グッドルーザー球磨川 〜鳥籠学園でのノーハウなノウハウ〜   作:TESTSET
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幸福に溺れ

 球磨川禊が――球磨川くんがこの学園に転校してきて早くももう一週間が経つ。ちなみに、球磨川くんに螺子伏せられた対馬小路(つましょうじ)(つめ)は精神を病んで入院していった――軽く言ったものの、彼女自体あのようなスキルで、自身を“潰さず”やってこれた事自体から、ものすごい精神力だったのは確かだったのだが。

 

「………はあ」

 

『どうしたの教楽来(きょうらぎ)ちゃん? ため息なんかついてると幸運が逃げちまうぜ?』

 

「その原因は君なんだけどね……!」

 

 学級委員長だった対馬小路さんがクラスから――学園からいなくなったおかげで、その仕事が溜まりに溜まった委員長分の仕事が副委員長の僕に流れてきた訳だ。

 対馬小路さんは恐怖政治を敷いて従えて来ていた訳だが、仕事なんて、といった考え方をしていた訳じゃあない。しっかりやる仕事はこなしていたし、クラスを従える者としての誇りとかそんなのを守るためとか言っていたけど、そんな感じでしっかりものだったのだが。

 

「恐怖政治だったから良かったものの……対馬小路さんのあの恐ろしいスキルが無かったらこの3年生はおしまいだよ……」

 

『ふうん、たいへんそーだねー。』

 

「いらっ」

 

 ついうっかりと口に出してしまうほど苛立たしい。一体誰のせいだか、しっかりわからせてやりたい。

 

 そう、恐怖政治。そのおかげでこの問題児だらけの――最近もう一人追加された3年生を管理しきれていたのは、対馬小路さんの優秀さと、スキルの恐ろしさが合さっていたおかげなのだ。

 

 

 

「………そういえば、なんで球磨川くんはここにいるの?」

 

『おっと、いきなりの存在否定かい? 最近の高校生ってのは手厳しいもんだね』

 

「いやそうじゃなくて、もう下校していいはずだけども」

 

 仕事がなかなか終わらず、放課後も居残って仕事を片付けようとしていたのだが、どうもこの気持ち悪い球磨川くんが原因で進まない。

 椅子を3脚ほど連ねて我が物面で寝てやがる。

 

『いやあ、神託っていうのかな――いや安心託? ――まあ安心院さんがそこに残っていれば面白い事になるよって夢の中でね』

 

「また安心院さん……。まあ確かに授業中に球磨川くんは爆睡してたよね」

 

 まるで学生の本分を嘲笑うかのような居眠りで学校を過ごしていた球磨川くん。よくこんなのがこのエリート校に入れたなとしみじみ感じつつ、またもや出てきた安心院さんという人名が気になる。

 

『まあ教楽来ちゃんには関係のない話だよ――僕もあまり夢の事を――彼女の事を話したくないし』

 

「………」

 

 そんな事を言われたら気になってしまうのが人間の性分といったものだが、相手はあの球磨川くん、その球磨川くん、何をされるか分かったものじゃないし控えるのが良いのだろう。

 

 

「……2人の問題児のせいで胃がもう…」

 

『へぇ~、2人。残り一人は誰なんだい?』

 

「………」

 

 理解してるなら弁えてほしい。理解してるなら大人しくしててほしい。

 そう思いながら僕は球磨川くんの質問に答える。

 

「…玖珠(くす)さん。玖珠(くす)理子(りこ)さんだよ」

 

『何その約束されたみたいな名前。親は何を思って付けたんだろうね』

 

「いや、この子は名前負けなんかして無いんだよね……。――なんたって、薬のスキルホルダーなんだから」

 

 そう、玖珠理子さん。学園に轟く、3年2組の止まった悪魔というのは何を隠そう玖珠理子さんの事だ。

 なんたってそのスキルはとてつもなく“恐ろしい”。ある意味で言えば対馬小路さんの“動々(フォールダウンフォール)”よりも――球磨川くんの“大嘘憑き(オールフィクション)”よりも“恐ろしい”スキルなのかもしれない。

 

 

「その子が……対馬小路さん居ない今、学園を支配してやろうと躍起になってるんだよ……」

 

