琲世Side
生徒会室から出て、夕日があと数分に地平線に沈みゆく頃。
刀奈さんから中がわからない封筒を渡されて、一夏くんの部屋に訪れた、僕。
(何が入っているんだ...?)
封筒を持った感じだと一枚の紙が入っているみたいだけど、一夏くんたちの渡すものと言われるとどこか疑問を持ってしまう。
もし学年別トーナメント申込用紙だとしたら、わざわざ封筒に入れてまでやるだろうか?
(それにしても、一夏くんたちの部屋は僕がいる部屋から少し遠いようなぁ...)
今更のことなのだが、一夏くんたちの部屋の場所は僕の部屋から少し離れた場所にある。
別にそれが悪いとは言わないが、そのためか一夏くんたちやそのほかの人たちから僕が刀奈さんと一緒にいることは知られていない。
とりあえず一夏くんの部屋のドアの前にたった僕はノックをした。
そのまま一夏くんが現れたらありがたいのだが...
(...ん?声が聞こえない?)
誰もが聞こえるであろうドアノックをしたのだが、部屋からはまったくと言ってもいいほど返事はなかった。
僕はもう一度ノックをしたのだが、やはり返事はなかった。
(もしかして...いないのかな?)
僕はまさか空いてはいないだろうと思い、ドアノブを回すと...
(あれ?鍵はかかっていない...?)
ドアノブはすんなりと周り、ドアが空いたのだ。
一夏くんはドアの鍵を忘れるような人ではないはずなのだが...なぜ?
それはともかく一夏くんの部屋に入ってみると、シャワールームから水が流れる音が聞こえた。
(もしかして...中に入っているのは一夏くん?)
廊下から確認ができなかったシャワーの音のだが、おそらくシャワーの音でドアノックが聞こえなかったかもしれない。
(とりあえず...この封筒を部屋に置いて帰ろう...)
流石にこれ以上一夏くんたちの部屋にいては怪しまれる恐れがあるため、僕は一夏くんのテーブルに刀奈さんから頂いた封筒を置き、そのまま部屋から出る。
ここまではよかったのだが、僕があるものを見た瞬間、動きが止まってしまった。
(...ん?)
僕はあるものを見た瞬間、ピタリと止まってしまった。
それはシャルルくんのベットに思わず止まってしまうものがあったのだ。
(女性の下着...?)
それは男子しかいないはずの一夏くんたちの部屋に"女子の下着"があったのだ。しかも色は赤色だ。
明らかに一夏くんが所持しているとは思えない物。
(ま、まさか...?)
僕はそれを見た瞬間、あることが頭によぎった。
女子の下着があったのはシャルルくんのベット。
シャルルくんと言えば男子よりも女子に近いルックスであり、僕は彼には申し訳ないが本当に男子なのか疑っている。
まさか、シャルルくんは男子ではなく...
「一夏、帰ってきたの?」
「っ!」
するとシャワールームからシャルルくんの声が聞こえ、僕はその声に無意識に肩が震えてしまった。
(今の声は、シャルルくん...?)
シャルルくんの声が聞こえた時にはシャワールームから水が流れる音が消えており、シャワールームから一歩一歩と出る足音が聞こえていた。
「帰ってきたなら声を....え?」
そしてシャルルくんは僕が部屋にいるのことに驚いたのか言葉が詰まった。
僕はシャワールームの方に顔をゆっくりと振り向くと、シャワールームからひょいっと顔を出したシャルルくんと目が合ってしまった。
「ハ...ハイセ?」
声と顔はいつもみるシャルルくんなのだが、今僕の目で見える彼は僕と同じ男ではなかった。
シャルルくんは"女子"であった。
「っ!」
しばらく僕と目が合ったシャルルくんはすぐさまシャワールームに戻ってしまった。
「あ、あの...シャルルくん!」
僕はシャワールームに閉じこもったシャルルくんに声を掛けたのだが...
