うちの姉様は過保護すぎる。   作:律乃

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大変、遅くなりました…

過保護な姉様こと切ちゃんと、姉様には基本絶対服従な妹こと歌兎のお泊まり会ですが…果たして、無事に終わる事が出来るのでしょうか…?

それは神のみぞ知る事でして…誰にも分からない事なのです…


004 お泊まり

翼お姉ちゃんの家にて、ゆっくりさせてもらっているとあ

っという間に、定期的に行なっている響師匠との訓練の時間となり、翼お姉ちゃんのバイクに乗せてもらって、約束場所に着くと橙のジャージを着た響師匠が軽くストレッチをしていた。翼お姉ちゃんにヘルメットを返していると、師匠が歩いてくる。

 

「あっ、歌兎ちゃん、翼さん、こんにちは」

「…こんにちは、師匠」

「こんにちは、立花」

 

自身のヘルメットも外し、バイクへとかけた翼お姉ちゃんに師匠は頬を照れたようにかきながら話しかけてくる。それに微笑みを浮かべながら、答えた翼お姉ちゃんは僕の方をチラリと見ると遠い目をする。

 

「いやぁ〜、びっくりですよ。翼さんまで来るなんて」

「いや、私も来るつもりはなかったのだが…歌兎をここまで、私が付いて行かずに歩かせて来たとなると…切歌がな」

 

その藍色の瞳にはここには居ない僕の過保護な姉様が映っており、それには師匠も僕も頷く。あの姉様が僕をここまで歩かせるわけがない…実際、毎日僕を半分以上の距離背負って歩いているし…。

そんな事情を知る師匠は苦笑いを深くすると頷く。

 

「あはは、そう言えば切歌ちゃんって毎日欠かさずに、歌兎ちゃんを近くまで送ってくれますし、帰りにはここまで迎えに来てくれるんですよ。本当、いいお姉ちゃんですよね〜。ねぇ、歌兎ちゃん」

「…ん。僕の姉様は世界一優しくて素敵な人」

「あはは!それは私と翼さんではなくて、切歌ちゃん本人に言ってあげて、泣いて喜ぶよ、きっと」

「…ん、そうする」

 

師匠と僕の回答に曖昧だったものが確信へと変わった翼お姉ちゃんは、心の中で何あっても僕を一人で行動させないようにしようと、心に決めたのだった。

しかし、そこでふと不思議に思う事があったらしく、僕と師匠へと視線を向けると問いかけてくる。

 

「うむ、やはりな。だが、何故、行きだけはここまで来ないのだろうか?」

「…それはシラねぇに怒られたから…じゃない、かな?」

 

僕が思い浮かぶ人物を上げると、それに師匠と翼お姉ちゃんも二人揃って意外そうな顔をする。だって、その人は僕の次…いいや、僕よりも姉様のことを理解して、信頼を寄せている人だったから。

 

「調ちゃん?なんで?」

「…姉様が余りにも僕を甘やかしすぎるから」

「あぁ…」「なるほど」

 

僕が理由を言うと、師匠と翼お姉ちゃんは同時に深く頷く。

当時の僕も姉様がシラねぇに怒られないようにと頑張ったものの、慣れというか…人というものはやらなくなったものに関して、どうも感覚が鈍ってしまうみたいだ。シラねぇ監督の元の一般生活の試験を行ったものの、掃除・料理・洗濯・買い物・着替えのどの項目は散々な結果となってしまった。

それをみたシラねぇ・マリねぇ・セレねぇの三人は事の重大さを重く受け止め、僕の一般生活スキルの上昇と姉様の妹離れへと勢力を向けているが…僕の方はまだしも、姉様の妹離れはもう手遅れかもしれない。だって、姉様の過保護が最近ではマリねぇにも移ってしまって、僕を二人して甘やかすのだから…。

でも、そんな過保護な姉様・マリねぇも僕のことを思い、敢えて厳しくしてくれるシラねぇ・セレねぇも僕はみんなみんな大好きだ。

だから、そんな四人の期待には答えたいと思っている。

 

「マリアさんだけじゃなかったんですね」

「あぁ、切歌の意識改革から始めようと、月読も頑張っているのだな」

 

師匠と翼お姉ちゃんが微笑み合うのを見て、僕も笑う。だがしかし、ある事を思い出して、苦笑い浮かべてしまう。

 

「…でも、姉様。シラねぇが居ないところでもいつもと変わらないから…」

「うん、まぁ…それこそ切歌ちゃんって気がするね」

「あぁ、切歌が過保護でなくなったならば…少し物足りない気がするかもしれないからな」

「…ん」

 

