みんな、わたしについてこーい!!! (テンションハイ⤴︎⤴︎⤴︎⤴︎)
※ストーリー1は第三者視点でマリアさん寄り。
※ストーリー2は場面が次々と変わるので『〜*』のみで表現することがあると思いますが、読みづらさMAXですので…予めご了承下さい(土下座)
▼ストーリー1【マリねぇと焼き芋】▼
1.
秋も深まり、山々や街道の脇に植えられている木々が赤や黄、茶へと色づき始めた頃、とある学生寮ではいつものように元気一杯な声……ではなく、わんわんと大泣きしている一人の少女を取り囲むように一人の少女、そして女性がいる。
「ゔゔっ……ゔっづ……」
わんわんと朝から泣いているのは私立リディアン音楽院高等部の制服に身を包み、明るめの癖っ毛が多い金髪を肩のところで切り揃え、左側に大きな
「ほらもう泣かない。夜には歌兎に会えるんだから……ね?」
そのただをこねるように泣き噦る切歌の背中を摩り、落ち着かせようとしているのは漆黒の黒髪をピンクのシュシュでツインテールにし、切歌と同じようにリディアンの制服に身包んでいる少女・月読調である。
「で、でもぉ……じら"べ」
だがしかし、大親友である調に背中を摩ってもらっても切歌のブルーな気持ちは晴れないようで……啜り泣くのはやめても潤んだ黄緑の瞳はいまだに"うたうのへや"と書かれたプレートが下がっている部屋を見つめたままで、調はギュッと切歌の手を握る。
「切ちゃんの気持ちは私も痛いほど分かるよ。でも、歌兎の事を心配する気持ちと同じように……切ちゃん、この遠足楽しみにしてたでしょう? 歌兎も自分の事よりも切ちゃんには楽しんできて欲しいんじゃないかな」
「でもぉ」
「それに……今日はマリアが見てくれるんだもの。心配なんてないよ」
そう言って、いまだに心配そうな切歌を抱き寄せて、コツンとオデコを重ねる調のツリ目がちなピンクの瞳を暫し見つめた切歌は声が震えているが遠足に向かうことにしたらしい。
「……う、うん。そうデスね。マリアが見てくれるんデスもんね……」
玄関先で互いを抱きしめあっている調と切歌を優しい眼差しで見守っているのは玄関で白と水色を基調とした私服の上にピンクのジャケットを羽織り、ピンクのロングヘアーの上に水色の花を用いた髪飾りをつけている女性、マリア・カデンツァヴナ・イヴである。
マリアが見守る中、ゆっくりと身体を離した二人はギュッと恋人繋ぎで振り返るとぺこりとマリアへとお辞儀する。
「それじゃあ、そろそろ行こ? マリア。今日、歌兎の事もよろしくね」
「えぇ、任せなさい。二人とも楽しんでいらっしゃっいね」
右手を振るマリアへと近づいた切歌が自分を真っ直ぐ見上げてくるので慄きながら、受け答えすると帰ってきたのはいつも彼女言っていることでだった。
「ま、マリアァ!!」
「な、なに? 切歌」
「あの子は人よりも敏感で、体調も崩しやすいデスから。出かける時は–––」
「–––しっかりと重ね着をした上にニット帽、そして手袋をつけてください。でしょう?」
耳がタコができるほどに聞かされてきたその注意を切歌の声に重ねる形で言ってのけたマリアは唖然としている切歌へとウィンクすると安心したようにコクンと大きくうなづいた切歌は先に歩いて行っていた調へと駆けって追いつくとその左手へと自然に指を絡めるのを見て、二人が階段を降りていくのを見送ったマリアはさっきのさっきまで切歌が心配そうに見つめていた"うたうのへや"のドアノブを回しながら、中へと入っていく。
「さて、と。そろそろ、歌兎を起こそうかしらね」
そう言いながら、真正面に鎮座してあるベッドへと近寄ったマリアは自分の方へと毛布と掛け布団を引き避け、自分の誕生日に貰った沢山あるぬいぐるみの一つ、切歌を用いたものを大事そうに胸に抱き寄せて「すやすや……」と寝息を立てている少女・暁歌兎の枕元へと腰を落とす。
(いつもなら切歌じゃなくて他のぬいぐるみを抱き寄せて寝ているのに……)
言葉には出さなくても歌兎も大好きなお姉ちゃんが遠くに行ってしまうのは寂しいのだろう。その寂しい気持ちを埋めるために、恐らく無意識で切歌を用いたぬいぐるみを選んで、抱きしめながら眠りについたのだろう。
普段から溺愛っぷりを周りへといっかんなく発揮する切歌と違い、歌兎は自分自身に無関心すぎる上に終始眠そうな無表情と無口という無の連鎖で彼女の感情や気持ちを深くまで読み取れるのはマリア達の中でも数少ない……いいや、もしかすると実姉である切歌しかできないことかもしれない。
だからこそ、こうやって自分の感情をあまり表に出さない歌兎が気持ちを表に出すような行動をとるとついいじらしく思えてしまう。
「って、いけないわ。早く朝ご飯が食べさせないとコーンスープが冷めちゃう」
コーンスープを前もって温めていた事を思い出したマリアは気持ちよさそうに寝ている歌兎を起こす事に気が引けたが、朝ご飯を食べさせない方が問題と判断し、小さな肩へと右手を置くと左右に揺らす。
「歌兎。歌兎、朝よ。起きなさい」
数回揺らした後、軽く閉じていた長い銀色の睫毛に象られた瞼が数回震えた後、まだ眠そうにとろ〜んとしている黄緑の瞳が目の前にいるマリアをジィ–––と見つめながら、さらさらと光が当たると水色の光る銀髪を揺らしながら上半身を起こすとキョロキョロと辺りを見渡して、もう一度マリアを見つめて、キョロキョロとして小首を傾げる動作するのを黙ってみていると小さな呟きが聞こえてくる。
「…髪の毛がピン、クで……おっぱいがおおき、い……? マリ、ねぇだよね……? なんで、マリねぇが僕の部屋に……?」
(歌兎が私を私と認識しているのはそこなのッ!?)
