ゼロの使い魔王さま!   作:茶虎猫
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第三話 朝食前の出会い

 翌日の朝。サタンは顔に感じる暖かさと眩しさで目を覚ました。
 時間にして午前六時を過ぎくらいだろうか。部屋の窓から暖かな日の光が差し込み、サタンの顔を包み込むというなんとも心地の良い目覚めである。

「習慣ってのは怖いもんだな」

 眠たげに目を擦りながら欠伸を一つ。
 世界は変われど体内時計に狂いはなかったことに安堵しつつ、サタンは少しだけ痛む身体を起こして軽くストレッチを開始した。

 フレイティアにいた頃も、大抵この時間には起床し毎朝の準備運動を開始することが多かった。
 魔王になる以前から割と殺伐とした空気にさらされることが多かったからか、あまり熟睡することが出来なかったことが主な原因である。

 最近では今の時間帯に起きるようになったものの、数年前までは熟睡しない時期すらあったくらいだ。

 その頃に比べればよく眠れたほうである。

「――っと、こんなもんか。それにしてもよく眠ってるな。フレイティアじゃ自殺行為だぞ?」

 最後の背伸びを終わらせてからちょうどいい具合に身体がほぐれたところで、サタンは未だベッドに横たわり静かな寝息を立てる主人を見据えてつぶやいた。

 無論、それはつい最近まで戦場に近しい場所にいたサタンだからこその言葉だ。

 あちらの世界は今はどうであれ魔族と人間とが争っている殺伐とした世界である。食事をとる時間も短ければ、それこそ睡眠をとる時間など皆無に等しい。

 故に今のルイズの無防備な状態は、あちらの世界に住んでいたサタンからすれば異常なのだった。

「少しくらいは警戒してくれればいいものの……」

 主従関係とは言っても、一つ屋根の下に男女が二人。
 少しくらいは意識してほしいものだと思いながら、サタンはルイズの身体にかぶさっている布団に手を伸ばすと

「おい。ルイズ。朝だぞ、起きてくれ」

「――んぅ、もう……朝なの……?」

 思いのほかルイズは身体を軽く揺すっただけで目覚めた。
 多少寝ぼけたようなところは見られるが、どうやら寝覚めは良いほうらしい。

 視点が定まっているのかどうかが疑わしい視線でサタンを見据えていたルイズだが、彼の苦笑する表情を観察しているうちに思考も定まったのだろう。
 大きな欠伸を一つしながら背伸びして

「そっか……そういえば、使い魔を召喚したんだっけ。平民の……魔王、だったかしら……?」

「平民じゃ無くて魔族な」

 寝起きだからか少しばかり不満を感じる語尾にサタンは顔をしかめそうになるも、寸でのところで表情を引き締めて笑顔で対応。
 それから準備運動をしている傍ら、魔法で綺麗にアイロンがけして置いた制服を手の上に用意して

「ほら。今日も学校あるんだろ。さっさと着ろよ」

「――」

「何だよ」

「いや、用意が良いなと思って……。私、確かに雑用も使い魔の仕事とは言ったけど、初日からこんなに手際が良いとは思わなかったのよ」

 少し驚いたかのように口にするルイズに対して、サタンは笑みを崩さない。

 彼女の言う通り、サタンがルイズに命令されているのは雑用だ。掃除から洗濯。ご主人様の身の回りに関する世話をすることが主な仕事と言えるだろう。

 それを初日から命令されるでもなく、それも初めてのはずなのに手際よく済ませるなど普通ではない。

 おそらくはルイズも少なからずサタンが反抗してくると思っていたのだろう。彼女がサタンを見据える表情は驚愕色に染まっている。

「使い魔は主人の身の回りの世話をする。それが仕事だって言ったのは他でもないお前だろ? だから、俺はそれをやってるまでだ」

 さも当然のように言ってのけるサタンはそれだけ告げて手にしていた服をルイズに手渡すと、振り返って静止した。
 所謂、女性の着替えを見てはならないという紳士的な対応である。

 背を向けて微動だにしないサタン。
 ルイズはそれをこれ以上の手伝いはしないという意思表示と取ったらしい。しばらくすると、背後で衣服が擦れる音が聞こえて来た。

 昨夜と同じ光景を繰り広げてる気がする。
 そんなことを思いながらサタンは彼女の着替えが済むのをジッと待つのだった。

**********

 ルイズと部屋を出ると、視界に映ったのは似たような木で出来たドアが壁に三つ並んでいる光景だ。
 おそらくは廊下と思える場所なのだろう。

 魔王城とは違ってレッド―カーペットが敷かれているわけでは無いようだが、それでも高級感を覚えるインテリアや絵画が飾られている。
 自分の住んでいた城に比べれば簡素な気もするが、それがこの場所の良さなのだろう。

