β Ewigkeit:Fragments   作:影次

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一ヶ月冬眠してました。
寒波来たり、イベント周回してたり雪が降ったり、また寒波来たり、また雪が降ったり。
色々あったよね、許して。
今回の話の構想は眠りにつく一ヶ月前から出来上がってたけど許して。


時間牢獄Ⅰ

「この五年間ね、僕はずっと副首領閣下の遊びに付き合わされてたのさ」

 テーブルに世界地図を開き、赤色のペンでチェックを付けていく。

 隣に日付を記入し、次へ。

 それはこの五年間の彼の足跡だった。

 砂漠の中から一粒の砂を見つけるが如き旅の過程だ。

「ヴァルターはあのベルリンの落日に、スワスチカの一つを破壊する計画を建ててた。僕と、アイヒマン君もそれに一枚噛んでてね。けど、どうやらその行動は許される範疇の外だったらしい。恐らくヴァルターはメルクリウスに敗れ、捕らえられた」

 ドイツ、イギリス、フランス、イタリアとヨーロッパの主要国家を回った。

日本列島を北から南まで調査した。

「メルクリウスは言ったよ。この世界の何処かに、彼を隠した。未来を望むのであれば、探し出してみるがいい、ってね」

 その後は神秘の深い場所を優先的に、ロシアと中国の深い山中を行った。

 西欧からアジアまでを探し回った。

 そして、海を越え、アメリカ大陸へ。

「そこからはあてのない旅の始まりさ。本当に何のあてもないものだから、世界中を回ったよ。回って、回って、歩いて、歩いて、そして……見つけた」

 1950/04/01と、そこに記入する。

 チェックではなく、発見した、という丸印をつけて。

「アメリカ大陸、アルカトラズ監獄島。ここに踏み入った僕はヴァルターを捕らえているものの正体に触れ、同時に完膚無きまでに叩きのめされ敗走した。これが僕が放浪してる間の出来事だよ」

 ペンをテーブルに放り投げ、アルフレートは視線を下から前に戻す。

「……僕だけでは、駄目だった。だから、君の力を借り受けたい。他ならない、雷速の足を持つ君の。頼む、一生の頼みだ」

 その問いに、少女は。

 今や心折れ、燻り、魔名の呪いに縛られるその少女は。

 

「分かりました」

 

 一も二もなく、頷いた。

「ええ、絶望していました。燻っていました。心も折れ曲がって、今や自他共に認める外道の一員であると思い知って。けれど、助けます。助けに行きます。あの人が生きて、自由を失っているのなら。私は貴方と共に行きましょう。ナウヨックス少佐」

 折れ砕けたなら雷火を以て打ち直す。

 その結果歪んでしまっても、不出来な再開になってしまっても。

 それで救えるものがあるのなら。

「沢山のものを失ってきました。けれど、失わずにいられたものもあった。それが、あの人の、ヴァルターさんのおかげなら。私はそれに輝きを以て報いなければならない。今度こそ、取り返しの付かないところに行ってしまう前に」

 あの時も、あの時も、何時だって。

 そして、今もきっと、そうなのだ。

 だから、迷わない。

「……愛されてるねえ、親友は。因みに僕が嘘ついてる線は?」

「無いですね。だって少佐、貴方は先輩のことについては、一度たりとも嘘なんてついたこと無いじゃないですか。貴方はクソ外道で人を貶めることに躊躇いのない人ですけど。あの人との友情は、本物だと思ってますので」

「……む」

 ジト目で対応され、アルフレートは所在なさげに髪を弄り始める。

「何というか、素直じゃないですよねーナウヨックス少佐って。だから今日は驚きましたよ」

「やめるんだ、僕をそんな世間一般のテンプレートに当てはめるんじゃない! 惨めになっちゃうだろ! 謎めいた外道少年でいいんだよ僕は!」

「ははは。まあこの貴重な機会に弄り倒したいのは山々なんですけど。詳しい話を聞かせてください。アルカトラズで、貴方は何を見てきたんですか」

「……そうだね。ここからは時間をかけて詳細な説明が必要だ」

 場所を変えよう、そう言ってアルフレートは部屋の扉を開け、外に出る。

 ベアトリスはそれに続こうとして。

「ん……?」

 突如走った違和感に、立ち止まる。

 足元から指先まで、静電気が走ったような不可思議な感覚。

 それは、まるで自分を引っ張っているような気さえした。

 その僅かな引力の先に、視線を向ける。

 そこには、半開きになった大型のスーツケースがあった。

 アルフレートの私物、だろうか。

「…………」

 訝しみながらも、それに近づく。

 ベアトリスは空いたスーツケースの上側に手をかけ。

 

