※※※※※※※※※※
本作は会話文と戦闘曲を区別する為、戦闘曲の時は色をつけてさせてもらってます。
色付けは各キャラクターのイメージカラーとなってます。
(例)
歌兎 ➡︎ 水色
響ちゃん ➡︎ 橙色
翼さん ➡︎ 青色
クリスちゃん ➡︎ 赤色
マリアさん ➡︎ 銀色(灰色・濃い)
調ちゃん ➡︎ 桃色(ピンク)
切ちゃん ➡︎ 緑色
セレナちゃん ➡︎ 銀色(灰色・薄い)
といった感じです。
※※※※※※※※※※
6.
翼お姉ちゃんとマリねぇを待って、ショッピングセンターへと入った僕と姉様たちは今後の予定について、再度確認する為に他のお客さんの邪魔にならないところに固まる。
「さて、着いたわけだが……ここから何すんだ?」
「予定としては、みんなで服を見たり、アクセサリーを見て回るんでしたよね。その後は、みんなでお昼ご飯を食べて、カラオケでお終いって流れだったと思います」
「なら、早速そこの服屋から見て回るとするか」
「えぇ」
集まった人達の顔を個々に見渡したクリスお姉ちゃんが問い、それにセレねぇが返答し、それを聞いた翼お姉ちゃんが近くにある店を指差すのを見て、みんながそれに同意するように其々首を縦に振ってからそのお店に足を運ぶ中、姉様が僕に向かって聞き手を差し出す。
「歌兎、はぐれるといけないので。今度はお姉ちゃんと手を繋ぎましょう」
「…ん」
小さくうなづき、差し出される姉様の掌へと自分の手を添えてると嬉しそうに表情を崩した姉様がギュッと握ってくれるので握り返していると先に行っていたクリスお姉ちゃんから声が聞こえてくる。
「おい、そこの二人、早くしないと置いてくぞ」
「はーいデス! さぁ、行きましょう、歌兎」
「…ん」
クリスお姉ちゃんに急かされ、姉様と一緒に店へと足を踏まれた瞬間、姉様の少し垂れ目がちな瞳が段々と大きくなっていくと次の瞬間、僕の両手をガシッと掴むとブンブンと上下に振る。
「にゃっにゃーッ!!? 歌兎歌兎、歌兎ッ!! ナウい洋服がこんなにもいっぱいデスよ!?」
「…ん、いっぱいあるね。あと、そんなに呼ばなくても聞こえてるよ…姉様……」
そんな僕の小さな抗議は姉様が立てる風によって吹き飛ばされ、すっかり興奮しちゃっている姉様に導かれるままにズンズンと店内へと入り込み、とある商品棚の前に来ると一つの服を手に取る。そして、僕の方へと近づけると満足げに何度も首を縦に振る。
「これとか、歌兎に似合ってると思うデスよ。これも可愛いのデスッ! 歌兎が着たら宇宙一可愛いに違いないのデスよ! 今すぐ着てみましょう! ささっ!!」
「……う、うん……」
いつも以上に元気MAXな姉様に気圧されながらも手を引かれて近くの試着室へと入っていく。
本来なら試着室には僕一人が入り、僕が姉様の選んだ服を着て、カーテンの向こうにいる姉様へと見せるのがこの試着室の使い方なんだろうと思う。
そう……普通の姉妹または普通の姉であれば……–––––だが、僕と
まず、最初の順序から違うのだ、普通と……過保護な姉様はさっき気に入った洋服とは別に物色して良いと思った洋服を両手いっぱい持ちながらも器用にカーテンを開け、僕を中へと招き入れると器用にカーテンを閉める。
そして、当たり前のように僕の服を脱がし始めると脱いだ服は姉様が近くのハンガーにかけ直すと試着する服を着せてくれる。
着せてもらった後は選んでくれた服を揺らしながら、その場で1回転してから姉様へと『どう? 似合ってるかな? 』と聞くのがこの試着室での僕が体験している一連となる。
で、決まって、尋ねられた姉様は僕の問いかけにこう答えるのだ––––
