うちの姉様は過保護すぎる。   作:律乃

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お久しぶりです!

新しく更新するのに1年数ヶ月掛かってしまいました、すいませんでした……。

誕生日のエピソードはまだまだ先ですが……ちびちびと進めていきますので、待っててもらえると嬉しいです。

それでは、本編をどうぞ!


013 とある日の探索

6.

 

 マムとの話し合いが思いもしない結末で終えた後、あたしと歌兎は廃病院の廊下を歩いていた。

 所々剥がれたタイルにヒビの入ったコンクリートの壁。隙間風がコンクリートの隙間から吹いてはあたしと歌兎の身体を駆け抜けては床へと落ちていく。

 隙間風が秋から冬へとなっていくにつれて、身に染みるようになり、ついはだけてしまっている前を空いている手でギュッと握りしめる。

 

「…ふわぁ……ぁ……、っ……」

 

 一方の歌兎(いもうと)は、あたしの手に引かれながら、ウトウトと小舟を漕ぎつつもトボトボと廊下を着実に一歩ずつ歩いて行っている。

 そんな妹の横顔と左手首で揺れている腕輪を交互に見ながら、苦笑を浮かべると曲げた人差し指、親指を(おとがい)へと添える。少し目を伏せてから考え込む。

 

(メギンギョルズの腕輪……)

 

 そんな腕輪、前の世界には無かった……。

 ならば、これから待ち受ける未来(あした)はあたしが知っている前の世界(あした)ではないということか。

 ならば、あの惨劇は起きないという事だろうか……?

 

 目を閉じなくても思い出せる。

 

 悲しそうな表情をしながら、自ら幼い命に終わりを告げた妹の姿が。

 眩い光に溶けていくように、光の粒となって、茜色の夕焼けの空へと上がっていく。

 両手を必死に伸ばし、かき集めようとするあたしの手のひらをすり抜けていくあの感触。

 目蓋を閉じただけでも思い出す、あの日のやるせなさと後悔。

 

 知ってた筈だった。

 

 装者としての役割も、姉としての役割も。いつも言われてきたことで思い続けていたことだ。

 妹がミョルニル()に飲み込まれ、自我を失って暴走した時に止めるのはあたしなんだ、と。

 しかし、想像しているよりも実際は苦しくてつらくて悲しくて胸が張り裂けそうで……そんな簡単には出来なくて……。

 

「……っん……んっ……」

 

 チラッと妹の方を見てみると必死にあたしの歩幅に合わせようと大股で歩こうとしている妹の姿がある。とても愛らしい。

 あたしのペースに合わせるのに一生懸命歩き続けているせいか、自分を見ているあたしの視線には気づいてないようだった。

 愛くるしい表情を気持ち、キリッと引き締め、いつもよりも眠そうに開かれている黄緑の瞳に真剣な色が浮かぶ。

 小ぶりの唇はよっぽど必死なのかギュッと引き締まって、繋いでいる手にゆっくりと力が篭っていく。

 

 本当に可愛らしく愛おしい。

 

(あたしはまたこの子を失わなくてはいけないんデスか……)

 

 今のところ、不安要素となるのは上に挙げている《メギンギョルズの腕輪》のみだ。

 だが、その不安要素も前回になかったものなのでどう判断していいのか分からない。このまま考え続けなくてはいけないのか、それとも関係ないと切り捨てていいのか……いや、まだ油断は出来ない。あの時になるまでまだ時間があるのだから……それまでに様々な不安要素が浮き上がってくる事だろう……。

 

(ああっもう!!)