じ、地味にショックだわ……。
切歌に比べると全然かもしれないが、二課と呼ばれていた今所属しているS.O.N.G.のメンバーに比べると長く月日を過ごしているはずなのに、そこしか判断できないって……歌兎は今まで自分のことをどのように思っていたのだろうか? そこばかり気になってしまい、マリアがモヤモヤしているとはつゆ知らず。歌兎は切歌を用いたぬいぐるみを抱き寄せながら、ベッドの下にひかれてあるカーペットへと両足を下ろすと壁にかけてあるカレンダーを見つめるとハッとした表情をしている。
「……? あ、そっか……今日、姉様とシラねぇは遠足だったね」
「そうなの。だから、今日一日中よろしくね、歌兎」
「…こちらこそお世話になります、マリねぇ」
ぺこりと頭を下げる歌兎が自分のことをどう思っているのかは今は置いておいて、朝ご飯を食べさせる事にしたマリアは歌兎を洗面台に連れて行って、顔を洗うのを手伝った後にリビングの椅子へと二人して腰掛ける。
「…あむ、うむ……」
「あまりがっつきすぎないの。唇の端にコーンスープが付いているじゃない」
頬を丸々にしながら、焼いた食パンとコーンスープを胃へと流し込んでいっている歌兎の向かいに座り、時々頬を拭いてあげながら、マリアは美味しそうに朝ご飯を食べている歌兎の顔を見つめながら、暫し考え事をする。
(朝ご飯は調が作ってくれたらいいとして……お昼ご飯、どうしようかしら?)
折角、歌兎と二人っきりなのだから。外食してランチというのもいいかもしれないが、そうすると歌兎が遠慮してお腹いっぱい食べない可能性の方が高い。
だがしかし、家で食べるとなると出前となってしまい、栄養価が偏ってしまうかもしれない。それは育ち盛りの歌兎の成長や健康面を考えると了承できない。
となると、最終的にはマリアが料理を作る事になるのだが––––
(––––その選択肢もボツね)
理由は言わずもがな、である。
「ふぅ……」
こんなにも考えても出てこないなら、思いっきって歌兎に聞いてみてもいいかもね。
最終的にそう結論づけたマリアは歌兎がパンを飲み込んでから尋ねてみる事にした。
「お昼ご飯、どうしようかしら……何か希望ある?」
自分の口サイズに食パンをちぎっていた歌兎はマリアからの視線からそっと横へと晒した後に恥ずかしそうに、反対されないか心配そうに小さな声で答える。
「…焼き芋」
「やきいも?」
(焼き芋って……あの焼き芋よね?)
意外な物を挙げた歌兎をパチクリと瞬きしながら見つめてくるマリアに歌兎は恥ずかしそうに頬を染めながら、たどたどしく理由を説明する。
「…うん、焼き芋が食べたい。あ、あのね、マリねぇ。前に響師匠と未来お姉ちゃんと一緒にしたの。落ちた落ち葉で焚き火をして、そこにホイルを巻いたさつまいもを入れてね、それで–––」
(あぁ……なるほど)
響と未来とした落ち葉でも焼き芋が楽しく美味しかったので、いつかはマリア達としてみたいと思っていたが……直に燃え盛る炎を使う焼き芋を過保護すぎる切歌が許すわけがないと判断し、言い出せずにいるところで今日のように切歌が家を空けている日が出来たのでやってみたくなったといった感じだろうか?
両手の指を合わせながら、心配そうにチラチラと此方を見てくる歌兎へと優しく微笑む。
「–––ふふふ。そんなに必死に説明しなくても大丈夫よ」
「…それなら」
「えぇ、切歌にも歌兎の希望に応えて欲しいと言われているし……」
(……何よりも私が歌兎の希望を、笑った顔を見たいものね)
「朝ご飯が終わったら、落ち葉拾いとさつまいもを買いに出かけましょうか?」
そう言って、微笑むマリアに元気よくうなづいた歌兎はよっぽど嬉しかったのか、普段はあまり見せない満面の笑顔をマリアへと見せる。
「…んッ! マリねぇ、ありがとう! だ〜いすきッ」
「––––」
「…マリねぇ?」
「な、なんでもないわッ」
満面の笑顔&『だ〜いすき』という言葉にクリティカルヒットしたマリアは心配そうに見つめてくる歌兎から視線を逸らすのだった。
2.
「これで準備は整ったわね」
「…ん」
流石に学生寮の庭で焚き火をするわけには行かず、マリアと歌兎はマリアが暮らしているマンションの敷地内になる小さな公園に来ていた。
さつまいもを買いに行く前に大家さんに許可を貰い、公園内や敷地内にある落ち葉を掻き集め、一箇所に集めた二人は買ってきたさつまいもへとアルミホイルを巻きつけてから掘った穴へと僅かに落ち葉を敷き詰めて、その上へとさつまいもを並べていく。
「歌兎。手袋に落ち葉がくっついてしまうわ。外しておきなさい」
「…ん、分かった」
切歌の言う通りに薄手のインナーヒートテックの上に厚めの長袖を着た上にダウンジャケットを羽織った歌兎は口元を覆っている
動きにくそうにさつまいもを巻いている歌兎を見ながら、マリアは苦笑いを浮かべる。
(切歌に言われたからって……流石に着せすぎたかしら?)