 サタンはそう自分に言い聞かせ、前を歩くルイズに追従しようと歩き始めたのだが

「あら、おはよう。ルイズ」

 三つあるドアの一つが開き、中から現れた少女がルイズへと挨拶をかけたことで彼女の歩が止まった。

 燃えるような赤い髪の毛が印象的な褐色の肌の少女だ。
 身長はサタンと然程変わらないことから、ルイズの頭一つ分ほど上と言ったところか。一番上と二番目のブラウスのボタンをはずし、その豊かに育った胸を見せつけるかのように強調している。

 ハッキリ言って美女である。
 それも、自身の部下にも何人かいたサキュバスに引けを取らない色気を感じさせるほどの。

「おはよう、キュルケ」

「あなたの使い魔って、もしかしてそれ?」

 しかし、出会って早々に人を馬鹿にした態度で指さしたことが、サタンの彼女への評価を下落させた。
 全くマナーがなっていない。いや、コレが人間が使い魔に対しての接し方なのかもしれないが、それにしたって酷すぎる。

 サタンは彼女の態度にほんの少しだけ苛立ちを覚えながら反論の一つでも口にしようとするが、そんな彼よりも先に口を開いたのはルイズである。

「えぇ、そうよ」

「へぇ、本当に人間だったのね。凄いじゃない」

「そうね。確かに、『サモン・サーヴァント』で”人間”を召喚したのは、世界広しと言えども私だけかもしれないわね」

 馬鹿にしたように声をかけるキュルケと呼ばれた美少女に対し、ルイズは大して気にしていないように答える。
 それは召喚した者がただの存在ではないということを知っているからこその余裕というものだろう。

 もしも召喚して現れた存在が普通の人間であったなら、プライドの高い彼女の事だ。キュルケの嘲笑うような言葉に反論していたのは確実である。

 それが起きなかったということは、自分の召喚した使い魔に自信を持っているということ。

 『アンタの事は一応信頼してるから』と、言葉ではなく行動で示されてしまったからには、サタンも無駄に声を荒げるわけにもいかず、開いていた口を閉ざすしかない。

「やけに素直に認めるのね。アンタの事だし、もう少し苛立ちを顔に表すかと思っていたんだけど」

「事実だもの。ソレを認めずただ怒り任せに怒鳴り散らすなんて、貴族のすることじゃないわ」

「ふ~ん。今まで何度も『これはたまたまよっ!』とかって怒鳴ってた人は何処の誰だったかしらね?」

「う、うっさいわねっ!」

 白い頬を朱色に染めてキュルケの言葉を遮るルイズ。
 そんな彼女の態度に自分のペースを取り戻したかのようにキュルケは豊富な胸の下で腕を組むと、自らを睨み上げてくるルイズを嘲笑し

「あたしも昨日使い魔を召喚したのよ。誰かさんと違って、一発で呪文成功よ」

「ふん。だからどうしたって言うのよ? 呪文が成功しようとも、出てくる使い魔が大したものでなければ話にならないわ」

 余裕綽々と告げるキュルケに対し、ルイズの態度は強気である。

 それは今回自分が召喚した存在がサタンであるからと言うのが高いだろう。

 彼女は目撃しているのだ。彼が自分を除いた生徒達と、あまつさえコルベールを真っ黒に染め上げて、更には治療を施している様を。

 その化け物じみた所業を目の当たりにしてしまえば、どんな使い魔が現れようとも大したものに見えないのは当然のことである。

「あら? と言うことは、アンタの召喚したその”人間”は只者ではないということかしら?」

「そう解釈してくれても構わないわ」

「ふ~ん。けれど、所詮は人よ。どうせ使い魔にするなら、こういうのが良いわよね~。フレイム!」

 キュルケの呼びかけと同時に、彼女の開いた部屋からのっそりと姿を現したのはトカゲだ。
 真っ赤な皮膚に覆われた巨大なそれは、小尾に炎を灯し爬虫類独特の丸い目玉でルイズとサタンを見上げている。