 

 そして――意識が暗転した。

 

 

 

 

「ここは……?」

 暗い。

 先程の部屋ではない、ただ一面の暗がり。

 覇道創造に取り込まれた感覚にも似た、明確に別世界と実感できる領域。

 魔術師狩りの折やカチンの怪異の際に触れた感覚。

 闇の中にベアトリスはあった。

「貴方は?」

 そして、その闇の中に、ぼんやりと、淡い光があった。

 長身の人型を取る、今にも消え入りそうな光の姿。

 その光こそが、ベアトリスに声を投げかける者。

『輝きを持つものよ。尊さを失わぬ、若人よ。お前の声を聞いた』

 ベアトリスは感じた。

 その微かな光が、闇の中に焼き付いた残照の如きかたちが、自分と同じものであることに。

 否、否、違う、同じであるものか。

 これは自分が操るようなものとは一線を画する、天から降り現れたが如き、

「雷の、輝き」

 その輝きに、ベアトリスは近寄っていく。

 これが、この輝きが、悪しきものであるはずがないと確信めいた思いを抱いて。

『名も知らぬ少女よ。私と同じく、天を翔る雷鳴と化した少女。お前の名は何だ』

「私……私は、ベアトリス・ヴァルトルート・フォン・キルヒアイゼン……です」

『そうか、ベアトリス。輝きの娘よ。お前の名を知った。これが、我が最後の縁か』

「貴方は? 貴方は、何者なのですか」

 この無謬の闇の中にあって、今尚淡くも輝きを失わぬ、その人。

 ベアトリスは顔も見えないその光の名を聞く。

 光は、やや沈黙の後、それに応える。

『■■■・■■■。邪悪なりし時計人間(チクタクマン)に破れ、人々を救えず、今や焼付き擦り切れた残照でしかない、命ならぬ幻想の末路。それが、私だ』

「え……?」

 その名前は、まるでノイズがかかったようにベアトリスの理解を拒んだ。

 この世のものではない、水銀の王に近い、理解してはならない何か。

『やはり、最早我が名さえ届かぬか。呼び名に困るなら、私のことはペルクナス、と呼ぶがいい。本質たる■■■■■■■の名は使えずとも、嘗て人々が称した、数ある名のひとつだ』

 その名を認識することで、ぼやけた輪郭が微かに見えるようになってくる。

 首にマフラーを巻き、その手に鎧を纏う白い男。

 雷の戦士、という言葉がベアトリスの脳裏を過る。

「貴方も、そうなのですか?」

 その姿に、そのかたちに、ベアトリスは問いかけずにはいられなかった。

「ペルクナス。貴方も、誰かを導く閃光でありたいと、そう願った戦士なのですか」

『…………』

 ペルクナスは、押し黙る。

 ややあって、頭を振るように、自身を、そしてベアトリスを憐れむように。

『違う、それは違う』

 そっと、否定の言葉を紡ぎ出す。

『ベアトリスよ。それは違うのだ。お前の声を聞いた。故に、知った。誰かを導く閃光でありたい、その願いは尊いものだ。しかし、その尊さを貫きたいのなら。お前は思い出さねばならない』

「え……」

 その言葉は、ベアトリスの心の隙間に、一本の針のように突き刺さった。

 想いには、始まりがある。

 魔人となった故に渇望、業という鎖に縛られ、それのみが先行した心に埋もれてしまったたものを、ペルクナスは見る。

『時は待たない。邪悪なる時の世界こそが、次なるお前の敵か。私の言葉もまた、既に無限の光輝を失い有限でしかない。ならば、今は未だ』

「あ、待って、待ってください!」

 そう言って、消え行くペルクナスにベアトリスは手を伸ばす。

 今、この瞬間が、ここで交わす言葉こそがとても大事に思えたから。

『お前がその手を伸ばすべき誰かは、残照たる私ではない』

 しかし、手は届かない。

 確かな言葉だけが、白く染まる視界の外から耳に届いて。

 

 

『空の果てより嘲笑うもの。私の罪そのもの。黒の王。月の王。這い寄る、混沌。その宿命から、彼を解き放て。その時こそ、お前の真実の祈りが結実する時だ』

 

 

『輝きとは。心から来る強く果てなき輝きとは、決して瞳を焼くものではない。私が為せなかった奇跡とも呼ぶべき愛を、お前は為すだろう。忘れるな。待て、しかして希望せよ』