「ハ、ハ、ハイセ...!な、な、な、なんでここに....!?」
シャルルくんの動揺した声がシャワールームから十分と言ってもいいほど伝わっており、完全に取り乱していた。
「.....」
そんな状態の彼、いや彼女に対して僕は"あえて"沈黙を作った。
一方が混乱している時に同じく混乱した様子で声を掛けたら、話など進まない。
しばらく部屋に沈黙が続き、異変に感じたのかシャルルくんは「...ハイセ?」と落ち着いた声で返事をした。
「....シャルルくん。もしかして、女の子?」
「....」
僕はそう返事をすると、また沈黙が生まれた。
一瞬無視されたのかと思ったのだが、だんだんと時間が経つと無視されている空気ではないとわかった。
「...うん」
そしてシャワールームに閉じこもったシャルルくんの返事が聞こえた。
それは短い返事ながら、重々しい返事だった。
シャルルくんの返事を聞いた僕は「そうなんだね」と返事をしようとしたら...
「ハイセは前から察していたんだよね...?」
「えっ」
僕のあっけない返事を耳にしたシャルルくんは「やっぱり」と呟いた。
「いや...シャルルくん。僕は」
「別にそこまで気を使わなくてもいいよ。ハイセは初めて僕を見た時、疑ったような目していたもん」
シャルルくんの声は先ほどの動揺した様子は消え、いつものシャルルくんの様子だった。
「やっぱり、ハイセは一夏とは違うね。もしかしてどこかの組織に所属していたんじゃないかとかぐらいに鋭いしね」
「い、いや....」
流石に僕がかつて所属していた場所の名は言わなかった。
「それで...どうして部屋にきたの?」
「渡す物があって、部屋に訪れたんだけど...鍵が開いてあってそれで...」
「鍵が開いてあった...ああ、それで...」
シャルルくんはおそらく自分のミスにため息のしたような音がシャワールームから聞こえた。
「とりあえず....僕、部屋から出るよ」
「え?どうして」
「だって、そこに着替えはないよね?」
「...あ....そうだね...少し外で待ってて」
このままシャワールームから出られずに話すのは彼女には申し訳ないし、おそらく何も着ていないだろうから、僕は部屋から出た。
廊下には僕以外誰もおらず(もちろん刀奈さんの気配もなかった)、待っている間も誰も会うことなく廊下で待っていた。
時間はいつも通りに進んでいたはずと思うが、僕の体感はいつもより待ち遠しかった。
「入ってきていいよ、ハイセ」
しばらく待っているとシャルルくんの声が部屋から聞こえ、僕は部屋に入った。部屋に入るとシャルルくんは自分のベットに座っており、僕と目を合わせようとはせず視線をそらしていた。いつも夜に見かけるジャージ姿なのだが、今見える姿はいつもとは違った。
「...やっぱり変だよね?」
「...うん。シャルルくんが女子と知ってから、見る目が変わったと言うか...」
「...とりあえず、一夏のベットの方に座って」
「うん、わかった...」
僕はシャルルくんに言われるがまま、対面する形で座った。
しかし僕が座ってからすぐに話が始まったわけではなく、おそらく5分ぐらい沈黙が続いてしまった。
今部屋の中に漂っているのは沈黙ではなく、気まずさだ。
シャルルくんが女の子という事実を知ってから、一体どんな話をしたらいいのかわからず、お互い黙っている。
「...あの、シャルルくん」
「えっ!」
流石にこのまま時間を過ごすのはまずいと考えた僕はゆっくりとシャルルくんに声をかけたら、あまりにも沈黙が続いたせいかシャルルくんを驚かせてしまった。
「と...とりあえず...受け取って欲しいものがあるんだけど...」
おそらく急にシャルルくんが男子ではなかった事実を触れるのを恐れたであろう僕は一夏くんの机に置いていた封筒を取り出した。
「こ...これなんだけど」
「封筒...?」
シャルルくんは封筒を受け取り、中にある紙を取り出した。
「....」
封筒の中にあった紙を見たシャルルくんはしばらく静止したが、後々に顔をしかめ始めた。
「この紙、何も書かれてないよ?」