「最高に決まってるのデス!! やっぱり、お姉ちゃんの見立ては間違ってなかったんデスね!! お姉ちゃんの目には、今の歌兎が天使に見えるデスよ!! はぁ……天使様、エンジェル様、あたしのところに妹として生まれてきてくれてありがとうございます」
組んだ両手を胸の前へと移動し、腰を折って片膝をつけてから僕を見上げる姉様は少し垂れ目な黄緑色の瞳いっぱいに歓喜の波を揺らしながら、大袈裟なことを
(––––それは流石に言いすぎたと思うよ、僕)
というセリフなのだが……太陽のように光り輝く笑顔が曇ると思うと言い出せず、僕は曖昧な笑顔を浮かべたまま、その後も姉様が見立てた服を試着していき、試着し終えて姉様のお目にかかった洋服のみがレジへと運ばれてから購入という形になるものを離れた場所で見る。
正直、こんな歳になっても、姉に服を買ってもらうというのは恥ずかしいことだし、本当ならば僕も自分で洋服の一つも買ってみたい––––だがしかし、僕の金銭的にはこればかりは仕方がない……。
だって、僕のお給料は姉様の手によってしっかりと握られ、管理されている。なので、毎月のお小遣いは3000円。因みにF.I.S.の時は100円とか300円だった。
お小遣いの事でいうと……これは僕もマリねぇも、もちろんシラねぇやセレねぇも不思議がっているのだが……僕が関わると買い食いや"うまいもんマップ"なるものに惜しげもなく投資したり、その他諸々残念な感じで自分のお小遣いが消滅していく普段の姉様とは異なり、僕のお給料が振り込まれている通帳、そしてF.I.S.の時にこっそりと貯めていたヘソクリの紐はビクともしないくらいに固く、管理も厳重なのだ。
お給料といえば、今のお小遣い制度に文句も何もないのだが……姉様は僕がどれくらい稼いでいるのかというのを見せてくれようとしてくれない。お給料明細も姉様の方が僕のと自分のを貰い、確認した上で僕へとお小遣いをくれる。
お小遣いが足りなくなれば、姉様へと頼めば追加してくれるのだが……僕だって自分がどれくらいお金を貰っているのか気になる。気になるからこそ前にその事について姉様へと尋ねてみた事がある。そして返ってきた言葉が以下の通り『今から貯金しておく事に意味があるのデス。歌兎が将来、働かなくても暮らしていけるくらいは貯めるべきデス。だから、お金の管理はお姉ちゃんに任せてください』との事。
それ聞いて思ったのは"働かなくても暮らしていけるくらい貯めるってどこくらいなのだろうか? "と"F.I.S.時代から姉様がそう言って貯めてるので、もう目標金額間近ではないのだろうか? ""そもそも姉様は僕の将来を思い貯めているお金は何万…何千万円となっているのか? ""そして僕は言いように言いくるめられてないか? "となどなど思う事も僕の将来の資金に関しても謎が深まっていく中、ツンツンと肩を叩かれて考え方から覚醒する。
「歌兎! これとか、調に似合いそうではないデスか?」
「…?」
「これデスよ」
覚醒して横に立っている姉様の方を見るとどうやら今度はシラねぇの為に服を選んでいる様子で満面の笑顔で問われ、姉様の視線を辿り、そこにかけられてあるワンピースを視界に収めて、脳内で想像してからコクンと首を縦に振る。
「…ん、似合う」
「デスよね! 白とピンクのワンピースに少し黒が入ってるところとか清楚な調らしいのデス!」
「…ん」
「そうと決まれば、調を探すデス!」
姉様はキョロキョロと辺りを見渡し、丁度近くを歩いていたシラねぇを発見すると『歌兎はここで待っててくださいね』と僕を居残りさせて、シラねぇの右手を掴むと
「調、ちょっとこっちに来てください!」
「何? 切ちゃん」
僕の前まで連れてくる際にチラッとシラねぇの顔を見てみると少し困惑気味なご様子なのだが、姉様は気にする事なくさっき見ていたワンピースを手に取るとそれをシラねぇへと差し出す。
