うちの姉様は過保護すぎる。   作:律乃

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火曜日の更新日には早めですが、お知らせしたいことがあり更新させてもらいました(敬礼)
お知らせは後書きの最後にて書かせてもらおうと思います!!

それでは、本編をどうぞ!!


002 シュレンディンガーのキス-(しょう)~

「…ん?」

 

 薄暗かった寝室へと陽の光が差し込み始めた頃、僕は寝苦しさを感じて、薄っすらと目を開けるといつもの如く捲れ上がっている寝間着がわりの動物を(かたど)ったパーカーの袖を気怠げに両手で掴むと下へと引き下げようとする。

 

(…? なんだろ、これ。お臍のところに赤いのがある)

 

 体を起こし、ジィ––––と赤い所を観察してみると分かったことがいくつかあった。

 一つ、大きさは僕の親指くらいということ。

 二つ、どうやらこの赤いのはお臍以外にも胸元や鎖骨辺りなど様々なところにあること––––その二つが今の所分かっていることで、僕はもう一度よくよく見てみる。

 

(んー? 虫にでも刺されたのかな?)

 

 この季節は汗をかいたりする事から外に出るとよく蚊や虻に刺されて、家に帰ってそれを告げると血相を変えた姉様が虫刺され薬を塗ってくれるというのが一連の流れとなっていた。

 つまり、この赤いのも虫刺されということだろう……と結論づけてからというもの、さっきまで痒くなかった赤い所が痒くなってきて、そっと赤い所に触れてから爪を肌へと突き立てようとした時だった。

 

「駄目デスっ!」

 

 と大きな声が寝室に響き渡ったのは––––。

 

「…!?」

 

 ビクッと肩を震わせてから声がした方へと視線を向けると緑と白のシマシマから黒いブラジャーを覗かせるという露出度が半端ない大胆な寝間着に身を包んだ明るめの金髪に✖︎(ばってん)印の髪飾りが特徴的な僕の実姉である暁 切歌が険しい顔をして入り口に立っており、今まさに爪を立てようとしている僕を視界に収まるとズカズカと近づいてくる。

 

「歌兎、さっき何をしようとしてたの」

「…爪を立てて搔こうとしました」

 

 特徴的な"デス口調"でも優しく諭してくれる"敬語口調"でもない"タメ口"でのお叱りときて、姉様が本気で怒っていることを感じた僕はそっと赤い所から手を退けるとシュンと肩を落とし、観念したように今しようとしていた事を言うと「…はぁ…」と小さな嘆息が聞こえてくる。

 

「歌兎、いつも言ってるよね? 虫に刺されても掻いてはいけないって。歌兎はお姉ちゃんとの約束が守れない悪い子になってしまったの?」

 

 両肩へと手を置いて、塞ぎ込む僕の顔を覗き込むように見上げてくる垂れ目がちな黄緑色の瞳や怒声の中にも優しさを感じとり、僕のことを心配して本気で怒ってくれる姉様にこれ以上心配させてはいけないと素直に頭を下げる。

 

「…ごめんなさい…姉様…」

「分かればいいのデス。ほら、一緒に顔を洗いに行きましょう。その後に虫刺されに薬を塗ってあげるデスから」

「…ん」

 

 片足をついて中腰になって両手を広げる姉様へとトコトコと近づくと首へと両手を回す僕のお尻へと両腕を回す。

 

「しっかりつかまるデスよ」

「…ん」

 

 その場にピョンピョンと器用に飛ぶと僕を抱っこしやすいところへと微調整した姉様は朝に使う用にと小分けしている緑色の巾着袋を肩からかけるのを見て、その緑色の巾着袋に寄り添うように置かれていた桃色の巾着袋が無いことに気づいた僕は姉様へと尋ねてみる。

 

「…シラねぇ、もう起きてるの?」

「えぇ、セレナとマリア、未来さんに誘われて、少し外の空気を吸いに散歩してくるそうデスよ」

「…そっか」

 

 今回のお泊まり合宿で僕は左胸に埋めれている【メギンギョルズ】の能力を自分のものとしないといけない。

 

(…僕はいつだって未成熟で未完成で頼りない…だから、オートスコアラーに勝てないんだ)

 

 そんな事を考えているとギュッと急に抱きしめられて、いつの間にか下を向いていた顔を横に向けるとニコッと雲間から顔を覗かせているお日様のように暖かい笑顔を姉様が微笑んでいた。

 

「…姉様?」

「歌兎が居てくれるだけであたし達は助かっているんデス。だから、あまり無理しないでくださいね」

「…無理はするためにあるって前に姉様が言ってた」

「ありゃ〜、あたしってばそんな事を歌兎の前で言ってたデスか」

 

 "しまったデスね"と苦笑いする姉様から視線を前に向けると丁度目の前から桃色のフリルのついた白いゆったりしたTシャツに赤いホットパンツといった出で立ちのクリスお姉ちゃんの隣で大きな欠伸をしているお腹のところにひよこがプリントアウトされた橙のTシャツに短パンといった出で立ちの響師匠が並んで歩いていた。

