グッドルーザー球磨川 〜鳥籠学園でのノーハウなノウハウ〜   作:TESTSET
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グッドラックスタディ その①

「この学園の実質的な支配者は二学年だってのは、球磨川くんは知ってたかな?」

 

『いきなりどうしたんだい? いや知らなかったけどさ』

 

 

 ほぼ日課となった居残りでの仕事、そしてそれにいつもいる球磨川くん。

 その最中、ふと球磨川くんに話題を振ってみた。

 

『ふーん、三年生の威厳もあったもんじゃないね。いやはや情けない情けない』

 

「まあ……対馬小路さんたちのスキルは別格だったし、『動々(フォールダウンフォール)』なんて強力なスキルを持ってたおかげで威厳は保たれているよ。『彼女たち』も手出しが出せなかったからね」

 

 『彼女たち』とはもちろん二年生の事だ。スキルホルダーが集まり集団となった二年生(集団と言っていいほどの人数かは知らないが集団は集団だ)。

 

「その集団の名は『新本指(フィンガーナイン)』、由来は流石に知らないかな」

 

『で、その話題を僕に振って何をしてほしいんだい? こういう時は決まって何かしてほしいんだろう?』

 

「いや…、ただ単に言っただけだよ…。僕はそんな現金な女の子じゃないって」

 

『あれま、ハズレちゃったぜ。教楽来ちゃんのことならお風呂で最初に洗うところすら網羅してる僕が外してしまうだなんて』

 

「気持ち悪いよ球磨川くん」

 

 彼が気持ち悪いのはいつものことなのだが。

 

『ちなみに教楽来ちゃんの最初に洗うところはうなじだ、間違いない』

 

「違う、最初のところだなんてまちまちだよ」

 

 そんな話はどうでもいい、僕のお風呂事情だなんて需要はないだろう。ただ、なんとなく話したとだけで会話のひろげようがない。

 

 

『けど、まったくもって二年生が支配格だなんてね。三年生の――えーっと、なんだっけあの、『何々(なんとかかんとか)』的なスキルを持った子――あの子がいたれりつくせりじゃないか』

 

「何一つあってないよ球磨川くん。その人は対馬小路さんだし、スキルも『動々(フォールダウンフォール)』だし、諺に至っては全く違うよ」

 

 もし彼女――対馬小路さんに対して言うのなら、踏んだり蹴ったりだとか、井の中の蛙だとか、そこらが正しいのだろう。

 というか、彼女についてはついさっき話したばかりだっていうのに、三歩も歩いてないっていうのに忘れたのかこの人は。

 

「そもそも三年生は別格扱いだったんだ、強力なスキルホルダー――対馬小路さんだとか、玖珠さんだとかのおかげで、その盤上の外側でいられたんだよ」

 

『へえ、こっち側が井の中の蛙だったって訳だね』

 

「それも違うと思う」

 

『なら、一年生はどうなのさ。まさかとは思うけど、二年生の尻に敷かれてるのかい?』

 

「いや、その通りだよ球磨川くん。もし違ったら二年生の支配下が二年生だけになる、そしたら学園の支配権を持ってるとは言えないよ」

 

 確かに、一年生にもスキルホルダーは居る――けれども、二年生の彼女たちには敵わないだろう。尻に敷かれるしかないのだ。

 

 

『…なんか、聞いてたら腹が立ってきたな。いかにもその二年生はエリートって感じじゃん』

 

「実際ここエリート校だよ…」

 

 随分と的外れな事を言う、エリート校なのだからエリートはそりゃ居るだろう。そんなふてくされたような顔をしても、どうしようもないことはどうしようもないのだ。

 しかも、球磨川くんが腹を立てている相手は、その学園を支配下に置くほどの人物たちだ、言うまでもないだろう。

 

 

『善は急げと言うし、僕達も善に倣って急ごうか』

 

「えっどこに、と言うか『達』?」

 

『それは持ちのロンに二年生のところへさ。特大の喧嘩を売ってこようぜ』

 

 いつもの不気味な笑顔が、更に少し釣り上がった。嫌だ、と文句を言うよりも、球磨川くん速かった。

 

 

 

―――――

 

 

 

 一瞬の後に、二年生のスキルホルダー集団、『新本指(フィンガーナイン)』の活動拠点――二年四組の教室前に移動していた。

 

『ふーん、ここかあ。案外試してみるもんだね。』

 

「……また、スキルを使ったの…?」

 

『うん、あるものは使わないと、減るもんじゃないし』

 

「色々減るよっ!」

 

 仏の顔とか、と続けても、球磨川くんの心に響かないだろう――そもそも心があるかどうかの問題だが。

 彼のスキル、『大嘘憑き(オールフィクション)』の効果で、三年四組教室から出て、二年四組の前まで移動する、という過程を『無かったこと』にしたのだろう。

 

 

