β Ewigkeit:Fragments   作:影次

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あけましておめでとうございます。
1月2日でございます。新年直前に書こうとか思ってたんだけど、やっぱ忙しいね。
ともあれ、今回は新章への導入部分。
めんどくさいんであっさり切って6000文字。
まあ前菜程度のあれですがどうぞ。

注意事項:前半茶番です。真のデュエリストでない方は読み飛ばしてどうぞ。


Fragments:1950

 あのベルリン陥落から、五年。

 極東、櫻井の一族の故郷である日本の、諏訪原と名付けられたこの地。

 後五十年もすれば、この地が新たなシャンバラとして機能するらしい。

 私は流されるままに、この地で変わり映えのない日々を送っている。

 

 ヴィッテンブルグ少佐はハイドリヒ卿の供としてグラズヘイムに召し上げられた。

 もう、この世界にはいない。

 私は、またあの人を引き止めることができなかった。

 ハイドリヒ卿という生まれる世界を間違えた獣に対し、自分如きに何ができるのか。

 きっと、私は黒円卓の一員となった時から、折れてしまっていたのだ。

 せめて人であり続けよう、だなんて、それだけで精一杯だった。

 結局、私も偽善ですらない悪逆を為した魔人の一員でしかないと、思い知ってしまった。

 それが、今私の心を錆びつかせている。

 毎日、毎日。

 鍛錬する以外はこうして益体も無い事を考えているだけで、時間は過ぎ去っていく

 ああ、こんな調子なら諏訪原のシャンバラが完成するのも直ぐかもな、等と思うも、やはり数年、数十年は長い。

 

 この五十年もの時間を、私はどう使うべきなのか。

 それを考えようとすると、結局剣を振ることに帰結してしまう。

 この状況下でのんびり放浪できるほど図太くはないし、誰か話したい人もいない。

 教会の首領代行とその補佐も、戦場で魂を漁っているであろう吸血鬼も、どこかで人を引きずり下ろして愉悦しているであろう魔女も、騎士団を維持するべく暗躍しているであろうあの人の代行も論外だ。

 唯一人、騎士団内でまともな付き合いをしていたヴァルターさんは、いない。

 あの日からずっと、姿を見せない。

 騎士団の誰も、彼の行方を知らない。

 あの人に一番近い位置にいるであろうナウヨックス少佐ですら。

 唯一つ分かっているのは、その失踪にメルクリウスが関わっているということのみ。

 その点を踏まえ、クリストフは彼を既に死んでいるものとして扱い、現在はシュピーネが第十位代行として実質的にその席に座っている。

 

 私の大切な人は、皆消えてしまった。

 それに対し、出来ることもなく、ただ今も剣を振る。

 心の拠り所だった剣の腕さえ、今は現実を忘れる口実として利用してしまっている。

 時々、夢の中でも自分は剣を振っている。

 現実でそうしているように、ただそれだけをしていればいいと。

 自分がしているのはそういう逃避なのだと、自分の夢にさえ糾弾されている。

 

『何をやっている、キルヒアイゼン。見ろ、敵が迫っているぞ』

 

 ああ、ヴィッテンブルグ少佐が懐かしい激励をかけてくる。

 これは夢だ、そうか、今は夢の時間だったのか。

 ツェンタウアたる半身の火傷がないのは、それが自分の願望でしかないから。

 あの頃に戻りたい、そんな風に思っている私の夢だから。

 例え赤軍が迫りくる戦時下であろうと、それは大切な思い出だから。

 

『ふぅん、赤軍の凡骨共がどれだけ寄せ集まろうと、我がデア・フライシュッツェ・ザミエルの炎で焼き尽くしてくれるわ』

 

 ヴィッテンブルグ少佐が不敵に鼻を鳴らし、鳴らし……ん?

 待て、なにかおかしいぞ。

 少佐、ちょっといいですか、貴方そんな角ばった目と尖った顎してましたっけ?

 

『全速前進だ! キルヒアイゼン! ライディングデュエル・アクセラレーション!』

 

 え、ちょ。

 少佐はこちらの疑問に構わず赤軍に向かって疾走する。

 何あの走り方キモッ!?

 何あの両腕を水平に振るランニングフォーム、でもめちゃくちゃ速い!?

 

『真のエイヴィヒカイト使い、ザミエル! ゆくぞ、バリアルフォーゼ!』

 

 右腕を天高く掲げた少佐が黄金の光りに包まれ、その姿がポニーテールに半身を火傷した姿に変身し、あの、ちょっと、ちょっと、此処私の夢ですよね!?

