものや緑のもの、ピンクブラウンにライトブルーと様々なグレイズがいる。

「あ、どうもどうも」

 詩乃の流星号も一応グレイズなので挨拶する。が、その瞬間グレイズ達はライフルの銃口を流星号に向ける。

「え?」

「退け詩乃! そいつら全員敵機だ!」

 そして一斉に火を吹くライフル。プレジデントカスタムが間に入り、ビームサーベルを手首ごと回して防御する。詩乃はわけが分からず緑のラインまで後退する。プレジデントも下がってきた。全員敵機、とはどういうことか。

「何今の?」

「デルタロウ連合所属機……そういうことか」

 継人はデータを照合し、あの三人の言っていたことを思い知る。これだけの勢力が周囲を固めていては、こちら一歩たりとも動けないというわけだ。つまり、甲子園を戦おうにも拠点から出ることすらできない状態なのだ。

「ここから最短の連中の制圧施設は『メイメイブリッジ』か……ここから出撃してうちの周囲を固めてやがる」

「ちょっと、分かるように説明しなさいよ」

 継人が一人で納得しているので詩乃は説明を求める。

「いいか、この基礎拠点ってのは一校に一つ与えられて、攻め込めない絶対の安全地帯だ。その他、各地に橋だったり工場だったり、宇宙へいくマスドライバーだったりそうした施設がある。そこを制圧するとその施設を使える他、自軍をそこに『配備』できる」

「配備したらどうなるのさ」

 さっぱり分からないという詩乃に対し、地図を見ていた霞が、あることに気づく。

「このフィールド、この辺りの地形まんま。ガンプラが外を歩くのと変わらないくらい広い」

 そう、オンラインフィールドは実際の日本列島の測量データや地図を基に作られている。トイストーリーよろしく、ガンプラがそのまま街を出歩く様なサイズ感のフィールドでのバトルだ。

「甲子園のフィールドに入れる時間には制限がある。平日は午後4時から午後6時の二時間だけだ。その二時間で自軍の基礎拠点から作戦の目的地に行くだけで精一杯ってこともあるだろう。ところが制圧した拠点に戦力を配備すれば、配備した戦力はそこからスタートできる」

「つまり時間の短縮だね」

 響が要点を纏める。この広大なフィールドでその恩恵は計り知れない。いきなり強大な敵とぶつかることになったリバティーゾーンの未来はどっちだ?

 




衛士「次回、『巨大要塞マザーウィル』。ったくいきなり厄介な問題が出て来たもんだぜ。でもま、あのプレジデント様なら力業でどうにかしちまうだろうさ」

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