β Ewigkeit:Fragments   作:影次

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クリスマスに間に合わない男、ヴァルター。
何故かって? こいつが間が悪い男だから。
そう、どのくらい間が悪いかというと。
バッドエンド一直線の作戦を考案して実行に移そうとして、結果ベルリン陥落時の作戦にハブられるくらい間が悪いんだ。

さて本日のフラグメントは

1:懐剣十三号室の別れ
2:ヴァルターくん左遷(物理)
3:ベルリン陥落

の三本。やっとベルリンが燃えたよ。燃えるの遅いよ!


Fragments:ベルリン陥落

「此処に立ち寄るのも、こうして三人揃うのも、多分これが最後だな」

 ヴァルターは長年使用してきた机と椅子を見渡して、そう言った。

 懐剣十三号室、あらゆる情報と権限が集う場とさえ言われたこの部屋。

 何度立ち寄ったかもしれぬこの部屋も、今は既にその役目を終えようとしている。

「この仕事場もそれなりに愛着はあったねー。まあ僕ら的には溜まり場って言う方が正しいか」

「机の上に乗るな、目障りだ」

 机に腰掛け椅子に足を置くアルフレートにアドルフが文句を言う。

 黎明期は、此処にもう一人、彼らの長官を含め働いていたものだった。

 その席は、今は既に空席だ。

「アイヒマン、お前はどうするんだ」

「これを終えれば後は逐電の準備になるだろうよ。シュピーネがご丁寧に話を持ってきている」

「にひ、丁稚時代の上官だったのが生きたね。ベッポくんの臆病さは命を拾う類の臆病さだ。逆に言うと、それを忘れてしまった時が彼の最後なんだろうね」

「私のことなどどうでもいいだろう。問題は、貴様らだ」

 アドルフが机の上に紙を撒く。

 それは、ベルリンの主要施設に関する報告書だ。

「提督と情報を共有した。軍内部と現状のベルリンの流れだ。概ね、貴様の予測は当たっていると見ていい。そして、この『八ヶ所』だ」

「そうか、ありがとう」

 それを見て、ヴァルターはゆるりと頷いた。

 アドルフはその対応に何とも言えない顔をする。

「変わったな、シェレンベルク」

「ん。そうだな、変わったよ。色々と、な」

「……変わった、と言うのは語弊があるか。貴様は変わっていない、ただ多少は己を出す気になってきただけか。今になってようやく理解出来たが、以前の振る舞い、一体誰の真似だ?」

 その言葉にヴァルターは若干瞠目した。

 しばし悩むその姿は、或いはふいに自覚させられたか。

「そう、だな。俺は正しい人間であるように振る舞ってきたつもりだ。けど、誰の真似、と言われると……意識してはいなかったが。きっとこれは、長兄のものだ。兄弟たちを取り纏め、導いていたあの人の影を模倣するのが、一番良い事だと俺は無意識に思っていた」

 今や、思い思いの道を歩んでいるであろう血の繋がらない兄弟たち。

 自分のような病理とは無縁に、母の愛を正しく受け継いだ皆。

 あれからもう会うこともない。

 きっと皆も、思い出した頃に母の森を、シェレンベルクの森を訪ねて。

 そしてもう、あの人がいないことを知ってしまうのだろう。

 いつか、すべてを話しに行かねばなるまい。

 あの人の命を喰らってしまった身として。

「……私では、あの御方を、ハイドリヒ閣下を引き止めることはできなかった。しかし、いつか。いつかあの人は帰ってくる。それが誰の手であろうと、人ならざる運命の手だろうと」

「一途だねえアイヒマンくんは」

 ヴァルターは魔人として対立を、アルフレートは魔人として中立を、アドルフは人間として忠誠を、三人のラインハルトに抱く感情は各々全く違うものだ。

 故に、アドルフはそこに期待などしない、する意味がないと知っている。

「後は任せる、等とは死んでも言わん。私は私が信じる未来のみを見る。貴様らは、勝手にしろ。あの御方は全てを愛するようになったが、それでも。そうなる前から、我々の行いを何であれ否定することはなかった」

