(仮称)俺ガイル×SAO   作:Tena
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第八話です。

俺ガイル12巻を読みました。作者の解釈とそこまで相違無さそうだったので、安心してWoL内で人間関係を縺れさせることができます。
でもそこまで行くのが遠い…。話進まない…。


第1層-Ⅷ 月光の英雄

 空を覆いつくしていた暗雲はゆっくりと霧散していき、辺りには闇夜を切り裂くような月光が射していた。
 夏の夕暮れ時のような急な豪雨もそれと共に過ぎ去り、残った雨雫は木の葉からポツリポツリと音を立てて垂れ落ちる。
 爽やかさとは程遠いが、『夜』を戦い抜いた者達を癒すかのように優しい月明かりと静けさが俺達を包み込む。場合が場合なら、このまま微睡んでいったかもしれない。
 どうしようもない程の憧憬と、諦念と、そして絶望が俺の心を埋め尽くす。
 ああ、この感情はダメだ。前にも一度経験したことを繰り返さないことが、今まで数多の失敗に陥った自分の取り柄ではなかったのか。
 そう分かっていても比べてしまう。
 泥に這いつくばり、痛みの代わりに自分を襲う不快感に顔を歪ませ、狭まった視界で彼を見上げている俺と。
 所詮は太陽光の反射、その筈なのにどうしてこうまで美しいか分からないような光に照らされ、1人その場に佇んでいる彼と。
 彼は決して認めようとしないだろう。どれだけ称賛されようと、欺瞞虚飾誤解仮初などといった言葉を並べて否定してみせるのだろう。
 だとしても、きっと。


 ――その日、俺は『英雄』の存在を知った。










▲ △ △



 目前の戦いに動きが止まってしまう。
 キリトと、ディアベルと。二人の連携はまるで旧知の仲かと疑うくらいで、素早く力強いアノニマスクリーチャーの動きにも翻弄されずに真っ向から戦い合っていた。
 押しているかと問われれば、そこまでは肯定できない。だが、明らかに他の敵とは一線を画すその挙動に付いていけているのは、βテスターだからと言うしかないのだろう。
 俺は結局のところ、普通の初心者だ。目で二人と一体の動きに追いつくことは、遠目からならば無論可能である。だが、そこに体を投げ入れて戦えるかというと、確実に二人の足を引っ張る自信がある。
 ならば、どうするか。
 アノニマスクリーチャーは格闘系のモンスターだ。素早い身のこなしに自身の長い腕と爪を巧みに使って攻撃してくる。それに対してこちらは近衛職が3人だ。武器は揃いも揃って片手剣。いったい片手剣にどんな魅力があるんですかね……。
 まあ兎にも角にも、真正面から何かとぶつかった経験など数える程しかない俺なのだ、今更ボスモンスターに対して正々堂々と戦う必要もあるまい。
 卑屈に陰湿に最低に。『あの時』とは似ても似つかない状況だが、手慣れている手段を選択するのは楽したがりの現代人もやしっ子なら当然である。

「キリト、ディアベル!少しの間時間を稼げるか!」

「了……解っ!」

「わかった!」

 正直キリトもディアベルもHPの残量が心許ない。敵のHPが6割ほど残っているのに対して、特にキリトは4割を切ってしまっている。ディアベルもそろそろ半分を切りそうだが、アノニマスクリーチャーが2人に回復する隙を与えてくれない。ゲームによくある回復系の魔法も無いので、俺が遠距離から援護するというのも無理がある。ニチアサならここら辺で覚醒だか増援だかが来てもいいと思うんだけどなぁ……。
 メニューを開いて自分の持ち物を再確認する。いくつかの種類の木材に薬草、石炭、鉱石、虫、モンスターから剥ぎ取った皮や肉etc……、よし、一先ず方針は立った。果たして得てしてそれが成功するかは分からないが、結局他に出来ることもない。
 というか今考えてることが外れてたり失敗したりしたらマジで俺の存在が邪魔そのものなんだよなぁ……。え?いつものこと?そうだった忘れてたぜHAHAHA。
 
 素材が十分に揃っているのを確認したら、《調合》スキルを利用して大量の松明を作る。石炭が14個あったが……作れた松明は43本か。成功率80%に満たないくらいだ。まぁ《調合》のスキル自体碌に練度上げる時間もなかったし、その内確実化できるだろ、というか確実化して下さいお願いしますシステム様。
 満月は完全に姿を隠し、瞬いていた星々も見えなくなっていた。広がり始める曇天を見上げる。
 さて、準備は出来たんだが、ある意味時間との戦いになるかもしれん……。いやいや、まだ慌てるような時間じゃない。仙道さんがそう言ってるんだから間違いない、かっこかくしん。