「え?」
まさかと思った僕はシャルルくんから書類を受け取り目を通すと、彼女の言う通り紙には何も書かれていなかった。
「誰から受け取ったの?先生から?」
「いや、生徒会長さんから渡すように言われて...」
「生徒会長...なんでこれを僕たちに渡したんだろう...変な人だね」
「う、うん...そうだね...」
僕はふと刀奈さんが僕を馬鹿にするような顔が自分の頭に浮かんでしまった。
ああ、そうだ。
僕は"今回も"彼女に騙されたのだ。
おそらく刀奈さんはきっとシャルルくんは女の子である証拠として用意したのだろうと思うのだが、今起きていることは気まずい雰囲気がさらに重くなってしまった。
「....えっと...ど、どうしてシャルルくんは女子ではなく、男子だと名乗っていたの?」
「.....」
つい数分前の気まずい雰囲気がさらに部屋から出たくなるほど気まずさになった中、僕は勇気を振り絞りシャルルくんにやっと本題の話を言うと、彼女はまた黙ってしまった。
しかし僕はそんな彼女に返事を待った。
流石にこの話題を避けて部屋に出ることはできない。
「...ハイセはデュノア社のことはもちろんわかるよね?」
「...うん、わかるよ。ISのシェア率では世界で3位の企業であり、シャルルくんのお父さんがいるところだよね」
「なら今の経営状況は知っている?」
「...確か経営が良くないと耳にしたことがあるよ。そのせいかフランスは欧州連合の統合防衛計画『イグニッション・プラン』には入っていなかったね」
僕がIS学園に来る前、つまり有馬さんの元にいた時からデュノア社に対しての評判はあまりよくなかった。どういったところが悪かったと言えば、装備の真新しさがないところだ。他社ではどんどんと新技術や新装備を導入している間、デュノア社は最近新しく出たものは指で数える程度であり、旧式の物ばかりが揃う。その例が今シャルルくんが使用しているラファール・リヴァイヴ・カスタムIIだ。各国が最新鋭である第三世代型機のISを導入しているにもかかわらず、ラファール・リヴァイヴ・カスタムIIは第二世代型機である。
「うん、ハイセはわかると思うけどISの開発は莫大な資金がないと新しい物ができないし、改良はできない。デュノア社は世界3位のところだけど...」
「...ていうことは、経営の打開策としてシャルルくんが男装をしてIS学園に来たんだね。そうなると、指示したのはシャルルくんのお父さんが?」
「...うん、そうだよ。"あの人"に」
シャルルくんは僕の返事を聞くと、ぐっと唇を噛み締め視線を逸らした。
デュノア社の社長であるシャルルくんのお父さんしか考えられない。しかもシャルルくんの返事した様子を見るかぎり、悪い意味にしか聞こえなかった。
「あの人...?」
「...正確に言うと僕は愛人の間に生まれた子なんだ」
「愛人の...?」
シャルルくんの発言に僕はショックに似た感情を抱き、自然と言葉を失った。
「うん、お父さんと初めて会ったのは2年前のことで、ちょうどお母さんがいなくなった時に引き取られたんだ。お父さんとは会ったのは数回しかなくて、もちろん家族の温もりなんてどこにもなかった」
「....」
僕は先ほどの発言により黙ってしまったのだが、シャルルくんはそれを気にすることなく話を進めていた。
「それであの人から、男装をして会社の広告塔になるだけではなく、白式の機体データを盗むように指示されたんだ」
「白式のデータ...第三世代機で一夏くんと同じ男子となれば、確かに盗みやすいね」
「最初は一夏だけじゃなくてハイセからも情報を抜き取ろうと思ったのだけど、ハイセは一夏と違って僕を疑っていたし、あとボーデヴィヒさんの一件から諦めた」
「僕からデータを奪う予定があった...」
シャルルくんの口から出た事実を聞いた僕はショックに近い感情を抱いてしまった。まさかそこまでやろうとしていたなんて信じられなかった。
「うん...だから...その...嘘ついて、ごめん」
シャルルくんは消えてしまいそうな声で、深々と頭を下げた。
