近未来忍者的な世界で生き残るためには?   作:スラム街のオーク

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ブラック様本遊びが幸いした感じ?


8話

 月夜がエドウィン・ブラックと邂逅する少し前に時間は遡る。 ユキカゼたち陽動班の面々は、現在二つ名(ネームド)持ちの魔族、エドウィン・ブラックの秘書兼護衛の《魔界騎士》ことイングリッドと交戦していた。

 

「《赫者一閃》ッ!」

「《風遁 綺羅星》ッ!」

 

 赤い魔力を灯したイングリッドの剣が、秋山達郎の風纏い輝く忍刀がぶつかり合い光を散らす。 イングリッドの提案で一対一の戦いに臨んだのは達郎だった。 姉の凛子に頼りきりなのはごめんだ……と自ら名乗り、イングリッドとの殺り取りに臨んだのである。

 

「全く、達郎ったら……」

「その割には、彼を信頼してるじゃない。 隊長命令で手を出すなって……いい男になったわね」

「正々堂々。 我が弟ながら、正義バカになったのかと心配させられるとは思わなかったわ」

 

 談笑しながらお互いにカバーしつつ、ユキカゼ、静流と凛子は辺りに潜んでいた米連の兵士を蹴散らしてゆく。 イングリッドを狙ってなのか漁夫の利を狙ってかは不明だったが米連も東京キングダムにカチコミをかけていたのである。

 

 ここの所の達郎の成長は凄まじく、その実力は《斬鬼》の異名を持つ姉を凌駕しつつあった。 ムラサキ、さくら、ツクヨに指導を受けて風遁を多対一の戦闘に活かしたりできるようになるまでに成長している。

 

 何合斬り合ったかも数えるのがバカバカしくなるほどにイングリッドは高揚していた。 彼女からすれば、自ら仕えるエドウィン・ブラック以外の男と言う生き物は、雄とは低俗で格下で弱い生き物でしかないと評価を下している。

 

 そんな彼女のプライドに陵辱と言う泥を塗った男、処女を奪った桐生のせいでさらに男に対して高圧的になるのも無理はないだろう。 消し炭になるまで、焼き尽くして殺したはずが生き長らえているその事実を知った時は柄にもなくイングリッドは地団駄を踏んだほどである。

 

「ハハハハッ! 私とここまで斬り合える男はそうそういないぞ。 名を聞こうか」

「トリ頭かあんたは! さっき名乗ったろうが……秋山達郎だよ!」

「トリ頭とは失礼な。 何、先程は貴様に興味がなかっただけの話さ……が、斬るに価する男の名前くらい覚えておかねば失礼だろう?」

 

 鍔迫り合いから弾き合い距離をとったイングリッドはまるで知人に話しかけるように、気さくな雰囲気で達郎に話しかけていた……そしてその刹那、先ほどの殺気が可愛く見えるほどに、明確な殺意と魔力が膨れ上がり、達郎を圧倒した。

 

「私がこの剣を抜くのはそうそうないぞ……光栄に思えよ、秋山達郎。 それと……すぐに果ててくれるなよ?」

 

 腰に佩た鞘からイングリッドは剣を抜く。 魔界製の魔剣、《魔剣 ダークフレイム》は所有者の魔力を喰らい、妖しく輝いた。

 そして、モーションなしで剣を振るい、達郎に肉薄する。

 

「ちぃっ!」

 

 迎撃。 達郎は渾身の力を込めて忍刀を握り、切り結んだが……イングリッドは魔族特有の怪力を用いて彼を弾き飛ばした。 予想外の力押しに達郎は焦りつつ、風遁を使い滞空してから緩やかに着地した。

 着地して直ぐに風遁で加速。 相手が剛ならば自らは柔をと、手数による戦いを達郎は挑んだ。

 

 しかし……その疾さをイングリッドは軽々と超えていく。 達郎の、彼の努力を嘲笑うかのように。

 

「全くだらしない。 少々本気を出したらこのざまか……興醒めだな。 いや、私に人間が……対魔忍ごときが追いつけるはずがないと言うことか」

 

 首元に剣を突き付けてイングリッドは逡巡する。 達郎は満身創痍、動ける体ではなく嬲り殺すのは容易い。

 

 しかし彼女は内心で達郎の、その芯の強さは認めていた。 負けると分かっていても立ち向かえる強さを……故に……

 