『学園なんか支配して何になるって思うんだけど。その子は授業の日程でも代えたいのかい?』

 

「えっ? ……いや分かんないけど……」

 

 まあ、球磨川くんも何も考えず発言したのだろう――もっとも、この人が何かを考えてる時があるかどうかも怪しいものだが。そんな難しい質問は無視して構わないだろう。

 そもそも、学園を支配するのに理由なんているのだろうか。自己満足の果ての果てに、つまらなくも、あるのが学園ってだけなのかも―――。

 

 

『で、その玖珠理子って子はどんなスキルを持ってるんだい?』

 

「そりゃあ………」

 

 ここで私は良い事を思いついてしまう――一般的に言えば悪い事と言えるかもしれないが。

 

 “()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”。

 

 ああ、我ながらなんて素晴らしい考えなのだろうか。邪魔者も痛い目を見て反省してくれて、一石二鳥という言葉がこれ以上に似合う事柄はない。

 

「そっそれは球磨川くんが自分で聞けばいいんじゃないかな?」

 

『………』

 

 

 そう言った矢先、気持ちの悪い笑みでおもむろに螺子を取り出し―――、

 

「わかった! わかったよ! 僕も一緒に行くよ!!」

 

『オーケー。ならいいんだ』

 

 球磨川くんはそう言うと螺子をしまってくれたが――どうも玖珠さんと会うのは気が引ける。案内だけして途中で抜け出せたらいいのだが。

 

「って、なんで起きてるの球磨川くん?」

 

『善は急げって言うだろ? 僕達も善に倣って急がないと』

 

「えっ今すぐ?」

 

 どうしてこうもこの人はおかしな所で活発なんだ!

 本当の本当に気が引けるってのに、気持ちの準備も許されないだなんて……。そう思いながら仕事を中断して教室を出る。

 

 

『それにしても、この学園の形は変だよねえ。普通ならすぐ隣同士の筈な――3年4組と3年2組が遠いだなんて、さらに迷路みたいに入り組んでるだなんて』

 

「あーそれは、この学園ももとは小さかったらしくて、大きくなるにつれての増設の増設でこんな形になったらしいよ――普通に建て替えたほうがいいと思うんだけどね」

 

『へー、そんな伏線を貼っても後で回収するのが大変なだけなのに』

 

「伏線?」

 

 意味があるのかも分からない会話をしながら――するというよりこなしながら進んでいく、どこかでいい言い訳を考えて抜けなくてはいけないのだが。

 

 

『あーもう、まどろっこしいなぁ。』

 

 いきなり球磨川くんが3年2組に向かう為に歩いてる途中で声を上げた。

 まどろっこしいと思うのは同感だが口に出して言うほどなのか、別に何かなる訳でもないのにと思っていると―――、

 

 

『“大嘘憑き(オールフィクション)”。3年2組へ行く過程を無かったことにした。』

 

「……はっ? はあああ?」

 

 大嘘憑き(オールフィクション)ってそんな事の為に使っていいの!? というかそんな曖昧な概念にも作用できるの!?

 

 

『うるさいぜ教楽来ちゃん。玖珠理子って子はあそこでキマってる子でいいのかい』

 

 球磨川くんにうるさいと――正論を言われるのは癪だが、球磨川くんが指差した先、ちょうど教室の中心の席を見ると確かに玖珠理子さんが――よだれを垂らしながら椅子にだらんと座っていた――いや崩れすぎてて座っているって言えるのか怪しいほどだけど座っていた。

 

 

「…ひっ……ひひっ……ひひひっ……」

 

『………この子はどうしたんだい…?』

 

「多分………、いや絶対自分のスキルの影響だと思う……」

 

「ひひっ………。―――あぁ…?」

 

 虚ろ気だった瞳が球磨川くんを捉えた瞬間。鋭く変わる。

 垂れていたよだれを服の裾で拭き、(座っていたとは言い難いが)椅子から立ち上がる。

 

「お前……。噂の球磨川?」

 

『うん、いかにもってやつだよ』

 

 立ち上がったおかげで、同年代よりも一回りくらい小柄な体格が目につく――言われなかったら中学生に見間違うほどだ。

 

「で、私になんのよう?」

 

『いやあ、僕は正義の味方だからね。学園を支配しようだなんて輩は許せない性分なんだ』

 