『ほらっ、さっさと中入るよ。せっせ』

 

「ちょっ、押さないでよ球磨川くんっ!」

 

 嗤う球磨川くんに押され、無理矢理に二年四組に入れられてしまった。

 

 

 

『……。誰もいないね』

 

 と、球磨川くんは言う。ひどく退屈そうに、心底がっかりしたように。

 

「そりゃそうだよ…、今の時間は下校時刻をとっくに過ぎてるんだから」

 

 だから僕達は居残りをしてたんだろう、と喉に詰まりかけた。球磨川くんは勝手にいただけだし、そもそも居残る必要はない――というか、『僕達』という括りで一緒にしたくない、されたくない。

 

 

 当然、二年生たちはいない。

 もはやこうなったら帰るしかないと、球磨川くんを宥めようとする。

 

 

「僕ならいるぜ」

 

 帰ろうとした矢先――教室の入り口、僕達が入ってきた方から、ボーイッシュな、少しハスキーな声が聞こえた。

 

『おっと? ここにきて僕っ子が追加かい?』

 

「あわわ、僕のキャラ立ちが…」

 

 球磨川くんと僕は当然そっちを見る。

 そこには女の子にしては少し精悍な顔立ちの、そして女の子にしてはちょっとばかり筋肉質な女子生徒が立っていた。短い髪はあまりまとめられておらず、日に焼けた肌は薄く褐色であり――とにかく、そんな女の子がいた。

 

 

「? キャラとか意味が分からないぞ?」

 

『知らなくていいこともあるんだぜ、少なくとも君には必要のない情報さ――というか、君は誰?』

 

「おうよ、僕は『搦手(からめて)辛味(からみ)』っ! 『新本指(フィンガーナイン)』を打倒し、いつかこの学園を統べるようになる者だ!!」

 

 自身を搦手辛味と名乗った少女は、こともあろうに『新本指(フィンガーナイン)』を打倒すると言い出す。

 正直言って、そんなことは不可能だし、決して可能にならないだろう。彼女がどれほどのスキルホルダーだろうと――そもそもスキルホルダーかどうかも知らないが、絶対に彼女たち、『新本指(フィンガーナイン)』を打倒することは叶わない――敵いすらしないだろう。

 

『うんうん、大きい目標はいいことだ』

 

「そうだろうそうだろう! 君たちもそんな大きな目標を持って、彼女らを打倒しに来たとかそんな口だろう! いやあ、一年生にも同士がいるとはな!」

 

「……ん? あれっ?」

 

 どこか話しが噛み合ってない――といっても、まだ一言しか会話を交していないが――僕達は三年生だ。

 もしかして、球磨川くんの童顔をみて勘違いをしているのか。

 僕の顔は童顔じゃないはず、と思う。

 

「えっと、僕達は一年生じゃあないよ。つまりはその、三年生かな」

 

『ん? 何言ってるんだい? 僕らはまだ一年生じゃないか』

 

「球磨川くん、ずっと黙ってて」

 

 球磨川くんがわけのわからない冗談をかますが、相手の子――搦手辛味という子は理解したようで、

 

「…せ、せ、先輩ぃーっ!?」

 

「うん、そうなるね」

 

『そうだぞ、僕は先輩だぞ。敬語使えよ』

 

 球磨川くんの手のひらは三百六十度回転したようだが、そんなのはどうでもいい。

 

 

 彼女は、心底驚愕したような様子で、相手口がふさがらないといったふうだった。三年生に対して失礼なものだが、分からなかったというのなら仕方がない。

 

「そっ、そんな、先輩だったとは露知らず…。申し訳ないっ!」

 

『ほんとほんと、最近の高校生ってのは礼節も弁えれないって、心底がっかりだよ』

 

「いや本当に黙ってて球磨川くん。いいよいいよ、言われなくっちゃわからないことくらい当然あるし」

 

「このお詫びは必ず……っ!」

 

「だからいいって」

 

 

 随分と義理堅い人情なようで、そう言ってもとくとくとあとから申し訳ないだとか、どうすればいいだとか、しつこく聞いてくるのには少し嫌なものがある。

 

 しばらくして落ち着いた頃に、珍しくもきちんと黙っていた球磨川くんが、待ってましたと言わんばかりに口を開いた。

 

『どうやら中ボスのお出ましみたいだぜ』

 

「中ボス?」「えっ誰すか?」

 

 僕と搦手さんの声が重なる。

 球磨川くんがそう言った方向――顎でさしたその先に彼女はいた。

 

 

 長い脚に整った腕、美しい躰に芸術のような顔立ち、長くつややかな髪を後でポニーテールにまとめた、学校指定の制服をところどころ崩している――モデルだとか、アイドルだとか、そこらと比べることすらおこがましいほどの美少女が、そこにいた。

 

 

 そして、その射るような眼差しは、はっきりと球磨川くんを睨みつけている。

 