「退け、対魔忍共。 ひよっ子を〆ても何の名誉もないからな……それに、ブラック様もお帰りのようだ」

 

 剣を鞘に納めてイングリッドは踵を返し、その場を後にしていった。 騎士故に同等であれば殺していたと言わんばかりに、達郎達を見逃したのである。 暗に弱者に興味はない……と

 

「ちっきしょぉぉぉぉぉ!!」

 

 達郎の慟哭は朝焼けの東京キングダムに消えていった……悔しさを覚えてか、彼は強くなってやると吠えた。

 

 それは強く、強く……吠えた。

 

 ☆

 

「レベッカ。 アレの相手は無理だよ……」

「そうね……ツクヨ。 撤退戦でいい?」

「何でノマドの首魁がここにおんねん!?」

「勢力下ですもの……仕方ありませんわ。 と言うより、いきなりハードミッションですわ!?」

「私が、ここにいることを忘れていないか、君たち」

 

 疎外感を感じたブラック殿が私たちに話しかけてくる。 もう少し現実逃避くらいさせてください。

 

 ノマドの首魁様を空気扱いにして現実逃避したい気持ちと道理を蹴飛ばし、彼に向き直る。 無茶でも何でも通す気概で臨まないと死ぬオチだぞコレは。

 

「お初にお目にかかります。 真祖の吸血鬼、エドウィン・ブラック殿。 私はツクヨ。 しがない錬金術師の小娘であります」

「慇懃無礼、貴族に対しての礼儀というわけかな? が、フランクに話したまえ。 似合っていないぞ?」

「グヌ……一応気を使ってるんですけどねぇ」

 

 そっちを立てているわけではないが……と目で伝えるが伝わらんだろうなぁ……

 

「気を使うか……ならば私と少し遊んでくれないかね? 私が目をつけた者に狂いはないと証明してもらいたいのだよ……不死と言うのは究極に退屈でね……」

「いつから目をつけられていたので?」

「君の体に聖杯が宿っていることは予言にあったことだよ。 魔界では有名な伝承でね……ちょうど君が生まれた年に聖杯が現世に降臨すると……それと、ドローンだったかな? 君が飛ばしていたと思うが、目障りだったから全て潰してしまったよ……すまなかったね」

 

 魔界の予言……調べた通り、それで聖杯に勘付いたわけだ……! てか、ドローン全部落とされてたのかよ!? アレ一機幾らすると思ったんだよこいつ……。

 

「レベッカはキリンとリディを連れてアサギさんの捜索を頼む。 私の本気は味方の被害を抑えれないのは知ってるでしょ? ここで、私のせいで君たちを危険に晒すのは非常に癪だからね」

「了解、生きて帰ってこなかったら桐生にふた〇〇に改造させてから、蘇生させるから」

「それだけはマジで勘弁してください」

 

 軽口を叩きながらも私は三名をに指示を出してこの場から離脱させる。 律儀にもブラックは私の準備を待ってくれていた。

 

「私を飽きさせないでほしいな……では征くとしようか」

 

 ブラックの身に魔力の流れを感じる。 間違いない、重力を操るあの異能を待機させている筈だ。

 正直言って手札全部切らないと生き残れなさそうだ……腹を括ろうか……。

 

「出し惜しみは無しだ。 私の全力を持って貴兄に当たらせてもらう」

「ほう、それは楽しみだ……君は私を殺せるのかな?」

 

 私は完全な不死殺しにまで至れていない。 エドウィン・ブラックにある傲りにつけ込んで殺しきるなんて到底夢のまた夢の話だ。

 

 こいつの不死性は真祖ゆえに、完全な吸血鬼ゆえの不死。

 

 銀の弾丸もニンニクのアレルギーも死徒とされる吸血鬼どもと違い弱点はない。

 

 錬成も今の私では、全力術式も軽く抵抗されるだろう……星のマナを弾丸にしても不死の「概念」を捻じ曲げれるほどの「権能」クラスの攻撃にはならん筈だ。

 

 アサギ3での顛末は井河アサギと甲河アスカが協力してアスカの対魔粒子砲の全力で滅んだ。 対魔粒子はマジな対魔のチカラを持っているんだよなぁ……私の体にはないけどね! 