確かに今日は寒い日だけど、焚き火が始まったらマフラーと手袋、ダウンジャケットくらいは脱いでみてもいいかもしれない。
そう考えながら、マリアは最後となるさつまいもを穴へと並べると残りの落ち葉をホイルの姿が無くなるように被せながら、燃えやすいものへと火を付けるまでに歌兎を一歩後ろヘと下がらせる。
「火を付けるから、後ろに下がってなさい」
「…分かった。マリねぇも気をつけて」
歌兎を後ろに下がらせたマリアは火がついた物を焚き火の中に入れると忽ち落ち葉が火炎に包まれていく。
ばちばちと言いながら、ゆらゆらと静かに揺れながら燃える炎は黄、橙、赤、紅へと大きくなるにつれて、色を変えていき、ジィ–––と見つめていると心が安らぐ……そんなことを思いながら、その優しい光に照らされながら、二人が暖を取っていると
「ここに居たのか、マリア、歌兎」
「こんにちは、マリア、歌兎」
「おお、焚き火とは風流なことをしているね、お二人さん」
見知った声が聞こえ、二人して振り返るとそこには青いジャケットの下に白と水色を基調とした私服を見つけている青い髪をサイドテールにしている少女・風鳴翼。
翼の後ろでひらひらと片手を上げて、もう一方の手に何かを携えて、S.O.N.G.スタッフの制服に身を包んでいる女性・珠紀カルマ。
翼の隣で焚き火の前に腰を落としている二人の姿を見て、ニッカと笑いながら近づいてくるのはオレンジ色のセンターの上にダウンジャケットを身に纏い、癖っ毛の多い赤い髪を持つ女性・天羽奏である。
「…カルねぇ」
「翼……奏まで、三人でどうしたのよ」
想像してない三人の登場にマリアと歌兎は目をパチクリしながら立ち上がり、近づくと三人が其々にここに集まってきた理由を話し出す。
「いやね。切歌が今日は遠足で歌兎を置いて行かないといけないってワンワン泣いていたことを思い出したもんだから。様子を見にちょいっとね」
そう言って、お茶目を出しながら笑うカルマは歌兎の近くによるとその頭をニット帽越しに乱暴に撫でる。
そんな二人のスキンシップと焚き火を見守りながら、翼と奏のそばに寄ったマリアは二人の後ろに音もなく佇んでいる黒いスーツをビシッと着こなし、爽やかな笑顔を浮かべている青年・緒川慎次に会釈してから、二人がここに来た理由が何となく分かった気がした。
「私と奏は早めに仕事が終わったのでな。歌兎の事が気がかりなら心から楽しめないだろうと思い、様子を見に来たのだが……学生寮に居ないのだから、心配したぞ」
「その後はカルマと合流してな。歌兎が行きそうな場所を回っていたら、ここに辿り着いたってこった」
「そう、三人とも心配かけちゃったわね」
そう謝りながら、マリアはカルマによっていじられた髪の毛とニット帽を直している歌兎を見て微笑むとトントンとニット越しに頭を撫でる。
「いや、此方こそ要らぬ世話を焼いてしまったものだ。それよりこのような場所で焚き火などどうしたのだ?」
「…翼お姉ちゃん、焚き火じゃないよ。焼き芋してるの」
そう言う歌兎の言う通り、辺り一面にさつまいもの甘い香りが漂ってきて、奏がニカッと笑うとマリアへと問いかける。
「へぇ〜、焼き芋ね。マリアの考えかい?」
「いいえ、私じゃないわ。歌兎が前にあの子達としたようでね、してみたいって言ってくれたのよ」
「あの子達?」
首をかしげるカルマの声を遮るようにドタバタと元気一杯の足音と声が聞こえてきて、カルマを始めとした三人はマリアが指している"あの子達"とはこれから顔を表す彼女達のことだと分かる。
「クリスちゃん、未来ッ! マリアさんと歌兎ちゃん、ここにいるよ!! って、あれ〜ぇ? なんで、翼さんと奏さん、カルマさんがいるんですか?」
遠くからマリアと歌兎の姿を見つけ、あっという間に駆け寄ってきた肩まで伸ばした茶色い髪の両端へと赤いN文字を象った髪飾りを付けて、リディアンの制服に身を包んでいる少女・立花響。
で、響は二人以外にも見知った顔がある事に目を丸くする。
「恐らく、立花達と同じ理由さ」
「響。あまり先に行かないで。あれ? 翼さんに奏さん、カルマさんも……こんにちわ」
制止する声も聞かずに走って行ってしまった響を窘めようとしていた肩のところで切りそろえた黒髪の一部を白いリボンを後ろに結び、響と同じようにリディアンの制服に身を包んでいる少女・小日向未来は響の前にいる三人をびっくりしたような顔で見た後にぺこりと頭を下げる。
「こんにちわ。未来」
「…はぁっ……はぁっ……っ」
最後に現れたのは薄紫色の光る銀髪を赤いシュシュでお下げにし、響と未来のようにリディアンの制服に身を包んでいるの少女・雪音クリスは近寄ってくる奏を見て、びっくりしたような顔をするが直ぐに事情を把握したようで苦笑いを浮かべる。
「クリス大丈夫かい?」
「…はぁっ……はぁっ……。大丈夫なわけ……奏先輩? それに先輩やカルマも……あぁ、なるほどな。みんな、あの過保護バカと同じようにチビがほっておかなかったというわけか」
「クリスはもっと素直になった方がいいぞ? 本当はクリスが一番歌兎の事を––––」
「––––ふんっ!!」
「いだぁっ!? なんで、私!?」
「うっせぇっ!! バカがそこにいたからだ」
「それはないでしょう、クリスちゃん〜ぅ……」
その後、集まったみんなで焼き芋を食べたり、緒川がいつの間にか用意していたバーベキューセットでお肉を焼いたり、野菜を焼いたりしながら楽しく過ごし、マリアは隣で焼きたてのさつまいもへと「ふぅ……ふぅ……」と息を吹きかけ、しっかりと冷ましてから小さな口を開けてから焚き火に照らされて黄金色に光る表面へとかぶりついている歌兎の視線に合わせるように腰を落とすと問いかける。
「歌兎、今日楽しかったかしら?」
「うん、楽しかったよっ」
歌兎はマリアへと勢いよく振り返ると今まで見たことがないような満面の笑顔を浮かべながら、元気よく答えたのだった。
▼ストーリー2【歌兎の留守番風景】▼
「––––」
朝起きると手紙一つだけリビングの机の上に置かれて、部屋の中でものけ空だった。
(……僕捨てられた?)