 見た目からしてドラゴンに近しい種族なのだろうか。

 この火トカゲが姿を現してから、場の空気が一気に熱気を帯びたような気がしてサタンは軽く苛立ちを覚える。

「これって、サラマンダー?」

「そうよ。見て? この尻尾。ここまで鮮やかで大きい炎の尻尾は、間違いなく火竜山脈のサラマンダーよ? 好事家に見せたら値段なんかつかないわ」

「そりゃよかったわね」

 キュルケが自慢する様。それだけで目の前で下をチョロチョロと出し入れしているトカゲが貴重な存在なのは理解できた。
 しかし、所詮はその程度である。

 フレイティアにはドラゴンは勿論、この『フレイム』と呼ばれた火トカゲを越える全長を持った化け物はウジャウジャと存在した。
 今更このようなものを見たところでサタンからすれば興味すら湧きはしない。

 それはルイズも同じようで、フレイムをしばらく見ていたものの直ぐに視線をキュルケに戻した。
 彼女の視線からは『もういい?』という感情がありありと見受けられる。

「へぇ。サラマンダーを目にしても全く態度を変えないなんてね。そんなにそちらの使い魔さんがお気に召したのかしら?」

「まぁね。何処かの胸にいらない脂肪を貯えた化け物の使い魔より、よっぽど凄い奴が出たと思ってるわ」

「ふ~ん。――ねぇ、あなた名前は?」

 ルイズの態度に触発されてサタンに興味が湧いたのだろう。色気のある表情でサタンを見据え短く問いかけるキュルケ。
 自慢の発育のいい胸をこれでもかと強調させて問いかけてくるその様に半ば呆れを感じながらも、ルイズの手前とサタンは失礼の無いように軽く会釈し

「俺はサタン。種族はこんな成りをしてるが魔族だ。それ以外で答えられることは無いことは無いが、それよりもまず言わせてくれ。――その無駄に育った胸を今すぐ隠しなさい。女の子がはしたないぞ?」

「言いたいことってそれ? キュルケが相手なんだし、もう少しガツンと言っても良いのよ?」

 ルイズはそう口にするが、サタンとしては自分やルイズに対してへのキュルケの態度より、服装の方が気になっているのだから仕方ない。

 女性はみだりに肌を露出させない。
 それは魔族だろうが人間だろうがフレイティアでは共通した考え方だ。素肌を晒す行為は自らを敵の目の前に無防備な状態で晒すに等しい行為であるし、そして何よりはしたないのだ。

 故に、サタンはキュルケのその無駄に素肌を露出させた身なりに思うところがあって言葉を放ったのだが、当の本人はそのようなことを口にされるとは思っていなかったのだろう。

 しばらくキョトンとした様子でサタンを見据えていたが

「あなた面白いことを言うのね。よっぽど真面目な方なのかしら? それとも、あたしのこういう恰好があまりお好きじゃないだけ?」

 ワザとらしく胸を寄せて、サタンとの距離を詰めるキュルケ。

 その視線から瞬時に絡む標的をルイズから自分へと変えたことをサタンは理解した。おそらくは普段と違う態度を見せるルイズの変貌。

 その理由が自分へあると推測したからこその行動だろう。

 まるで、新しい玩具を見つけた子供の様な瞳で見据えられた彼は短く嘆息すると、近づいてきた彼女の頭に手を乗せて

「俺にそういう色気は通用しないよ。分かったら、さっさとその目のやり場に困る胸を隠せ」

 まるで、子供に言い聞かせるような優しい声色。
 サタンはキュルケの瞳をジッと見据え、優しくそう語りかけると彼女の頭をポンポンと優しく弾ませてルイズの隣へと移動。

「朝飯食うんだろ? さっさと行こうぜ」

「え、えぇ――」

 まるで置いてけぼりをくったかのように茫然としていたルイズだが、サタンの短い言葉で思考を回復。

 戸惑った様子で自分の隣を歩くサタンと、背後で放心したように突っ立っているキュルケを交互に見返しながらも食堂へと続く道のりへと歩を進めていくのだった。

 そんな二人に対してキュルケはしばらくの間廊下の真ん中で放心していたが、二人の姿が、見えなくなったところで我を取り戻して茫然とする。

「このあたしが、あんな簡単に頭を撫でられるのを許すなんて……」

 今までキュルケから男に寄り添ったことは幾度もあった。
 しかし、それはあくまでも自分からである。相手の男から触れられるなど、これまで一度として経験はない。

「ふ~ん。あのルイズが自信を持つだけのことはあるってことかしら。――中々面白い男じゃない」

 キュルケはそんなことを呟きながら、二人が消えた廊下を見据えて一人微笑むのだった。






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