うちの姉様は過保護すぎる。   作:律乃

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久しぶりのうたわれとのクロスオーバーの章、今回の話は第三者視点のハクさん寄りとなってます(敬礼)

ネコネちゃん登場までまだまだだ〜ぁ………更新頑張ろっ(ぐっ)




002 とうそうするもの

2.

 

「痛……一体なんなんだ……」

 

 そう呟いた青年は雪の上に尻餅をついては自分へと思いっきりぶつかってきた少女の容姿をまじまじと見る。

 自分にものすごい勢いでぶつかっていたのであろう少女は青年と同じようにふかふかの初雪の上にお尻を沈めており、痛そうに病衣の上からお尻をさすっていたかと思うとハッとした様子で青年の事を見つめ、申し訳なそうに形良い眉をひそめる。

 

「ごめんなさいっ。思いっきりぶつかっちゃって、怪我はしてないデスか?」

 

 前のめりでそう青年に尋ねてくる少女の容姿は青年の目から見ても控えめにいって美少女と分類される人種だと思った。

 前のめりになることによって揺れる明るめの金髪は肩のところで切りそろえられており、左側に大きな✖︎(ばってん)型の髪留めがつけられていて、こっちを心配そうに見つめる瞳は垂れ目がちの黄緑色でキュッと結んでいる唇は桜色。輪郭は幼さが残っているものの年を重ねていくたびに美人へと育っていくのであろうと想像出来た。

 また、青年にぶつかった反動で細身な体躯を包んでいる病衣がはだけてしまったらしく、V字に開いている襟首から華奢な身体に不似合いな二つの膨らみが織りなす谷間が見えてしまっている。

 

 青年は暫く少女を見つめて、口を開こうとして口を閉ざした。本当はここがどこなのか? この近くに人家はあるのか?と尋ねようとしたのだが、目の前の少女の服装が自分に酷似しているところを見ると目の前の彼女も自分と同じように記憶が曖昧になっているのかもしれない。

 なので、青年は少女へと僅かに遅れたが返答する。

 

「ああ、自分は問題ない」

「そうデスか、良かった……」

 

 安堵からか胸に手を置いて、溜め息を一つ着くと金髪の少女は自分の目下へと視線を向けるとそこには胸に抱かれた小さな塊がいた。

 

「歌兎も大丈夫デスか? 何処か痛いところとかはないデスか? あったなら、おねえ–––」

「–––…ううん、僕なら大丈夫だよ、姉様。姉様の方こそお尻大丈夫?」

 

 金髪の少女が胸に抱えた小さな塊は身動きすると自分の方を見つめている黄緑の瞳の中で渦巻く心配の色が増していっているのか、言動がオーバーになっていっている金髪の少女へと淡い笑みを浮かべて、物静かな声を上げる。

 

(……ボ、ク? 自分と同じ男なのか? それよりも姉様だ、と? 自分の前にいる二人組は姉弟(きょうだい)なのか?)

 

 青年が見つめる先で金髪の少女・姉の胸から離れた弟? は淡い光の中でも水色の光る背中まで伸びた銀髪を揺らして、金髪の少女を見上げる。

 見上げる瞳の色は目の前にいる姉と同じで黄緑色で眠たそうに半開きしており、男性にしては可憐で愛らしい顔立ちは幼さが残っており、丸みを帯びている。

 またこちらも姉同様細身で小柄な体躯を包んでいる病衣から肩と胸が見えてしまっているのだが………青年はそこであることに気づき、慄いた。

 

(ふさふさの耳にしっ、ぽだ、と?)

 

 そう姉と会話している弟の本来耳があるところには白銀の狐の耳みたいなものが付いており、病衣からはふさふさの狐の尻尾がまるで生きているかのように左右へと揺れているのだ。

 それにズレているところからチラ見する胸は男性にしては小さいながらも柔そうに膨らんでおり、青年は驚きと共にさっきまでの間違いに気づく。

 

(姉弟ではなく姉妹だったのか……)

 

 しかし、どういうことだろうか?