過保護の化身である姉様に限り、そんな事はないと思いながらも一応シラねぇがしっかりと管理してあるへそくりや姉様が僕のためにと貯金している秘密の場所からお金が消えてないか確認した後でテーブルの上に置かれている置き手紙へと視線を送る僕の足をツンツンするのはどうやら姉様を用いたロボット・姉様ロボでズボンの袖を掴んでテーブルに向かわせようする。
「デース」
「…まずはこの手紙を読みなさいって事? 姉様ロボ」
置き手紙を手に取り、姉様ロボを見下ろしているといつの間にか他の三体も集まってくる。
「デスデス」
恐らく姉様とシラねぇが居ない間、僕のお世話を頼まれたのだろう……姉様ロボ以外にもシラねぇロボ、その二体よりも一回り小さい姉様ロボと歌兎ロボまでも集まってきて、四体にも見えるように身を屈めて、手紙を読んでいく。
『歌兎、おはよう(デース)。
本当は切ちゃんが書くって言ってたんだけど……歌兎を置いていく事が辛くて涙が溢れて、書けないっていうから私が代筆するね』
(ね、姉様……)
目を瞑るとその光景が手に取るように想像でき、僕は苦笑いを浮かべながら続きを読んでいく。
『まず最初になんで手紙を置いて出て行ったかというとね、私と切ちゃんが今日どうしても行かないといけない用事があって、歌兎には悪いけど手紙だけ残して家を出ました』
(そういえば、前に姉様がその日は大事な用があるから、朝から歌兎エキスを補給できないから今補給するのデスッ! 的な事を言って、一日中ギュッとされ続けた事があった)
姉様が言ってた大事な用がある日っていうのは今日だったんだ、と一人納得する。
『朝ご飯は温めるだけにしてあるから温めて食べてね。多分、お昼までには帰れると思うけど帰れなかったら、冷蔵庫の中に昨日の残り物があると思うから温めて食べてね。
調、切歌より』
手紙を読んだ後、朝ご飯を火傷しないように食べた後、
僕は茶碗やお椀を洗いながら、眉を潜める。
「…何しようかなぁ」
友達からオススメされたゲームはもうクリアしてしまったし、漫画や絵本も何百と読み返して、内容もしっかりと分かるほどになってしまったので折角なら他の事をしたいのだが––––。
「…? どうしたの? みんな」
そんな事を思いながら、辺りを見渡しているとカーペットの上に四体が自力で乗っかっており、僕が手を拭きながら歩いてくるのを見計らって、シラねぇロボが何処からかボードを引っ張り出しては三体で支え、大きい姉様ロボがスポッとマジックの蓋を取ると文字を書く。
〈カラオケしませんか?〉
「…カラオケ? 僕はしてもいいけど、家にカラオケ機なんてあったかな?」
記憶を辿ろうとしている僕へとブンブンと首を横に振ったロボ達は自分達を指差しながらマジックを動かす。
〈それなら心配いらないのデス。あたし達には既に家カラオケ機能が追加されたのデス〉
得意げに書く姉様ロボと他の三体をマジマジと見つめながら、僕は驚きのあまり固まる。
(い、いつの間に!? 僕、そんな機能付いていたこと、今さっき知ったよ!?)
驚く僕をしばらく見ていたシラねぇロボが姉様ロボからマジックを受け取るとその機能を付けるようになった経緯を説明してくれた。
〈この前、本物の私と切ちゃんがエルフナインとキャロルと一緒にカラオケに行ったらしくて、その時に二人のデュエットに点数が負けたから、家でも練習できるようにして欲しいって二人に頼んだんだって〉
(負けず嫌いなのか、残念さんなのかよく分からない……)
のだが、僕はそういうところも含めて姉様の事が大好きだし、敬愛しているので僕は立ち上がるとロボ達が家カラオケの準備するのを待っている間に追伸で殴り書きのような、溢れ出る悲しみを抑えきれなかったような震える文字で"食べていいからね"と書かれていた姉様のお菓子コレクションから少しだけ拝借して、ジュース片手にテーブルに戻ってくるといつの間にかお立ち台みたいなものも出来上がっており、余りにも本格的で僕が戸惑いを前面に出していると半強制的にお立ち台の上へと押し出せては、どこから入手したのか分からないマイクを持たされ、ロボ達はそれぞれタンバリンやマスカラを手にするとニュースを流していたテレビがカラオケへと早変わりし、見知ったイントロが流れ出すので僕はあたふたと慌てながら、映し出される歌詞を見つめながら、大きく息を吸い込む。
「Now praying for your painful cry… Fu-uh yeah…Fly」
〜*
一方、姉様達はというと家カラオケを始めた僕がいる学生寮にほど近いスーパーにて炭酸飲料やお菓子を袋いっぱい買っていた。
姉様の傍らにはシラねぇとクリスお姉ちゃんがいて、心なしか上機嫌な姉様が炭酸が入った袋を振るうので鋭い注意が飛んでいる。
「おい、過保護。そんなに炭酸を振るんじゃねぇ!!」
「そんなに心配しなくても大丈夫デスよ、クリス先輩♪ それよりも早くみんなの所に向かいましょう! あーぁ、楽しみデスねっ。歌兎、あたし達のサプライズに喜んでくれるでしょうか」
「フフフフーン」と鼻歌交じりにターンを決めたり、意味なくジャンプしたりしている姉様のはしゃぎっぷりにシラねぇとクリスお姉ちゃんは顔を見合わせると肩をすぼめてから姉様の後に続く。
その後、三人はS.O.N.G.本部である潜水艦の中に入るとすれ違うスタッフの人に挨拶しながら、食堂の扉を開けた姉様はそこに集まっている人へと満面の笑顔を浮かべながら敬礼する。
「今日はあたしの妹のために集まってくれてありがとうございますデス!」
「翼さん、奏さん。マリアとセレナ。カルマもありがとうございます。お仕事のスケジュールをずらしてもらって」
姉様の隣でぺこりと大人組へと頭を下げるシラねぇへと五人がほぼ同時に『気にしないで欲しい』と言うのを聞いた姉様とシラねぇ、クリスお姉ちゃんは其々の席に腰掛ける。
「それじゃあ、これから『暁歌兎びっくり仰天誕生日会』の話し合いをするデス」
『暁歌兎びっくり仰天誕生日会』というのは、姉様と僕の誕生日が同じ事からついついどちらか……主に当日前からソワソワし始める姉様の方を壮大にお祝いしがちな為、僕にも姉様と同じようにお祝いしようと計画してくれたもので、姉様はその計画者の第一人者なので凄く張り切っているのだが……そんな姉様を見つめる周りのねぇや逹とお姉ちゃん達の表情は何処と無く落ち着かない。
「では、意見がある人はどんどん出して欲しいのデス!」
