うちの姉様は過保護すぎる。   作:律乃

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006 切歌(あね)VS悪魔(いもうと)

12.

 

飛び出た外の世界 一匹の小さな兎 見上げた空には ニコニコ笑顔のお日様とお月様

キラービートMAX ボリュームフルテン 脳髄の隅まで教えるDeath

 

 旋律(イガリマ)旋律(ミョルミル)大鎌(イガリマ)短剣(ミョルミル)

 二つの音の間に二つの歌声が重なり合い、垂れ目がちな黄緑色の瞳と眠そうに見開かれた黄緑色の瞳の間でも火花を散らす。

 

「歌兎を……歌兎を何処にやったッ!! ベルフェゴールゥッ!!!」

「…はぁ……。僕のお姉ちゃんの癖に分からず屋だな……。さっきから何度も言ってるでしょう。僕はボク、二人は一つになったって。だから、ボクがアナタの妹なんだよ」

「お前が……お前みたいな悪魔があたしの妹なわけ…っ––––」

 

 垂れ目がちな瞳がぐわっと細まり、大鎌を握り締める両手が力みすぎて軋む。

 こんな奴が歌兎(いもうと)なわけない。あの子は誰よりも優しく思いやりに溢れた子だ。

 "自分の住みやすい世界を作るために世界を壊す"なんてふざけたことは絶対言わない。それは姉であるあたしが一番知ってる。

 あたしの妹は人が傷つくところを見るよりかは自分が傷つく方がいいと考える子なのだ。本当に優しい子なのだ…。

 

(そして、あたしはその優しさに甘えすぎてしまった…)

 

 きっと振り返れば、妹が背負わなくてもよかった重荷や罪があるはず。

 全部妹が背負う必要なんてなかったのだ。だけど、あたしは妹を苦しめていることを知りながら、自分が楽な方へと逃げてしまった…。

 

 思わず、苦笑いが漏れる。

 

 何が妹が一番大切で、大事で、大好きだ。

 その大切で、大事で、大好きな家族を…妹をここまで追い込んでしまったのは他でもないあたし自身だってのに……。

 

二つが歌う調 夜道を照らすッ!!

 

【攻気・鳶目兎耳】

 

 二つに分裂したダガーが淡い光を放ち、勢いよく身を屈めると両足についたブースターが音を立て、クロスしたダガーがあたしの胸へと突き刺さる。

 

「––––ガッハ!?」

 

 近くにあるビルに背中から衝突し、その衝撃で肺に溜まっている空気を吐き出しながら、地面へと倒れこむあたしは唇の端から垂れてきた唾液を乱暴に拭う。

 そして、さっきまで考え込んできたネガティヴな考えを頭を振ることで無理やり振り落とす。

 

(今は歌兎を取り戻すことが先デス。あんな悪魔なんかにあの子を渡してたまるもんかデスッ)

 

「ゴホッ……くっ」

 

 と意気込んでも、正直いってやりにくい。

 目の前にいるのは歌兎(いもうと)じゃない、歌兎(いもうと)の筈ないのに……。

 なのに、なんで……ッ。

 あの子と同じ表情を、あの子と同じ声音を、あの子同じ仕草を、される度にこうも反応しちゃうんデスか…ッ。

 あと少しで碧刃が当たる寸前で脳裏にチラつく妹の残像が目の前の悪魔と重なり、真っ直ぐ振り下ろすだけの軌道が乱れ、あらぬ方向に向かう。

 

「さっきから攻撃に躊躇(ためら)いが見られるね? そんなにボクが大事なんだ、お姉ちゃん♪ ありがと☆」

 

 悪魔は人の弱みに付け込む生き物だ。

 その生き物があたしの弱みに気づかないわけがない。

 あの子と同じ顔でニタニタと気悪い笑みで安い挑発をしてくる悪魔の誘いに思わず乗りそうになり、"いけないいけない"と首を横に振る。

 

「う…る、さい……ッ!! 誰がお前なんかに攻撃する事を躊躇(ためら)うかデスッ!!」

 

 気を引き締めるとお返しとばかりに挑発してみるとみるみるうちに可愛らしい顔が瞋恚に満ち満ちていく。

「そういうお前こそ、あたしにトドメ刺すのを嫌がってるんじゃないんデスか? ずっとヘッポコ攻撃ばかりで、その調子なら何十……いいえ、何百年経ったってあたしを倒すことなんて出来ないデスよ」

 

 怒りの沸点が低いのも悪魔の特徴ということなのだろうか…?

 と下らないことを考えていると眠そうな瞳が真っ赤に染まっていくのを感じる。可愛らしい唇からは八重歯が覗き、剥き出しの怒りがあたしの瞳を貫く。

 

「…あんま調子乗んなよ、雑魚(ザコ)。僕のお姉ちゃんだから手加減してやってるだけなのにさ。……もういいや、そんなに早く僕と同じところに逝くのがお望みなら、今すぐにでもボクが連れて行ってあげる」

 

 そう言って、ダガーを腰へと直した悪魔は腰につけてあった丸いブーメランを手に取るとこっちを睨む。

 

「やっと本性出しましたね、悪魔」

 

 ニンヤリと笑うあたしにもう怒りを抑えきれないのか、両手に持ったブーメランを勢いよくあたしへと投げる。

 

「だから、言ってるでしょう、ボクは悪魔なんじゃない……って!!!!」

冥界のマスカレードッ!!