 

『さあ、お楽しみはこれからだ! デア・フライシュッツェ・ザミエルの攻撃! 滅びの、バァーストストリィーム!』

 

 列車砲の砲撃がドゴォォォという効果音を発しながら赤軍を紙のように吹き飛ばした。

 ちょっと待て、待てよ!

 

『強靭! 無敵! 最強ォーッ! 粉砕! 玉砕! 大・喝・采!』

 

 わ、私の記憶の中のヴィッテンブルグ少佐が!

 すごいことになっている!

 待って、本当に待って。

 暇が昂じてこんなバレたら殺される系の妄想に浸った覚えとかないよ!?

 

『わははははははははは!!!!!!』

 

 だから、ちょっと、待ってってばー!!!???

 

 

 

 

 

「はッ!?」

「あっ」

 ベアトリスはベッドから跳ね起きた。

 次いで、完全に冴え切った目で周囲を確認する。

 そこは自室で、自分はベッドの上にいて、先程の奇想天外なかっとビング時空が真に夢であったことをベアトリスは実感し、一先ずホッと息を吐く。

 そして、気付く。

 

 ベッド横においた椅子に座り、何か怪しげな機械の調整を行っている小男の姿を。

 

「……何やってるんですか、ナウヨックス少佐」

「……帰還の挨拶?」

「ほー。就寝中の女性の部屋に無断で入り込んできたことは百歩譲っていいとして。その左手に隠した妙な香りのする小瓶は何です」

「……アロマテラピー?」

形成(イエツラー)

 ベアトリスは剣を抜いた。

 そして芸術的なまでの横一直線にそれを薙いだ。

「あっぶな!? 首を狙ったねッ!? いま首を狙ったねッ!? いくら僕が使い捨て魔人だからって君まで気軽に殺してくるようになるなんて先輩は悲しいよベア子ちゃん!」

「うっさいあんたが先輩顔するないっぺん死ねー!」

 その攻防は二階から一階まで駆け下りる勢いで続いた。

 しぶとくも玄関まで逃げ延びたアルフレートをベアトリスは追い詰めようとするが、

「そこまでですよ、ヴァルキュリア。色々と困った御方ですが、彼も我らの同志です」

「……! クリストフ……」

 それを遮るように顕れる巨体があった。

 矮躯のアルフレートと比べると親子ほどの差がある、鍍金の姿。

 ヴァレリア・トリファ=クリストフ・ローエングリーン。

「やあ助かったよクリストフ。輪切りにされちゃうかと思った」

「どうせまたぞろ彼女を刺激する真似をしたのでしょう? 首領代行の身としては勝手な行動は謹んで欲しいのですがねえ」

「やだよ。勝手する分は技術供与で十分貢献してるでしょ。反逆とか言われても聞かないよ」

「やれやれ……本当に扱いに困る御方だ。とは言え、今この時に貴方を全面的に敵に回そうとは思っていませんよ」

「僕も名前からンを抜いただけで別人になった気になってるヴァレリアくんとは友達でいたいと思ってるよ。今後とも宜しく」

「……あの。近頃近所の子供達に『ンを抜いた人』と呼ばれるんですが、貴方ですか? 貴方ですよね? 勘弁して欲しいんですが」

「事実が流出したからって気に病むなよン抜きのおっさん。強く生きて」

「……はあ」

 ヴァレリアにとって、アルフレートは現世組の中で最も扱いにくい男だ。

 何せ、信用度合いで言えばメルクリウスとどっこいどっこい、戦時中はメルクリウスに一番気兼ねなく話しかけていた黒円卓の異端。

 首領代行となれども、双首領と三騎士を除き未だに卿と呼ぶ二人のうちの片割れ。

 その真意は黄金の玉体を得る前でさえ見透かすことはできなかった。

 良くも悪くも、混沌。

 この五年間気ままに何処かを放浪し、シュピーネにさえその足取りを掴ませない徹底ぶりは怪しんでくださいと言っているようなものであり、明日には適当な理由で裏切っていても全くおかしくはない。