「ハチマン君、まだかっ!」

 ディアベルの叫ぶ声に背中を押されるようにして、俺は行動に移った。
 作成してアイテム欄に表示されていた松明を手に取る。そして――茂みの中に捻じ込んだ。

「~♪」

 一つ、二つ、三つと辺りの草木に火を移していく。気分はファイアーマン。いや放火してる側だから真逆か。いいだろう、ファイアーハチマンと呼んでくれ。
 呆気にとられたような顔をして、キリトとディアベルがこちらを見る。心なしかアノニマスクリーチャーさんもこちらをボケっと見てますね……君たち戦わないの?いや冗談です。

「なっ、ハチマン何を考えてるんだ!?森で火なんか放ったら――」

「死ぬよかマシだろ。ほら、いいのか?チャンスだぞ。」

 アノニマスクリーチャーは恐らく熱で物体の位置を把握している。視覚嗅覚聴覚が使えてないことから、何らかの他の手段で索敵していることは分かっていた。その他に生物が索敵するのに使っているものと言ったら、フェロモンなどの化学物質、若しくは熱なんかが代表的だ。
 特殊スキル持ちという可能性も無いわけではないので半ば賭けだったが、松明を持った時ヤツがこちらに一瞬視線を向けたことで確実性が高まった。ぼっちは視線に敏感なんです。
 確証に近いものが取れたなら、行動に起こすのが筋ってもんだろう。というか失敗する確率が高いなら森に放火とかいう自殺行為しませんって……。
 仮想世界にいる俺達ならば、今コイツと正面から戦うより、燃えた森から生還する事の方が多分容易だ。
 ……そして結果、熱に囲まれたアノニマスクリーチャーは索敵能力を失った。先程までの余裕は見られなくなり、突然の環境の変化に困惑しているのが見て取れる。

「そうか……だから気付かれたのか。」

 キリトが一人呟く。月明かりと星々に照らされていた夜空はすっかり曇天に覆われ、代わりに、燃え移りながら広がっていく炎が辺りを彩った。
 この作戦の時間制限は二つ。炎に完全に囲まれてしまうことと、その炎が雨によって消えてしまうことだ。理想としては敵を倒しきってから雨が降るのが望ましい。次点で火の手が回りきる前に敵を倒すこと。伊達にヒキガエルヒキガエルと呼ばれていない、降雨の予想なら朝飯前だ。なにそれ威張れない……。
 
「よし!じゃあ三人で一斉攻撃だ。ケリを付けよう!」

 我らが司令塔ディアベルの指示で三人とも攻撃に移る。俺大丈夫だよね?流石に周りも碌に見えない敵相手に足引っ張るとかないよね?
 敵の懐へ踏み込んで斬りつける。って、コイツ硬いな!?ゾンビたちはサクサクというか若干気持ち悪いくらいに刃が通ったのに、コイツの場合は、弾かれるとは言わないまでもその表皮の厚みがハッキリと分かる。それでも確実にダメージは通っているようで、4割ほど残っていた敵のHPはじわりじわりと削れていく。
 アノニマスクリーチャーも腕を振り回して抵抗するが、先程までの読みや技のキレがない。キリトやディアベルの激しい連撃に押し込まれている。

「2人とも、今のうちに回復しないのか。」

「押し切れるときに押し切るべきだ!」

「ここで死んだらリアルでも死ぬかもしれないんだぞ?」

「……」

 ディアベルが特に焦っているように見える。環境的な時間制限だってあるから急くのは分かる。
 でもこれはデスゲームだ。
 死んだら終わりなのだ。だのに、何故。
 ……いや、確かに先に倒す方が良いのか?早く倒せばそれだけ楽になるし、敵が動きを取り戻す方が厄介という考えなのかもしれない。攻撃は最大の防御っていうもんな……この場合は違いますね、はい。
 肩のあたりに何かが当たり、ポツっという音を聞く。同時にキリトが叫んだ。

「雨が降ってきたぞ!急げ!ラストスパートだ!」

 俺も遅れてそれに気付き、残りのスタミナを全て消費するつもりで攻撃する。俺らの全員敵と打ち合ったことでHPを大きく消耗している。キリトとディアベルは、特に。
 ッソ、間に合え――!