「...別に謝らなくてもいいよ、シャルルくん。そこまで謝られると、こっちが申し訳ないよ...」
深々と頭を下げるシャルルくんに僕はゆっくりと顔を上げさせた。
「確かにシャルルくんは罪とも思える行為をしたのは事実だけど...僕はとても悲しく感じた」
「....うん」
「だけど、僕が一番悲しく感じたのはシャルルくんが僕と一夏くんを騙して偽っていたよりも、シャルルくん自身のことを聞いて悲しくなった」
「...僕のこと?」
「そうだよ。シャルルくんが置かれている立場にね」
きっとこの話を聞いたであろう一夏くんはおそらく怒りを覚えたのだろう。
だけど僕はシャルルくんの話を聞いた僕は怒りを覚えるどころか、無意識に悲しみが溢れ出たのだ。
「シャルルくんのお父さんはきっとシャルルくんのことを道具として見ていないよね。我が子であるはずの人間を実刑判決を受けかねない行為をさせるなんて僕は痛いほどわかる」
「...もしかして、ハイセはその経験があったの?」
「うん...あまり言いたくないけど...そう考えてくれたらいいかな」
有馬さんに出会うまでのあの頃の記憶は思い出したくはない。
かつて人として扱われなかった時を。
「シャルルくんは織斑先生に聞いたと思うけど、僕は表上専用機は持っていないんだ」
「うん、確かに先生からは『琲世は専用機を持っている』と聞いたよ。その話を聞いて驚いたよ」
「だけど実際はISを所持しているISは他のISとは違い、特殊な作りをしているんだ」
「...特殊な作り?それって?」
「体に埋め込まれているんだ」
「え...!?体に...!?」
「うん、詳しく言うとーーー」
僕の口から出た事実にシャルルくんは静かに驚いた。
織斑先生はおそらく機密情報のため僕のISのことは詳しく話していないだろう。
僕はラウラさんに話した通りに僕のISの仕組みや僕の体についてなどをシャルルくんに伝えたのだが、シャルルくんの口からラウラさんと話した時に聞かれることがなかった質問が現れた。
「...そうなんだね。それでハイセの体にISを埋め込まれたのはいつぐらいなの?」
「...わからない」
「え?」
「わからないんだ。いつ僕の体にISを埋め込まれたのか。それに過去の記憶も思い出せない」
「記憶が思い出せない?それって...」
「うん、記憶喪失だよ」
僕の言葉を聞いたシャルルくんは「記憶喪失...」と目を大きく見開いた。
「僕がこの世界にいると気がついたは一年前ぐらいだよ」
「一年前って...つい最近に目覚めたばかりじゃん」
「そう、本当に最近目覚めたばかり
「...本当に思い出せないの?」
「うん、まったくね。何か手がかりはあるのか調べたのだけど、一つもなかったよ」
「例えば小さい頃に行った場所だったり、ハイセの家族...あっ」
シャルルくんはふと何かを思い出した仕草をし、申し訳なさそうな顔をした。
「...シャルルくんは見たんだよね?僕の資料のこと。確か"両親不在"と書いてあったはずだよ」
おそらくシャルルくんは僕の資料を思い出したのだろう。僕の情報を盗み出す時に。
「...思い出したくないことを言ってごめん」
「別に問題ないよ。過去に会った人のことを思い出せないのは確かに辛いのだけど...でも今の僕には親に近い存在がいるから寂しくなんかないよ」
「親に近い存在?」シャルルくんは疑問を持った返事をした。
「その親に近い人って...?』
「...織斑先生がそうなんだ」
「え?織斑先生が?」
「年齢的にはおかしいかもしれないけど、僕はあの人をお母さんと捉えてもいいぐらい大切なんだ。僕がこの世界にいると知ってからあの人に指導してもらって、記憶を失った僕にとって数少ない大切な人なんだ」
正確に言うと織斑先生は有馬さんの次に出会った人だ。だけど流石に有馬さんの名をあげると色々とまずいため、千冬さんのほうが身近で説明しやすい。最初はISの特訓や技術指導などのISに関することだけであったが、時が過ぎるごとに段々と親しくなった。
「そうなんだね...だからハイセは織斑先生とはほかの生徒よりも親近感があったんだね」