 姉の方は青年と同じように耳がふさふさの獣耳に変化しておらず、お尻からもしっぽが生えているわけではない……では無いのに、妹の方にはそれが生えてしまっている。

 そもそも、本当に青年の目の前にいる少女達が姉妹なのかも本人達に聞いてないので分からない。

 

 困惑する青年とは違い、目の前にいる姉妹は会話を重ねているうちにあることに気づいたらしく、勢いよく雪から立ち上がると左右から青年の手を掴む。

 

「…それよりも姉様、あいつが来てる」

「そうデス! あいつから逃げてたんでしたっ。お兄さん、立てますか?」

「お、おい……」

 

 自分に起きていることも分からず……自分の前にいる二人組が姉妹なのか、姉妹ならば何故妹の方に普通はついてない獣耳としっぽが付いているのか……それも聞くことが出来ず、ただただ困惑し固まる青年を左右から手を引っ張ることで無理矢理地面から起こした二人は次の瞬間、脇目もふらずに雪の上を疾走する。

 

「…お兄さん、巻き込んでしまってごめんなさい。でも、今は何も言わず僕達と一緒に"アレ"から逃げる事に専念して––––ッ!?」

 

 そこで言葉を切った妹は青年ごと姉へと飛びつき、次の瞬間三人が走っていた頭上の上を鉄と鉄がぶつかるような耳障りな音が聞こえ、妹によって押し倒され、姉の上へと倒れこむように崩れ落ちた青年はそこでやっと姉妹が何から必死に逃げていたのかを知る。

 

(なんなんだ、アレは……)

 

 地面に倒れこむ青年達を見下ろすのは小山一つくらいある蠍のような……ムカデのような……薄鈍青色をしたもので–––青年の記憶にあるものよりもスケールも自分達を引き裂こうとしている左鋏と右鋏の大きさも見たことがない。

 

(あっ、そっか、これは夢なのだな……)

 

 だが、夢にしてみては自分の下敷きになっている金髪の少女から漂ってくる女の子特有の甘い香りとほんのり温かい体温、そして顔を押し付けている大きく柔らかい二つの膨らみの感触もリアルだ。

 

「いったた……お兄さんは大丈夫デ、デデデっ––––いつまであたしの上に乗っかってるデスか!?」

「ぐべしっ」

 

 目の前で起こる自分の知っている現実からかけ離れた事が続き、現実逃避しようとしている青年が自分の胸へと顔を押し付けている事に遅くなってから気づいた金髪の少女は顔を真っ赤に瞬時に染めると凄まじい勢いで自分から引き剥がす。すると青年はその勢いのままに地面へと後頭部をぶつける。

 

「それと歌兎。危ないデスよっ!! いきなり押し倒してきたらっ」

「…ごめんなさい。でも、そうしないとあいつの攻撃から姉様とお兄さんを守れなかった」

 

 そう言いながら、水銀の少女は警戒するように目の前にいる蠍とムカデを足したような奇妙な蟲を睨みつけながら、地面に倒れている姉と青年を背後に守るように立ち回りながら、周りを手探りで武器になりそうなものを探し出していると彼女の右手の中に小さな小石が当たる。

 

(これは……)

 

 少女が持ち上げたその小石がだんだんと薄花(うすはな)色へと変色していっているのを見て、少女はハッとしたようにその変色した石を今まさに少女達へと振り下げようとしている左鋏に向かって変色した小石をぶん投げる。

 すると、暫くしてカッチンと小気味よい音が聞こえ、小石を当てられた左鋏は物凄い力に引っ張られるように空に向かって伸びていき、その結果蟲の巨体がグラつく。

 それをマジマジと見せつけられた青年はあんぐりと口を開けてから、蟲の体制を崩した水銀の少女を見つめる。

 

「なぁ……」

 

(なんなんだ、なんなんだよ、自分は一体何を見ている……)

 

 呆然とする青年を再度起き上がらせた姉妹は蟲から逃げるように足を高速で動かしつつ、お互いに顔を見合わせると情報交換を行っている。

 

「歌兎、さっきのって……」

「…ん、メギンギョルズの力だよ。小石がギアの色へと変色したからもしかしたらって思ったら使えた」

「なるほど……」

 

 金髪の少女はさっきの光景を思い出すと暫し思考する。

 

(でも、どういう事デスか? あたしも歌兎もペンダントを持ってないのに……どうして、聖遺物の力……メギンギョルズが使えるんデスか?)