再度立ち上がった姉様はパンと机を叩くと次々出てくる案を借りてきたボードへと書き写そうとした瞬間だった、言いにくそうにセレねぇが声をあげたのは––––。
「あ、あの……暁さん、一ついいですか?」
「およ? なんデスか?」
「歌兎ちゃんの誕生日プレゼントなんですが、実は私たちみんなで出し合って決まってるんです」
「デ?」
セレねぇの衝撃的なカミングアウトに姉様が放心状態で見渡すと視線を向けられたねぇや逹とお姉ちゃん達が居た堪れないように首を縦に振るのを見て
「じゃあなんでみんな集まってくれたんデスかぁあああああ!!!!」
と悲痛な叫び声を出してしまっても仕方ないだろう。
〜*
「幾千億の祈りも やわらかな光でさえも 全て飲み込む
〜*
衝撃的なカミングアウトのショックから立ち直った姉様は買ってきた炭酸を飲もうとして、蓋を開けた瞬間 バァーーンッ!! と大きな破裂音が聞こえ、茶色い噴水が明るめの金髪から肩出しの黄緑色の長袖、その下に履いているスカートまでも濡らし尽くすとその場には涙目の姉様とそんな姉様の髪の毛を乾いたタオルで拭いてあげているクリスお姉ちゃんだ。
「……ほら見たことか。あんなに振るからだ……」
「ゔぅ……ベタベタの濡れ濡れデス……」
シラねぇから新しいタオルを受け取った姉様は自分の身体を吹き、金髪を拭かれながら、小さく嘆息する。
(こんな調子で歌兎に喜んでもらえるのでしょうか…)
という意味合いを込めて。
〜*
「カルマのように」
〜*
バァーーンッ!! と姉様が自分が汚してしまったテーブルや周りをシラねぇ、クリスお姉ちゃんと協力しながら拭いていると先程聞いたばかりの破裂音が食堂へと響き、三人は目を丸くしながら音がした方へと視線を向けると姉様と同じように茶色い噴水を頭から被り、私服へと染み渡らせているカルねぇがいて
「カルマ。貴女、切歌のを見てなかったの……。今、炭酸を開けてはダメよ」
カルねぇの隣に腰掛けていたマリねぇとセレねぇが呆れたような表情を浮かべながら、カルねぇの周りへと吹き飛んだ雫を乾いたタオルで拭き取っているのを申し訳なさそうな表情で頭を掻きながら、ささっと受け取ったタオルで自分の周りが汚したところを拭いてから、姉様のところへと歩み寄る。
「すまない。なんだか手元が狂ってね……切歌、一緒に着替えに行こうか?」
「デース……」
カルねぇが差し伸べる手へと右手を差し伸べた姉様はギュッと手を握ると哀愁漂う背中を食堂に残る人達へと晒しながら、シャワールームへとカルねぇと共に向かったのだった。
〜*
「
〜*
姉様とカルねぇがシャワールームへと向かって数分後、机の上や床を濡らした茶色い水溜が無くなり、片付けに勤しんでいたみんなが息をついた頃 バァーーンッ!! と見慣れた破裂音がまたしても食堂へと鳴り響き、みんながその音がした方へと振り返ると
「––––」
そこには込み上げてくる怒りを抑え込んでいるようなキャロルお姉ちゃんが三つ編みにした金髪へと茶色い噴水を頭から被りながら、赤いワンピースを濡らしている姿で
「キャ、キャロル……?」
「マ、マスター……?」
隣にいたエルフナインお姉ちゃんやオートスコアラーのお姉ちゃん–––但し、ガリィお姉ちゃんは笑いが抑えきれないようで笑っていた–––が普段のキャロルお姉ちゃんならしない失敗にびっくりしたように目を丸々にしながら自分を呼ぶので、キャロルお姉ちゃんは更に不機嫌な顔になるとギロッと隣を睨みつける。
「……なんだ?」
「ううん、なんでも。それよりキャロルも着替えてくる?」
「言われずともそうさせてもらう。こうもベタベタと身体に張り付いては気持ち悪くて構わん」
心配そうなエルフナインお姉ちゃんから「ふん」とそっぽを向くと立ち上がり、ズカズカと不機嫌を表に出した足取りで食堂から出て行く。
〜*
「強く 強く 戦う この胸に響いている (奏でるまま) この闇を越えて」
歌い終えた僕はぺこりと深く頭を下げるとパチパチとソファに並んで座って聞いてくれていたロボ達が拍手してくれるので、照れたように頬を朱に染めていると僕のその表情に気を良くしたのか、大きい姉様がマジックを滑らせながら新しいカラオケを流すのを聞いた僕は目をパチクリさせる。
〈今度はこれデス!〉
「…え? 一曲じゃないの?」
〈誰も一曲で終わりなんて言ってないのデス〉
(そ、そんなぁ……そんなの詐欺だ……)
ガク……としそうになる僕は続けて鳴り始めたイントロに沿って流れる歌詞を見つめると一回は下ろしたマイクを口元に持っていく。
(でも、ロボ達が喜んでくれるならいいかなぁ……)
カラオケをやめてもする事は無いし、何もせずに時間を過ごすよりかはロボ達と楽しく過ごす方が有意義だろう。
「すぅ……」
そう考え、ロボ達が気がすむまでカラオケに付き合ってあげようと思った僕は息を大きく吸い込むと歌い始めるのだった。
〜*
突然か必然か連続コーラ破裂事件の被害者になった姉様、カルねぇ、キャロルお姉ちゃんがシャワーを浴びて、新しい私服に着替え終え、自分たちの席に腰掛けると姉様がわざとらしく「ごほん」と咳き込む。
「気を取り直しまして、歌兎のプレゼントの案を出したいのデスが……みんな、もう決まってるんデスよね」
「ごめんね、切ちゃん」
「気にしないでほしいのデス。それよりもあたしが歌兎に何を贈るかなんデスよね……」
申し訳なそうにするみんなへともう気にしてないと両掌をブンブンと横に振った姉様は困ったように机へと倒れこむ。
「それなら、切歌ちゃんが前に私に教えてくれたアレならどう?」
名案と言わんばかりに右人差し指を立てながら、案を出す未来お姉ちゃんへと力無く机に伏せたままの姉様は左右に顔を振ると消え入りそうな声で答える。
「……アレならもうしちゃったんデスよ……」
「そっか。しちゃったんなら仕方ないね……」
姉様と未来お姉ちゃんがシンクロした動きで力無く下を向くのを見て、みんなが案を考えようとしていく中、クリスお姉ちゃんのみが姉様と未来お姉ちゃんを交互に見て、ツッコミを入れるべきが入らないべきかで眉をヒクヒクさせている。
(あたしの勘違いならいいが、あの過保護があいつに提案した案って確か『自分の体にリボンをつけてから"もらって♡"って言いながらプレゼントする』ってバカげたものだったよな? それをあいつのみならず、過保護までやってたなのかッ!? しかも妹相手にそれをするってこの過保護の神経どうなってるんだよ!? 妹が大好きすぎるだけじゃ説明できないだろ!?)