「この服、歌兎と一緒に調に似合いそうって話してたんデスよ!」
「…ん、シラねぇからきっと似合う」
「ん……二人がそう言うなら試着だけでもしてみようかなぁ…」
シラねぇのその言葉を聞き、テンションが更にハイとなった姉様はガシッとシラねぇと僕の手を掴むと猛スピードで試着室へと突っ走る。
「そうと決まれば、善は急げと言うのデス、調! 早速、試着室へ行きましょう!」
「ちょっ、き、切ちゃんッ。嬉しいのはわかるけど、もっと常識人らしく落ち着いて……」
「…僕も入るのかな……」
そんな僕らの周りで買い物していたマリねぇとクリスお姉ちゃんの鋭い注意が飛ぶのだが、案の程姉様の耳には届かない。
「そこあまり騒がないの! 他の人に迷惑でしょう」
「そうだぞ! お前ら」
「まぁ、いいではないか。暁もみんなでこれで浮かれているのさ」
「そうだといいんだけどね……」
マリねぇの危惧は的中し、その後も姉様の溢れ出る好奇心は
そんな暴走気味な姉様を見て、思わず僕とシラねぇが苦笑いを浮かべてしまったのは、どうか許してほしい。姉様に呆れてしまったというわけではない。ただ、いつもよりも元気2000倍……いいや、元気2億倍くらいの姉様の行動力に疲れてしまっただけである。本当にそれだけである。
姉様が一人探索へと駆り出して、丁度30分後。
シラねぇと一緒に服を見て回っている中、目の前を横切る金と黄緑色の疾風は、目を丸くしている僕とシラねぇの手をそれぞれ掴むとまるで太陽のようなキラキラ輝く笑顔を浮かべる。
「調、歌兎。二人とも探しましたよ。こっちに来て欲しいのデスよ」
「どうしたの? 切ちゃん」
「…どこまで行くの、姉様」
僕とシラねぇを連れて、とある店へと入っていった姉様はジャジャーンと自分が注目している服へと両手を向けると、パタパタと指を動かしてみる。
「これ見てください! この服、とっても可愛いのデスよ」
(ふわぁ……かわいい……)
そこにかけられていたは、太陽と月、そしてうさぎのイラストが描かれたTシャツで……そのデザインがすっかり気に入った僕はシラねぇと共に姉様を見やる。
「あっ、本当だね。それに色違いもある」
「デスデス。なので、この服を三人で一緒に買いませんか?」
「いいね。私は賛成だよ」
「歌兎はどうデス?」
「…ん、僕もこのTシャツ欲しい」
シラねぇと僕のその言葉を聞き、姉様は瞬時に黄緑、桃、そして
「なら、決まりなのデス! 早速、買ってくるデスよ!! 調と歌兎とお揃いの服、GOGOデェース!!!」
「あっ、切ちゃん、待って。まだ、見てないところがあるから、一緒に見よ……って、もうあんなところにいる」
シラねぇのいう通り、姉様は三つのTシャツを両手に持ってニコニコと満足げな笑顔を浮かべながら、長い列に並んでいた。
暫く見てから、小さく溜息をついたシラねぇは僕へと腰を折ってから目線を合わせると小首を傾げながら尋ねる。
「切ちゃんの分まで私と歌兎の二人で他のところ見て回る?」
「…んっ」
「じゃあ、あそこのお店に行ってみよう」
シラねぇとお店を回っている間にTシャツを購入した姉様が合流し、流石にはしゃぎ疲れてしまったのか……さっきまでの姉様とは別人のように静かになった姉様はシラねぇと僕のペースに合わせて、買い物に付き合ってくれた。
そして、丁度、お昼の12時となる寸前グゥ––––と同時になる三つのお腹。
「お腹空いたよ〜ぉ」
「お腹空いたデス〜」
「…お腹空いた」
未来お姉ちゃんと手を繋いでいる響お姉ちゃんがお腹をさすり、僕と姉様も響お姉ちゃんと一緒行動をとるのを見ていたクリスお姉ちゃんがため息混じりに言う。