 

 しかし、先程妹が見せつけた力は窮地立たされた時に助けられ、経験したメギンギョルズのもので間違いはない。

 妹の胸に人工的に埋め込まれた聖遺物は"対象の能力、力と呼ばれるものを倍増させる"という能力を持つ、つまりさっき妹がしたのは自分の"腕力"と小石がぶつかる時の"威力"を倍増させたのだろう。

 

「…姉様、このままじゃ追いつかれるっ」

 

 金髪の少女は妹からの悲鳴めいた声によって考え事から覚醒し、腹を決めたように妹は空いた手を差し出す。

 

「こうなったらっ。歌兎、お姉ちゃんの"脚力"を倍増させてください」

 

 金髪の少女が差し出す手を握った妹が集中するようにブツブツと何かを呟いている中、青年は今だに現実逃避の考えから抜け出せずにいた。今に自分達を追いかけてくる巨大な蟲、その蟲をよろめかせるほどの力をいきなり披露した獣耳としっぽを生やした少女。そして、現在進行形で速度が上がっていっている金髪の少女の脚力……もう何一つ意味がわからないし、夢なら覚めて欲しい。

 しかし、そんな青年の願いとは裏腹に寒さで感覚が無くなりつつある頬を鞭のように叩きつける冷風と–––

 

「もっと早く……もっと早く走らなくちゃダメなんデスっ。こんなところで死にたくない、死なせたくない……ん、デスッ! 歌兎を、巻き込んでしまったお兄さんをッ。だからッ!!」

 

–––自分と妹の手を引き、生きる為に鬱蒼(うっそう)と生い茂る森林の中を疾走する金髪の少女の必死な表情を見ていると"夢"と片付けるにはあんまりな気がする。

 

 

 

 圧倒的な情報に押しつぶされそうになっていた青年がやっと現実と向き合おうとした最中、青年達の姿は暗闇の中へと姿を消していったのだった––––––。

 




切ちゃんと歌兎はうたわれるものの世界に召喚された際、着ていた衣服は病衣へと変わりました。
今まで彼女達が寒さに気づかなかったのは状況整理が間に合ってなかったのとボロギギリとの対峙でそれどころでなかったのが主です。
以上、ちょっとした本編の補足でした〜。

しかし、書いててなんですが……ハクさんが切ちゃんの胸にダイビングしたところは心の底から"ハクさん羨ましい……私と位置変えて欲しい"と切に、切に思いました(ブレない変態作者)




朗報です!!!

遂に、やっと遂に……うたわれるもののアプリゲーム【うたわれるもの ロスト・フラグ】が11月26日に正式にサービスを開始しますねッ!!(歓喜の舞)
私はツイッターの方でアプリゲームが制作されていることを知り、すぐに事前登録をさせていただき、Suaraさんの【天命の傀儡(マリオネット)】をYouTubeの方に聞きに行ったり、暇な時はスマホに入れている《キミガタメ》や《恋夢》《夢想歌》を中心的に聞いて、今か今かと開始日を楽しみにしてたんですが……待った甲斐があった……(嬉し涙を拭く)

個人的に嬉しかったのは【散りゆく者への子守唄】【偽りの仮面】【二人の白皇】に登場した人物達が登場している点です!!

開発途中の戦闘動画のルルティエちゃんの必殺技? 固定技? が《花神楽》だったのは意外でしたし……何よりもシス姉様に出会えるのが飛び上がるほど嬉しかったですっ。
デレる前のシス姉様、デレデレなシス姉様、陶酔するシス姉様は本当に可愛らしく、個人的に大好きだったので……(照)


また、【二人の白皇】もアニメ化が決まり……うたわれるもの関連のニュースが朗報続きで私の興奮は留まることを知りませんっ!!


最後に、うたわれるものとのクロスオーバーにて切ちゃんと歌兎の飲酒シーンは書いても良いかというアンケートにて貴重なご意見、アンケートに答えてくださった方々ありがとうございます(土下座)
締め切りまでは早いと思いますが、締め切らせていただこうと思います。
アンケートの結果は、二人には思う存分飲酒して貰おうと思ってますっ。

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