 そう言って、席を立つ。

 調査結果は机の上に置き去りに。

「私はあの御方の帰還を信じる。その時が来るまで、先を見続ける」

「僕は精々面白おかしく過ごすよ。暫くは相棒に肩入れするけれど、祭りを待ち望もう」

「俺はハイドリヒを止める。この国が、純然たる敗北ですらない贄にされようとしてるなら」

 通ずる所はあっても、まるで足並みは揃わない。

 既に、軍隊としての関係は終わりつつある故に、それは当然のこと。

「ふん、貴様らともこれまでと思えば清々するよ」

「ひでえや。後で泣いて助けてーって言っても知らないもんね」

「……まあ、そんなものだろ、俺達は」

 交わらぬ故の理解、それだけが残って。

 一人は去り、二人はその背を見送る。

 

『Auf Wiedersehen, Kamerad』

 

 そして、その背中は永遠に失われる。

 人は去り、そこには魔人のみが残った。

 終末の訪れが、近づいていた。

 

 

 十三号室にて 三人の別れ

 

 

 

 

 母のように生きよう。

 全ては無理でも、欠片だけでも。

 などと、そんなことを思っても、別に明確な答えが出ているわけではない。

 ただとりあえず人間らしく学びに出ることにして。

 人間らしく働きに出ることにして。

 そこで、様々な出会いがあった。

 

 胡乱な目で自分を見てくるラインハルト・ハイドリヒ。

 嘗ては共感に近い何かを抱いていた相手は、今や相容れぬ存在となった。

 それでも、最後に至るまでは一応の義理を通してきたつもりだ。

 

 妙に馴れ馴れしく関わってくるアルフレート・ナウヨックス。

 彼の一方的過ぎる友情宣言がなければ、此処まで人と関わることはなかった。

 例えその本質が化外の精神であろうとも、いつの日か決裂しようとも、感謝はしている。

 

 そして、ベアトリス・キルヒアイゼン。

 俺は、彼女に何を思っているのだろうか。

 超然としたハイドリヒや蹴られても気にしないアルフレートと違い、彼女は人としての気遣いというものを母以外に初めて向けた相手だった。

 非常に不器用なものだった、と自分でも言わざるを得ない。

 いっそやらなかった方が良かったのでは、と思う時もある。

 それでも、不思議とやめようとは思わなかった。

 それは何故だろう、どこから来るものだろう。

 嘗て、俺は誰かに手を握られるままだった。

 最初は母が、ベルリンに来てからはベアトリスが。

 

 けれど、あの日。

 母が消えて、自分に思い出が戻って。

 あの日、自分も手を伸ばさなければならないことを知った。

 ただ誰かが握ってくれるのを待つのではなく。

 そうしなければ、失ってはならないものが失われゆくことを知った。

 あの日、消えた母の影を、俺はベアトリスに見ているのか。

 強く健気に見えて、人並みに儚い彼女の姿に。

 このままだと、同じことになると、そう思っているのか。

 母が命を賭けようとも、自分の本質が変わったわけではない。

 俺はベアトリスの渇望に共感したわけではないし、きっとまともな理解もしていない。

 

 だから、あの日俺はただ頷いたのだ。

 彼女の根幹がどうあれ、その救いたいという言葉に確かな愛があったと思ったから。

 ただそれだけのことで、安易に肯定する自分は相も変わらず壊れたままなのだろう。

 元よりハイドリヒを正しく糾弾する資格などない、間違った男だ。

 

 魔人として歩み始めた日から、ずっと考えている。

 俺に何ができるのか。

 俺は何をしてやれるのか。

 ハイドリヒに、アルフレートに、ベアトリスに。

 結局、今の状況がそれを物語っている。

 流れで手に入れてしまった安易な手段で、誰にでもできる方法で問題にぶつかろうとしている。

 賢明なふりなんて、いつまでも続かないもので。

 分かったふりをして、何も分からないまま、俺は今此処に立っている。

 今ベルリンに立つ自分に、軍人としての義務感と、母への誓い以外何があるのだろうか。

 その破壊の愛を阻む、本当に、それだけ?