「こんな時だけ、お前らの腹時計って正確なんだな」
「だって、仕方ないじゃん〜。ご飯は生きていく上で必要な行動なんだよ〜」
そう言い、はぶてたように頬を膨らませる響お姉ちゃんを見て、笑う未来お姉ちゃん。僕は近くに立っていたセレねぇの裾を引っ張り、視線を下げてくるセレねぇの澄んだ水色の瞳を見つめていると僕のお腹が限界に近い事が分かったらしく、セレねぇは"仕方ないですね"と微笑むとトントンと僕の頭を撫でながら、近くにある定食屋を指差す。
「なら、あそこで昼ご飯にしましょうか?」
「あぁ、それがいいな」
みんなで近くにある店へと向かおうとしたその時だった。
僕たちの二課から貰ったデバイスがけたたましい音を鳴らし、装者全員が電話に出て、耳へと押し付けるのを見てから代表として出るのは翼お姉ちゃんでデバイスから漏れ出る声はもうお馴染みとなっているOTONA集団こと二課の司令官・風鳴弦十郎様である。
「はい、翼です。皆も近くにいます」
『そうか。楽しい休暇中に済まないが……今いるショッピングから左へと10キロ進んだ先にある工事現場へと向かってもらえないか? ヘリの方は既に向かわれてある」
「おい、待ってくれよ、おっさん。窃盗とか強盗とかは普通は警察の仕事だろ? あたしらの出る幕じゃねぇ」
『それがなぁ……その工場に出たのはノイズだそうだ』
「…ノイズ」
(つまり、そこに行けばあの人がいるということか……)
ギュッとパーカーの裾を握りしめ、唇を噛みしめる僕の頭をポンポンと撫でられる感触を感じ、顔を上げるとそこにはにっこりと微笑む姉様の姿があり、さっきまでの元気一杯の声から想像がつかない落ち着いた声が鼓膜を擽る。
「……大丈夫。みんな、あの事は気にしてないデスよ」
あの事……それは僕が犯してしまった絶対許されない罪。"気にしてないから"という理由で忘れてはいけない罪……だって、僕があんな事をしでかしてしまったが故にこの世界はノイズという脅威に晒され、今こうしている時も何処かで誰かが亡くなっているのかもしれないのだから……。
(……なら、その罪を償う為にも僕は率先して、その工場現場へと行くべきだろう)
それぞれがヘリが到着する場所に向けて移動する中、僕もねぇや逹とお姉ちゃん逹とともに向かおうと出そうとしている僕の両肩へと両手を置いてから自分の方に向けさせるのは、いつものニコニコ笑顔ではなく、真面目な顔つきをした姉様で––––。
「歌兎はダメデス。ここで未来さんとお留守番デス」
"なんで?"が最初に思った疑問だった。
そこに行けばあの人……ウェル博士が居る。ウェル博士からソロモンの杖を奪い取り、バビロニアの宝物庫を閉じることさえ出来ればもう誰も傷つかずに済む。僕があの日、ウェル博士の逃走を手伝ってしまったが為に起こってしまった惨劇を食い止められる……ううん、僕はここに居る誰よりもその場に駆けつけないといけないのに……なんで、姉様は––––僕を止めるの……?
「…でも、姉様。ノイズが出現してるんだよ!? 出現して居るって事は博士もいる。僕は博士を捕まえなくてはいけないっ。あの日、してしまった罪を償う為にもッ。だから、今日ばかりは僕も––––」
「歌兎」
だが、姉様は僕の名前を力強く静かに言うと、僕の肩へと両手を置く。
ただそれだけの事なのに……目の前で優しく微笑んでいる姉様から視線が離せなくなり、反論しようとして居た口元が自然と閉じる。
そんな僕の瞳を暫く無言で見つめた姉様はギュッと僕を胸元へと抱き寄せると安心させるようにトントンと背中を撫でる。
「本当に優しくて良い子デスね、歌兎。そんなにもあの日の事に責任を感じていたんデスね。でも、大丈夫デス。大丈夫デスからね」
「……」
何が大丈夫なんだろ……?
