第伍話 心のむこうに
「さて、何か言い訳はあるか?」
「……今回の一件は全て、我々の監督不行届きが招いた事態です。誠に申し訳ございませんでした」
出てきた瞬間、土下座をする三大勢力の首脳陣。シュールな光景だが本人達は真面目である。何せ、よりにもよってイッセーの暮らす町でやらかしたのだ。
下手をすれば種族もろとも皆殺しにされてしまう。
「今後については考えてあるんだろうな?」
「首脳会談を行います。そこで和平を行う予定です」
「やっと和平を結ぶのか。遅かったな」
それから一時間、会談について話し合い解散となった。お開きになるや否や、首脳陣は我先に転移していった。
「……逃げたくなる気持ち、解るっス」
「あれは脅迫ですよね」
「えげつないにゃ」
「おーい、聞こえてるぞー」
溜め息を吐きつつイッセーはこれからについて説明していく。彼曰く、駒王学園で三大勢力首脳陣による和平会談を行うらしい。
「それで事件解決の立役者として、俺も出席する事になった。謝罪と、賠償金を支払うんだとよ」
「──俺は悪魔側へ黒歌と白音が俺の保護下に加わる旨を伝える。無論、黒歌の手配解除を要請した上でな」
「本当ですか!?」
「誰がそんな事で嘘を言うんだよ。まあ、これから宜しくな」
それから何日かが経過して、会談当日。イッセー達は会場となる駒王学園に訪れていた。複雑な表情のリアスを無視してイッセーは用意された椅子に座る。
「来たぞ、サーゼクス」
「ええ。参加して頂き、誠にありがとうございます」
「ちょっと! お兄様に向かって──」
「黙りなさい、リアス!」
割と真剣に怒られて凹むリアスを余所に会談は始まった。そしてなんやかんや話し合いを終えて、終盤。
「俺達はテロリスト組織、『
「首謀者の名は、オーフィス。神も恐れた最強のドラゴンだ」
「──その通りです、アザゼル」
アザゼルがカッコつけて告げた途端に褐色の痴女が現れた。突然の乱入者にサーゼクスが訊ねる。
「旧魔王の血族、カテレア・レヴィアタン。何故、この場に?」
「我々は『
「そんな、カテレアちゃん! 今からでも遅くないわ! 考え直して!!」
「黙りなさい! 私から王位を奪った癖に! 貴様を殺して私が魔王を名乗るわ!!」
同時に転移してくる魔法使いの束。どうやら事前に計画されての蜂起らしい。さらっとミッテルトを背中に庇いつつ、冷ややかな眼でイッセーは睨んだ。
やがて大きく溜め息を吐くとカテレアの前に瞬間移動する。
「……ふぇ?」
瞬きすらしていないのに、気付けば目の前に立っていた。形容しがたい現実に思わず呆然とするカテレア。そして思い出す。
目の前の男がかつて自分を半殺しにした異世界の邪神だと。
不味い。彼が出席していると聞かされていなかった彼女は大量に冷や汗を流した。視界の端では厳かに合掌しているサーゼクス達が見えた。ついでに三途の川も見えた。
「あわわわわ」
「すごいパーンチ」
「ぐへッ!!」
蛙の潰れたような音と共にカテレアは盛大に爆発した。返り血を浴びたイッセーはそのまま振り返り、絶対零度の視線を魔王にぶつけた。
「……で、これは悪魔側からの宣戦布告って事で良いよなぁ?」
「お待ち下さい! この件は旧魔王派の独断専行であり、現政府はなんら関与しておりません!!」
「後で賠償について話そうか?」
かくして後の世に駒王会談と伝えられる話し合いは幕を閉じ、後には胃痛を堪える魔王のみが残った。因みに流石の白龍皇もビビってしまい、喧嘩を売るような真似はしなかった。
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「──という訳で楽しい首脳会談を終えた訳だが」
「楽しかったのはイッセーさんだけっスよ」
翌日の昼下がり。良い笑顔で締めくくるイッセーに呆れた顔でミッテルトがツッコミを入れた。確かに黒歌の手配も解除され、賠償金名目で大量のマネーが送られてきたのだが。
マリカーで遊ぶ猫姉妹を横目に彼は笑う。
「とある生き別れの姉妹を助けたんだ。今回は大団円と言っても過言では無いだろ」
「そうっスけど」
黒歌と白音から『悪魔の駒』を摘出するわ、姉妹揃っての保護を宣言するわ。ここまで好き勝手に行動する邪神は恐らくイッセーだけなのではないか。
「あ、忘れてた。全員集合!」
「もう8時かにゃー?」
「年齢がバレますよ」
思い出したかのように手を叩くイッセー。全員が集まるとこれまた笑顔で、ミッテルトの頭を撫でながら言った。
「夏休みは冥界を旅行するから、準備しといてくれ」
YOU ARE (NOT) ALONE.
君は一人だ(一人ではない)。