そこまで考えたクリス先輩は姉様の事ジィ–––––と見つめると心底呆れたような口調で呟く。
「なんでお前ってそんな大バカなんだ?」
「突然人をガン見してきたかと思えば、カイトウイチバンがそれってあたしに喧嘩売ってます? クリス先輩」
その後、姉様とクリス先輩の間で乱闘が起きそうになり、その場にいる人たちで二人をなんとか宥めた後、次々と案を出して行くのだが、これといって決まる事がなく時間のみが刻々と過ぎていった。
〜*
「…ふぅ……」
結局ロボ達に薦められるままに歌ったのは【不死鳥のフランメ】を皮切りに、姉様とシラねぇのユニゾン曲や他のねぇや達、お姉ちゃん達とユニゾン曲、その他にも僕が見ているアニメの曲を歌った。
(もう結構歌ったよ……)
チラッと時間を見れば、もう夕方近くになっていて、カーテンが開いた窓から茜雲とオレンジ色に染まった空が見える。
もう終わろうという意味を込めて、ロボ達を見ると四体がボードにあらかじめ書いてあった文字と
〈最後はこの曲を歌って欲しいのデス!〉
「…こ、これを……?」
そこに表示された曲名に高速で首を横に振る。
へ、やだ。そういう曲は僕のようなちんちくりん無愛想なのが歌うじゃなくてもっと正統派かつ可愛らしい……そうアイドルのような、シラねぇのような可憐な人が歌うからこそ曲が引き立てられるのであって……僕みたいなのが歌うと曲が汚れる。だから、いくら敬愛する姉様とシラねぇを象っているロボ達の頼みでもしない、ゼッタイ。
〈なんでデスか。歌兎ならきっと可愛く歌えるはずデスよ〉
そういう問題ではない……いや、そういう問題もあるんだけど。
僕が曲名よりも一番気にしてるのは君たちが持っている不穏な匂いがするその服であって––––
〈これデスか? いつか大好きな歌兎に着てもらうだと思って、こっそりあたし達で作った服デス! 喜んでくれましたか?〉
(や、やっぱり……)
その服を着ながら、その曲を歌うなんて罰ゲーム並みに恥ずかしいし、したくない、ゼッタイ。
なので、僕は俊敏にマイクをその場に置くと自室に逃げ込もうとリビングの扉へと向かうがそこは既に先回ししたロボ達により閉鎖されており、僕は狩人に追われる兎のように怯えたようにブラブラとその服と装飾品を揺らしながら、近づいてくるロボ達に眠たそう黄緑の瞳を潤ませ、首を横に小さく振りながら、懇願する表情を向ける。
「…い、いや……」
何かに躓き、壮大に尻餅をつきながら、懇願する表情を浮かべながらも後ずさる僕は普段の僕とはかけ離れたもので、取り囲むロボ達のやる気を更に向上させてしまったようでリビングの壁に背中がぴったりとつき、もう逃げ場を失ってしまった僕が逃げられないように取り囲んだロボ達はニタニタと悪党のような笑顔を浮かべているようには僕には思え、ピクピクと震えている身体へと小さな丸い手が四つ添えられると僕の恐怖は最高潮となり、今恐らくシラねぇと楽しい時間を過ごしているであろう敬愛する姉の姿を思い浮かべながら、悲鳴をあげるのだった。
「ね、ねえ、姉様……た、たすけ、助けて……い、いやぁあああああああ!!!!」
しかし、悲鳴は姉様へと届かず、懇願はロボ達へと届かず––––。
抵抗むなしく僕の私服はロボ達が手により、みるみる脱がされていくのだった。
〜*
無機質なコンクリートの小道がオレンジと茜色に染まる頃、S.O.N.G.の潜水艦から表情が浮かないままの姉様は首に巻いているマフラーをより一層強く巻くと大きなくしゃみをする。
「結局、歌兎のプレゼント決まらなかったのデス。……えっくしゅ」
「切ちゃん? 大丈夫?」
「頭からコーラ浴びたらデスかね。身体がすっかり冷えちゃったみたいデス」
テヘヘ…とシラねぇへとはにかむ姉様はズルル…と鼻水を啜るのを見ていたクリスお姉ちゃんは何か言おうと唇を数回開けたり閉じたりした後に意を決したように仲良く手を繋いでいる二人の前へ向かうと頬を染めながら、提案する。
「そのまま帰っても風邪引くだけだろ。あたしんち来るか? 丁度、こたつが届いたし……………このまま、お別れとか味気ないだろ……」
「デデデ? クリス先輩、最後なんて–––––」
「––––––いいから。これからみんなであたしんちで鍋パーティするから来いって言ってんだッ!! 後輩からつべこべ言わず、先輩の言う通りにしろよなッ!!」
顔を真っ赤に染めてから半ギレ口調で早口言うクリスお姉ちゃんの提案に顔を見合わせた姉様とシラねぇはコクリとうなづく。
「じゃあ、クリス先輩のお言葉に甘えさせてもらうデス」
「ぬくぬくおこた楽しみ」
「デスね〜♪」
嬉しそうな表情の姉様とシラねぇからそっぽを向いたクリスお姉ちゃんが嬉しそうに笑うのを見て、奏お姉ちゃんはカルねぇとセレねぇの肩を抱く。
「それなら鍋の具材を買って来る担当はあたしとカルマ、セレナ。あと、偶には外の空気を吸うのもいいだろうし、エルフナイン、キャロルとオートスコアラーのみんなも手伝ってくれるかい?」
『なんで俺がそんな面倒なことを……』とブツブツ文句を言っているキャロルお姉ちゃんは満面の笑顔を浮かべたエルフナインお姉ちゃん、そしてオートスコアラーのお姉ちゃんたちによって連れ去られ、奏お姉ちゃん達の姿が街の中に消えていくのを見送ったマリねぇは暫く心配そうな表情をした後に残ったメンバーへと視線を向ける。