「...ん?」
シャルルくんの返事に嫌な予感を察した。
「それって...どう言う意味なのかな?」
「ああ、これはほかの子から聞いたんだけど、織斑先生と一夏は姉弟という感じはあるけど、織斑先生とハイセだと親子っぽい感じがするって」
「ああ...そ、そうなんだね...」
僕は少し顔が熱くなり、恥ずかしくなってしまった。
自分は織斑先生のことを親だと言い切れるのだが、人から言われるとなんだか恥ずかしくなってしまう。
「それで...シャルルくんはフランスに強制帰国されるの?」
「多分そうかもしれないけど...でも一夏が『IS学園にいろ』と言われたよ」
「IS学園に?...ああ、そうか」
初めどうしてなのかと考えたのだが、僕はあることを思い出した。
「特記事項第二十二を適応すれば、すぐには連れ戻されないよね」
「そう、一夏はそれを言ったんだよ。よくわかったね」
特記事項は全部で五十五個もあり、第二十二に書かれている内容はざっくりいえば『IS学園は他の国家や組織に属しない独立した団体であり、干渉は許されない』と書かれている。
「うん、流石に僕も忘れかけていたんだけど...一夏くんすごいね」
「一夏は琲世のように思い出した仕草をしなくてスラスラと言ってたからね」
そう考えると一夏くんは僕よりも優れているかもしれない。何せ広辞苑ほどの厚さを持つを思わせるほどの入学前に配られた参考書を1週間で覚える人間だから、安易に侮れない(普段は一夏くんに侮っていないけど...)。あとシャルルくんは僕より一夏くんの方が優っているような発言をしたような...?
「とりあえず...シャルルくんが女子であることは秘密にするよ。ちなみにこのことは一夏くんに話すのはーーー」
「ーーーいや、だめ」
すると突然シャルルくんは僕の話を遮った。
「え?どうして...?」
「一夏の方には...念のために伝えないで。なんと言うか...万が一何かあったらーーー」
シャルルくんが話していたら、突然入り口のドアが開いた。
「ただいま、シャル」
「「っ!!」」
突然部屋にやってきた人物を見た僕とシャルルくんは思わずギョッとしてしまった。
部屋にやってきたのは僕たちの会話に出てきた一夏くんだった。
「あれ?なんで琲世がここにいるんだよ?」
「い、いや...シャルルくんと話していて...」
「それはいいけど... なんでシャルと琲世はそんな驚いた顔をするんだ?」
「と、突然一夏が部屋に入ったからだよ...!」
「そうか?別にいつも通りに部屋に入ったつもりなんだけど...」
一夏くんはそう言うとどこか納得のいかない顔をした。だけど一夏くんの顔を見る限り、僕がシャルルくんを女子であると知ってしまったという察しはなかった。一夏くんは持っていたかばんを机に置き、「それで二人は何話してたんだ?」と僕たちに話しかけた。
「僕は琲世に色々と相談に乗ってたから...」
「相談か?なんか琲世にいう相談なのか?」
「よく琲世は箒さんやセシリアさんに相談に乗っているから、僕も乗ろうかなと...」
「ああ、なるほどな。確かに箒たちは琲世によく相談するよな。でもなんであいつらは俺に相談しないんだ?」
「さ、さぁ...なんで僕にしか相談しないんだろう」
僕はわざととぼけた様子で一夏くんに言葉を返した。
僕が箒さんたちから受ける相談は詳しくは相談ではなく自らの愚痴を僕に吐き出すことであり、その愚痴を生み出しているのは一夏くんだ。僕はある意味箒さんたちの受け皿となっている。
「ーーーそれでどんな相談をしたんだ?」
「えっ!?」
一夏くんの返事を聞いたシャルルくんはわかりやすくびくりと肩を震わせた。
「なんだよ?シャル?」
「い、いや...それは...」
「あれだよ、一夏くん!気軽に他の人には言えない相談だから...その...うん、一夏くんには言えないことだから...」
「言えない相談てなんだ...て、おい!待ってくれよ!琲世!」
一夏くんに曖昧な言葉を残してしまった僕は部屋から迅速に退出をし、廊下の端まで走りきった。
(変な形で部屋に出てしまったな...)