そのあと、三人で笑いあい、僕と翼お姉ちゃんも待っている間暇だからということで、師匠との特訓に精を出していった…

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

空が暗くなり、あたしと調は紅音たちと共に、お風呂に入っていた。騒いでいる四人よりも一足早く上がったあたしは、自分の布団を引きながら、思うは妹のことだ。

ちゃんとお風呂に入ったのだろうか、着替えはちゃんと出来ているのだろうか、ご飯はしっかり食べたか、響さんとの訓練で期待に応えようと無理はしなかったのか、考え出せば何十個も上がる心配事に、思わずパジャマの中に右手を突っ込むと中から黄緑色の携帯端末を取り出す。

だが、この豪邸・伊勢野家へ向かう途中に調にしつこく、このお泊まり会が終わるまでは歌兎へと連絡しないと約束している。それを破るとどうなるか…だがしかし、歌兎のことが心配でならない。

あたしは決意を固めると携帯端末から【大好きな妹・歌兎】を電話帳から探し出すとビデオ通信を押す。

 

「うぅ…デスが、調には歌兎に電話をしてはいけないと言われたけど…凄く気になるデスよ…。ちゃんとご飯食べたのかとか、お風呂の入ったのかとか、歯磨きは隅々までしたのかとか…気になるとキリがないのデスよ!」

 

(これは…あたしの不安を取り除くためにするのデス。そう、決して歌兎のお泊まりを邪魔しようとか…そんな気はさらさらないのデスよ。良しっ、そうと決まれば、こっそり、歌兎に電話するデェース!)

 

プルプルプル…と三回コールが鳴った後、あたしが呼び出していた相手が出る。

眠たそうに半開きした黄緑色の瞳が画面に映るあたしを見ると、目をまん丸にする。水色が入った銀髪がしっとりとしているように見えるのは、数時間前にお風呂に入っていたからだろう。

久しぶりに見る妹の顔に、あたしはニコニコと満面の笑顔を浮かべる。それを見た画面の向こうの歌兎もニコリと笑うと頭を下げてくる。

 

『…こんばんは、姉様』

「こんばんはデス、歌兎!」

 

歌兎に挨拶に元気よく答えるあたしに、歌兎はキョロキョロとあたしの周りを見ると小首を傾げる。恐らく、調が居ないことを不思議に思っているのだろう。

 

『…こんな遅くにどうしたの?シラねぇとお友達は?』

「調は紅音たちとお風呂デスよ」

『…そうなんだ、姉様は?』

「はい、先にお邪魔させてもらったデスよ。ほら、この通りデス」

 

画面にいる歌兎へとまだ水気がある明るい金髪を見せると、クスリと笑った歌兎が注意してくる。その注意に関して、胸を叩いて答える。あたしの答えに納得した様子の歌兎は携帯端末を置くと、身振り手振りで翼さんのお風呂の話をしてくる。その嬉しそうで楽しそうな顔を見ていたら、胸へとなんとも言えない気持ちが湧き上がってきて、あたしは知らぬうちに、ぷくーと頬を膨らませていた。

 

『…ちゃんと髪の毛拭かないと風邪ひいちゃうよ?』

「それに関しては大丈夫デスよ!後で、調に乾かしてもらうデス」

『…なら、良かった。僕もさっき、翼お姉ちゃんと入ってきたんだよ。お風呂、すっごく大きかった!足を伸ばしても付かないんだよ!」

「へぇ〜、そんなんデスか」

『…姉様?…何か、怒ってる?』

「別に〜ぃ、歌兎が楽しそうならそれで良かったデスよっ」

『…?』

画面の向こう、キョトンとしている歌兎に頬を膨らませていると、後ろから物静かな声がかけられた。それにビクッと肩を震わせるあたし。

ゆっくりと振り返ると、薄桃色のパジャマを着ている調と紅音たち三人がタオルで頭を拭きながら、部屋へと入ってくるところだった。

それに、冷や汗が頬を流れるのを感じたあたしは手に持った黄緑色の携帯端末を背中へと隠す。それを眼ざとく見ていた紅音に茶化され、あたしは思わずそれを口にしてしまう。

 

「…切ちゃん、誰かと話してるの?」

「!?調!?」

「おっ!キーってば、浮気かぁ〜?これは、シーが怒るっしょ」

「ちちち、違うデスよ!これは妹デス!浮気なんて…っ」

「ジィーーーーーーーーーーーーー」

 

滑らせてしまったセリフをしっかりと聞き取った調は“ジィーー”と責めるように、あたしを見てくる。それに、焦ったあたしは言い訳じみた事をいい、それによって更に調の無言のプレッシャーがあたしへと降りかかってくる。