 

 とにかく、概念とも言える不死をカッ消した対魔粒子砲なんてものはまだ(・・)創れていない。 いつか作るけどな。

 

 で、私は対魔粒子を持っていないが、対魔のチカラに目はつけてある。 ラピス・フィロソフィカス……某シンフォギアの錬金術師が賢者の石を基盤にして生成し、纏っていた《ファウストローブ》に使用されるものだ。

 

 ありとあらゆる不浄を焼き尽くす輝きとラピス・フィロソフィカスの仮説を立ててみたが……私の作り出した賢者の石の特性は「死と別ベクトルの力を持つ生命力の結晶」とも言えるもの、私の聖杯はその生命エネルギーを「万能のエネルギー体」の霊力に変換するわけだが。 つまり、賢者の石は、完全な不死は実現できなくともムラサキさんが持てばその細胞の不死性が天元突破すると仮説を立てている。

 

 愚者の石はその真逆。 「死を加速させる不浄の結晶」だ。

 

 魔族の魔力は元々「不浄の穢れ」とも言えるそれだ。 ブラック氏の不死は概念な訳だから、愚者の石によるマイナスエネルギーの強化を受け付けないだろうけど。

 

 つまりはまあ……プラスの生命力の塊である賢者の石のエネルギーを加工して、不浄を焼き尽くす輝きに変換してるってところか? 

 

 私はその仮説を立てて、探求を進めてきた。 で、未完全でもその輝きを有するものを創り出した。

 

黄金の夜明け(ゴールデン・ドーン)……これならば……貴兄に通るかもしれないな」

 

 スクロールから引き出したのは赤い銃身の黄金銃。 見た目は下品だが、金を素体に貴金属を魔合金属に錬成してから加工したからこんな色になっている。 断じて私の趣味ではない。 見た目は銃身を覆うように噛み合った金色の装甲を持つコンテンダーをベースにした感じだろう。 弾丸は……ブラットマテリアルを使う。

 

 ブラットマテリアルは私の血と賢者の石を錬金して創り出す生命エネルギーを増幅した赤い結晶状の延べ棒で、噛み合う装甲を展開してそこにブラットマテリアルを挟み込むように装填する。 また、変形機構も組み込んでいるので……銃から剣に変えることが可能だ。

 

 銃形態はアルケミック・ガンナー、剣形態はアルケミーソードと名称をつけてある。

 

 剣身は噛み合う装甲を展開、銃身を縮めてから接続されているブラットマテリアルからエネルギーを銃口に指向させる。 そして、光子状に迸らせてビームサーベルみたく使うようにしている。 グリップが変形時に可動するから便利な仕上がりである。

 

「では、加持谷月夜……推して征く!」

 

 私は黄金銃を構えて引き金を引く。 夜闇を切り裂いて真紅のエネルギー弾が放たれた。 煌めく弾丸は空で弾けて錬成陣を描き滞空する。 まずは地の利を相殺する! 

 

「そんな使い方もできるのか……なるほど、これで私と同じステージに立った、と?」

「頭の上から大人しく攻撃されるのは愚者くらいですよ? まぁ単に。 貴方が頭上にいるのが癪だったってのもありますが」

 

 跳び上がり、錬成陣の上に私は立った。 これは足場にできる錬成陣なのである。 もちろん、ここでなら空気を錬金して金属にすることも可能だ。

 

「面白い小娘だ……私が上にいるのが癪とは」

 

 余裕たっぷりにくつくつと目の前の精悍な男は嗤う。 まぁ、癪だったのは確かだけども。

 

「傲り……強者の特権ですよね。 ただ、ヒトを侮ると痛い目見ますからね?」

「ならばやって見せてくれ給え……豪胆な錬金術師よ」

 

 ブラックはそういうと、無数の黒い魔光弾を作り出してこちらに殺到させる。 ふむふむ、簡易解析でサーチすると内面に向けてベクトルが進む、引き込むチカラがかかっている魔光弾だな。 触れたら圧削されるわけだ。

 

 私は焦らずに照準を合わせると、引き金を引く。 銃身に刻まれた錬成陣が光り、弾丸のエネルギーを調律。

 

 魔光弾が炸裂した時に術式を展開する弾丸を創り、放つ。

 

 全弾が黒い魔光弾と衝突、即座に術式を展開して、術式はブラック氏の魔光弾内部に侵入。 内面に向かうベクトルの内から外面に向かうベクトルの指向性エネルギーをぶつけて対消滅させて相殺した。

 

「ほう、ではこれならどうかな?」

 

 お次はブラック自身の体から魔力が伸びる。 その全てが鋭利な純粋魔力の蔦だ……ヤバい! 