僕にはその"大丈夫"って言葉自体がある種の呪いのように思えて……"嫌だ、僕も行く"という我が儘を全面に押し出して、ギュッと背中へと手を回してみるがその手はゆっくりと外され、代わりにポンポンと頭を撫でられる。
「お姉ちゃんが歌兎が今感じている不安も罪悪感も全部お姉ちゃんがなんとかしてあげるから。工場に現れたっていうノイズも博士もけっちょんけっちょんにして、捕まえて帰って来てあげるから。だから、ね……歌兎はここでお姉ちゃん達の帰りを待っていて欲しいんデス。お姉ちゃんのお願い聞いてくれる?」
僕を安心させる為なのかニッコリとどこか陰のある笑顔を浮かべてみせる姉様を見ていたら、自然と唇を噛んでいた。
連れて行ってもらえなくて悔しかったのではない……ただただ大好きで敬愛している姉様にこんな表情をさせている自分自身が許せなかった。
だから、僕は食い下がろうとしていた言葉をグッと飲み込み、コクリと首を縦に振る……。
「…分かった」
「よしよし、いい子。流石、あたしの妹なのデス」
ぐしゃぐしゃと僕の髪を撫でると、姉様は立ち上がると未来お姉ちゃんへと僕を引き渡す。
「未来さん、歌兎のことをよろしくお願いしますデス」
「うん、任せて。切歌ちゃんもみんなも頑張って」
「じゃあ、未来行ってくる」
「うん、いってらっしゃい、響。気をつけてね」
ヘリが到着する場所へと駆けて行く姉様たちの背が消えた後でもその場に留まり、消えて行った方向をジッと見つめ続ける僕を見下ろした未来お姉ちゃんは目の高さに腰を折って話しかけてくれる。
「歩き疲れちゃったね、歌兎ちゃん。あそこのベンチで少し休もうか?」
「…ん」
未来お姉ちゃんに連れられて、ベンチへと腰掛けると未来お姉ちゃんがポツンと呟く。
「切歌ちゃんはきっと歌兎ちゃんのことが心配なんだと思うよ」
「……」
「たった一人の家族だもの。居なくなって欲しくないし、傷ついて欲しくない……私が切歌ちゃんの立場ならそう思うな」
そう言って、ニッコリと微笑んでみせる未来お姉ちゃんもそして他の装者のお姉ちゃん逹も優しくて暖かい……僕はそこまでしてもらえるような人では無いのに…………。
「…ん、分かってる。でも……」
「うん。歌兎ちゃんも同じくらい、切歌ちゃんのことが心配なんだよね。でも、歌兎ちゃん……時には信じて待つってことも必要なんだよ」
「…」
未来お姉ちゃんが言ってる意味が分からず、首をかしげる僕の方へと微笑みかけてからついさっき姉様達が走り去っていった方向を遠い目で見つめる。
「私の親友は切歌ちゃんよりも無茶して帰ってくるから、いつも心配なんだ。でも、私は響の事を信じてる。心から信じているからこそ通じ合える……ってらしくないこと言ってるのかな? 私。あはは…なんか、ごめんね。ちゃんと言葉に出来ないだけど……切歌ちゃんは歌兎ちゃんが悲しむことは絶対しないと思うんだ。だから、私とここで待っていよ? ね…?」
「…ん、未来お姉ちゃんと姉様達を待つ」
「うん、よく言えました」
優しく頭を撫でられ、くすぐったさから目を細めると未来お姉ちゃんと他愛のない話をしながら、姉様達が帰ってくるのを待った……
7.