 

 わけわかんないことが多すぎて、考えなくてはいけないことが多すぎて、対策しないといけないことが多すぎて……頭が痛い。頭痛が増していく。これが恐らく知恵熱というものだろう、目の前がボヤァってする。グシャッて廊下の床が歪み、これ以上は考えてはいけないと奥にあるもう一人の自分が叫ぶ。

 

「………はぁ……」

 

 痛みが広がっていく脳内に刺激を与えるためにポンポンとおでこを拳で叩いてから、短くため息を漏らす。

 

(何はともあれ、あたしは見極めなくてはいけない。この腕輪がこの子のためになるものか、それとも害になるものか、を……)

 

 そして、害になるのならばどんな方法を使ってでも跡形も残さずに排除し、もう二度とこの子に近づけさせないように周りを固めていかなければーーーー

 

「すぅ………ハァ!? ぅ………すぅ…………」

 

 ーーーーにしても、危なっかしいデスね。

 さっきまで必死にあたしに追いつこうとしていた歌兎だったが、今では眠気が勝っているのか……一歩、また一歩と前に出す脚が絡んでは前のめりに倒れ込みそうになっては、その寸前に「ハッ! 」と目が醒めては持ち直す。だが、すぐに眠気が強くなり、脚がもつれ始める。

 

 その様子をしばらく様子見してみるが、いつにも増して、ヨチヨチとぎこちなく歩く妹にハラハラしながらその場に立ち止まる。

 

 そういえば、昨日一緒に布団に入った時にあたしはすぐに寝れた感じだったが、妹の方は腕輪に興奮してしまっているのか……ゴソゴソと身体を動かしていたような気がする。その後もゴソゴソと動かしては興奮して寝れなかったんだろう。

 つまり、何が言いたいかといえば、単に寝不足であろう。

 歌兎のこの強すぎる眠気は。

 

「はぁ……」

 

 呆れたようなため息を漏らしながらも口元が思わず緩んでしまう。可愛すぎるのだ、妹が。

 必死に眠気に耐えながらもあたしに追いつこうと早足で歩くも耐えられなくなり、コトコトと小舟を漕いでしまい、脚がもつれては前のめりに倒れ込みそうになる。そして、目を覚ましてはまたコトコトと小舟を漕ぎながらも必死にあたしに追いつこうと歩く姿があまりにもひよこっぽくて可愛らしく愛らしい。もうギュッとしまいたいくらい可愛すぎる。

 

(だがしかし、仕方ない。ここは)

 

 眠そうな顔で突然立ち止まったあたしを見上げる歌兎ににっこりと微笑みながら、あたしは眠そうな黄緑の瞳と同じ高さまで腰を落とす。

 

「歌兎」

「…?」

 

 とろーんとした目で突然立ち止まり、自分の視線の高さにまで腰を落としたあたしを不思議そうな目で見つめながら、"何? "と言いたげに小首を傾げる。

 

「昨日、あまり寝れてなかったでしょう? スーパーに着くまでの少しの間お姉ちゃんが抱っこしてあげるから寝てなさい」

「…でも、僕、重い……よ」

 

 そう言いながら、距離を取ろうとする歌兎を素早く抱き上げ、お尻へと両腕を添える。

 

「歌兎一人抱っこ出来ないなんて、お姉ちゃんの名前が泣きます。それに歌兎は重くないデスよ、軽いくらいデス。もっとご飯食べて大きくならないといけませんね」

 

 耳にかかる房を耳へとかけ、露わになった頬へとチュッとキスを落としてからとんとんと優しく頭を撫でる。次第に肩へと頭を押しつけてくる。

 

「だから、今は少しだけお休みなさい」

「…ん」

 

 ギュッと首の後ろへと両手を添えて、忽ち右肩に顔を押し付けて寝落ちする妹の後頭部を撫でてあげながら、あたしは"よいっしょ"と軽く飛んでから妹を抱き直す。

 そして、乱暴に右ポケットに突っ込んでいたメモを器用に広げてからそこに書かれているものを確認しながら、もう一つの目的も確認する。

 

「さてと。今日は調から買い物リストを頼まれてしまいましたし……それにーーーー」

 

 今日は4月11日。

 4月13日(Xデー)までたったの2日。

 この街へと買い物はそのXデーをより良いものにするための下調べということだ。

 

 

 

7.

