ええホント…色々と忙しかったんです…
少しでも楽しんで頂けると幸いです。
朝、目が覚めると視界一面に真っ白な景色が広がっていた。
それを新しい部屋の天井だと認識するまで数秒、ようやく自分が目覚めたのだと実感する。
「朝…か…」
俺こと東宮直人は上半身だけ起こし、ゆっくり辺りを見渡す。
いつもの馴染み深い自室とはかけ離れ、至ってシンプルなこの部屋。
一日前まではアマミの王宮で過ごしていたのだ、オマケに知らない土地に知らない機械、これを一瞬で理解するなど…俺には到底出来そうに無い。
しかし、この時代の事は何も分からない俺でも現状ハッキリとわかることが一つだけある。
時計は10:00をとっくに過ぎていた…
「大っっ変申し訳ございませんでした!!」
結局事務所に着いたのは11時過ぎた頃。
そこには社長にひたすら謝る俺、それを後ろで苦笑いしている小鳥さん(事務員)、その隣には心配そうにこちらを覗いている春香の姿があった。
「プロデューサーさん、あの、大丈夫…ですか?」
社長室から出てすぐに春香が声をかけてくれた。
「ああ…社長は笑って許してくれたけど…まっさかプロデュース初日から2時間も遅刻するなんてな…」
「あはは…で、でも!次から遅刻しないようにしたら大丈夫ですよ!…多分!」
「次からは大丈夫だ、春香こそ遅刻しないように気をつけろよ?」
「も〜プロデューサーさんじゃないんですから遅刻なんてしませんよ〜!」
「言ったな!?今の覚えたからな!?」
…こんな会話がとても懐かしく感じる。
やはり世界が違ったとしてもハルカは春香なんだなと再認識させられる。
…だからこそ救うのだ、今度は俺が救うのだ
「おっほん!」
なんて感傷に浸っていると、突如小鳥さんの咳払いが聞こえてきた。
「プロデューサーさん?春香ちゃんと親睦を深めるのもいいですが…まずは仕事…やりましょう?」
そう言った彼女の笑みからはとても強い…有無を言わせぬ圧力を感じた…
さて…仕事か…
正直今何をやればいいのかさっぱり見当がつかん。
この身体の記憶が勝手にやってくれる…
なんて都合の良い話は全く無い。
…しかしそんな事はお構い無しに、少しでも手が止まれば小鳥さんからの厳しい視線が俺を貫く。
仕方が無しに適当に手を動かすものの…どうしたものか…
と、早くも途方に暮れ始めた頃、突然目の前の機械から「ピロロロ〜」と音が鳴った。
その音に機敏に反応するは目の前の小鳥さん。
「プロデューサーさん、さっきのメール何が書いてありました?」
…メールって何だ?
さっきから知らない事のオンパレード、流石にそろそろ頭がパンクしそうだ…
やばい…マジでやばい…どうしたらいいんだこれ…
そんな感じで目を白黒させてると、突然小鳥さんが立ち上がり叫んだ。
「もしやプロデューサーさん…記憶が…!?」
…っ!?
何だこの女…確かに色々と怪しいとは思われただろうが…まさか一気にそこまで頭が動くとは…
「…いつから疑っていた?」
「朝からですよ…!いつもは遅刻なんてしない筈なのに今日に限って遅刻!パソコンの前に座っても適当に手を動かすだけ!」
…なるほど、この箱はパソコンという名前なのか。
っと、そんな事はどうでもいい。
この女…見た目とは裏腹にかなり切れるらしいな。
見切れなかった俺のミスか…
となればどうする…
なるべく不安要素は取り除いておきたいが…
そんな思考はいざ知らず、彼女は続け様に言葉を吐き出す。
「きっとプロデューサーさんは昨日悪の組織に連れていかれて記憶を消されたのよ!」
…はい?
「それでアテもなく街をさまよっていると僅かに残ってた記憶から事務所にたどり着く…自分でも何故ここに来たのか分からないまま…!」
…ちょっと待ってくれ、頭が追いつかない。
「それを見つけたのはヒロイン小鳥!どうしてここにいるのかを尋ねるもプロデューサーさんはただ首を横に振るばかり!」
「記憶を元に戻す方法を必死に探す私!その冒険の中芽生える二人の愛!あぁ!どうなってしまうの!!」
落ち着け俺…一旦冷静になって状況を整理しよう。
俺が仕事の内容に戸惑っていると、いきなり目の前の女性が物語を語り出した。
…うむ、一向に理解ができない。
もしこの状況を完璧に説明してくれる人間がいたならば、すぐにでも雇いたいくらいだ。
「あっちゃ〜、また始まっちゃいましたかぁ…」
その声は春香!来たか救世主!
「春香、またってどういう事だ?」
「どうも何も、前々からあったじゃないですか、小鳥さんの妄想癖」
は〜なるほど、つまりこれは小鳥さんが勝手に作った物語であり、現実には一切関係無いと。
…一瞬でも焦った俺がバカみたいじゃないか。
「もしかしてプロデューサーさん、本当に記憶喪失なんですか…?」
「いやいやいや!流石にそれは無いって!」
ジト目でこちらを見つめる春香、その視線から逃げる様にパソコンに向かう。
…勿論操作なんて知らない、皆目見当もつかない。
小鳥さんは当分こちらに帰ってこないだろうし…春香に聞いてみるか。
「なぁ春香、メールってどこから確認するんだ?」
「あ〜さっき来てたメールですか?」
変に疑いもせずにさっと隣に来てくれた、ありがたい。
「ここをクリックして、受信箱ってところを押すと中身が確認できますよ!」
「なるほどありがとう、助かったよ!」
とりあえずやり方は覚えた。これで少しはマシになるかな?
「え〜っと…「オーディションのご案内」…?」
どんがらがっしゃ〜ん!
読み上げた瞬間、春香が盛大にコケた、何も無いところで。
「お、おい春香大丈夫か…?」
「私は大丈夫です!それより!お、おお、オーディションの案内ですか!?私宛に!?」
「あ、ああ…天海春香さんにピッタリだと思い、案内させて頂きました。と書いてあるぞ」
「やったわね春香ちゃん!早速オーディションの案内が来るなんて凄いじゃない!」
あ、小鳥さん帰ってきたのか。
「はいっ!これも皆さんのおかげです!本当にありがとうございます!」
「ダメじゃないまだそんな事言っちゃ!それは役が決まった時に取っておきなさい!」
「わ、わかりました!頑張ります!」
「おめでとう春香!頑張ろうな!」
オーディションの意味くらいはわかる、審査みたいなものだろう。
「ところでプロデューサーさんっ!オーディションって何時なんですか!? 」
「おう、ちょっと待ってくれ」
準備に日数も必要だろうしな、春香が気になるのも無理はないだろう。
「え〜っと日付日付…あったあった…!?」
絶句する俺、怪しむ春香と小鳥さん、社長は…まだ帰って無いのかな?
スっと隣に来てメールを見る春香、確認した途端にワナワナと肩を震わせながらゆっくりこちらを向いた。
いや、驚くのも無理はないだろう、というか俺もかなり驚いた。
「プロデューサーさん…この日付って…」
「あぁ…本当だとしたら…かなりマズいぞ…!」
記載されていた日付は…今日から1週間後。
正直かなり厳しい…が、俺に出来る事を、最善を尽くして春香をトップへ押し上げる!
それが俺の最初の1歩となるのだろう。
俺のプロデュース業に開始早々大きな障害が立ちはだかった。
to be continue…