 首領代行として処断する理由は十分過ぎるほどあるのだが、しかしその有用性と混沌を好む性はここで切り捨てるには惜しい。

 そもそも、まだ殺し方が分からない。

 黄金のエインフェリアとは別のアプローチで少なくとも肉体的には完全な不死を体現しているこの男はどうすれば死ぬのか。

 案外殺し続けていればそのうち死ぬのかもしれないが、断言はできない。

 故に、まだ利用する。

 その異端の力は、あらゆる事象への鬼札に成り得る。

 彼の相方が存命中ならまだ幾分かわかりやすかったのだが、是非もない。

 よって、ヴァレリアは絶えずアルフレートを観察する。

 この混沌の天秤を、どうすれば自分に利するように動かせるのかと。

 

 そんなことを思っている時点で、アルフレートの目論見通りなのだが。

 

「あの、クリストフ。いいですかね。正当な理由がないのなら私はそのちっこいのの腕一本でも取らないと気が済まないんですが」

「世界にひとつだけの僕の体を大切にしろ! 僕を傷つける野蛮人は名誉シュライバー君に認定してやるからな! 教会の壁に飾ってやるぞ!」

「んだとコラこの小僧が――」

「ああもう双方落ち着いて! ナウヨックス卿も煽るのは一旦止めて下さい! 今回は貴方の新たな技術供与の為に団員を招集したんですよ!」

「新たな技術?」

 アルフレートの能力、異端技術(ブラックアート)とも呼ぶべきそれは概要事態は公のものとなっている。

 とはいえ、その全貌をどう考えても明かしてないのも事実なのだが、その技術の一部、ことさら汎用的なものは団員内でそれを共有するに至っている。

 恐らく首領代行の権限でアルフレートの隠し持っているすべての技術を絞り出そうとすれば、この男は即座に逐電するだろう。

 最悪の場合その技術を惜しげもなくばら撒き扇動し、第三次世界大戦を起こしかねない。

 忘れてはいない、忘れてはいけない。

 この男は聖槍十三騎士団が結成される前よりそういう邪悪さを発揮していた。

 何せ、実質的に第二次世界大戦が開戦するきっかけを作った男なのだ。

「……今回の招集は、副首領閣下の影からのお墨付きです。積もる話は後に」

「……なッ!?」

「そーそー、ウン十年も暇でしょ? ってことで。此処は一つ明確な目標でもあればなーって話があってね。ならちょうどいいものがあるって、副首領の兄さんから預かってきたものがあるのさ。今日はそれを皆に配ろうって話」

 メルクリウスの沙汰ともなれば、団員全員に拒否権はない。

 例えそれにアルフレートが関わっていようと、それは今後の活動を左右する話だ。

「事前に概要を聞かせてもらいましたが、これは非常に有用な技術です。エイヴィヒカイトの追加機能、と言っても過言ではない。今の我々を、確実に一歩は進めるものだ。副首領閣下の賜物という部分は皆暫くゴネるでしょうが、まあ我々にとっては今更ですし問題はありません」

「そういうこと。じゃあ早いとこ教会の地下に行こうよ。そこで粗方説明してあげるからさ」

 

「世界の間隙に割り込み無色の世界を掌握する。大時計を通じ渇望を広げ、願いを更に染め上げる。エイヴィヒカイトのブーストパッケージ、『現象数式領域(クラッキング・フィールド)』のガイダンスをね」

 

 

 1950年、諏訪原市にて 聖槍十三騎士団の胎動

 

 

 

 

「はい、そういうわけで。僕はまた暫く失踪します。シュピーネ君に定期連絡するつもりもありません。その気になったら帰ってくるよ、多分ね」

「せめて一方的でもいいですから連絡をいただけると助かるのですがね」

「次代のゾーネンキントがまだ不在な以上は貴方が六位なのだから。勝手な行動は謹んでもらいたいのだけど」

「無駄ですよリザ。それでナウヨックス卿が思い留まってくれるならどんなにいいか。ああ……シェレンベルク卿の不在が胃に痛いですねえ……」

「そのあたりは首領代行様に丸投げするわ。んじゃ俺も戦場に戻るとするか。試運転に足る奴がいれば試してみるかね」

「ベイー、貴方それハードル高すぎじゃない? 試運転できるのは何十年後かしらね」

「は、俺は悪食じゃねえんだよ。こだわらなきゃ俺じゃねえ、まあババアには分からねえか」

 話は終わり、各々が退席していく。

 ヴィルヘルムやルサルカはまた思い思いの放浪に戻るのだろう。

 居場所が知れるだけこの二人はまだマシなものだが。

 緊急時に招集さえもかけられないアルフレートはと言うと。

「あ、そうそう。ベア子ちゃんちょっと借りるね」

「えっ」

「はい?」

 ベアトリスの手をひっつかみ扉を出ようとしていた。

「ちょ、ちょっとお待ちなさいナウヨックス卿。ヴァルキュリアに何の用で?」

「はん? なんか辛気臭いから僕の放浪のお供についてきてもらおうかなと思って」

「はあ? 何で私が」

「シャンバラ待機なんてさー。クリストフとバビロンがいれば十分だろ? 君達インドア派は良くてもさ、やっぱアウトドア派は暇潰しがないとね。というわけでヴァルキュリアを借りていきます。連絡はしませぬ」

