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またネタバレを多大に含みます。以上のことをご了承ください。
高額アルバイト-1
春の気配が俄かに漂ってきた3月のある日、鵺野探偵事務所に1人の依頼人が訪ねていた。
その依頼人はステレオタイプな主婦のご婦人に当てはまりそうな背格好、服装をした女性で緊張によるものか、はたまた別の要因による者なのか運動もしていないのに出る汗を拭いながら、対応している美形の女性に依頼内容を話していた。
「つまり、お子さんが怪しいアルバイトに手を伸ばそうとしているから監視と雇い主の調査、ボディーガードをお子さんに内密でして欲しいと言う認識でよろしいでしょうか?」
美形の女性……鵺野京が依頼内容を確認する。
「ええ、その通りです。それであっております」
「分かりました。ではこちらの契約書にサインと印鑑をお願いします」
女性は差し出された契約書にサインをし印鑑を押す。
「はい。確かに拝受しました。では後はこちらの方にお任せください」
「はい、お願いします探偵さん。あの子が危ない事に巻き込まれても大丈夫なように頼みましたよ」
依頼人の女性は最後にそれだけ言うと探偵事務所を後にした。
…………………………
「高額アルバイトかぁ」
依頼人が去った後1人応接室に残った鵺野の前には件のアルバイトのチラシが置かれていた。
《1日だけの単発アルバイト!時給1650円×7時間(1時間休憩あり)昼食・夕食に弁当・お茶付き。交通費支給。履歴書不要。 運搬作業と清掃作業。誰でも簡単にできる仕事です♪
友達と一緒の応募もOK
分からないことは、社員が丁寧に教えます 》
「全く。あの人達示し合わせたかのように一斉に長期休暇をとるからな。私が1人で色々としなきゃならないじゃないか。こっちはついこの前退院したばっかりなのに。その意味では依頼人が息子さんから集合日時と集合場所、業務内容を聞き出していてくれて助かった。はあ、今日は独り言が多いなあ。話し相手を見つけないと」
チラシには依頼者の女性によるアルバイトについてのメモ書きがなされていた。
・日時 ○月×日 10時~18時
・集合場所 地蔵坂駐車場前
(電車で地蔵駅到着後、バス利用:地蔵坂駐車場で下車)
・業務内容 地蔵山にある倉庫へ在庫の運搬作業と、倉庫の清掃作業
・弁当は向こうで用意される?
・業務中は携帯電話を預かられる
・動きやすい服装、軍手、マスク持参
「事前調査は大切だからね。早いとこ調べよっと」
…………………………
〈アルバイト当日〉
その日、探偵事務所には所長である鵺野以下5人が最終打ち合わせを行っていた。この事務所にはまだ他にも所属している者はいるが現在休業中である。
「以上です。では皆さん質問はありますか?」
鵺野のその問いに1人が手を挙げる。この場で最年長のアルスラーン・ジブリールだ。彼の故郷の名乗り方だとアルスラーン・ジブリール・イブン・シェヘラザードと成るだろう。
「所長、事前調査ではキュウソウ社は地蔵山のある街とその周辺の会社の不要となった物を回収する、産業廃棄物処理の会社となっていますが、裏に暴力団などがついているのか、そうではないのか、などは分かりましたか?」
「いや、ネットによる調査しか行ってないから何とも。」
「どう言う事ですか所長?」
その驚愕の答えに質問を返したのは鵺野の部下で恋人の内亜千弥だ。
「単純な問題だよ千弥くん、時間と人手が足りなかった。ただそれだけだよ」
「……そう、ですか」
「他に質問はありませんか?……無いみたいですね。では内亜くんと二階堂さんは速やかに準備を済ませてください。もう時間はあまりありませんから。それとジブリール予定通りお願いね」
「分かりました」
「了解です所長」
…………………………
〈地蔵駅〉
3人がそこに到着したのは地蔵坂駐車場へのバスの出る30分ほど前であった。
地蔵駅は利用者の殆ど居ない無人駅で待合所に長い木製ベンチが2つと掲示板、自販機と地元でちょっとした話題になる程汚いトイレがあるだけの寂しい場所である。
「飯食い地蔵さまか、所ちょ……京はどう思います?」
「私はこの乞食がどうやって村人の願いを叶えて居たか気になるな」
「お地蔵様の使いだから不思議な力が使えたんじゃないですか?」
その質問をしたのは二階堂だ。
『飯食い地蔵』それはこの地域に伝わる昔話である。要約するとお供え物の代わりに願いを叶えていた乞食を殺してしまってその後食糧難の時地蔵の顔が乞食と似ていて乞食を殺してしまった村人達が反省すると言う話だ。
「飯食い地蔵の話からは少しずれるんだけど昔ここに旧陸軍の食料調達部隊の本部があったらしいよ」
「食料調達部隊?何ですかそれは?」
「調べた限りでは食料の獲得と自然資源の有効活動に力を入れた補給部隊ってところかな」
「ちなみに」と鵺野は少し区切った後で続ける。
「そこでは食用ミミズを使った食べ物の開発も行っていたらしいよ」
「……食用ミミズですか。ミミズ肉は高価ですが……大量養殖でも行うつもりだったんですかね?」
「さあ?でもまあ常識的に考えたらそうなんじゃないの?」
話はそこからミミズ肉へと移る。そしてミミズの肉はどんな味なのかと言った話題に移った時点でバスが到着し3人はそれに乗り込む。
…………………………
〈バス・車内〉
「来ないね。もう直ぐ出発の時間なのに」
と鵺野
「初日から遅刻とか酷いですね」
とそれに続く二階堂
2人はバスが到着しても姿を現さない監視兼護衛対象、阪西正雄に対して少々苛立っていた。電車は30分前のものの他に5分前の便も存在したのだがそれにさえ彼の姿は無かった。
「2人ともあれを見てください」
バスに乗ってから今まで黙っていた内亜はある場所を指した。2人がそこを見ると猛スピードで迫る一台の乗用車があり、その助手席には写真で見た写真で見た男性、阪西正雄の姿があった。
乗用車が減速して駐車場に入るとともにドアが開け放たれ阪西正雄は飛び出した。そしてそのままバスに飛び乗った。
そしてそれを確認した運転手はバスを出発させた。
「はあ、はあ、間に合った。ギリギリセーフだ」
「ギリギリアウトだ」
その発言に待ったをかけたのは内亜であった。
「何だよあんた?何か文句でもあるのかよ?」
「大有りだね。お前周りに迷惑をかけているのがわからないのか?」
「まあ、まあ落ち着いたよ千弥。彼を責めてもないも変わらないよ」
「えっと、貴女は?」
「私は鵺野京よろしくね」
「は、はい!」
「馬鹿何やってんだ千弥」
〈すいません」
「あのどうかされましたか?」
「いや、今後人に喧嘩を売らない様注意しただけだよ。」
依頼人と若干もめながらも関係なくバスは進む、目的地へと。運転手の心情は別にして。