 

 

 

 

「おーい、どうしたんだよう?」

 扉の向こうから響くその声に、意識が覚醒する。

 あの光の世界は既に跡形もなく、白昼夢だったのでは、とさえ思う。

 しかし、あの感覚は、間違いではない。

 果たしてあれは何だったのか、私は、どうするべきなのか。

 答えは、未だ出ない。

 けれど。

「すいません、今行きます!」

「はよこい名誉シュライバー勲章ベア子殿」

「調子乗んな!」

 今は、この足を止めない。

 走り続ければ、どこかにたどり着く。

 走るべき道さえも見失いかけていた自分が、道を見つけたのだから。

 この道を最後まで駆け抜けなければ死んでも死にきれない。

「…………ペルクナス」

 最後にかけられた言葉を思い出す。

 どこか懐かしい、その言葉。

 その響きが今もしっくり来て。

「待て、しかして希望せよ。……待っていてください、ヴァルターさん」

 開いていたスーツケースの蓋を閉じる。

 そしてベアトリスは部屋を後にした。

 

 

 スーツケースの中にあった筈の一対の機械篭手(マシンアーム)機械帯(マシンベルト)は、ベアトリスの視界に入る前に露のごとく消失していた。

 

 

 1950年 ヴンダーカンマーⅡ、或いは古き世界の狭間にて

 

 

 

 

 駆け抜ける。

 色褪せた大地、そこから突き出る紫煙を吐き出す異形の機関。

 不自然なほど藍色な空の上には、血走った目に歯をむき出しにして地上の全てを嘲笑うが如き不気味な三日月が浮かんでいる。

 異形なる世界、異端なる世界。

 時が軋んでいるかのような、体に纏わり付く不快感。

 大凡、人の住処ではない。

 覇道型の創造を知るものならば、成る程そういうものかと思いもするだろうが、この世界は一線を画している。

 魔術師狩りの折立ち入ったような生易しいものではない。そう、まるであの黄金の獣の創造位階、現世に永劫留まっているかのような理の強制力。

 留まってはいけない、このような場所に留まってはいけないと、魔人としての自分と人間としての自分が同時に頭の中で警鐘を鳴らし続ける。

 急がなくてはならない、もし本当に、彼がこのような世界に五年も囚われていたのなら。

 

『イ』

 

『イノチ』

 

『アラタナ、イノチ』

 

『クワセロ』

 

「生憎と……ッ!」

 迫り来る異形の腕。

 機関(エンジン)鋼鉄(スティール)からなる巨人の腕を回避し、剣を持った右腕を引き絞る。

「お前には、渡さない。何一つ、誰一人!」

 雷を凝縮した渾身の一撃。

 その斬撃は機械の腕を斬り飛ばし、その斬り口を融解させる。

 しかし、それでは止まらない。

『イノチ、イノチ、イノチ』

 全身に加わったはずの衝撃など無いもののように、巨人は動く。

 故に、ベアトリスはそれを完全に停止させるための、もう一歩を踏み込む。

「はあああああああああッ!!!」

 懐で身を翻し、逆袈裟の斬撃。

 腰から中央を抜け肩をまで両断するその一撃によって、ようやく敵は止まる。

 崩れ落ちる鋼鉄はまるで存在しないかのように消えていき。

「はあっ、はあっ」

 空いた正面を、ベアトリスは駆け出す。

 一刻の猶予もない、それは彼方に囚われる人のみならず。

 

『イノチ』

 

『クワセロ』

 

『ヒト イノチ イノチ』

 

 今も地上から湧き出るように表れる、この無数の機械の群れが故に。

「この、創造が使えれば……!」

「ダメだよ、言ったよね」

 雷速の足を見込まれたはずのベアトリスはしかし形成位階を維持して駆け抜ける。

 ままならない状況に歯を噛みしめるも、アルフレートがそれを諌める。

「この世界、時間の流れが狂ってる。創造位階はここぞという場面以外で使うべきじゃない。覇道創造は論外、求道創造でも片道しか保たないと思ったほうがいい。ヴァルターのもとに辿り着くまで、君の創造は取っておくんだよ」

「ですが、ジリ貧ですよ!」

「この機械死人(サイバーゾンビ)共だけならまだマシってもんさ、ちょっと全身全霊で斬りかからないと倒せない程度、人型の戦艦が犇めいてるようなもんだと思っとけばいい! 問題はこれを抜けた先だよ、ここで力を使い切るのは問題外! 燃料はどうだい?」