『ひゅーっ、美少女に蔑まれる趣味はあっても、そのいわれはないかな』

 

「そんな趣味持ってんすか先輩……。ってかアイツアレっすよ、『新本指(フィンガーナイン)』っすよ」

 

「絶対勝手にこの教室入ったことに怒ってるよね!? 原因は全部球磨川くんだよね!?」

 

『僕は悪くない。』

 

「いーや、アンタが悪い。別に怒ってるわけじゃあないけど、ウチのボスからの指示なんでね」

 

 そういうと、彼女はおもむろに左手を上げ―――、

 

 

 

『いーや、そういうバトル展開はバトル小説でお願いするよ。ここはシュールギャグ小説だからお役御免だ』

 

 何かをできるでもなく、腹を巨大な螺子で貫かれ、地面に螺子伏せられてしまった。

 

 

「ヒエッ……」

 

「いつものことだけど、まあいつもだから困るんだけど――いつ観てもなれないなあ、球磨川くん……」

 

 搦手さんはドン引きした様子で球磨川くんを見る――ドン引き程度で済むとは、随分と図太い精神をしているようだ。

 

 球磨川くんが鼻歌を歌いながら螺子伏せられ、ピクリとも動かなくなった彼女に近付いてゆく――その時、教室の窓から強い光が差し込めた。

 

『うおっまぶしっ!』

 

 一瞬、教室中が白で包まれ、フラッシュバンを受けたような――もっとも、受けたことはないのだが、おそらくはそのような感覚に、僕と搦手さんと球磨川くんの三人が陥った。

 

 

 そして――、さっき確実に球磨川くんに螺子伏せられたはずの彼女が――さも当然のように、無傷で、堂々と、球磨川くんの目の前で仁王立ちをしていた。

 

「ふう、危ない危ない――『幸運にも何かが起こって助かった』」

 

 

 

「……あっ、言い忘れてた…。アイツのスキル……。」

 

 搦手さんがそう口を開いた――。

 その次の瞬間に、球磨川くんの頭がいきなり爆発し、脳髄が飛び散り、即死した。

 

 

 

―――――

 

 

 

 球磨川くんが死んでから蘇生するまで、そう数えるほど時間は経たなかった。

 慣れたように――もっとも死んでいる相手に慣れたようにも何もない話であるが、それでもいつも通りに――斃れ地面に伏すちょっと前に『大嘘憑き(オールフィクション)』が発動し、球磨川くんは生き返った。

 

『いったたた、この学園に来て脳とか狙われてばかりいる気がするなあ……』

 

 実際そうだから返す言葉もない。

 さすがの球磨川くんでもそう何回も頭関連で即死を受けるのは堪えたようで、あまり調子の優れなさそうな顔をして――その、球磨川くんの頭を吹き飛ばした女の子を一瞥する。

 いや、一瞥というよりかは睨むって感じだけれど。

 

「おっと、名乗りも上げずに殺しちまうだなんて無礼な真似悪いね。アタシは――」

 

 と、言いかけるも、

 

『おっと、名乗りなんか要らないぜ。君のおもしろいおもしろいおもしろーい名前は夢の中で安心院さんに教わったしね』

 

 球磨川くんに制止されてしまう――一度死んだのにもかかわらず相も変わらず大馬鹿にしたような様子でだ。一度というよりかは何度もだが。

 

『名を『幸子(こうじ)幸子(さちこ)』、血液型はAB型で、身長は162cmで体重は50kg。好きな花はシロツメクサだったけど、花言葉を知ってから嫌いに、現在好きな花はアジサイ、理由は可愛いから。彼氏は無し、いた事もない。爪の伸びは一週間に1mm程、髪も同様。身長は中学生の頃から伸びていないがこれで十分と満足している。お風呂で一番最初に洗うところは――』

 

「いい加減にしておけよ球磨川」

 

 羞恥だとか憤怒だとか――多分そんな感情が一瞬のうちにないまぜにされてしまって、彼女は――球磨川くんの紹介によると幸子(こうじ)さんは顔を真っ赤に染めていた。

 

 

『おかしな名前だなーっ、わらえるなーっ』

 

「こらっ、球磨川くん煽らない! というかとっとと帰ろうよ! 今回ばかりはついに殺されちゃうかもよ!」

 

 それを見て球磨川くんは不気味に嗤う――もとより球磨川くんは不気味だし、いつも嗤ってはいるが、その吊り上がった口端はまるでハロウィンのジャック・オ・ランタンのようだ。

 

『何を言ってるのさ教楽来ちゃん。僕がこういう場面で殺されなかったことがあったかい? 証拠についさっき殺されちゃったばかりじゃあないか』

 

 

 

 

 ――長い話になってしまうが、これこそが鳥籠学園での球磨川事件の真髄だったと、僕は思っている。

 まだ、この物語ははじまったばかりだ。

 

 

 

 








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