 俺は、俺は。

 ……僕は。

「やあ、ヴァルター。シェイドウィルダー・マハカーラ。待っていたよ」

 そして、その声を聞く。

 それはこの場こそが、『当たり』であるという証明だった。

「そう、その通りだ。君の十全を期した予測は正解だ。最も、その知識さえあれば我が欠片を抱く君が私の敷いた陣を、スワスチカを感知できるのは当然なのだがね」

「メルクリウス。俺とお前の関係性を、今更のように問うつもりはない」

 ヴァルターにとって眼前の魔術師は影に遮られた魔物ではない。

 いっそ、不自然なまでにその顔が明瞭に見える。

 嘗て世界に神秘を飽和させるほどに至った魔術師の残骸、擦り切れた指先。

 しかしその指先でさえ、世界を掌握し余りある。

「お前が出張ってくるということは、俺が行おうとしていることを看過できないということだな。俺の邪魔をしに来たと」

「ああ、君の奮闘を見守っていたいのは事実だ。しかし、しかしだ。それを経た結末は、既に先がないことを私は知っている。ヴァルターよ、君が立つべき舞台は、今此処ではない。……等と言っても、君は止まらないだろうがね」

「当然、此処で止まる気はない」

「命を捨て、母君の与えた祝福すら使い切り、このスワスチカを汚染するか? 暴走の末黒の王として完全に覚醒し、君という人間が死ぬことになろうとも。いいのかね、それで。やり残したことがあるのではないか。まだ見て見ぬふりをしている真意があるのではないのか」

「…………」

 それは、今考えることでは、ない。

 ないんだ。

「ふふ、健気だな。こうも勝手に命を捨てられるのは今しかないと、君も分かっている。何せこれを過ぎれば君は殉教者たる意思を失う。さて、ヴァルターよ。偽りの正義を、鋼鉄の鎧を纏う君よ。その鎧、僭越ながら私が剥がそう。血の繋がらぬ家族が示す模範でもなく、シャルノスの玉座に座する王でもない。分かるかね、そこにいる者は」

「黙れ」

 歯が軋む音と同時に、俺は漆黒の茨を纏う。

 脈打つ植物ではなく、波打つ波動のように、茨は両腕から顕れる。

 彼奴の思惑を、此処で止める。

 それだけだ、それ以外のことは、今はもう。

「逃げだよ、それは。ああ、君は向き合わなければならない。都合のいい、君一人の死で終わる物語ではないことをね。君のこの行いは確かに一時は黄金を穢しうる。しかし」

「喚くな……」

 掌から、剣が伸びる。

 嘗て無いほどに同調を果たしている今、この身は拒絶の黒に染まることと引き換えに、別次元の領域に指をかけようとしている。

 例え、この腕が、心臓が滅ぼうとも。

「黒の剣能かね。これはこれは……大したものだ。メトシェラの闇を食らったとはいえ、既にマキナの領域まで練り上がっている。上手く行けば所詮は分身、メルキオール体である私も滅ぼせるかもしれないな」

 剣を向ければあらゆる接近を拒絶し、刺し貫けばあらゆる繋がりを拒絶する。

 黒の王の、影を借りて。

 意志あるものを孤独に落とし遠ざける、禁忌の刃。

「影持つ俺は人ではなく、此処で朽ちることに躊躇いはない。例え俺が人を傷つけるものであろうとも、ただ一人なら、何の意味もない」

「ただ一人なら、何の意味も、ない。成程、確かに。真理だよ。滑稽な迄の真理だ。ヴァルター、盲目の君。後悔する魂さえも失おうとしている憐れな王の贋作よ。今や何度目かも知れぬ慈悲を、君に与えよう」