 

【切・呪りeッTぉ】

 

 交差し迫ってるブーメランを寸前で退け、その場でぐるっと回ってから三つに分別した刃を悪魔へと放つ。

 すると、悪魔は一つ、二つは避けられたが後ろから迫ってきていた刃には気付かないで居たらしく……細い肩へと(みどり)の刃が触れ、大きな切り傷を作り出す。

 

「チッ」

 

 イガリマの刃によって引き裂かれた右肩を抑えながら、悪魔は大きな舌打ちをするとイガリマを構えるあたしを感情が消え去った瞳で睨みつける。

 色が浮かばない眠そうな瞳は無機質な赤い光を放ちながら、歯型が付くほどに噛み締めている桜色の唇からは赤黒い血が頬や顎を濡らす。

 

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」

 

 地団駄を踏んでいる悪魔から漏れ出る囁きは純粋な怒りで満ちており、こっちを半目で睨む表情はあたしの知る妹ではなくなっていた。

 漏れ出るオーラも禍々しいものへと移り変わり、あたしは冷や汗が頬を流れるのを感じるとごくりと喉を鳴らす。

 ここで踏ん張れば、きっと妹が帰ってくる。そんな風にあたしには思えた。

 

「オマエ、ブッ殺スッ!!」

 

【分気・烏兎匆匆】

 

「…くっ」

「殺ス殺ス殺ス殺ス殺スゥゥゥゥ」

 

 戻ってきたブーメランを左右へと納め、ガチャガチャと音を立てながら如意棒を作り出す。

 そして、それを強く握りしめると両足にパワーを溜め込んでからがむしゃらに振り回してくる棒を鎌で受け止めながら、我を失っている悪魔の背中へと取っ手を叩き込む。

 すると、より一層悪魔が纏うオーラが、表情が禍々しいものへの変わっていく。

 

交錯してく 刃の音が 何故か切ないラプソディーに

舞い落ちる雪の音は 優しく包み込む 白く暖かい世界に 夢を抱きたくて

 

 悪魔が怒り、禍々しくなるたびに攻撃は単調となり、読みやすくなる。

 フラフラと振り回してくる棒を交わし、がら空きのお腹へと蹴りを食らわす。

 

「死ネ死ネ死ンジマエェェェ!!!!!」

 

【鬼気・狐死兎泣】

 

籠の中から 救ってあげる

 

【切・呪りeッTぉ】

 

 爆裂音と爆裂音。技と技がぶつかりあい、地を震わせ、近くにあるビルのガラスを破裂させる。

 轟々。轟々。轟々。パリン。パリン。パリン。

 悪魔の攻撃を受け止めるたびにあたしの身体は爆風で弾け飛び、がむしゃらに鎌を動かしては防御に徹して、悪魔の攻撃を見極めるのに努める。

 

(だんだん、パターンが読めてきた)

 

 あたしは息を整えながら、血相を変えて怒涛の攻撃を放ってくる悪魔を見つめる。

 愛らしい顔は激怒の一色に染まっており、そこに妹の面影は最早ない。

 これなら悪魔に勝てるかもしれない。

 

––––––僕はボク。二人は一つになったんだよ。

 

 しかし、悪魔が言っていたその言葉が何故か引っかかる。

 もしも、仮にその言葉が本当であるならば………悪魔を消滅させると言うことは、妹も一緒に消滅させることになるのではないか?

 二人が一つになったということは…………。

 本当に救うことが出来るのだろうか、この悪魔からあの子を……。

 

(……何、弱気になってるデスか。あたしが助けてあげなくて誰があの子を助けるっていうんデスか)

 

 大きく深呼吸し、自分目掛けて振り下ろされる棒を横にスライドしてから躱す。

 ドンッと地面を叩く棒の先を唖然とした表情で見る悪魔の身体目掛けて、膝蹴りを食らわす。

 

両断のクチヅケで

「ゴホ……」

 

 血が滲む唾液がコンクリートを濡らし、無抵抗となった悪魔へと立て続けに攻撃を放っていく。

 肩。頬。胸。腹。腰。脚。ありとあらゆる所に刃が向かい、華奢な身体に切り傷が出来る度に頬が見えない涙で濡れる。刃の軌道がずれそうになる。守りたいって思っていた人をなんであたしは傷つけているのだ、と。

 

伝えきれない ココロをいまぶつけよう

 

(ううん。ココが踏ん張りどころデスっ。……歌兎、もう少しの辛抱デスからね。きっとお姉ちゃんがあなたをそこから救ってあげるから)

 

きっときっと そう「大好き」伝えたい

 

(歌兎にッ!!!!)