 だから―――。

 と、球磨川くんが言葉を紡ぎ、いきなり大きな螺子を取り出して玖珠さんに飛びかかったその時。

 

 

「……うざい。」

 

『げはぁっ…!!!』

 

 いきなり球磨川くんが血を吐いて倒れた。

 

「く…球磨川くん……? もしかして…………やられちゃったのーーーーー!?」

 

 女の子に不意打ちをした挙句、情けなくも球磨川くんは死んでしまった。

 

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

 

 まあ、予想はしてたけど、やっぱりここでも球磨川くんは死んじゃうんだねえ。心優しい安心院さんはそのたびに涙を流しているというのに――って、本気にした?

 

 それはそれとして、あの子のスキルは危険も危険だ。どんな時代背景だろうと、どんな舞台背景だろうと、変わらず危険であり続ける。それが彼女のスキルだよ。君も聞いてるだろう?確か教楽来ちゃんって子に、“()()()()()()()()()()()()()()()”ってね。

 いやはや、本当に恐ろしいスキルだよ。下手すれば、君の“大嘘憑き(オールフィクション)”なんかよりよっぽど恐ろしいかもしれない、殺傷能力としても申し分ない恐ろしいスキルだ。

 

 まあ、それに呆気なくやられてしまうのも、球磨川くんだとしても仕方ないのかもね。

 どういうスキルかは身を持って体験しただろう?

 ――って、すぐ死んじゃったから分からなかったかな。即死ってやつだったしね。けど、すごい苦しみだったろう? ――あの一瞬で凄まじい苦痛を味わったろう?

 そこに彼女のスキルの恐ろしさがあるわけだけど――まあそれだけじゃないってのがもっともっと恐ろしい点でもあるのだけど、今回球磨川くんはどんな風に彼女を螺子伏せるのかな? それとも螺子伏せられるのかな?

 

 少しくらいは期待させてくれよ、少しくらいは楽しませてくれよ。

 それじゃ、またもや行ってらっしゃい――次会うときはきっと――――。

 

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

 

 『―――あーやだやだ。これだから死ぬのは嫌なんだ』

 

 球磨川くんが死んでしまったあと、蘇生するまでの間、さっき球磨川くんがやっていたように椅子を何脚か連ねてそこに寝かせていたのだが――ついさっきヌメリと球磨川くんが起き上がった――起きるのにヌメリというオノマトペはどうかと思うのだが、そこは球磨川くんなので仕方ない。

 

 そして一緒に教室にいた僕は―――、

 

 

「あっ…あへぇ………」

 

『…んー? これは眼福って言うやつかな?』

 

 

 だから僕は玖珠さんに会うのが嫌だったんだ……。

 

 僕の顔は紅潮し、息遣いも荒くなっている。空気に触れるだけで肌が敏感に反応してしまうし――なんというか……、とてつもなく僕は興奮している。

 

 いつも玖珠に会うとスキルを使われおもちゃにされてしまうから、会うのが嫌だったのだ。彼女のスキルで身体をいじられてしまい、なんというか、艶っぽくなってしまう。

 ―――どうやら彼女は僕のことを気に入ってるらしく、目に入ったらお構いなしにスキルで“こんなふう”にしてくる。それも、対馬小路さんの前だろうがお構い無しにだ――あの頃は対馬小路さんがなんとかしてくれてたからいいものの、今のままじゃあ多分、支配でもされてしまったら僕の身が危ない。

 

 

「たひゅけ……たひゅけて……球磨川くん……」

 

『うーん……。僕としてはこの素晴らしい、額縁に入れて飾りたいほどに素晴らしい光景を無くすのは心苦しいわけだけど……』

 

「おおっ、少しは分かってるみたいだな、球磨川」

 

『うんうん、僕っ子のこんな姿は素晴らしいの一言に尽きるね』

 

 何呑気に談笑してるんだこのお人は。

 仮にもクラスメイトの危機だぞ、普通に助けてよ。

 

 

「所で球磨川――なんでお前勝手に起きてんの?」

 

『起きることに許可が必要だなんて、いよいよ最近の高校生は束縛までするようになったんだね、手厳しい手厳しい』

 

「うるせえ黙れカス。ずっと死んどけ」

 