廊下の端までたどり着いた僕は強引に終わらせてしまった展開に息を切らしながらも、ため息をしてしまった。
明らかに不審に思われる行動を一夏くんに見せてしまい、しかもシャルルくんを置いていく形で部屋に去ってしまった、僕。
後日、シャルルくんにに謝らないと...
(でも、一夏くんは気づいた様子はなかったな...)
だけど先ほどの一夏くんの顔を見る限り、シャルルくんが女子である秘密を僕に打ち明けていたと察している様子はなかった。流石に100%とは言い切れないけれど。
(とりあえず部屋に戻って、ゆっくりと休みをーーー)
とりあえず呼吸が落ち着いたことに確信をし数歩歩いた僕だが、
「っ」
突然、足を止めてしまった。
そして僕は誰もいないはずであろう廊下でため息をし、「まったく、あなたは本当に神出鬼没ですね。楯無さん」と口を開いた。そう、あの人がいたのだ。
「よく気づいたわね。琲世くん♪」
人気がなかったはずの廊下から聞き覚えのある声が聞こえた。しかも僕の真後ろで。
僕は呆れた様子で振り向くと、誰もいなかったはずの廊下に刀奈さんが堂々と立っていた。
「どう?あの子の秘密を知れたかしら?」
「ええ、知れましたよ。と言うか楯無さんも聞いていたんですよね?」
「ええ、聞いてたわ。その話ってここでは大きな声を出しちゃダメな話よね」
「...絶対に他の人に言わないでくださいよ?」
「だいじょーぶ♪このことは流石に手出ししないし、他の人間には漏らさないわ♪私をなんだと思ってる?」
刀奈さんはそう言うと、『安心して』と言わんばかりに僕の肩に手を置いた。
先ほどあなたは嘘の情報を流しましたよね...?
「なら安心です。とりあえず部屋に戻りましょ」
「そんなに部屋に戻りたいの?もしかして私の素肌を楽しみにしているの?」
「そんなわけないでしょ。誰があなたの素肌を楽しみにしてると言ったのですか?」
「え?私だけど?」
刀奈さんの返事を聞いた僕は呆れが混じったため息をした。
それは先ほどのため息よりもはるかに大きいため息だ。
「とりあえず...部屋に戻りましょ」
「りょうかーい♪」
刀奈さんのちょっかいに悩まされながらも、自分たちの部屋に戻った、僕。
シャルルくんの今後の扱いに不安を抱きながらも、僕は彼女のために何かできないか少し考えたのだが...
(...あっ、そういえば)
僕はシャルルくんにあることを聞き忘れたことに気がついた。
それはシャルルくんの本当の名は聞いていなかったのだ。
彼女と何度も言っていたのだが、名前はシャルルくんの名前のまま。
彼女の本当の名前はなんだろうか?
僕はそう考えた。