 

「…ふわ〜〜ぁ」

「…ふわぁ……ちっ、バカの欠伸がうつっちまった」

「そんな〜ぁ。クリスちゃんが先に欠伸したのに!」

 

 前から歩いてくる二人へと小走りで駆け寄った姉様は右手を元気よくあげて挨拶するので僕も右手を上げて挨拶をする。

 

「先輩方グッモーニングデス!」

「…クリスお姉ちゃん、響師匠、ぐっもーにんぐです」

「おはよう、切歌ちゃん、歌兎ちゃん。こんなに暑いのに相変わらずだね」

「えへへ〜♪ 歌兎を守るのがあたしの役目デスからね。歌兎はさっき起きたばっかりなので寝ぼけて壁にぶつかってはいけないデスから。歌兎は抜けているところが沢山あるデスから、あたしが守ってあげないと」

「なるほど、寝ぼけているとついつい壁に行っちゃうよね。私も今日寝起きで壁に頭をぶつけちゃって、未来に手当てしてもらっちゃったよ」

「デスデス。あたしも今日壁にぶつかっちゃって、調とセレナに手当てしてもらったばかりデスよ」

 

 「あはは」と今朝の失敗談を笑い話にする響師匠と姉様を見て、頭を抱えるのはクリスお姉ちゃんだ。

 

「バカが二人で話がミキサーになってやがる」

 

(話がミキサーってなんだろ……あっ、ミキサーのようにぐちゃぐちゃになってるってことか!)

 

 "クリスお姉ちゃん語録"を自力で解明できたことが嬉しくて、クリスお姉ちゃんの方を見ると薄紫色の瞳の下に黒いものが化粧を塗ったようになっているのを見て小首を傾げる。

 

「…? クリスお姉ちゃん、眠れなかったの?」

「あ? どうして、そう思うんだ?」

「…だって目の下にクマが出来ているから」

「あっ、ほんとデス。クリス先輩、夜更かしは駄目デスよ」

 

 "チッチッチ"と舌を鳴らしながら、リズミカルに右人差し指を横に振る姉様を見て「はぁ……」と深く溜息をついたクリスお姉ちゃんは右親指で隣に立つ響師匠を指差す。

 

「…あたしが寝れなかったのは隣のバカが原因だ。真夜中だってのに大声でピーチクパーチク喋りやがって」

「だって、奏者のみんなでお泊まりだよ!? うら若き乙女達が集まっているんだよ!? 折角なんだから夜遅くまでお話ししたいもの」

「ああそうかい。あたしはお前の中ではうら若くないんだな」

「そんなこと言ってないでしょう。ねぇーってば、クリスちゃ〜ん」

 

 半泣きで抱きついて来ようとする響師匠をめんどくさそうに頬に手を置いて突っ張るクリスお姉ちゃんに頭を下げた僕と姉様はトコトコと洗面所に向かって歩き出す。

 そして、洗面所に着くと僕用に姉様が家からわざわざ持ってきた幼稚な台を引っ張り出すと僕を下ろすと台に乗るように言う。

 

「朝から先輩方は仲良しさんデスね。はい、歌兎。気をつけて、台に登ってくださいね」

「…よいっしょっと」

 

 台に乗り、両手を洗面台につくと後ろに回った姉様が巾着袋からやや乱暴に畳んで入れてあった防水エプロンをつけてもらってから姉様に髪の毛を結んでもらう。

 

「エプロンはこれで良しっと……あとは髪の毛が濡れないように髪の毛結びますね」

「…ん」

 

 寝癖が付いていた髪の毛を櫛で付いてもらってから、器用に姉様が僕を髪を結んでいく。その手慣れた手つきは恐らく僕やシラねぇの髪の毛を結ぶことがあるからだろう。

 

「えへへ〜、歌兎だけに兎さんヘアーデス」

 

 ジャジャーンと両手を僕の方へと向ける姉様の声に気づいて、櫛をといてもらう心地よさから半分寝ていた僕は目を擦ると鏡に映る左右に大きな団子が付いてある自分の姿を視界におさめると自然と頬が緩む。

 

「…可愛い。……姉様、ありがと」

「これくらいお安い御用デスよ!」

 

 ニカッと得意げに笑う姉様が見ている前でバシャバシャと顔を洗う中、扉を隔てた廊下側から次のような話し声が聞こえてきた。

 

「雪音、立花、廊下まで騒ぎ声が響いていたぞ。まだ寝ているスタッフの人もいるのだ、ここにいるのは我々だけではないとくれぐれも肝に命じてくれ」

「ごめんなさい…」

「すまねぇ…」

「分かればいい。どれ、私も顔を洗うとするか」

 

