ああ、気持ち悪い……重い瞼を開くと、見慣れた自宅マンションの天上が見えた。頭痛と喉の渇き、それに食道が燃えるような胸のムカつき……最悪、完璧に二日酔いだ。
ええと、眼鏡、眼鏡……辺りを手探りで探すも、相棒は見つからない。ぼんやりとした視界で、ベット脇の時計に視線を向けてみた。目を細めて焦点を絞ると、時刻は9時40分を示している。あちゃ、アラームをかけ忘れた……完全に遅刻だ。
これは、もう焦ってどうなる問題でもない。それにいまから出社したって、どうせ使い物になんないだろうし……仕方ない、今日は潔く休もう。
責任ある社会人としては甘々の決断を胸に、私は溜め息を漏らすとベットから怠い体を起こした。あれ? なんで裸なんだろう……いくら酔ってたとはいえ真冬のこの時期に、寒がりの私にはあり得ないことだ。
「えーと……」
小ぶりの胸を晒しながら、瞼を閉じて昨夜の記憶を巡ってみた。うーん……だめだ。全然思い出せない。髪の毛をかき上げながら部屋を見渡すと、洋服と下着などが脱ぎ散らかされていた。
テーブルには飲みかけの缶ビールに、ワインのボトルが数本……加えてお菓子や、たこ焼き等の食べ物たちが散乱している。恐らく行きつけの『BAR KARU』で飲んだあと、家でも一杯やったといったところだろう。
25歳を過ぎたあたりから、お酒で記憶が飛ぶことが増えてきている。ヤケ酒も程々にしないとなあ……でも昨日はしょうがないでしょ? 流石に神様も許してくれるはずだ。
よしっ、取りあえずはシャワーでも浴びよう。会社への連絡はそのあとだ。
「よっこらせ……」
オバサン臭い掛け声とともにベットから重い腰を上げると、急に起き上がったせいか軽い立ち眩みに襲われた。
ああ、頭痛い。頭痛薬まだあったかなあ……瞼を閉じながら、こめかみを軽くマッサージ。
「大丈夫?」
うん? いまなんか声が聞こえたような……二日酔いによる幻聴?
「はい、お水」
違う……今度のは絶対に幻聴なんかじゃない。私はこめかみから指を離すと、恐る恐る瞼を開いてみた。すると目の前には、幼さの残る少年がコップを持って佇んでいた。
一方、私といえば真っ裸で直立不動の棒立ちだ。シュールすぎるこの非日常的な光景。余りの出来事に体が硬直して、全く動くことが出来ない。加えて思考力のほうも完全に停止だ。
「ねえ、お水飲まないの?」
少年は小首を傾げながら近づいてくる。すると硬直していた体に自由が戻りだした。取りあえず、逃げなきゃ。でも一体どこに? 狭いマンションで、身を隠す場所なんて限られている。私は回れ右をして、取りあえずベットのかけ布団に潜り込んだ。
完全なる現実逃避――だけどこうでもしないと、頭がパンクしてしまいそうだった。あ、あの子は一体誰? どうして私の家にいるの?
全裸のアラサー女と幼さの残る見知らぬ少年……いいや、美少年。加えて私は酔っていて記憶が全くないときている。うーん……この二つの事柄を相互的に考えると、ある一つの恐ろしい答えが導き出されてくる。も、もしかして……私あの子とヤッちゃった?
相手はどう見ても未成年。あの見た目は……高校生? いいや、下手すると中学生だ。青少年保護育成条例違反――ま、まずい。もし間違いがあったとすれば、手が後ろに回ることになる。
そしてネットニュースにはショタコン独身アラサー女、逮捕の見出しが……ダメっ、それだけは絶対に嫌っ!
「具合が悪いんなら、薬でも買ってこようか?」
布団の中で自分の犯した罪の重さにプルプルと震えていると、少年の優しい声が鼓膜に届いてきた。恐る恐る布団から顔出をしてみると、目の前には先程と同様に微笑む綺麗な顔があった。
「あ、あのう……貴方はどちら様ですか?」
「……覚えてないの?」
すみません、全然覚えてないです……私は素直に頷いた。
「酷いよ、無理やりあんなことまでしといて……」
瞳を潤ませ、俯く美少年――ああ、やってもうた。これは刑務所行き確定だ。どうやら私はこの幼気な少年を無理やり……酔っていたとはいえこれは流石にアウトです。この子に訴えられたら、私は……博多にいる両親は泣くだろうな。多分、アホ弟はけらけらと笑い飛ばすだろうけど。
「責任取ってよ、僕はもう奈々の
少年はそういって天使のような微笑みを浮べると、二日酔いでやられた私の頭を優しくなでてきた。年下の美少年に介抱される、鬼畜アラサー女……最悪だ。
作田奈々 28歳。人生最悪な夜に、ヤケ酒を喰らい記憶を失くす。そして翌日、失くした記憶の代わりに美少年の性奴隷が出来ました。あ、ありえねえ……っていうか――。
「うっぷ、ダメ、吐きそう……」