 

 

 

 

 

「ヴァルキュリアは、悲しむだろうね」

「……黙れと、言った!」

 

 

 

 

 

 ベルリン、第八のスワスチカにて 黒の王と、水銀の王

 

 

 

 

 グラズヘイム上の門前に、整然と円卓の騎士が集う。

 これより行われる最終作戦、団員たち全員がそれに参加する。

 来るベルリン陥落の日、祖国が、故郷が、敵軍によって貶められるこの日に。

 聖槍十三騎士団はその活動の一区切りとなる特別な作戦を行おうとしている。

 しかし、それを知るものは未だ少ない。

 三騎士の二角、黒騎士と白騎士さえも、ただそれを知るのは指揮を任された赤騎士のみ。

 そして、何より。

「……シュピーネ」

「大凡質問の内容は察せられますが、敢えて聞き返しておきましょう。何です」

 そこにいる筈の人物がいないことを、ベアトリスは問いかける。

 その人物の代行であるシュピーネに。

「ヴァルターさんは、何処ですか」

 それに対しシュピーネはふーむと思案顔で返す。

 多少は知っているものの、どう言ったものかという様子だった。

「何だシェイドの奴逃げたのか? おいおいクリストフ、お仲間が出来たかも知れねえな」

「黙ってて下さい、ベイ」

 あの人が、他ならぬあの人が、この国が滅ぶ日に逐電などするはずがない。

 此処にいないなら、それこそ首領に反してでも何かをしている。

 ベアトリスはそう信じていた。

「それが、どうにも。副首領閣下直々の通達によると、この作戦にシェレンベルク卿は参加しない、故に代行として私が参加せよとのことで」

「メルクリウスが……?」

「はぁん? メルクリウスのクソ野郎が? そいつは中々きな臭え、だがいねえ奴のことなんざどうでもいいね、その分の誉れを掻っ攫うだけだ」

「アルフレートもいないよね。ちょっと残念。燃える街の中で追いかけ回すのも楽しそうだったんだけどなー」

「彼は城内に残るらしいわ。イザークの守護役として、万が一がないように」

「…………」

 ヴァルター・シェレンベルクの不在。

 この分岐点ともいうべき瞬間に、そのようなことがあるのか。

 或いは、彼がいると何か不都合があって、そういうことなのか。

 ベアトリスの抱える不安は秒刻みで増大していく。

 そしてグラズヘイムの門を開き、その命令を聞いた時。

 彼女の心は絶望に落とされた。

 

 

 

 

 

「…………」

 アルフレートは黄金の城の一角、外回廊から眼下をぼんやりと眺めていた。

 今、ベルリンは燃えている。

 赤軍の蹂躙から端を発し、今は聖槍十三騎士団の手により敵味方を問わぬ生贄の祭壇としてこの首都は機能している。

 アルフレートはそれに参加していない。

 第六位の裏の顔である彼はこの大儀式に際し、儀式が結実に至るまで、ゾーネンキントに通じる道を守護する役割を担っている。

 例えそこに至るような存在がいようが、いるまいが。

「…………」

 普段の道化ぶりは鳴りを潜め、険しい視線を送る先は、蹂躙されるベルリン、ではない。

 その中の、限られた一箇所。

 そこにいるはずの人物。

「…………」

 ポケットから小型の機械を取り出し、ボタンを押す。

 二箇所あるランプは片側の赤いランプのみが点滅する。

 もう片方の青いランプは、一向につく様子がない。

 先程から既に十回は繰り返しているこの動作を経て、アルフレートは長い溜め息を吐く。

「……ヴァルターめ、しくじったな」

「どうやら、そのようだな。ナウヨックス」

「ヒェッ!?」

 その声にアルフレートが振り返ると、そこには黄金の姿が。

 ラインハルトが、相変わらずの不敵な体でそこにいた。

「どうやらカールが要らぬ真似をしたようだ。曰く、彼が真に立つべき舞台は未だ此処ではない、そうだが。私としては、卿らの企みとやらを破壊するのをそれなりに楽しみにしていたのだがな」

