瑠璃色の道筋   作:響鳴響鬼

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新章のプロローグです。
かなり短いです(汗)


承~第62回戦車道全国高校生大会編~
VOYAGE-1《あれから…》


『ごめんなみほ。西住を出ることになった。まほをよろしく頼む』

 

これだけのメールを送って、兄は家を出て行った。たった、これだけのメールを残して。

 

(どうして?なんで……お兄ちゃん……)

 

意味がわからなかった。

なぜ兄が西住の家出ていかなければならないのか。たった一日実家に戻っただけで、そんなことになってしまったのか。あの日のみほはそれを理解するだけの、冷静な状況を保つことができなかった。

 

みほは信じられなかった。まおが自分たちを置いていくなんてことが。家でも学校でも、いつも近くにいてくれたまお。嘘だと思いたかった。すぐさままおの携帯に電話なりメールするも、返事どころか応答すら得られなかった。いてもたってもいられず実家に電話した。応対してくれた女中である菊代からはメールと同じような結果しか得られず、直接実家に帰ろうとした時、まほが帰ってきた。話を聞こうとするも、今まで見てきたことのないような形相でみほを睨みつけ。

 

「あいつは西住流に泥を塗り、私たちを裏切った。これから二度とあいつの話をするな。わかったな」

「は、はい…」

 

完全に威圧され、みほはそれだけしか言うことができなかった。姉のあんな表情は今まで見たことがなかった。何があったかわからない。だが、きっと何がかあったはず。

 

「まおはもうこの家の子供ではないわ。今は悲しいかもしれないけど、それらを忘れて、これをバネに一層強くなりなさい」

 

嘘ではなかった。母であるしほから直接話を聞き、全てが事実だとわかった。それどころか、兄がいなくなった悲しみを糧に強くなれとまで言ってきたのだ。なぜ母は悲しくないのか、どんなことをしてしましまったのか分かりかねるが、きっとまおが言ってた将来の夢が関係しているはず。常夫の件を考えれば、しほこそがまおを食い止めるべき存在のはず。まおから聞いた、曽祖父や祖父も海で亡くなっている話もきっと母も知っているはずだ。そんなことが立て続けに起きているのに、結果的にしほはまおを見捨てたと、みほにはそう見えてしまった。なんとかまおに西住の家に戻すことはできないか考えた。

 

「お兄ちゃん……」

 

だが、みほには何もできなかった。いつも、兄を呼ぶばかりが続いていた。自分はそんなに積極的に動けるような性格ではなかったし、ましてやしほやまほに逆らうことなんて、勇気がでなかった。以前にも増して、しほは厳しくなり、まほに至っては別人と思えるぐらいに冷たくなってしまった。あの日からまほの笑顔など見たことがない。いつも三人で下らない話をしては笑っていたのに。

 

(こんなの……もう……)

 

みほには耐えられなかった。実家に帰っても、話すことは戦車道や西住流の内容ばかり。家族らしい話なんてしたことがない。まおがいた頃とは180度変わってしまった家庭環境。いつも家族の中心にいたのはまおだった。たった一人の家族がいなくなっただけで、ここまで変わってしまう。それだけまおという存在がみほ達には大きかったのだ。月日が経ち、心にぽっかりと穴が開いたまま、みほは中学校生活が終わってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お……まお!!」

「…ああ、航平か」

 

隊舎外に設置されているベンチにて、黒を基調とした制服に身を包んだ人物に声をかけていた《小暮航平》。どこかたそがれたようにしていたのか、声を掛けられていることに少しばかり遅れて反応して顔を上げる。潮風がボウっとしていた頭を再覚醒させる。

 

「熊本の海とは大分違うのか?休み時間になったらお前ずっとここにいるだろ」

「どこから見ても海は同じだ」

「全く。唯でさえお前学校内で教官たちから噂の的になってるのに、そんなんでいいのか?」

 

入試枠僅か8名という狭き門である特進科へと入学したまお。最も若く、リスク(退校処分した際には中卒扱いのため)の高い15歳で願書を提出した時から、海自内では噂が立っていた。徹底的に経歴を調べあげられたまおの家族構成があまりに異質だったからだ。海自では知らぬ者はいないと言われる海上自衛隊の立役者『海江田巌』と海上自衛隊始まって以来の英才『海江田四郎』の子孫であるだけでも驚きだが、もう片方の血筋が日本戦車道のトップに立つ流派《西住流》の直系ということも把握されている。そんな"スーパーサラブレッド"が入ってくる。その事実が海自内ではかなりの衝撃だったからだ。万年人員不足であり、他の防衛学校に比べ不人気さを挽回するためにプロパガンダに利用される云々が度々出てきていたが、年に似合わぬ態度やリスキーな発言が目立つ等から若干扱い難い人物評価になりつつあるのがここ最近顕著になっていた。要は何を考えているのかわからない烙印を押されているのだ。

 

「まぁ自分でも変人って思ってるからいいんじゃないのか。それに、別に海を眺めるのはいいだろ。好きなんだから」

「てっきり、故郷に残した妹たちのことでも考えて黄昏れてるのかと思ったんだけどな」

 

妹たちというのは、まおの妹であるまほとみほのことだ。大まかな事情を知っているだけに少しばかり複雑だとは理解している航平。

 

「考えなくても夢に出てくるよ。いつも泣いてるけどな」

「罪悪感があるなら、連絡すればいいだろうに。尤も、名字まで変えてまでここに来るとは思わなかったけどな」

「当たり前だ。それが俺の決めた道なんだからな」

 

そう立ち上がり、ベンチに置いていた錨を配した制帽を被るまお。

 

「今の俺は《海江田 まお》だ」

 

故郷である熊本から遠く離れ、《西住まお》は、名字を改め《海江田まお》として、神奈川県は横須賀市にある海上防衛学校にて、日々道を歩んでいた。

 

 




特別防衛学校(陸上防衛学校・海上防衛学校・航空防衛学校)
より優秀な自衛官を若いうちから育成するために40年以上前に創設された自衛隊の防衛学校(実際は志願者不足を念頭に創設されたんだとか)。最大の人気は戦車道が相まって陸上防衛学校(機甲科)と言われており、不人気は海上防衛学校。。受験資格は15歳から22歳であり、4年の就学となる。あまり若い内に入ると、勉学についていけないリスクがあり、高校ではないため、学歴も中卒までしかならない。
今回まおが就学しているのは海上防衛学校。所在地は横須賀市。普通科(更に学科が別れる)、飛行科、特進科の3つの学科がり、特進科は中でも狭き門とされており、教養が普通科とはかなり異なる。2年生からは練習艦で定期的に航海演習に出ることになり、特に特進科の学生は教官指導ではあるが、分隊長になることができる。乗艦する練習艦は選択式になっている。

※勿論こんな設定が現実にあるわけありません。あったら大問題になりますし(汗)
物語上でどうしても必要な設定ではありますが、正直あまり深くは設定していません。矛盾や知識不足もあります。それ以上の設定は読んでくださっている読者の方々が自由に設定しても構いません。物語に出てくるのも、ほぼ抽象的な場所(あくまで物語は西住家中心ですので)しか出さないつもりです。あまり深く書きすぎると、詰まってくるかもしれないと思いました。更に言うなら、戦闘シーンも余りありません(あるのは戦車道の方)。

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