Fate/stay night 〜Gluhen Clarent〜   作:柊悠弥

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第29話 『意外な再会』

「何でランサーが、ここに居るのよ」

 

 凛の驚愕の声を聞いて、待ち受けていた神父は笑みを浮かべる。

 深淵を覗いているような心地にさせる、深く、暗く、黒い笑み。その裏側にはどんな想いが隠れているのか。

 神父は────綺礼は、態とらしく自分の胸に手を当てて。聖書の一節でも語るように、緩やかに口を開いた。

 

「何故、だなんてつまらない事を聞くものだ。私の隣にランサー()がいる。そもすれば、答えはひとつだろう?」

「……そう。アンタも、聖杯戦争の参加者だったってワケ」

 

 凛としては、一切予想していなかったわけではない。

 ランサーとの戦いで、マスターは一切姿を見せなかった。アーチャーの目を以てしても、視認することすらできなかったのだ。

 マスターが攻撃されないように姿を隠す、というのはわかる。けれど、一切気配も感じないほどに遠くで自身のサーヴァントへ指示を出す────出さなければいけない、その理由。

 

 マスターとして、顔を出すわけにはいかない人間。

 

「最後まで姿を隠して、高みの見物を決めて。キャスターにあたふたしている私たちを面白おかしく見物してた……アンタらしいわ」

 

 協力を仰ぎに来たはずが、敵の手中に飛び込んでいたというコトだ。

 

 マズい。ここは相手の領土……加えて、相手は言峰綺礼だ。アイツは数で押し通して勝てるような相手じゃない。

 許されるのは逃げの一手、それだけ────

 

「尻尾を巻いて逃げ出すか、雑種。下郎でも下郎なりに(オレ)を楽しませてはどうだ?」

 

 その一手すらも、許されない。

 ここに来てひと言も言葉を発しなかったもうひとつの人影……金髪の男が指を鳴らすと、何もなかったはずの空間から無数の剣が飛び出した。

 ソレは士郎たちの頰を掠め、その真後ろに被弾する。

 これはまるで、自分の射程距離をアピールでもしているかのような。

 

 逃げればどうなるかわかっているな? と。無言の威圧をかけられているようだった。

 

 それだけではない。状況はさらに悪い方向へと一転した。

 おそらく今攻撃を放った金髪の男もサーヴァントだ。どういう理由かはわからない……けれど今ここに八騎目の、イレギュラーな存在が存在する。

 言峰綺礼とサーヴァント二騎。こちらの戦力はサーヴァント一騎とマスターが三人。一見有利に見えるが、綺礼の戦闘能力を考えると絶望的だ。

 

「……で、一応聞いておくけど。キャスター討伐のために、力を貸す気はないの?」

 

 念のために、と。ここに来た本来の目的を問いかける。

 何やら相手は敵意をむき出しにしているが、協力できれば心強いことには変わりない。

 

「残念だが、凛。私は『アレ』の誕生を望んでいる……故に、キミたちは些か邪魔すぎる」

 

 しかしそんな問いかけは、無慈悲に叩き落とされた。

 戦況が動き出す。金髪の男が片手を挙げると、大量の剣が男の背後に顔を出す。

 その数五十と少し。大量の剣は各々が士郎たちに狙いを定め、主人の指示を今か今かと待ち望んでいる────。

 

「士郎、令呪を使ってセイバーを……」

「悪い遠坂、ランサーは任せた」

 

 即座に士郎が凛の言葉を振り切り、駆け出す。

 戸惑う暇すら許されない。士郎は凛たちの目の前へと駆け出ると同時に、

 

投影(トレース)開始(オン)────!!」

 

 自身を魔術師へと変えるスイッチを叩き下ろす。

 士郎にはわかってしまった。アレは桁違いだと。アレに敵うのは自分だけだと。

 アイツが放つ剣の全ては、全てが等しく宝具であり────絶対無敵の一本。ソレを、

 

工程完了(ロールアウト)全投影(バレット)待機(クリア)……!! 全投影、連続層写(ソードバレルフルオープン)!!」

 

 視認する全てを複写し、生成し、放たれた原物(オリジナル)目掛けて即座に放ち、相殺する────!!

 

 轟音を立てて剣と剣はぶつかり合い、弾き合い、宙を舞う。いくらかの剣は構造の理念が手薄だったのか、受け止めきれなかった剣が士郎の体を掠めていく。

 

「ほう? なかなか面白い術を使うではないか。どれ、少し遊んでやる」

 

 再び男が指を鳴らすと、背後に無数の剣先が姿を現した。

 まるで底無しだ。同じ数を生成した士郎は疲労の色を隠せないというのに、男は一切、息切れすらもしていない。

 

投影(トレース)開始(オン)────!!!」

 

 ◇◆◇

 

 結局理解はできなかった。

 病院を出て、再び当てもなくセイバーはフラフラと歩き回って。挙句にたどり着いたのは小さな公園だった。

 公園には人影はひとりも見えない。そこにはセイバーだけがベンチに腰を下ろし、空をひたすらに眺めているだけ。

 

「シローの、こと」

 

 言葉にすればするほど理解できない。彼のことを考えると、胸の内に何か靄がかかることだけはこの数時間で充分に理解できた。

 胸が締め付けられるような。自分は今、彼を、士郎をどう思っているのか────。

 

「……おまえ、衛宮のトコの」

 

 そんなセイバーの思考を、何処かで聞いた声が遮った。

 視線を空から公園の入口へと移すと、何処かで見た憎たらしい顔が見える。

 

「……誰だっけおまえ」

「失礼なやつだな。……間桐慎二だよ、名前くらい覚えろ」

 




うーん、短い。なんかちょっとしたスランプが来てたのと、ちょっと新人賞に小説出そうと思ってて。そっちの方が忙しかったり。
たぶん次の話もそんな感じになります……すんません

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