 ヤツが、危機を察したのか後ろに跳躍する。

 

 幸か不幸か。いや、不幸だ。

 偶然か必然か。きっと、偶然だったのだろう。

 

 アノニマスクリーチャーに、稲妻(Lightning)が落ちて、当たった。

 ヤツは呻き声をあげる間もなく地面に伏す。その体は黒く焦げ、体は未だ感電していることを示すように痙攣している。バチバチと体を雷が覆い、その残り少ないHPを一気に削った。
 俺らはというと、落雷を直接浴びてはいないものの、地面を伝った電気で麻痺のデバフにかかっていた。
 雨はその勢いを増々激しくし、俺らの体に打ち付ける。誰一人として動く者はいない。ディアベルがなんとか声を絞り出す。

「ふたり、とも。ぶじか?」

「なんとか。起き上れそうに、ないな。はは。」

「……おう。」

「まひは、三十秒、ほどだ。」

 呂律が上手く回らない。段々と引いていくのは感じるが、辛うじて指先が動くといったところだ。
 しかしまあ、これでゾンビの発生も無くなるのだろう。あとは残っているゾンビたちの処理と、以降の対策のための柵の設置といったところか。
 時間が経過し、やっとのことで動けるようになった。辺りの炎は消え、雨も勢いを少し弱まらせていた。時期尚早な夕立といったところだったのだろうか。

「くくっ。ふっ、はははははは。」

 泥まみれになって地面に伏せている男三人組。華も雅もあったもんじゃない。そのことが可笑しかったのか、それとも『生き残った』ことで緊張が弛んだのか、キリトが笑い出し、それに釣られて俺らも声を上げた。

「ははっ、やった、やったぞ……!そういえばLAは誰が取ったんだ?」

「LA?」

 ディアベルの言葉に俺が反応する。ビギナーにむつかしいことばを使うのはやめて欲しい。

「本当にビギナーだったのか……。LAってのはボスMobを倒した時に必ずドロップするレアアイテムだ。オレはハチマンくんがそれを狙っているものとばっかり思っていたよ。」

「ばっか、俺なんてビギナーもビギナー、ヒヨコ以下だぞ。事前情報も集めてないし、受精卵と呼んでいいまである。」

 アイテム欄なども見るが、特にそれらしいものはない。

「俺はないぞ。キリトじゃないか?」

「……え?」

 キリトが呆けた声を出したかと思ったら何やらブツブツ呟き始めた。

「ヤツは特殊ボスじゃない……?いやでも、確かにネームドだった。それに、こんな初期段階でアレ以上の敵はミスマッチだ。ボスがまだいる……違う。まさか――!」

 誰も立ち上がる者がいないかと思われた空間で、ただ一人、いや一匹。立つ者がいた。









《The Anonymous Creature:Lightning》



「帯電……状態!?敵はまだ生きてるぞ!」

 キリトが叫び、三人が一斉に立ち上がる。
 だが、隙を逃がさないとばかりに『帯電』したアノニマスクリーチャーがこちらを襲う。その速度とパワー、威圧感は先程までとはまるで違っており、俺は反応することが出来なかった。

「……は?」

 ヤツが横を駆け抜けるのを感じる。バランスを崩して、地面に尻餅をついた。
 恐る恐る目を左の脚に向ける。
 

 膝から先が、無くなっていた。


「――――――ッ!!ああああぁぁぁァアアッ!!!!」

 HPが一気に4割近く持っていかれる。
 ――痛い痛い痛い痛い痛いっ!!
 いや違う!痛みは別の不快感として扱われる。きっとこれは幻肢痛だとか、そういった類の思い込みだ!
 それを思うと同時に、自分を襲う壮絶な不快感に体が反応する。

「――おぇっ!あぐっ、うっ、おえぇっ!」

 無情にも、この世界では吐くことがかなわない。
 惨めに、不格好に、情けなく、泥に這いつくばることしか出来ない俺は、恐怖からでたのであろう涙に顔を歪ませながら、その『恐怖』を見上げる。
 殺される、嬲られる、蹂躙される。その思いだけが胸を支配し、情けないことにもここで初めてデスゲームへの恐怖が生まれる。
 おそろしい。
 痛みも、死ぬことも、そして何より、目の前にいる『この存在』が恐ろしくて堪らない。
 体中の震えが止まらず、軽い過呼吸にまで陥る。
 心のどこかでずっと「ゲームだから」と高を括っていたのだろう。
 冷静で、理性に満ちていて、他者からの視線を気にするがあまり、常に自分を客観的視線から眺めることが出来る。そう思っていた。
 それがどうだ、この姿は。所詮は人の子ではないか。
 体の痛みからも、心の『痛み』からも距離を置くことで、自分の弱さを見せないようにしていただけではないのか。
 結局のところ、人が他者を評価するのはその人が見せてくれた姿が基準となる。そして、他者の評価を受けて初めて人は自分の価値、人格について考える。人からの評価を無意識のうちに自分の人物像に据えることはままあるし、そもそも自分の本質なんてものがあるのかどうかすら、自分にはわからないのだ。
 だから、俺も自分が「どうにかできる」人間だと思っていた。
 文化祭で俺が相模南を発見できたことが、とても嬉しかった。
 雪ノ下雪乃が困ったときに俺の方を軽く覗うことが、何より気持ちよかった。
 由比ヶ浜由衣や葉山隼人らが、俺ならどんな事も解決できるだなんて風に期待してくることが、妙に心を躍らせた。
 『彼ら彼女ら』が俺に頼ってくれないと、どこか自分が損なわれるような気がした。
 いつの間にか『仮面』を被っていたのかもしれない。
 圧倒的な力によって、今その本性を引きずり出された。
 弱くて、汚くて、濁りきった淀み。
 自分の口でそう言う事で、さも『本物』の自分は他にあるように振舞っていたことが暴かれた。
 力の権化が再び貌を俺に向ける。
 『名無しのケモノ』は一体どっちだろうか。目と鼻と耳が付いているだけで、俺は一体誰になったつもりだったのだろうか。
 口を開いてこちらに飛び込んでくる『恐怖』に、俺はどうすることも出来なかった。

