とりあえずモチベを上げるためにと他作品書いて出来上がったので投稿です
アルルカンと二人が来てから数日。昼時、学生が食堂へ向かう中、海斗も例に違わず向かっていた。
その途中廊下の柱の影に見覚えのある二つの人影を見つけた。
「あれは…この前ぶつかった子だな」
この前ぶつかった銀髪の少女とそれを怒鳴っている中年男性の事を思い出しながら歩を進めた。
その時だった。二人のいる方から乾いた音が聞こえた。
もしやと思い、振り返れば案の定男性の方が少女に平手打ちをしたところだった。
「流石にやりすぎだろ」
海斗は食堂とは真反対にいる二人へと歩く向きを変え、近付いていく。
「それはお前が考える事ではないと言った筈だぞ、綺凛」
「で、ですが伯父様、わたしは」
「口答えを許した覚えもないぞ!」
「そこいらで止めておいたらどうだ」
中年男性が少女へと拳を振り上げた処で話しに割り込むと、中年男性からは怪訝な、少女からは驚いた目線を向けられる。
「なんだ、貴様」
「通りがかりの一生徒、って見てわからないか?」
中年男性からの問いに毒を吐いて返し、少女を背に相対するように二人の間に身体を入れる。
「貴様……今のはただの躾だ。身内の問題に部外者が口を出すな」
「衆人環視の中で平手打ち。口を出さないという方が無理な話だな」
「……学生風情が生意気な口を叩くものだ。貴様、名前は」
「松原海斗、序列九位」
「はっ、所詮九位の分際が何のようだ」
苛立たしさを隠しもせず、侮蔑混じりの視線を海斗に向ける。
「彼女への暴力をやめてもらおうか」
そう言い放った海斗を見て薄く笑い続けた。
「いいだろうーーただし、貴様が決闘に勝ったならばな」
「決闘だと?」
「ああ、そうだ。貴様ら
確かにと納得出来る部分はある。六花にいる学生ならばそれで済むだろう。だが──
「てめぇが闘うのにここのルールに乗っ取るつもりか?」
それを聞いた男性は怒りを露わにして言い放った。
「私が闘うだと?ふざけるのも大概にしろ!私は貴様らのように
「…いい加減そのバケモノ呼ばわりすんのやめろよ」
「ふんっ!
男性の胸ぐらを掴み、殺気をぶつける。それを受けた男はヒッ、と小さく悲鳴をあげた。
「まぁいい。てめぇの考えに乗ってやるよ。あぁそれとな──」
手を離し、少女へと歩き初めたその時顔だけを向け言った。
「情報収集はしっかりとやった方がいいぜ?俺はてめぇと同じ非星脈時代だ
それを聞いた銅一郎は急いでパーソナルデータを開いた。そこには確かに非星脈時代と載せられていた。
「それじゃやろっか」
「でも…」
「別に気にしなくていいよ。俺が勝手に口を挟んでこうなっちまったんだ。謝るなら俺の方だ」
「……ごめんなさいです」
そう小さく言った彼女の体は震えていた。それに罪悪感を覚えながらもボックスから刀を出す。
彼女も袋から刀を出した。
気付けば野次馬根性逞しい生徒たちが遠巻きにこちらを眺めている。
「……刀藤綺凛は、松原海斗先輩に決闘を申込みます」
小さく、しかしはっきりと聞こえる声によって二人の校章が光りを放つ。
視線が交錯する。
「我松原海斗、決闘を受諾する」
校章が一際輝き、決闘へのカウントダウンが始まる。
渡り廊下から中庭へと歩き出す海斗の背に、綺凛が呟く。
「……松原先輩は、優しいですねーーですが、私も負けるわけにはいかないんです」
振り返った海斗が見たのは、己の得物を構えた彼女の姿だった。
それは柄の部分などは現代的な意匠ではあるが間違いなく日本刀だ。
正しく刀人一体。いっそ冷たさを感じさせるかのような立ち振舞いに目を細める。
「では、先輩」
「ああ」
カウントダウンが、零になった。
「ーー参ります」
綺凛が開始の合図がなった瞬間、彼我の距離を詰め刀を振るう。
「流石は序列一位、やっば速いな」
「…それを知ってて行動したんですか?」
彼女の振るう刃を紙一重で避けながらも答える。
「情報収集は基本でしょ?」
今まで抜いていなかった己の獲物を抜き受け止め鍔迫り合いに発展する。