姉様たちがノイズ討伐へと向かって、数時間後。
僕は未来お姉ちゃんと一緒に座っていたベンチ近くにあるワッフル屋さんへと並んでいた。理由は僕が未来お姉ちゃんへと"お腹が空いた"と言って、それなら軽く食べられ、小腹を満たせるデザートを二人で食べようということになったから。
未来お姉ちゃんは『みんなには内緒だよ』と意地悪に微笑んで、座っていたベンチの近くに立つワッフル屋さんを指差すと僕もコクリとうなづき、並び始めて15分後になって順番が遂にきたというところで、ショッピングセンターの入り口付近から聞こえてくる悲鳴が聞こえ、僕はハッとして未来お姉ちゃんと繋いでいた手を離すと脇目も振らずにその悲鳴がその悲鳴が聞こえてくる場所へと疾走する。
「…ッ!!」
「待って、歌兎ちゃん! ギアだけは纏わないで!」
後ろから聞こえてくる未来お姉ちゃんの制止の声を振り切り、僕は入り口を飛び出して、そこに広がっている光景に歯を噛みしめる。
「ギャアアア!?」
「助けてくれ! 死にたくな–––」
突然、現れた半透明な生物によって、次々と真っ黒な灰へと姿を変えていく人々たち。
その人達の日常を奪ったのは他でもない僕だ。こんな事で償えるか分からないけど……何もしないよりかは罪を償えるだろう。
そう考えた僕はその人たちへ向かって走っていく。
今まさに襲われそうになっている人たちの前に進み出ると––––
(行かなきゃ! 僕がここにいる人たちを守るんだ!!)
––––“生身の姿のまま”でノイズへと回し蹴りを食らわせ、胸に浮かぶ聖詠を歌う。
「…*1multitude despair mjolnir tron–––––ハァァァッ!!」
突然、目の前に現れた僕にびっくりしている様子の人たちへと顔だけ振り返ると
「…死にたくないなら、必死に走って逃げて」
「あっ、あぁ!」
パタパタと複数の足音が聞こえ、ひとまず、彼らを助けられたことに小さく安堵の溜息をつくとすぐに表情を引き締め、真っ直ぐ前を見据えると僕は肩に金槌を担ぐ。
「…ここにいる人たちには指一本触れさせない。ここにいる人は……僕が守るッ!!」
そう宣言した瞬間、両耳のイヤフォンから【
「小さいままじゃあ 救えない 報われない 守れないと分かった だから今こそ Scorchihg sun 痛む間もなく 打ち砕いてあげましょう こんな
群れをなして襲いかかってくるノイズが近づいてくる中、そんなノイズの集団へと金槌を振りかざした……
**8.
S.O.N.G.のミーティングルームでは忙しなくキーボードを打つ音が聞こえくる。
薄暗い室内の中、目の前の巨大なスクリーンに映し出させる映像や情報が慌ただしく、場面を移り変わっていく中、画面にいっぱいに警告音と共にノイズの出現を知らせる文字が点滅する。
「司令、響ちゃんたちが向かったところとは別にノイズが出現しました」
「なんだとッ!? 場所はどこだ?」
「さっきまで響ちゃんたちがいたショッピングセンター前です」
短い焦げ茶色の髪を揺らし、キーボードを打っている藤尭 朔也は続けて画面に表示されるアウフヴァッヘン波形に驚きの声をあげ、その声を聞いてきた赤髪に赤いカッターシャツを着た風鳴 弦十郎が眉を顰めつつ、藤尭へと問いかける。
「ん"これは!?」
「どうした?」
「ミョルニルが……戦闘中です。そのノイズたちと」
藤尭の返答に弦十郎は頭の中が一瞬真っ白になるような感覚に陥る。
コードネーム、ミョルニル。
その聖遺物を所有している装者はS.O.N.G.にも世界中にもただ一人しかいないだろう––––その装者の名は、暁 歌兎。
恐らく"アノ事"を危惧して、歌兎の姉である切歌辺りが彼女をショッピングモールに残していくのは読めて、響達が工事現場の方に向かっている中必然的に現場に近い彼女がノイズと対峙するのも分かる。分かるこそ弦十郎は表情を険しくさせる。