「あきら……めるなァ!!!!」

 突如、青の騎士(ディアベル)が俺の前に飛び出す。そのまま彼はアノニマスクリーチャーに噛みつかれ、押し潰され、マウントを取られる。

「命を……っ!自分をっ!生きることを諦めるなよ!」

 アノニマスクリーチャーに食われ、嬲られ、彼の残り少なかったHPがどんどん減少していく。
 ……諦めることの何が悪いのだろうか。押してダメなら諦める、昔からそうやってきたし、大して支障も出ていない。
 逆に、諦めるなだとか、頑張れば何とかなるだとかいうヤツに限って、自分の理想を押し付けてくるだけだった。

「ハチマンくん、キミは『大丈夫』だ!!だから、今は見えなくてもいい。とにかく今は――生きろ!!」

 ふざけるな、と言いたい。逃げろ、と叫びたい。死は美徳だとでも思っているのだろうか。自己犠牲に価値を見出して、欺瞞を振りまくのだろうか。
 アノニマスクリーチャーが大きく腕を振るおうとする。もう彼のHPは無いに等しい、あの一撃で0になるのが分かっているのに、俺もキリトも、動けない。
 
「キリトくん、あとは……任せた。キミも導く力を持っている。キミは切り開く力を持っている。キミたちの存在は、きっとこの『世界』に不可欠だ……。」
「――俺はちょっと、足りなかったみたいだ。」

「うああああああああああ!!!!!」

 腕を振り下ろそうとしたヤツにキリトが駆ける。
 その切先が届く前に、ディアベルのアイコンが――潰えた。

「あああああああアア!」

 キリトがその両刃の直剣を振るうも、型も何もない乱雑な動きは敵に躱される。それでも剣を振るうキリト目掛けて、ヤツの蹴りがヒットする。

「……カハッ!」

 キリトのHPはもう赤くなっている。俺は無意識のうちに立ち上がろうとするも、本来ならあるはずの足は別のところに転がっており、再び転ぶ。……口の中に砂利の味がする。

「キリ……トッ。いいから、逃げろ。勝てないなら、お前だけでも、生き残るべきだ!」

 キリトは頷こうとしない。

「……だよ。……ダメなんだよ、今ここで逃げたら。全部救って、幸せなハッピーエンドが、ある筈なんだ。ディアベルを見殺しにした俺に、彼は希望を見出した。もう俺には全てを救えないかもしれない。それでも、彼の信じたものまで裏切ってしまったら、俺は、俺は……!」

 その双眸にハッキリと意思を滲ませ、キリト――いや、『英雄』が立ち上がる。
 這いつくばっている俺と、立ち上がった『英雄』と、その違いは何だったんだろうか。
 
「俺はコイツを――倒すッ!!」

 『英雄』と『名無しのケモノ』がぶつかる。
 まるで英雄譚だと、そう思った。
 土を抉るようにして振るわれる豪腕を、躱し、掻い潜り、時に直剣で受け流す。
 速く、速く、速く。その速度はどんどん上昇していく。
 最後の一閃。仕留めたことを確信したのだろう。敵を振り返ることなく、武器を仕舞った。

「……のが、……っ!」

 彼が何事かを呟き、自身の傷ついた体を癒すように回復薬を飲んだ。
 
 終わったのだ。
 確かに今宵、俺達は1人の犠牲を伴ってこの場を生き抜いた。
 それになんの意味があるのかは俺には分からない。彼の死を意味を求め、作ろうとすることなど、それこそ欺瞞だ。
 満月が再びその姿を見せる。月明かりの下、『英雄』は悼むように騎士の亡骸に目を向けた。
 彼はその場で倒れこむように崩れ、再びその場には立つものが居なくなった。
 仮想世界で気絶するというのはどういう事なんだろう、そんなことを考えながら、俺も意識を手放した。



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第9話に続きます。