彼女の身のこなしは『疾風』。振るう刃は『雷』。二つ名に偽り無し、と認識を改める。
今度はこちらからと鍔迫り合いを強引に押し込み体制を崩しにかかるも上手く否されてしまい、前方へと倒れ掛けた為に隙が生まれてしまった。
「(もらった…!)」
「まだだぜ!」
前方へと倒れ掛けた体を強引に捻り校章への一撃を受け止める。だが衝撃だけは殺せず後方へと飛ばされるもその勢いを使い体制を立て直した。
「松原先輩、お強いですね。びっくりしました」
「それはこっちのセリフだよ。まさかここまで速いとは恐れ入った。じゃあ今度はこちらからいかせてもらうよっ!」
海斗が綺凛へと踏み込む。その速度は速いが綺凛はしっかりと捉えていた。
「時雨蒼燕流攻式五の型──」
校章目掛けて振るわれた一刀に綺凛は防御の構えをとった。だが来るはずの衝撃が来ない。ならばと攻撃に転じようとした時──
「五月雨」
いつの間にか右手ではなく左手にあった刀に気づき急ぎ防御へと刀を戻す。
ガキィンと甲高い音を立てると同時に綺凛の腕には小さく痺れる感覚が伝わってきた。
「(重い…!)」
同じ刀を扱う者として驚嘆する。技と力をここまで合わせるものかと。
今の一閃、海斗は右手にあった刀を通常の剣術で言うところの中斬りを放ちながら刀を一度手放し左手に持ち替えたのだ。
野次馬達からしたら今の一閃は何が起きたかは分からないだろう。それほど自然に滑らかに行われたのだ。
受け止めた刀を跳ね上げ胴に一閃を放つ。それをバク転の要領で交わし、距離を取る。
「ほんと末恐ろしいなうちの序列一位は」
「松原先輩こそ本当にお強いです。序列九位なのが驚きです」
「まぁ序列に興味はあんまりないからね」
軽口を言い合ってはいるが、お互い、一挙手一当足見逃さないように感覚を張り詰め、じりじりと円を描くように動く。
「でも、勝たせていただきます」
「そいつは、こっちの台詞だ」
言葉が先か、刃が先か。
二人が踏み込んだのは同時だった。
世界が加速する。
刃鳴りが響き、火花が幾つも咲いては散る。
野次馬はその美しさに感嘆の声を上げるがその声も、剣戟の音すら二人には聞こえていない。
ひたすらに一手一手を打ち込み、弾き合う。無呼吸で行われる連撃。
綺凛が小手狙いの一閃を狙えば海斗はそれを流し、海斗が小脇を狙えば綺凛は刀の腹でいなす。一進一退ここに極まり。
だが、このままでは埒が明かないと考えたのか、綺凛が刀を弾き、大きく下がる。
そして、もう一度。今度は更に速度を上げて踏み込む。
「まだ上があんのかっ!!」
予想を上回る加速度に内心舌を巻きながらも、死ぬ気の炎を足へと付与し対応する。
死ぬ気の炎を出した途端に銅一郎の目が変わった事に海斗は気づいた。
決闘の合間に見えた一瞬の変化、それを見逃さなかった。その目は雫を連れていった奴らと同じ目だった。
だからこその失態とも言えるだろう。
その隙を見逃すほど綺凛は甘くない。
「はぁあっ!」
「(まずっ!)」
剣戟の一瞬の遅れ。それは剣士にとって死を意味する。
であるならばこの勝負──
『「
「っち…(あいつの表情に気をとられた…まだまだだな)」
「何で……」
「別になんでもない。こっちが未熟だっただけだ。さ、行け、敗者に口なしだ」
食い下がる綺凛に、鋼一郎が声を掛けると彼女はびくりと身体を震わせてから刀を鞘に納めて一礼する。
「その、ご、ごめんなさいですっ」
そう言い残して彼女は鋼一郎の後を追い去っていってしまった。
小さな背中が廊下の角に消えるのを見て、苦笑い気味に呟く。
「謝ることなんてねぇだろうが…」
「海斗っ」
野次馬の中から悲しげな表情の雫、それに綾斗とユリスが駆け寄ってくるのが見えた。
「海斗、何で…」
「後で話すからとりあえずはここから離れよう」
「そうだな、聞きたいことは山ほどあるが今は私のトレーニングルームに向かうぞ」
「悪ぃ、助かる」
「……礼はあとで良い。急ぐぞ」
少し照れた様子のユリスを先頭に、海斗は歩き出す。