 

  誰かがないている……

 

『おね……ぅっ……ちゃ……ん……ゔぅぅ……』

 

  誰かが泣いている……

 

『おね……っ……ちゃ……ん……どこ……? 』

 

 そうか、これは僕の記憶なんだ。

 あの時の僕は何も出来なくて、ちっぽけで弱虫で。何をするのも姉様が居なくては何も出来なかった。何をするのも姉様の後ろに隠れてばかりでいつも助けてもらってばかりだった。

 

 だがしかし、今は力がある。

 

 腰付近に埋まっているミョルニルの破片。

 手首にはめられているメギンギョルズの腕輪。

 この二つがあれば、きっと僕も姉様の……ううん、お姉ちゃんのーーーー

 

「ーーーーう」

「……」

 

 誰かの呼び声が聞こえる。

 幼い頃から聴き続けているような……懐かしさを含むこの声は。

 

「……たう」

「……」

 

 誰かが僕の名前を呼んでいる。

 聴いているだけで心が温かくなるような、元気が沸き上がってくるようなそんな声。

 その声は僕の知ってる中では一人しかない。

 そう、この声はお姉ちゃんだ!

 

 そう思った瞬間、目が醒めて。目をパチクリ開けたその瞬間、目の前にある垂れ目がちな黄緑の視線と視線が交差する。

 

「うたうッ」

「……ん?」

 

  目をパチクリしながら起き上がるとにっこりと微笑む姉様の顔があり、僕も吊られて、にっこりと微笑む。

 

「おはようデス、歌兎」

「…ん、おはよ、姉様」

 

 お互いに挨拶を交わし、そっと腰を落としてから地面に両脚が触れるのを待ち、靴底にコンクリートの硬い感触を感じた後はスクッと立ち、ゆっくりと立ち上がる姉様が差し出す手へと自分の手を重ねる。

 

「さぁ、いきましょう、歌兎」

「…ん、姉様」

 

 繋いだ手を引っ張られながら、僕は人波をかき分け、街並みを歩く。

 見上げる姉様の空いた手にはシラねぇから頼まれた買い物リストが握られていて、もう一方は僕の手と繋がっている。

 そして、垂れ目がちな瞳にはもう好奇心が芽吹いており、僕の鼻腔には左右に並んでいるお店から漂ってくる食べ物の香りが擽ぐる。

 

 ぐぅぅ……

 

 大きなお腹の音が真横から聞こえて、びっくりして見上げるとそこには照れたように笑っている姉様の姿があった。

 

「あはは……朝ごはん食べたのに、もうお腹空いちゃったみたいデスね」

 

 そして、僕はというと小さくお腹の音が鳴った気がした。

 なので、微かに笑いながらも姉様にうなづきかける。

 

「そうだね、僕もお腹空いちゃった」

「歌兎もデスか。なら、どうしましょうか……少し多めには貰ってますが、あまり使えませんし……」

 

 そう言って、周りをキョロキョロ見渡した姉様は何かを見つける。そして、目をまん丸にすると、ちょんちょんと近くに建つスーパーを指さすのだった。




 次回 雨

目新しい商品や店々に心を躍らせる姉妹の上には不穏な雨雲。

水分を多く含む真っ黒い雲からぽつりぽつりと降ってくる雨粒を避けるように近くの店に入った姉はそこで気付くーーーー

確かに繋いでいたはずなのに……

固く繋いでいたはずなのに……

今でも温もりが残っているというのに……

ーーーー妹の姿が何処にも居ないこと、を







ちょっとしたお知らせです。
何日かかるか、いつからするかはお伝え出来ませんが……章の整理と話数の整理をさせていただきたいと思っております。
今しおりをしてくださっている方や読者の方には多大なるご迷惑をおかけすると思いますが、無事に新しい並び替えと章の出来上がりを待っててもらえると嬉しいです。
では、次の回にて会いましょう!

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