「分かってますよそんなこと、なるべく最短で回避しつつ片付けていますが……カチンよりも性質が悪い! このままでは……!」

 併走する二人の周囲には今も際限なく敵が湧き出ている。

 アルフレートが機械死人(サイバーゾンビ)と呼ぶそれらは、異形の巨躯だ。

 機関と鋼鉄で構成された、巨人であったり、雲であったり、又は東方の鬼神が如き数多の手足を持つものであったり。

 この空間にあって、命あるものを狙うのであろうその言動は聞くものを凍てつかせ、また異形の鋼鉄による頑健さはベアトリスのが全力で、それこそ戦艦を両断するが如き力を込めた一撃がなければ崩れない。

 雑兵を相手にするように纏めて吹き飛ばすような余裕は何処にもなかった。

「形成状態の私の足でも、貴方のハルピュイアの機動力でも立ち塞がるあれらを撒く機動力としては役不足です! 必然正面に立つ相手は斬り伏せるしか無い。しかしそれでは!」

「後に続かない。知ってるさ、僕だってこの群れを切り抜けたはいいけど、塔にたどり着いた段階で詰んだんだからね」

 塔、そう言って二人は彼方を睨む。

 この異形の世界においてひときわ異彩を放つ、嘲笑う月を指し示すが如き塔があった。

 そこが中心だ、と隠すこともなく主張するその場所が目的地であると。

 時間の歪みがひときわ収束したあそこに至るために、ヴァルターがいる。

 そう確信できるからこそ二人は走っているのだ。

「塔まで残り半ば、といったところですか。何らかの対策を取らないと」

「……仕方ない。やっぱり二人一緒に到達するのは贅沢が過ぎたみたいだ」

 見通しが甘かったかな。

 そう言って、アルフレートはその掌に銀時計を形成する。

 時のゆりかご(ドゥームズデイ・クロック)

 アルフレート・ナウヨックスの聖遺物。

 如何なる由来かは知らないが、それはあらゆる時間への耐性を主人に与える。

 また異形の機械技術によって魔の機関を生み出し、特にアルフレートが『クリッター』と呼ぶ鋼鉄の異形は特異な能力を持つ。

 彼がハルピュイアと呼ぶクリッターは形成位階とはいえベアトリスの俊敏性に合わせられる機動力を持つ。

「出来ればこれはやりたくなかったんだけどね。あの時と同じ、『このままじゃまずい』って感覚がガンガン響いてくる。でも、背に腹は抱えられない」

 銀時計の中から、親指程度の大きさの黒い針のようなものを取り出す。

 それを奥歯に挟み込み、噛み砕く。

 

 チク・タク、チク・タク。

 

 カチリ。

 

「我が力、我が異能(アート)。アルフレート・ナウヨックスは『創造』する。他者の感情を取り込み、他者の感情と自身の感情を素材とし、形成するは鋼鉄の使徒、『クリッター』」

 その口元が、まるで空にあるあの三日月のように歪むのをベアトリスは見た。

「さあ、部品は補完された。感じれど理解に及ばなかったこの感情の名を今知ろう。放浪の果てに我が前に立ち塞ががるもの。汝の名は『嫌悪』なり」

「ナウヨックス少佐!?」

 ハルピュイアが霧散し、跳躍したアルフレートと足を止めないベアトリスの距離が開く。

 まるで囮になるといった風であり、であるからこそベアトリスも振り返るのみで走り続ける。

「さあ、機関(エンジン)鋼鉄(スティール)が紡ぐもの、その闇深き、命を喰らう機械の死人よ。人ならざる君達がたとえ人たる僕を砕こうとも」

 そして、それを見た。

 霧散し収束する影が、新たな姿を象るのを。

「ならば人ならざる、この僕の影は砕けまい」

 その銀時計を開き掲げて。

 そして、ごぼりと、彼の影が泡立った。

 

『さあ、始めよう』

 

『月の王の光を借りて。来たれ我が影、我がかたち』

 

『暗闇より這いずる両脚』

 

『覆い隠すくろがねの鎧』

 

『そして、貪り尽くす悪食の牙。我が声に応えて出でよ、我がかたち』

 

『嫌悪の大壁、クリッター・グレムリンオーガ!』

 