 クリスお姉ちゃんと響師匠に注意してから扉を開けたのは水色のカッターシャツに青いジャケット、白い短パンに身を包んだ翼お姉ちゃんで僕の顔をタオルで拭いている姉様に苦笑いを浮かべている。

 

「およ? 翼さん、グッモーニングデス」

「…翼お姉ちゃん、ぐっもーにんぐです」

「あぁ、おはよう、二人共。相変わらず仲がいいな」

「えへへ〜、歌兎はあたしがいないと駄目駄目デスからね」

「そうか? ま、切歌がそういうのならばそうなのか」

 

 鼻の下を人差し指でなぞりながらそう言う姉様のセリフに首をかしげる翼お姉ちゃんに不思議そうな顔をする姉様だったがあまり深く考えないことにしたらしく、使ったタオルとエプロンを巾着袋へと入れると台から僕を下ろす。

 

「台をここに直して……歌兎、お姉ちゃんのところにおいで」

「…ん」

「よいっしょっと。それでは翼さん、あたし達はこれで」

 

 ぺこりと頭を下げる姉様にタオルから顔を上げた翼お姉ちゃんがニッコリと微笑む。

 

「あぁ、朝ごはんの時に会おう」

 

 洗面所を後にした僕達は再び寝室へときていて、僕と合同の緑色のスポーツバックから自分と僕の私服を取り出した姉様はさっさと着替え終わると虫刺され薬を片手に僕の目の前に腰を落とすと万歳するように言う。

 

「はい、歌兎。バンザイデス」

「…ばんざい」

 

 両手を上に持ち上げるとすんなりとアニマルパーカーとその下に着ていたTシャツを脱がされて、上は花緑青色のブラジャーで下は短パンという姿になった僕の肌にある赤いところがどれくらいあるか数えてから困ったように眉をひそめる。

 

「ありゃ〜、これは前よりも酷いデスね。ここにも背中にもありますし…足のところにもあるってことはもしかしたら、下にもあるかもデスし…」

「…全部塗るの?」

「塗らないと痒いと思うデスからね…」

 

 虫刺され薬のキャップを取って、いよいよお臍の赤いところへと塗ろうとした時だった、静かに寝室の扉が開いたのは––––。

 

「帰りました」

「あら? 歌兎着替え中だったかしら?」

「切ちゃん。歌兎、蚊に刺されたの?」

「赤いところが沢山あるね」

「うちのも貸そうか」

「あたしものあるぞ」

「にゃっにゃ!?」

「…わっわっ」

 

扉の向こうから現れたのは、廊下ですれ違った三人以外のこの合宿に参加している奏者達で姉様は口々に話しかけてくるのを聞いて目を丸くさせていて、僕は忽ちその人影に埋もれていったのだった。




ということで、次回は朝ごはんの場面と訓練、 そしてお風呂シーンを書かせてもらおうと思います。

さて、今回の話で絞り込めた読者の方はいらっしゃったでしょうか?
因みに、カルマと奏さんは散歩をしている四人に後で合流したそうで、響ちゃんのガールズトークには未来ちゃんはもちろんのこと、調ちゃんにセレナちゃん、マリアさんと奏さん…クリスちゃん渋々付き合ったそうですよ(微笑)
本当は切ちゃんもガールズトークに参加する予定だったのですが、歌兎ちゃんを寝かしつけるのに子守唄を歌い、次第に自分も眠くなり、歌兎ちゃんと一緒に眠りについたようです。

また、みんながどんな風に布団を並べていたかというとーー

上の列・・・翼さん / 奏さん / 響ちゃん /未来ちゃん / クリスちゃん

下の列・・・カルマさん / 調ちゃん / 切ちゃん / 歌兎 / マリアさん / セレナちゃん

ーーとなってます。




明日から7月に入るということで、いよいよ【シンフォギアVX】が放送開始ということで【第1話プレミア上映会】がありましたね! 私は行けませんでしたが、もしかすると読者のみなさんの中では行かれた方がいらっしゃるかもしれませんね。行かれた方、大変お疲れ様でした!(敬礼)

また、VXも響ちゃん、切ちゃんに引き続き調ちゃんのジャケットのイラストが解放されましたね!
今回のジャケットはみんながカッコいいですね!! 凛々しい顔つきの調ちゃん、カッコ可愛くて好きです…(ジーン)
そして、B面…カップリング曲の【君が泣かない世界に】ってタイトルだけで泣きそうになります…(涙)
私、きっときりしらのカップリング曲で号泣すると思います…




さて、前書きにてお知らせしたお知らせなのですが……メインストーリーの方を書き直した後に他の章も同じように書き直します。
書き直そうと思った理由は色んな世界線を書いてきて、私自身も読者の方も訳わからなくなってきていると思いますし、私自身が何を書きたいのかがよくわからなくなってきてしまいまして…なので、一旦白紙に戻して、私が書きたいものを見つけていこうと思いますので…どうか、ご理解頂けると嬉しいです(土下座)

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