 

「《荊姫》ッ!」

 

 いつも通り等価交換、質量保存の法則をガン無視して魔力で空気を錬金。 鋼鉄を創り出すとそれを基盤に荊姫の術式錬金。 魔力の塊を迎撃させつつ後ろに黄金銃を向けて発砲。 新たに錬成陣を空に描いてそっちに跳躍した。

 

 荊姫で迎撃できないと直感的に悟って回避したわけだが、あの魔力の蔦は相殺しにくいぞ。 鋼鉄の蔦を輪切りにしてくれたからな……クソッ

 

 黄金銃を剣形態に変形させてブラックの魔力の蔦を切り裂き無力化するが、ドンドン数を増やしていく……捌き切れない、キリがない! 

 

 と、ここで空気を読まない黄金銃。 剣身が霧散した……エネルギー切れのようだ。

 

「これならどうです!」

 

 ブラックの攻撃パターンを解析して理解した私は禁忌を使うことにした。キリがないから一撃でカタをつけよう。 でも、これやったら燃え尽きるんだけどね……服が。

 

 黄金銃にブラットマテリアルを再装填して構えて撃つ。 弾丸はリフレクター《ブリガンディ》。 魔障壁を放つもので魔力の蔦を抑える分厚い魔装障壁だ。

 

「何をするつもりかね?」

「貴方の根城ごと吹き飛ばします」

『ツクヨ、アサギさんを確保したわ』

『了解、ちょっとのま通信できなくなるよ……黄金錬成を使う』

『私たちは退去済み。 派手にやっちゃいなさいな』

 

 テレパスでレベッカと連絡を取って私は魔力を集める。 龍脈から星のマナを吸い上げて、胎内の聖杯から膨大な霊力を溢す。

 

 星のマナと霊力を錬成。 大気中でから空気を集めて、超高温超高圧で圧縮する。 水素をヘリウムに転換させてから、卑金属の基礎を作り出し、そこから転換を繰り返していく。

 躍動する、蠢動する。 スパークが弾けて、ノイズが響き渡る。 世界が軋む、身が焦げる。 練って、錬って、煉る。

 

「これが私の最大火力……大気中での黄金の錬成」

「こ、これは……流石に予想外だよ、錬金術師」

「理解したか? ならば……燃え尽きろ!」

 

 私の頭上には膨大な熱量の魔力の塊……魔術的核融合炉を生み出した。 私の体は錬金術の影響を受けないように錬成しているから、問題ない。

 服までその術式を施していないから……火球を支える左腕の袖から左胸までが燃え尽きてしまった。 つまりは、私の胸がポロリ状態である。 白衣も同様、うら若き乙女の胸を魅せるサービスなんてそうそうするもんじゃない。

 

 左手を振り下ろし、火球をエドウィン・ブラックめがけて投擲する。

 

「くっ、此処は引こうか……楽しかったよ、ツクヨ……!」

 

 闇に溶け消え、エドウィン・ブラックは引いていった。

 黄金錬成、その火球は対象を見失い……東京キングダム、ノマド首魁勢力下の廃ビル郡中心部に直撃して爆ぜる。

 

 その日。 人々は朝方に、地上で金色に輝く太陽を見た。

 

 夜明けの太陽よりも神々しく輝く光を。

 

 轟音と爆風が巻き起こる。 爆裂音と破壊の不協和音が私の耳を痛めつけてくる。 まぁ、この程度、問題ないけどね。

 

 やがて、光は晴れて、朝焼けに東京キングダムが照らされる。 黄金錬成の余波は、ビル群を丸々削り取った。 ビル郡の屋上は軒並み吹き飛んで、あたりに破壊をまき散らした。

 

 私の手には……

 

「ほんっと、割に合わないねぇ……」

 

 米粒ほどの黄金がちょこんと、乗っていた。




というわけでお久しぶりです。 ほっといたらお気に入りがヤバい…胃が痛いです。
今後も精進してまいりますので、ご贔屓に

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