 そして、現れる。

 鳥の翼を象るハルピュイアとは違う、機械死人の巨大さすら上回る鋼鉄の巨人、土色の壁が、そこに立ち塞がった。

 一際大きな歯車の軋む音が響いて、何とその軋み出た恐慌の音波が、ただそれだけで向かい合った機械死人を粉砕する。

「そう、これが嫌悪か。そういうことか。これは貴重な経験だ」

 その巨人、グレムリンオーガの肩に、アルフレートは降り立つ。

 眼下にて未だ発生し続ける機械死人を見下ろして、獰猛に笑いながら。

「汝の腕は我が腕、汝の罪、あらゆる罪は我が罪。さあ、叫べグレムリンオーガ。誰もがお前を無視できない。嫌わずにはいられない!」

 その言葉を号令に、グレムリンオーガが姿勢を傾ける。

 鋼鉄のマスクが剥がれ落ち、その向こうに獣の如き凶悪な顎が現れて。

 そして、吠え叫ぶ。

 鋼鉄を打ち鳴らす音、歯車が軋む音、油が跳ねる音、それらをぐちゃぐちゃに混ぜ返したような、ただただ不快な音。

「う、ぐぅ!?」

 グレムリンオーガの背後を駆け抜けるベアトリスも、その顔が向けられていないにも関わらず拡散した音に蝕まれる。

 今すぐこの足を止め、その音の発生源を破壊したいという衝動に駆られるが、しかしそのような一過性の衝動を噛み砕き、走る、走る。

 そして、異変に気づいた。

「これは、まさか」

 周囲一帯の機械死人たちが、一斉にあの巨人、グレムリンオーガへと狙いを定めた。

 今発生し正面に立つ機械死人には流石に効果はないようだが、背後から追撃してくる機械死人はいない。

 すべて、すべて、アルフレートの側に集っているのだ。

 振り返ると、丁度同じく振り返っているアルフレートと遠く目が合った。

 アルフレートは指を向け、簡潔に口を動かしている。

「行け!」

「……了解(ヤヴォール)!」

 その声を、確かに聞いて。

 駆け抜ける、その先に。

 開けた道、今は犇めく程でもない機械死人の戦線を、後続が発生する前に潜り抜ける。

 一体一体が相手ならば、ベアトリスの足なら撒けない程ではない。

 斬り伏せる手間も惜しみ、足の間を跳躍する。

 走って、走って、斬って、飛んで。

 そしてまた囲まれてしまう前に、ベアトリスは到達した。

「……塔!」

 黒く、天高くそびえる塔。

 この塔の半径数百メートルに入ると、機械死人はまるでそこに絶対不可侵の境界線があるかのように近寄ってこなくなった。

 空間を汚染する時間の歪みは魔人の身をもってしても吐き気を催すほどに膨れ上がり、その先を見通すことはかなわない。

 まるで、メルクリウスを見ているような、そんな錯覚さえ覚える。

「……だから、なんですか。私は行かないといけないんですよ」

 その恐怖、絶望の一切を放り捨て、ベアトリスは扉を押し開ける。

 ここで死んでもいい、全てを投げ出してでも。

 自棄と言われればそれまで、それでも、それが自分の足を進ませるのなら。

「待ってて、お兄さん!」

 頬と膝をバチンと掌で叩き、ベアトリスは駆け上がる。

 塔の扉の先にある、漆黒の螺旋階段を。

 

 

 模倣紫影世界 アルカトラズ時間監獄にて 駆け抜ける戦乙女

 

 

 

 

 そう、そして、御身は至るのだ。

 ベアトリス・ヴァルトルート・フォン・キルヒアイゼン=ヴァルキュリア……否。

 

 極光の戦乙女(アウローラ・スクルド)

 その宿業を、祝業と為す英雄よ。

 或いは、御身が諦めればそれまでだが、さて。

 ことここにおいて、それはあるまいよ。

 

 喝采せよ、喝采せよ。

 おお、おお、素晴らしきかな。

 第一の階段を盲目の生け贄が昇るのだ。

 水銀の蛇の名の下に、現在時刻を記録した。

 私の望んだその時だ、彼の望んだその時だ。

 黄金の君よ、震えるがいい、貴方の望んだその時が、その果てにこそ訪れる。

 黄金螺旋階段の果てに、我が夢、我が愛のかたちあり。

 

 ふ、ふふ、ふはは、ふははははははははは。

 げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら!

 

 




おまけ



【挿絵表示】



【挿絵表示】



緋龍華麒麟さんのキャラクター作成ツール「キャラクターなんとか機」と、
島根件さんのキャラクター素材「ヒロイン製造機」「オレ製造機」をお借りして作成しました。

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