 

「…あっ、やば…っ。ちちち、違うんデスよ…調…。これはデスね…、その…訳がありましてね…。どうしても、歌兎が心配で心配で仕方なかったんデスよ…本当に…それだけ…デ…スから……うぅぅ…」

「ジィーーーーーーーーーーーーー」

「痛い…痛いデスよ、調。視線が…痛い…胸をえぐるデス…。…ごめんなさいデスから…許してほしいのデス…。約束を破る気は…これっぽっちも…」

「ジィーーーーーーー。本当にそう?あの時の切ちゃん、すごく不服そうな顔してたよ?」

「うぐっ…あたし、別にそんな顔してな…」

「してた。切ちゃんは分かりやすいから、すぐに分かるの」

「ごめんなさいデス、確かに調が居ないうちに歌兎に電話しようと思っていたデスよ…」

 

正座をして自白するあたしの右手首を掴んだ調は、あたしを連れて、廊下へと出ようとする。その際に、黄緑色の携帯端末を落としてしまって焦るあたしのことを気にせずに、ぐいぐいと引っ張ってくる調にあたしは涙目を浮かべる。

 

「はぁ…やっぱり。切ちゃん、ちょっとこっち来て」

「へぇ?あっ、ダメデスよ!?スマホっ!スマホが!?調!歌兎が…歌兎が晒し者になるデス!?」

「すぐに済ませるから、早く来て。ちょっとだけお説教」

「怖い!調のその言葉がすごく怖いのデス!!歌兎、助けてください!!」

『…姉様?姉様が居なくなっちゃった…それに姉様の悲鳴が聞こえたような…?』

 

あたしが落としていった携帯端末へと紅音たちが群がる。いきなり、知らない人が映し出され、びくっと肩を震わせる歌兎を見て、黄色い声を上げる紅音たち。

 

「これが噂の妹さん?本当に切歌に似てないっ!すっごくかわいいぃ〜」

「どれどれ、私も見せて!おぉっ!本当、かわいい!キーより小さいんだね〜」

「それは妹さんの方が年下なんだから…そうなんじゃ…」

「はずきも見て見なって。すっごく可愛いのよ」

 

紅音と水羽に促され、歌兎を見たはずきは頬を綻ばせる。確かに二人が言う通り、可愛らしい外見を持った少女がキョロキョロと三人を見つめていた。そして、ある事を思い出したのか、ゆっくりと頭を下げてくる。

 

『…僕の姉様と調お姉ちゃんがお世話になってます。僕、暁 切歌の妹の暁 歌兎というものです。僕の姉様が皆様へと迷惑かけてないですか?』

「「「……」」」

『…あれ?皆様?僕…変な事言いました?』

 

本当に画面に映るこの少女が、あの常識人を保てぬほどの非常識100倍の大大スマイルぜんかーい!なクラスメイトの妹と言うのだろうか?

それにしては、雰囲気や性格とかも正反対な子だ。ぽかーんと自分を見つめる六つの瞳に歌兎はあたふたとしている。

そんな軽いカオス空間を生み出す四人の中に、調からのお説教を終えたあたしが帰ってきた。ガラッと扉を開けて入ってくるあたしと調へと振り返ってきた三人は口を揃えて、失礼な事を言ってくる。

 

「うぅ…酷い目にあったデスよ〜。調もそんな怒らなくてもいいじゃないデスか…」

「私に怒られるような事をした切ちゃんが悪い。約束は

「…ごめんなさいデス…」

「「「ねぇ、本当にこの子。君の妹?」」」

 

その失礼な言い分にあたしは三人から黄緑色の携帯端末を取り上げると顔を真っ赤にして怒る。怒るあたしのセリフにシンクロした動きで右手を横に振る三人。

 

「帰ってきて、突然口を揃えて、なんて事言いやがるデスか!失礼デスよっ!みんなしてなんなんデスか!どっからどう見ても、あたしの妹デスよ!目元とか雰囲気とか似てるでしょう!」

「「「いやいや、正反対でしょ」」」

「むきぃー!誰がなんというと、歌兎はあたしの妹デス!大体、あたしと歌兎の何をあなた達が知ってるというデス!」

「いや、知らないけど。性格真反対に、姉がこれって…あっ、なるほど。この姉だから…」

「水羽、それ以上は言うもんじゃないわ。キーも薄々は気づいているのよ」

「なんデスか!!その言い分はっ!紅音と水羽の言いたい事はあたしには分からないデスよ!!」

 