『ひどいなあ、まだお互い名乗りも上げてないんだぜ――そうカッカするなよ』

 

 相変わらず球磨川くんは喧嘩を売りまくる、喧嘩の大セールだ。

 そう思っているとおもむろに僕に近づいて来て―――、

 

『多分僕と玖珠さんで戦うからさ、ここで大丈夫だよね?』

 

「ひゃあっ…! 肩触らないでよ…!!」

 

 今の敏感な僕の肩を触るだなんて、僕にまで喧嘩を売っているのではないのだろうか。

 

 

「私の鏡師ちゃんとイチャイチャしてんじゃねーよ。」

 

『イチャイチャも何も、ただ話してただけだよ』

 

 そういうと再び球磨川くんは螺子を取り出した。

 

 

「ふーん、バカの一つ覚えってよく言ったもんだね」

 

『一つ覚えでも覚えてるだけ賢いもんだぜ。僕は何も覚えちゃいないし、何も無かったんだからね』

 

 そういうと、さっき取り出した螺子を教室の床に螺子込んだ。そしてその上に右足をのせ寄りかかる形になる。

 一体何をしたいのか分からないが、おそらくはまた玖珠さんに攻撃を仕掛けたいのだろうが、どうせさっきのにのまえになるだろう。

 

 

「じゃあ……、私のヒッサツワザってやつを見せてやる。この私でさえ溺れさせた最強の快楽の波、私無しじゃ生きられないほどに洗脳してやるよーーッ!!」

 

 何か動作を起こしたようには見えなかったが、確実に玖珠さんの“スキル”は発動した。時間差なしの理不尽な攻撃が球磨川くんに迫る―――、

 

「なっ………! 私のスキルは……“薬罪人(ハードラッグ)”は発動したはずだぞ!!」

 

 

『んんっ?何も起きないけど、一体どんなスキルなのかな?もう興味津々で、たまらないよ』

 

 

 

「私の……、私の“薬”の“効果”を操る私のスキルが通用しないはずがない………!! ましてやあのほどの快楽を、受け止めきれるはずがない!!!!」

 

 そう、玖珠さんのスキル、“薬罪人(ハードラッグ)”は薬の効果を操り、飲んですらいない相手にも効果を表させるという恐ろしいスキル。“薬”の効果であればどんな効果も自由自在という点から、その恐ろしさは疑い知れよう。

 ―――けれど、“()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”。

 

「普通の麻薬の3000億倍……そんか快楽に耐えれるだなんてあり得ない、私でさえあんなになったのに!!!」

 

 納得行かないようで、子供の駄々のように煩く喚き散らす玖珠さん。たしかにそうだ、疑う必要のない、生まれつきの、自分の“部位”クラスのスキルが機能していないのだ。

 

 

 そして、球磨川くんが喚き散らす声を無視して、とてつもなく気持ちの悪い声で紡ぐ。

 

 

『――僕ら過負荷(マイナス)だってのは、いつだって不幸とともにあった、不運ともにあった、窮地とともにあった、悪手とともにあった。そんな奴らに、一時の、ただただ“至福(プラス)”ってだけの快楽を与えたところで、意味なんてない――まるで人生のようにね』

 

 球磨川くんの踏んでいた螺子が高速で回転し始める。

 

『君みたいな平穏の邪魔になるやつは生かしておけない――活かしておけない性分でね。僕の人生を守るために君は不要らしくってさ、まあ良くも悪くも、“僕は悪くない”。ぜんぶ僕じゃあなくて君の責任さ』

 

 長く、長く長く、頭に入り込む呪詛。僕に対してではないはずなのに吐きそうだ。

 そして、ガコンと、螺子が、床に、全て、刺さる。

 

『だから、さよなら。玖珠ちゃん。』

 

 

 

 

『この世から薬という概念を、“()()()()()()()()()”。』

 

 

 

「あ……ああ…ああああ…………」

 

『うんうん、素晴らしいね。僕は前々から人間たちは過去に戻る必要があると思っていたんだ――薬を無くすということがその一歩になったとしたら嬉しい限りだね』

 

「球磨川くん………、君は………」

 

 “薬という概念”が消えて無くなって――元から無かったことになったおかげで、おそらくは媚薬の効果も消えてくれた。

 ―――けれど、今はそんなことより球磨川くんがやった酷い、酷すぎる事が問題だ。

 