「さて、残った私たちは切歌達の学生寮で大人しく留守番している歌兎を迎えにいく係になりましょうか?」
その言葉に深くうなづいた残りのメンバーは僕が待つ学生寮へと向かうとガチャンと鍵を開けるとゆっくりと玄関を開ける。
「すっかり遅くなっちゃったので、歌兎心細くて泣いてないデスかね……」
「切ちゃんじゃないからそれは心配しなくてもいいような……ほら、リビングの方が電気付いてるし、歌兎の声も聞こえて来るよ」
僕の長い間学生寮に置いてしまった事に後悔と罪悪感が溢れてきた姉様が垂れ目がちな瞳へと涙を溢れさせる中、シラねぇがボソッと辛口を言うと安心させようとリビングと廊下を隔てるガラス戸を指差す。
確かに明るい穏やかな電灯の光が漏れ出るリビングのガラスからは僕の声も漏れ出ている。
「……良かった。歌兎、泣いてないようで……。頑張って、お留守番してくれたお礼にギュッてしてあげるのデス」
ひとまず安心した姉様はリビングに続くガラス戸へと手を掛けるとガラガラと開いた瞬間、その場で時間が止まったように固まる。
「切ちゃん?」
「切歌ちゃん?」
一ミリも動かすその場に硬直する姉様へと心配そうな表情を向けた後、黄緑の瞳の視線を辿った他のねぇや達、他のお姉ちゃん達も信じられない光景に目を見開き、口を僅かに開けてから硬直する。
姉様とねぇや達、お姉ちゃん達が硬直する程の衝撃的な信じられない光景とは––––
「ご奉仕メイドモードで 未来をキラキラChangin’」
–––––フサフサと電灯の光によって水色に光る銀髪へと垂れている白兎の耳が付いたフリルのあしらわれたカチューシャを可愛らしく揺らし、キャピ☆ キャピ☆ とアイドル顔負けの可愛らしい振り付けをしている華奢な上半身は胸元のボタンのところにフリルがあしらわれた半袖のシャツの上に胸元がパカッと開いた黒いベストの下に白い丸みを帯びたフリフリのエプロンで包まれ、両手首には白いフリフリが付いた手首までのブレスレットが嵌められており、軽やかなステップを踏む下半身には激しい動きが多いのか下にある白いフリフリが黒いミニスカートから見えてしまっており、恐らく角度によってはその下にあるものも見えてしまっていると思うから、そこから視線を足元に向けるとダンスをするので白いフリルがついたニーソックスがズレ落ちないように配慮してか白いガーターベルトが細っそりした柔肌を晒す絶対領域へとくいこんでおり、お立ち台のような場所を踏みしめているのは黒いファンシーな靴で…………直訳すると垂れ耳兎フリル満載のメイド服を着用した僕が可愛らしい曲に合わせて、キャピキャピ☆ と普段は眠たそうに半開きしている瞳を全部開けて、無表情へと満面の笑顔を貼り付けて、ノリノリでキレキッレの踊りと歌声を披露している姿なのだ。
「……私達は幻を見ているのか?」
「……私、疲れているのかしら?」
「み、未来。私の頬を抓ってからないかな?」
「い、一緒に抓ろう、響」
最後列の翼お姉ちゃんとマリねぇは衝撃のあまり現実逃避を始め、その前にいる響師匠と未来お姉ちゃんはお互いの頬を抓りあって、目の前で起こっているのが真実であることを再確認している間にも僕はダンスと歌を歌う事に必死で姉様達が絶賛鑑賞中であることも露知らず、ソファに並んで腰掛け、
「お気に召しますでしょうか? メイドのわたし…」
その場に腰を落とし、両手を合わせてから、上目遣いをする仕草を取る僕の姿に見て、謎の震えを起こした姉様はコツンと扉にぶつかり、鼻を押さえながら、プルプルと震える右手に端末を握りしめ、動画モードに設定しようとするのを寸前でクリスお姉ちゃんに止められる。
「……このプリティーエンジェルを写真と動画に撮っていいデスか? 今撮らないともう二度と撮れない気がするってあたしの中のお姉ちゃんレーザーが警告音を出してるんデス」
「おいやめろ、あのチビにあたしらが見ていることがバレるだろ」
邪魔された姉様が暴れるのをシラねぇが宥めている中、クリスお姉ちゃんは冷や汗を一筋流す。
(お、おい……こんなの洒落にならないだろ……)
メイドのコスプレをしながら、アイドル顔負けの可愛らしい振り付けと歌声をノリノリでしている姿を大好きな姉ばかりか知ってる奴に見られるとか地獄図でしかないぞ。
もしも、今の僕の立場が自分だった場合、恥ずかしすぎて軽く二回は死ぬとクリスお姉ちゃんがその光景を想像して頬を真っ赤に染める中、強制的にメイド服を着せられ、
歌わされている僕は歌い始めた頃から羞恥心が麻痺しており、歌が終盤になり、これで解放されると思うと振り付けにも歌声にも力が入る。
「ご奉仕メイドモードで 未来をキラキラChangin’ 大事なご主人様に お仕えしますLove ノイズの除去はYes お任せあれギコギコキュイーン Caution×2 ハートがキュン×2」
もう既に放心状態から解放した姉様とねぇや達、お姉ちゃん達は大人しく、僕のノリノリなダンスと歌声を聴く事にしたらしく、ウェイトレスがお盆を持っているようにマイクを持ってない方の手を動かすとリズミカルに片脚を動かす様子……詳しくはマイクを持ちながら、半開きでは全開きで満面の可憐な笑顔を浮かべている僕と最前列にいる姉様の垂れ目がちな瞳を交互に見つめながら、改めて気づいたかのように呟く。
「……改めて思ったんだが、チビとお前って本当に姉妹だったんだな」