「え? いやあ、何のことやら」

「隠さずともよい。何、卿ともまた長い縁だ。卿ら二人はどちらの企みであれ、最初にせよ最後にせよ互いに深く干渉し合っている。卿らも、そしてアイヒマン中佐も。良きレギオンであった」

 その反逆さえも愛おしい、だがしかし。

 今この時、或いはグラズヘイムの八分の一を瓦解させかねない筈だった計画は結実せず。

 果たして、そこに未知はあったのか、それだけが名残惜しい。

「まあ、だが。カールが動いたということは、それは未知ではなかったということだろう。であれば、私は来るべき怒りの日を待ち望もう。卿も、それが望みであろう。そして願わくば……」

 その先を言葉にすることはなく。

 ラインハルトは眼前に黄金の螺旋階段を創生する。

 天高く、城の頂上にまで登り、ベルリン全域にまでその威容を届けるためのそれは、果たして未だ神の領域には届かない。

 しかし、それでも。

 神ならぬ悪魔こそ、現世という地獄に新たに君臨するに相応しい。

「ナウヨックス。卿とも暫しの別れだ。何やらまた企んでいるようではないか。期待しているぞ」

「えっ」

 突如襟首を捕まれ持ち上げられる。

 アルフレートは抵抗するまでもなく借りてきた猫のような状態となった。

「あのー、閣下? 黄金先輩兄貴? これは一体」

「愛だ。卿への愛はこういった形が相応しいだろう。さらばだ」

「ですよねー!!!???」

 そして、アルフレートは天高く浮かぶグラズヘイムから投げ捨てられた。

 音速で。

「ああああああああああああああああああ!!!!!!??????」

 そして市街地に着弾した。

「げふゥ!?」

「なッ!?」

 地面を砕き、バウンドし、先にあった車も跳ね飛ばし、瓦礫と化していた家屋の中に埋まるアルフレートは、霊的装甲によって無事であったものの体中煤だらけで瓦礫の中から飛び出した。

「いっちっちー今日も酷い目定期。こういう日くらい酷い目とは無縁でいたいと思わない? ねえベア子ちゃん」

「……貴方の場合自業自得が大半でしょう、ナウヨックス少佐」

 着弾したその場所は、丁度ベアトリスが駆け抜けている場所だった。

 狙って投げたのか、それとも。

 アルフレートは頭を掻きながら周囲を見渡す。

「ああ……やっぱり此処なのね」

 その場所に覚えがあったアルフレートは、やってること過半数バレてんじゃねーかおいおいと遠い目をする。

「……で、何も用は無いんですか。無いのなら私は先を急ぐのですが」

 ベアトリスは反応の鈍いアルフレートを無視し、先に進もうとする。

「ああ、待って待って。言う事ならあるよ」

「……何です」

「この先に行っても無駄だよ、君のご家族はもうとっくに避難してるからね」

「……え」

 その言葉に、ベアトリスの足は止まった。

「軍部から暇を持て余した宙ぶらりんの連中を引き抜いて、この日が来るまでに説得と退避準備を進めてきた。報告に虚偽がなければ、彼らは君の家族の説得を完了してる筈だ」

「な、え……?」

 その突発的な情報にベアトリスは混乱した。

 何故、何故、いや、しかし、まさか、まさか。

「ベルリンを生贄になんて命令されて、回避する方法なんてなくて、ならせめて親しい人達はあいつらに食らわせない、自分が背負う。こんなところでしょ。クラウディアちゃんの一件からまーた陰気さが出てたからねえ。そんな君の思考形態を予測するのなんか簡単簡単」