「おま……え………、世界から薬だなんて……そんな、いくらの命が無くなると思ってる……!? 尊い命が、薬で繋ぎ止められた命たちが、いくら居なくなると!?」

 

『僕は悪くない。なんたって元から無かったことになったんだ、誰も僕を――僕達を責めることはできないよ。強いて言うなら、君が悪い』

 

「……あ…ああ…あ………ああああああああああああ!!!!」

 

 壊れたおもちゃのように、糸の切れたマリオネットのように、狂ったように玖珠さんは球磨川くんに襲いかかる。武器なんて持っていない手を振り回して、健気にも、哀れにも、無理だとしても襲いかかっていく。

 

『感動的だね。悪だったはずのボスが正義となって戦う、うん気に食わないほど王道だ』

 

 けど―――。と、球磨川くんが言葉を重ねる。

 

『王道って言うのは、しっかり調理されていないと生臭くって――青臭くって食べれたもんじゃないんだよ』

 

 そして、玖珠さんは壁に螺子伏せられた。

 

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

 

 後日談。

 

 やはり、と言ったらなんだが、玖珠さんは学校に来なくなった。精神を病んで家にひきこもってしまったらしい。

 学園では大きな勢力であった対馬小路さんと玖珠さんが居なくなり、一種の波乱が起きている。

 

 支配者がいない今、あわよくば自分がその場に着こうと、皮肉なことに支配者が必要なほどに学園は荒れている。

 

 

「ああ…、痛い…」

 

 胃をキリキリ痛ませながら、薬を無かったことにしやがった球磨川くんに想いをはせる――もちろん恨みつらみを。

 

 

『んー? 教室の前で立ち止まって何してんの?』

 

「球磨川くんの事を考えてたよ――球磨川くんのやらかした事を考えてたよ」

 

『ふーん、モテる男はツライね』

 

 ところで―――。と球磨川くんは続ける。

 

『随分と顔色が悪いみたいだね。どうしたんだい、教楽来ちゃん』

 

「ところで、になってないよ。まさにその事について考えてたよ」

 

『へえ、それがいったいまたどうして』

 

「球磨川くん、確かすべての薬を無かったことにしたんじゃなかった?」

 

 すまし顔で聞いてくるが僕はそのせいで胃に穴が空きそうで困ってるんだ。

 

 

『いいや、そんなの嘘さ。はったりさ』

 

「………えぇ!?」

 

『いやあ、だってさ、そんなことしちゃったらか弱い生命たちが死んでしまうじゃないか』

 

 さらっと、さも当然かのようにとんでもない事を言う球磨川くん――まあ、その前にしでかしたこともとんでもない事なのだが。

 

 けど、現にあのとき僕の薬の効果は――媚薬は無くなっていたはずだった。

 

『教楽来ちゃんのは普通に“効果”を無かったことにしただけだよ――まあ、本題と言ったらここからだよね』

 

「どうして玖珠さんのスキルが通じなかったのか……」

 

『いやあ、別にあれはスキルも何も使ってない、あの場で――口上で説明したとおりなんだ』

 

「えーっと、たしか――“マイナスにそんなのは意味ない”……だったっけ?」

 

『まあ、簡単に言えばそんな感じさ。その後はもう簡単、それで自信を失った玖珠ちゃんに、ちょっとした演出とかではったりかませばもうおしまいって訳さ――いやあ、あれくらいで自信を失うなんて、よっぽど自信のあった必殺技だったみたいだね』

 

 たしかに、言われてみればそうだ。球磨川くんはただ床に刺した螺子をさらに螺子込んだだけでスキルが発動していたかなんて分からない。玖珠さんもスキルを確認している様子もなかったし。

 

『そう、種が分かればこんなにもつまらないもんだよ、現実ってのはね』

 

「は……はあ……」

 

 

 いや、まって。―――ってことは。

 

 

「えっじゃあ僕が今まで我慢してた胃薬も……?」

 

『当然あるね、無かったことになってないんだし――すごいね教楽来ちゃん、我慢強い子になれたじゃないか』

 

「全然良くなーーーーーい!!!!」

 

 

 こうして、鳥籠学園での球磨川騒動の第二回目は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 






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