「くッ」
苦虫を噛みしめるというのはこの事を言うのだろう……。
画面の右端で自身の背丈くらいを振り回しながら、現れたノイズと戦闘を繰り広げる歌兎の左腕は細い腕に食い込むほどに強く巻かれた包帯がある。
その包帯の下に隠された本当の左腕は大変痛ましいことになっており、彼女の腕をそう至らしめた元凶こそか弦十郎達を苦しまされている原因なのだ。
もし、この戦闘中に歌兎がソレを発動させてしまえば––––––––––。
「……大の大人が子供のする事を信じられないでどうする」
弦十郎は最悪の事態を思い浮かべそうになり、頭を軽く横に振ると職員へとこう呼びかける。
「翼たちの討伐完了次第、応援を呼びかけよう」
それまで歌兎が持ちこたえてくれる事を弦十郎達は願うしかなかった……
**9.
そんなやりとりがS.O.N.G.であったとは露とも思わない装者たちは着実にノイズの数を減らしていき、遂に壊滅させた。
「ふぅ……はぁ……やっと終わったのデス」
「切ちゃん、お疲れ様」
「調もお疲れ様デス」
肩で息をしている切歌へと調が声をかける。
切歌は調へとにっこり微笑むと姿勢を正して、自分達がヘリでやってきた方を向くのを見て、クスクス笑うと結局この場所でも見当たらなかった白髪の青年を思い浮かべながら、調は切歌へと声をかける。
「結局、ここには博士居なかったね…」
「そうデスね……くっそ、あのトンデモもッ! 一体どこにいるんデスかっ。あいつが居ないと歌兎が……歌兎が助からないのに……」
両手に掴んでいる
「し、調……?」
突然のことに唖然とする切歌を見上げながら、調は落ち込んでいる親友を鼓舞する為に言の葉を紡ぐ。
「切ちゃんがそんなに弱気になってたら駄目だよ」
「……」
「歌兎なら大丈夫。あの子はこれまで色んなところで私達の事を助けてくれたし、何よりも切ちゃんの悲しむことするわけないよ。うん、するはずない……だから、早くアレを歌兎から取り除いてあげよ」
「……うん…」
まだ不安そうにしている切歌のおでこへと自分のおでこをくっつけた調はまっすぐ垂れ目がちな黄緑色の瞳を見つめ、切歌もまたつり目がちな桃色の瞳を見つめる。
二人の間に言葉はいらない、ただこうして目と目を合わせているだけで何もかも通じ合え、悩みも苦しみも喜びだって半分こ出来る気がした。
数分後、調は切歌から身体を離す時には切歌もすっかり元の調子に戻っているようでブンブンとオーバーリアクションを取りながら意気込む切歌をクスクスと笑う。
「……切ちゃん、みんなと合流しよ」
「はい! よーし、今度こそあのトンデモをこてんぱんのデストローイにして歌兎の前に引きずり出してやるのデスッ!!」
切歌が意気込む中、二人のデバイスが同時にけたたましい音を辺りへも響かせるのを見て、二人は急ぎで装者が集まっているところへも走って向かう。
「あなた達遅いわよ、何をしていたの」
「ごめんなさいデス。少し手こずっちゃって……」
「何はともあれ。皆無事で良かった。それでは電話をとるぞ」
そう言って、翼が代表して通信を取った瞬間、むこうから切羽詰まったような声が聞こえてくる。
『翼か?』
「はい。皆も無事戦闘を終え、一箇所に集まっています」
『そうか』
ドクンドクン……と弦十郎の切羽詰まった声を聞いているうちに切歌は着々と嫌な予感が胸を埋めるのを感じるが首を横に振る。
つい先ほど、調に励ましてもらったばかりではないか。それにずっと前からマリアにも『切歌。貴女は歌兎の事を何でもかんでも悪い方に考え過ぎよ』と言われている。
(そうデスとも。歌兎が心配すぎて、またいつもの癖で悪い方向に考えているだけなんデスから)
やれやれ、困ったものだと自分のことながら……呆れていると、奇しくもその嫌な予感は見事的中することになる。
『翼、響くん達も一戦交えた後に済まないが……今から早急にみんなが買い物していたショッピングセンターへと戻ってくれないか?』
「はーぁ? なんでだよ、おっさん」
『……歌兎くんが一人でノイズと戦っているんだ。そのショッピングセンターの前で』
「–––––エ?」
デバイスから聞こえる弦十郎の声に切歌の頭を一瞬真っ白になる。
(歌兎が戦っている……? 一人で、ショッピングセンターの前で……ノイズと……、なんで………)
湧き上がってくる疑問、焦り、困惑。
しかし、そのどれよりも胸へと飛来したのは––––––
(ノイズと戦っているってことはギアを纏ってる!?)
