第六話 決戦
8月1日。世間は夏休みシーズンだが、浮かれているのはイッセー達も同じだった。何せ今日から1ヶ月、彼等は冥界を旅行するのだ。
無論、資金源は冥界政府である。賠償金パワーは凄いのだ。
「お前ら、準備は整ったな」
「バッチリにゃー!」
「なら出発だ。頼むぜ、グレイフィア」
「お任せ下さい。快適な旅をお約束します」
駒王駅の地下に集まった一同。此処からグレモリー専用の列車で冥界に行くのだ。因みに列車を動かす費用も冥界政府の国庫から支出されている。
全員が乗り込むと列車は勢い良く進み始めた。
「しっかし、宿泊費や交通費。その他諸々も負担してくれるなんて。賠償金ってのは凄いんスねぇ」
「言ってる事は外道ですけどね」
「細かい事は気にするな。この1ヶ月、遊びまくるぞ!」
騒ぐイッセー達とは裏腹に案内人を務めるグレイフィアは胃を痛めていた。今回の旅行に掛かる資金は全て冥界政府が負担しなければならない点もだが、何よりイッセーが恐ろしかった。
少しでも機嫌を損ねれば滅ぼされる。
何気に冥界の未来は彼女の両肩に託されていた。
「胃が、痛む……」
そんなグレイフィアの心労は露知らず、馬鹿騒ぎするイッセー達であった。
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一流ホテルのスイートルームにやって来た一同。すると土産を見に行っていた猫姉妹が面白そうな話を聞きつけてきた。
「明後日さ、若手悪魔のパーティーがあるらしいにゃー。個人的には見に行きたいんだけど」
「……まあ、元部長に挨拶したいですね」
「揉め事にしかならん気がするが……。行ってみるか」
四大魔王の署名がなされた許可証を眺めながらイッセーは頷く。危険エリア等以外は無条件で好きなだけ入れる上に代金は政府持ちという夢のようなカードだ。
グレイフィアから渡された際に、パーティーに顔を出すなとは言われていない事を思い出した彼等は悪い顔をしていた。
そして当日。
「おい、あいつらは誰だ?」
「解りませんが、魔王様の許可証をぶら下げていますね。客人でしょうか?」
異質なオーラを放つ男に元指名手配犯、真っ白ロリにゴスロリ堕天使は当然ながら目立った。若手達は遠巻きにヒソヒソ話し合っているも手出しはしない。
その時、果敢にも話し掛ける勇者が居た。
「小猫!」
「あ、リアス元部長」
「……久し振りね。元気にしてた?」
「ええ、とても」
何とも気まずそうな二人。白音は結果的に主人から離反してしまったと顔も合わせられず、リアスはイッセーにビビって話せず。
結局、見かねた木場達が介入するまでまともな会話は出来なかった。
「白音……」
「積もる話もあるだろう。今は──」
イッセーがそう言いかけた途端、爆発音が響いた。テーブルやらが飛んでくるも余裕でガードする。暇潰しに見に行くと、阿呆そうなヤンキーとクールな女性が睨み合っていた。
ヤンキーが下卑た笑いを浮かべた。
「だから俺が貫通式をやってやるよ! 処女のシーグヴァイラよぉ!」
「ゼファードル、貴方は死にたいのかしら? 私との実力差も解らないの?」
「此処で戦うか? 上等だ!」
「──そこまでにしとけ、餓鬼共」
だが一触即発と思われたその時、ステーキを頬張りながらイッセーが割って入った。無謀にも彼を睨むゼファードル。
「誰だ、お前は? 人間風情がこんな場所に来るんじゃねぇよ」
「止めなさい、その方は魔王様の客人よ! 許可証が見えないの!?」
「大丈夫だ、嬢ちゃん。俺は負けない」
「カッコつけるのもそこまでだぜ、おっさん!!」
ガン、と思い切り顔面を殴る。少なくとも人間が耐えられる威力では無いとヤンキーが勝ち誇った笑いを漏らした。シーグヴァイラも顔を覆った。
しかし何時まで経っても倒れるような音がしない。
「……あれぇ?」
「取り敢えず、お前は半殺しな?」
「あの、ちょ」
「めり込みパーンチ!」
ゼファードルが星になって飛んでいく一部始終を、シーグヴァイラは合掌しながら眺めていた。
Now let your hands be strengthened and be ye valiant.
力を奮い起し勇敢な者となってください。