仮面ライダーファング ─その牙の剥く先は   作:千石黒羽

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Sが舞い踊る/復讐、開始
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……この悲鳴は、誰のだろう。ずっと、ずっと、忘れていた。

「──、ここから、絶対に出るんじゃないぞ。息を殺せ。物音を立てるな。絶対に」

 

ちがう、忘れていたんじゃない。本当はずっと、覚えているんだ。

忘れたいのに、忘れられない。結局、記憶の引き出しにしまって鍵を掛けたのだ。忘れてしまわないように、そのままの状態で。

「お父さんが、アイツを追い払うまで、絶対に出るな。兄ちゃんとの約束だ。いいな?」

 

俺は、あの日の俺は素直に頷く。その時の兄の顔は、俺にはちゃんと見えなかった。押し入れの二段目に這い上がった俺は、布団を被ってただ震えていた。

 

何が起こっているんだろう?皆、別人みたいだった。

 

あの日。突然、帽子を深く被った男が訪ねてきたと思ったら──、父の様子は豹変した。すぐ様兄に俺を二階に連れていくように命じて、どうやら居間へと男を招待したようだった。男の正体は、今でも分からない。

 

最初は、ガラスの砕ける音が聞こえてきた。まるで何かが弾けるような音だった。耳を塞ぎたくなったが、それでも我慢して階下の状況を少しでも分かっておこうと、歯を食いしばって耳をすませ続けた。

 

その先は──

 

──駄目だ。分からない。

思い出そうとする度に、記憶にノイズが走る。

これはきっと呪いだ。俺が今からやろうとしている事に対しての。

壊れたのは、鍵か。それとも鍵穴か。

 

あの日、俺の家族は化け物(ドーパント)に殺された。

それから俺は、奴を生み出した組織を潰す為だけに生きる、復讐を成し遂げる為だけの人間になったのだ。

 

 

■ ■

 

水を愛し、そしてそれに愛される街──水都。

 

そのビル街から少し離れたところに、その一軒家はあった。オッサンから紹介された、俺達の新しい住処である。俺は常に住所不定みたいなところがあるので、こうして一点に留まるのは数年ぶりのことだ。

「……で、どうして一階が書店なんだ……?」

 

あの後、後ろから追っ手が来てる事を察知したオッサンは、散々ぐるぐるとビル街で迂回路を取った後、高速道路に乗り、ここまで送ってくれた。

奴らも何故ここまで必死になって追い掛けるのかと思ったが、どうやら俺やオッサンより、レイに問題があるらしく──多分これは組織の関係だ、彼女はガイアメモリの研究をしていたわけなのだし──結果として念入りに追っ手を撒くハメになったわけだ。

そして連れてこられた場所は、目立つとも目立たないとも言えない、一昔前の住宅街にありそうな書店だった。どうやら、二階が居住スペースになっているみたいだ。

いやいや、身を隠すんだったら山の中の小屋など、もっと目立たない場所の方がいいんじゃないのか?とにかく、そういう場所を想像していた俺は、この状況にクエスチョンマークしか浮かばなかった。で、連れてきた当人のオッサンは、

「はっはっは、僕はここの店主でな。こういう怪しい研究者と手を組むだけじゃあ、生計ってのは立てられないんだよ。あと、なんだ、木を隠すなら森の中とも言うだろう?」

などと言って、俺の疑問を適当に躱してしまった。山の中じゃなくて、森の中。何も無い場所にある小屋の方がかえって怪しい……ってことか。言い得て妙だ。

 

時刻ももう午前四時を過ぎた頃。前述の通り、適当な説明をされた俺は隣に立っていたレイと顔を見合わせて、少々困惑気味に書店のドアを押した。

紙独特の匂いが室内に立ち込めていた。まるで学校の図書館に入った時みたいな、そんな懐かしさを感じる。

まあしかし、俺はあまり本を読まない。活字には興味がまるでないのだ。読み始めると途端に眠気が襲ってくる。それらの本を全て素通りし、レジカウンターの奥にある扉を開ける。オッサンから言われたとおり、そこには二階に向かって階段が伸びていた。ぎし、ぎし、と軋ませながら階段を上がっていく。

二階のスペースは、机がひとつ置いてある以外は、何も無いがらんとした場所だった。彼が言うには好きに使っていいらしい。二人が住むには、問題ない空間だ。

「ふむ……私の研究室から折り畳みのベッドを持ってくるべきでしたかね」

俺の後に付いてきたレイが部屋を見回しながらぽつりと言う。床にそのまま寝るのは嫌らしい。俺はというと、公園のベンチ以上に寝るのに困難な場所は無いと思っているから、床に寝転がるのでも結構だ。

「そういえばあんたさ、あの研究室からなんも持ってこなくてよかったのか?」

「……レイと呼んでください。ドタバタしていて名乗る時間がありませんでしたが、これが一応私の名前ですので。それと、研究室のものですが。あれは元々借り物だったので、持ってきたら私は泥棒になってしまいます」

「って事は、あのベッドだけ私物だったのかよ……」

「そうなりますね。ご名答です」

ご名答、じゃなくて。何故だか睡眠欲がべらぼうに高い女だった。そういえば、さっきもオッサンがカーチェイス中にゲームセンターにあるようなレースゲームばりのカーブを見せていた時、レイは俺の肩に寄っかかって寝ていた。なるほど、助手席に乗らなかったのも賢明な判断と言える。頭ががくがくなってたら左右確認の邪魔だ。特に、周りを用心深く確認しなければならない程速度を出す時には、な。

「研究道具は、私が昔いた建物の中から引っ張ってきますから。……そこは今では廃墟になっていますが、盗みに入られてなければ道具達はきちんと保存されているはずです」

「そういう所は科学者っぽいな。抜け目がないというか」

「っぽい、ではなく。科学者ですから」

ふん、と鼻息をつくとそっぽを向かれてしまった。やっぱり気まずい。俺だって普通に男ではあるし、無愛想なやつとは言え、女と二人きりでこれから寝起きを共にするっていうのは、なんとも落ち着かないわけだ。だったらオッサンの隣で寝る方がマシである。その彼も俺達を送り届けた後、また車でどこかに行ってしまったんだからどうしようもない。

「あ、もしかしてこの中に何かあんのか?」

「いきなりどうしたんですか?」

部屋をぐるりと見渡した俺は、押し入れがある事に気付いた。ぽつんと置かれた机に目を奪われ、背後を注視しなかったわけだ。手をかけて開くと、綺麗に畳まれた布団が2セット、そこには入っていた。

「布団だけか。二つひけるか?」

「ふむ、私はこっちで寝ることにしますか」

俺が布団の設置の仕方を考えていると、隣に立っていたレイが突然押し入れの上の段に上り始めた。俺が驚く間もなく、布団一式が投げて寄越されると、彼女は押し入れをパタンと閉めてしまった。当然のごとく、彼女は中にいるままである。

 

「あ、ありがたいけど複雑だ……!」

 

俺は国民的アニメの主人公の様な気持ちになったような心持ちで、ぼーっとしながら布団をひくと、その上に寝転がった。先程戦った身体だ、睡魔はすぐに訪れて、俺の両目を閉じさせた。


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