「待って、待ちなさい、即時対応が可能な人員が常態で減るのはこちらとしても困」

「そうか快く送り出してくれるかありがとう首領代行!」

「おま」

 ヴァレリアの言葉を聞く前にアルフレートは走り出した。

 その腕を掴んだベアトリスも一緒に。

「ナウヨックス卿――!?」

 扉の向こうから中間管理職の悲哀が込められた叫びが響いた。

 ざまあない、と一瞬思ったが、ベアトリスは正気に返った。

「ナウヨックス少佐! 私は貴方の野暮天に付き合うつもりは毛頭ないですよ!」

「…………」

 変わらず腕を引き続けるアルフレートに文句をつける。

 しかしアルフレートは歩みを止めない。

「ちょっと、貴方、話聞いてます?」

「…………」

 アルフレートは答えない。

 ただ手首を掴む握力は一切緩まず、ベアトリスを引き摺っていく。

 その様子を、ベアトリスは訝しんだ。

「……ナウヨックス少佐?」

 困惑のまま、教会の玄関を抜け、中庭の中心まで。

 夜の闇に包まれた教会は、他の人影などなく。

「……さーて、じゃあ行こうか。さらば諏訪原、さらば教会の中庭、めんどくさいから地脈移動でかっ飛んでいくけど、修繕は首領代行におまかせ!」

「え」

 アルフレートが光に包まれ、それに捕まっているベアトリスも光に包まれ。

 天地がひっくり返ったような感覚に襲われる。

 地脈移動、それは地脈に乗ることにより広大な距離を移動することが可能だが、出発地点と到着地点に大規模な神秘の炸裂現象を起こす、およそまっとうとはいえない移動手段だ。

 故にベアトリスは試したこともない、これが初めての経験になる。

 アルフレートに引きずられるまま流れに沿って移動している感覚が掴める。

 その感覚はやがて渦を巻き一点に収束し、扉となって自身を受け止めるような。

 回転する視界が一気に開け、そして。

 

「……きゃっ!?」

 気がつくと、ベアトリスはそこに尻餅をついていた。

 ベアトリスの感覚が捉えたのは、先ず時計の音だった。

 次いで床に尻を打った感覚、そこまで来てようやく視界が場所を認識した。

 整然と並ぶ機関の壁。

 薄暗いにも関わらず細部まで見渡せる不可思議な部屋。

 この世の闇と、それを知る手段をかたちとしたような、暗がりの密室。

 嘗て、ルサルカを招いた『第一研究所』とは異なるもの。

 それは、アルフレートが新たに制作した、正真正銘の何処でもない何処か。

 

「ようこそ、ベア子ちゃん。僕の『ヴンダーカンマーⅡ』へ」

 

 アルフレートの声色は静謐に冷たい。

 そこ声色に、ベアトリスは覚えがあった。

 

「歓迎するのは後回しにしよう。とりあえず簡潔に、率直に、要件を伝える」

 

 その瞳は、赤銅輝く赫眼を細め、嘲笑を貼り付けた口元は閉じられて。

 

「手伝ってくれ、君の力が必要だ」

 

 そう、ベアトリスは知っていた。

 それを見たのは五年も前のことだ。

 

「僕だけでは、足りない。雷光の戦乙女、その随一の突破力が必要なんだ」

 

 あの日、忌々しげに空を見上げていた。

 あの人の行方を失った日と、同じ。

 

 

 

 

 

「ヴァルターの居場所を見つけた。その救出に、協力して欲しい。頼む」

 

 

 

 

 

 そう言って、裏切りのひと、道化の男と忌まれる男は、膝をつき頭を下げた。

 

 

 秘密研究室・ヴンダーカンマーⅡにて ベアトリスとアルフレート

 

 

 




時間牢獄編、開幕

絶望の空に、その名を呼ぶ。



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