顔をトマトのように真っ赤にしたあたしへと右手に持った端末から歌兎の声が聞こえてくる。その声は悲痛な響きを秘めており、あたしはあたふたと言い訳みたいな事を言うと笑う。

 

『…姉様、怒ってるの?僕、怒った姉様嫌いだよ…。笑った姉様が好きだから、笑って…ね?』

「「「……」」」(((何この子…可愛くて、健気…))

「うっ…歌兎、違うんデスよ…あたしは怒ってないデス。ないデスから…そんな顔しないでください…」

「私から見ても大丈夫だよ、歌兎。切ちゃんは怒ってない」

 

調のサポートもあり、なんとか機嫌を直したらしい歌兎へと見知った声がかけられる。芝居のかかった凛とした声と共に現れた藍色の髪を背中に流している女性・翼さんは歌兎が持っている端末へと視線を落とすと微笑む。

 

『…そう?なら良かった…』

『歌兎?誰かと話しているのか?』

『…あっ、翼お姉ちゃん。ごめんなさい…うるさかった?』

『いいや、私もちょうど起きて、水を飲もうと思っていたところだ。電話の主は切歌か?』

『…ん、友達の楽しそうにしてた。みんないい人みたいで、僕も安心してる』

『ふむ。それならよかった』

 

ほっそりした右手が歌兎の水色の入った銀髪を撫でている。それを目を細めて、受け入れている歌兎の嬉しそうな顔を見ているとあたしの顔が段々と険しくなっていく。それを隣で見ていた調が声をかけてくる。

 

「…」

「切ちゃん、顔が怖いよ。そんな顔しなくても大丈夫。翼さんがそんな事しない。それにそもそも、切ちゃんが一緒に寝てほしいって言ったんだよ?」

「…分かってるデスよ。デスが…なんて言うんデス、ここがモヤァ?…雲がかかったみたいですっきりしない感じなんデスよ…」

『こんばんは、切歌、月読。楽しんでいるか?』

 

そんなあたしへと翼さんが声をかけてくる。本当に寝ていたらしく、いつもは剣の如く鋭く尖った光を放つ藍色の瞳が普段以上に暖かい光を宿している。そんな翼さんへとあたしは頭を下げるとお礼を言う。それを軽く手を振って、気にしなくていいと笑う翼さんは本当にいい人だ。

 

「こんばんは、翼さん。はい、切ちゃんと一緒に楽しんでます」

「翼さん、歌兎のこと面倒見てくれてありがとうございますデス」

『いいや、気にしなくてもいい。私も普段は一人で寂しいが、歌兎が来てくれて、久しぶりに楽しい一日を楽しませてもらったよ』

「それならいいデスが…」

 

その後、翼さんも交えての雑談を2時間くらいして、あたしは調の横で眠りについたのだった…




そして、翌日は大雨が降る中、ずぶ濡れで帰ってきた切ちゃんはその後大風邪を引いたそう…。そして、歌兎は風邪が移るといけないので、ということでもう一泊翼さんのところにお泊まりをしたそうです。




今回出てきた用語説明

【月読 調、監督の元行われる一般生活試験】
月一か年一で行われる暁 歌兎をダメ人間にさせないために行うことになった試験。
その科目は《掃除》《洗濯》《料理》《買い物》《着替え》の五つで、一科目の合格ラインは8。
だが、今回行われた試験にて、歌兎は全ての科目を3か1という散々な結果を残してしまい、歌兎の一般生活スキルの低さに事の重大さを知った調・セレナ・マリアはそれぞれの方法で歌兎のスキル上げの手伝いをしている。

→なんで、試験官を調にしたのかというと…F.I.S.組の『おさんどん』担当という事と、私個人の感想ではあの四人の中で一番、家事をこなしてそうと思ったからです。

因み、10〜1の評価欄は下の通りです。
10・・・パーフェクト。最早、達人レベル。文句無し。
9・・・生活していける上に、細やかな気遣いができている。
8・・・普通に生活出来るレベル。
7・・・抜けているところはあるもの、生活は出来る。
6・・・手伝わなくても一人で出来るが、あっちこっちに汚れが溜まっており、一人前とはとても言えない。
5・・・手伝って、何とか時間内に全部が終わる程度。
4・・・手伝って、何とか二分の一が終わる程度。
3・・・手伝って、何とか三分の一が終わる程度。
2・・・一人で生活はやばいレベル。
1・・・動くだけで汚れ、片付けようとすれば逆に汚れる。

また、今回の歌兎の結果が
《掃除/3》《洗濯/3》《料理/1》《買い物/1》《着替え/1》
です。


以上、用語説明でしたm(_ _)m

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