「それどういう意味デスか!? クリス先輩ッ」
"心外だ"と言わんばかりに頬を丸々に膨らませると怒ったように声を荒げる姉様を見つめながら、今度は翼お姉ちゃんがポロリと漏らす。
「……雪音の言う通りだな。改めてこうして見ると歌兎と切歌が姉妹であることが分かる」
「まさかの翼さんまでッ!?」
「……うん、クリスちゃんと翼さんが言いたいところ凄く分かる」
「……目を全部開くと垂れ目になるんだね、歌兎ちゃん」
「響さんも未来さんも酷いのデスよぉ!! そんな所確認しなくてもあたしと歌兎は血が繋がった姉妹デス!!」
喚く姉様の声に被せるように最後のフレーズに差し掛かった僕はサイリウムを最後まで振ってくれたロボ達に向かって、投げキッスをするような振り付けをする。
「ご奉仕タイム メイドメイドメイドモード Chu×2」
その振り付けのポーズで暫く待機した僕はロボ達が満足したようにサイリウムを振ってくれるのを見てから、大きく溜息を付いてから調子に乗って、激しく動いたことで肩からずり落ちているベストとめくれ上がっているミニスカートを直そうとして……そこで自分に注がれている複数の熱視線に気づき、オイルが切れたロボットのような動きでそちらに視線を向ける。
「か、帰ったデスよ、歌兎」
「う、歌兎、クリス先輩のお家で鍋パーティしよ」
明らかに気を使っている生暖かい表情で声をかけてくる姉様とシラねぇ、そしてその後ろにいるマリねぇとお姉ちゃん達に見て、瞬時に"僕の人生終わった……"と判断した僕は
「にゃっ!!」
と悲鳴を上げてから、更に終わらせないために自分のメイド姿を隠すように両腕をクロスさせてからお立ち台から飛び逃げるとカーテンに絡まる。
「う、歌兎……?」
心配そうに近寄ってくる姉様達にプルプルと震えながら、耳まで真っ赤に染めてから震えた声でさっきまでの自分の行為を否定する。
「……ち、ちが……」
「ちが?」
「違うんです。さっきのはロボ達がどうしても見たいって言うからしただけであって、僕の趣味ではなくて––––」
「そんなの分かってるデスから、カーテンから出ておいで、歌兎」
カーテンに絡まる僕は顔から湯気を出しながら、羞恥心でキャリーオーバーした思考で瞳をグルグルと渦巻きを浮かべながら、早口で捲したてる。
その様子に良からぬ物を感じた姉様達が刺激しないように声をかけてくれる中でも僕の思考は正常じゃない方向へと突き進んでいく。
「––––そもそも、僕みたいなちんちくりんがメイド服なんて似合うわけなくて––––」
「そんなことないと思うよ、歌兎。だから、カーテンから……」
「––––なのに、メイド服を着てしまった僕は罰当たりなわけで––––」
「……お、おい、チビ……早まるなよ……」
「––––そんな罰当たりは自害して、罪を償わせていただきますぅううううううう!!!!」
両掌で顔を隠して、玄関に向かって駆けていこうとする僕はその後、無事姉様達の手によって捕まり、クリスお姉ちゃんの部屋にて鍋パーティに参加することが出来たのであった。
ストーリー1は、マリアさんのホームボイスが余りにも素晴らしく、今丁度メインイベントをしているので主筆しようと思ったことが始まりです。
ストーリー2の最後のシーンは本当はうたすぎんのコスプレをして【とどけHappy うたずきん!】を歌っている歌兎を姉様達に発見してもらう予定だったのですが、うたずきん!の楽曲コードが見つからず……家族に見られて、恥ずかしいコスプレで可愛いのはどれかな〜ぁと考えた結果––––ごちうさのフルールラパンの制服を着て、【ご奉仕…メイドモード】を歌っている姿でした。
何故、フルールラパンにしたは垂れ兎耳カチューシャを揺らし、フリフリのメイド服を揺らしながら踊っている歌兎は絵にもなるし、可愛いのではないと思いまして……ガーターベルトを付けたのは自分の趣味で……ご奉仕…メイドモードの振り付けはライブにて南條さんが踊られたものに少しだけオリジナルを加えたものとなってます。
また、本作は楽曲と会話文を区別するために、曲を歌っているキャラクターのイメージカラーで表示することにしました。
例)歌兎なら水色。切ちゃんから緑。調ちゃんならピンク。
最後に、シンフォギアラジオ74回の熱い感想はまた後々に改めて書かせてもらおうと思いますが……まず言いたいのは、茅さんが来てくれて本当に良かった……(感涙)
貴重なお話、そして演じていらっしゃる切ちゃんへの愛のみならず……調ちゃん、南條さんへの気持ちと愛……F.I.S.組への深い思いと愛情が語ってくださったこと。
所々、切ちゃんを入れてくださるサービス精神と二言で快く一人きりしらをしてくださったこと……そして何よりも茅さんと切ちゃんをここまで大好きにしてくださった、出会わせてくださったこの【戦姫絶唱シンフォギア】という作品に感謝の気持ちしかありません。
心からのありがとうの気持ちと感謝の気持ちを持って、筆を置かせてもらいます。
追伸
前々から話題に上がっているXVの切ちゃん変身バンクが再生回数一位を維持していることを記念して、先程歌兎に見せた結果、余りにも刺激的なシーンが多かったようで顔が湯気を出して、フリーズしてました(笑)
なので、フリーズから覚めた後で『姉様と食べてね』と言って、ポッ○ーとプ○ッツを渡しておきました(笑)
二つとも美味しいですよね……(しみじみ)