 

 宙へと舞い上がり、鎌を脚へと装着すると背中のブースターが火を噴く。

 この一撃で決める、垂れ目がちな瞳に決意の光が浮かぶ。

 この闘いが終わり、無事あの悪魔から妹を取り戻せたら、自分が思っていたことを包み隠さず話そう。それで妹には休んでもらおう。頑張りすぎたあの子には暫くの間休息が必要だ。あんなに頑張ったんだ、少し休むくらい罰は当たらないだろう。

 そして、あたしは今までしてあげられなかった事をしてあげよう、あの子に。沢山甘えさせてあげて。沢山我が儘も聞いてあげよう。ギュッと繋ぐこの手を二度と離さないために。

 

【断突・怒Rぁ苦ゅラ】

 

 ブースターの勢いによって近づいてくるあたしの刃にゆらゆらと起き上がった悪魔は漸く気づいたようで眠たそうに開かれた瞳が驚きから垂れ目へと変わっていく。

 赤い瞳は迫ってくるあたしをまっすぐと見つめており、あたしはその視線から目を逸らし、この技を決めるだけを考える。考えていた……。

 

「…お姉ちゃん」

 

 だが、その呼び方一つであたしの動きはピタリと止まり、刃はあらぬ方向へと向かい始める。

 だって、その呼び方も、話し方も、何もかもがあたしの記憶にある妹のものだったから……。

 

「ッ!?」

 

 足に装着した刃は悪魔に触れることなくコンクリートへと突き刺さったまま、悪魔の横振りをまともに食らったあたしはガラスが割れたビルへと叩きつけられ、地面へと倒れる前にもう一度技を喰らい、ビルが砕け、瓦礫が降り注いでくる。

 

「…けほけほ。くっ…そっ」

 

 降り注いできた瓦礫を避けていると思いっきり右肩を踏まれ、地面へと再度叩きつけられる。

 見上げるあたしにはニンヤリと片頬をあげるようにして嗤う悪魔の姿があった。

 

「お姉ちゃんは本当に優しくて僕の事愛してくれてるんだね」

 

 ギアが割れた所へと足を置き、ゴリゴリと痛みを与えるように力を入れる。

 全身を駆け回る痛みに顔が歪み、それを見下ろす赤い瞳が面白いものを見たように細まる。

 

「それが命取りのも知らずに–––––」

 

 クククク、と細い喉が揺れ、不気味な笑い声が漏れ出る。

 

「–––––馬鹿なお姉ちゃん(ひと)

 

 そこで言葉を切った悪魔は身体へと置いていた脚を元へと戻し、代わりに両手に持った棒へとガチャガチャと物を装着し、大きな槌へと変化させると振り上げる。

 

「……く」

「…さようなら、お姉ちゃん。今までもこれからもずっと愛しているよ。一足先に僕のところで待っててね」

 

(ここで終わってしまうんデスか……あの子を取り戻せないまま。こんな奴にやれて……しまうん、デスか……)

 

 悪魔が握る大槌があたし目掛けて振りかぶっていく。

 迫ってくる槌を見つめながら、脳裏に浮かぶのは様々な思い出(メモリア)。ああ、これが俗に言う走馬灯というものなのかもしれない…。

 あたしが目を瞑り、大槌に潰されるのを待つ。

 もし出来るのならば、生まれ変わってもあの子の……歌兎のお姉ちゃんに生まれたい。

 ポロ…と瞼から熱い雫が流れる。

 

「!?」

 

 悪魔の驚いた声に目を開ける。

 すると、あたしと悪魔の間に大きな薄水色の壁みたいなものが地面へと深く突き刺さっている。

 軽く咳き込みながら、上半身を起こし、目の前にある壁をジィ––––と見てみると青い筋が走っているように見える。しかもあたしの顔が映り込んでいる……この壁は鉄で出来ているのだろうか?

 

(デデデ、なんデスか、このトンデモ……。ん? あれ? でも、この模様……何処かで見たことがあるような………)

 

 そう、遠くない。遠くない、遠くない過去にこれと同じものをあたしは間近で見たような……。

 その出来事を思い出そうと眉を潜めてると壁の向こうから悪魔の驚きに満ちた声が聞こえてくる。

 

「…壁? いや、これは––––」

「–––––剣だッ!!」

 

 悪魔の声を遮るように凛々しい声が大気を震わせた途端、見知った旋律と銃弾の音が辺りに響き渡った。

 

挨拶無用のガトリング ゴミ箱行きへのデスパーリィー




・全シリーズの中で翼さんの一番好きなセリフは『剣だ!』

・Gで一番好きな戦闘曲は『Bye-Bye Lullaby』
 因みに一番好きなフレーズは"閻魔様に土下座してこい"デス……

・獄鎌・イガリマで一番好きなフレーズは『冥府のマスカード』
 "マスカード"の所のタメが好きなのデス……

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