 アルフレートは懐から通信機を取り出し、そのスイッチを入れる。

「もしもーし、ヴェーゲナー曹長? 元気?」

『与太話しに来たなら切りますよ! こちとら鉄火場を戦車で爆走中なもんで! 油断してりゃ一秒後にはおしまいですわ!』

「あ、そう。市街地の市民は?」

『駄目ですね! 誘導までは出来ても護衛並走なんて無理無茶無謀です! 各々が脱出できることを祈るしか無い! だからこの日が来る前にさっさと脱出しろって言ったんだ!』

「まあそれはね、聞かない方が悪いね。所でヴェーゲナー曹長。フォン・キルヒアイゼンの家はどうだったっけ?」

『はい? あの貴族様なら最初のうちはこの地に残ると息巻いてましたけど……ナウヨックス少佐が用意した手紙を見せたら悩んだ末に脱出に同意してくれましたが。連絡しましたよね』

「うんうんそうだったね。何、確認は大事だよねって。じゃあこっちが本題なんだけど。『青色のランプはつかないかい?』」

『……こちらの青色のランプは、ついてませんね。そちらも、ですか』

「同じく。ランプは点かなかったよ。そういうことだ」

『……ですか』

「ま、幸か不幸か既定の逃走ルートは確保できそうなんで、君達も頑張りたまえ。通信終了」

『了解、通信終了』

 役目を終えた通信機を懐にしまい、アルフレートは意地悪く笑った。

「そういうこと、理解できた?」

「…………」

 ベアトリスは呆然と、構えていた剣を下ろした。

 この人は、否、この人達は。

「……ナウヨックス少佐」

「なーに」

「貴方は、ヴァルターさんと、何を計画していたんですか。ヴァルターさんは、何処ですか」

「…………」

 その問いに、おちゃらけていたアルフレートは表情を消した。

「……ナウヨックス少佐?」

 半眼の少年は気怠そうに空を仰ぐ。

 燃えるベルリンを制する黄金の城。

 クロイツを描く魔術陣。

 その陣形に陰りはなく、黄金錬成は此処に成り。

「……さあね。何処に行ったんだろうね。僕も知らないよ」

 失ってはならない半身が、行ってはならない何処かに消えた。

 その事実を、無意識に感じ取りながら。

 

 

 1945年 ベルリン陥落

 

 

 




とある回帰の記録


β:-4
覚醒した黒の王によって第八のスワスチカは漆黒に沈んだ。
それを取り込んだグラズヘイムの黄金錬成は、結果後に大幅に響く欠陥を抱えることになる。
しかしそれが露見するのはツァラトゥストラが三騎士と邂逅を行った段階であり。
残された僅かな希望さえ失った戦乙女は早い段階で自壊衝動を起こし倒れた。
魂の相方を失った月の王は狂気に呑まれ、こちらもまた完全覚醒に至った。

この先の結末は何があろうと一択である。
狂笑のうちに邪悪なる円柱(カルシェール)が星に降り立ち、すべては灰と砂に還る。
嘗てこの世界に飛来する前の私が見た世界の結末が、此処にも訪れる。

故に、この分岐点において彼の計画を成就させてはならない。
彼には、王ではなく人として目覚めてもらわねばならない。

その為には、もう一手。
そう、例えば、囚われの姫君を演じて頂こう。
雷光の導きが、よりその輝きを増すために。
ははは。
そうだな、彼らはその都度立場が回転し、救い、救われていく。
互いがヒーローであり、またヒロインなのだよ。
だが、それもまた一興、そのような関係だからこそ面白い。
すべてを知っていようと、万能であろうと、これだから演者を見繕い歌劇を歌うのは止められぬ。

それを思い出したからこそ、私はあの世界の残照を、この世界に撒いたのだから。


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