––––––このまま、歌兎がノイズと戦い続けていれば、自身に訪れるであろう喪失感……。
「くッ」
切歌は弦十郎の話を途中で切ると勢いよく後ろへと振り返ってからひたすら足を動かした。
「「「!?」」」
突然の出来事に装者達が反応できない中、いち早く硬直から回復したのは切歌の大親友である調であった。
「待って、切ちゃん!!!!」
猛スピードで自分達から離れていく緑色の華奢な背中へと声を上げるが今の切歌には調の声も届かない。
両耳を切る風に頬を叩かれながら、焦りに満たされる黄緑の瞳が見つめる先にあるのは–––––最愛の妹と別れたショッピングセンター。
(何してるデスか! 歌兎! あんなに約束したじゃないデスか! ギアを纏わないでって!!)
「歌兎…歌兎、どうか、無事でいてください。お願いだから…」
貴女が居なくなってしまったら……あたしは、お姉ちゃんは……どうしたらいいんデスか……。
このまま、
『切歌、これは大切な事です。落ち着いて聞いてください』
切歌の両肩へと両手を置いたマムのいつにも増して真面目な顔に当時の切歌はギュッと両手を握りしめる。
切歌にはマムが言わんとしていることは自然と分かっていた……分かっていたことこそ否定して欲しかった。
しかし、マムが口にしたのは切歌が想像していたよりも過酷なことだった……。
『––––今後、歌兎が《完全聖遺物・ベルフェゴール》を発動し、暴走するようならば……切歌、貴女の手であの子を殺しなさい』
『エ……?』
衝撃から意識を取り戻し、マムがいった意味をゆっくりと自分の中で咀嚼し、理解した当時の切歌は目の前にいる彼女へと酷い言葉を浴びせ続けた。
だが、マムは目の前で罵倒を繰り返す切歌へと申し訳なさそうな…寂しそうな…なんとも言えない表情で見つめ、『もういい! マムなんかに今後一切頼まないのデス!! 』と乱暴に扉を閉める当時の切歌の背へと一言こう呟いたのだ。
『…ごめんなさい』
その"ごめんなさい"の意味は今でも分からない。分からないが、マムがそう自分へと言った意味ならわかる。
「……大丈夫デスよ、マム。歌兎の事はあたしに任せてください……」
小さく影がさした表情で呟く切歌は目の前に見えてきたショッピングセンターへと飛躍するのだった……
かの女神トールが使っていたと言われる"どんなに強く叩きつけても破壊できない"といわれ、雷を起こすこともできる
ドイツからアガートラーム、イガリマ、シェルシュガナと共に渡ってきた聖遺物で、強すぎる力により、当初はギアにすることが躊躇われていたが実験最中に
だが、ネフィリムの起動実験でネフィリムを止める為に絶唱を歌ったカルマのギアが弾け飛んで、近くにいた暁歌兎の胸元へと破片が突き刺さり、融合症例第一号となり、歌兎がミョルニルの二番目の装者となる。
聖詠|multitude despair mjolnir tron
メインカラー|
メインアーム|基本は"金槌"。だが、今の適合者である歌兎が時間の流れや自分に対して