β Ewigkeit:Fragments   作:影次

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次の話で誰か死んでもらおうかと思ったけどなんか教会フェイズが思った以上に長引いたので。
教会で一話まるまる使うことにしました。前言撤回、ここまでが共通ルートだったよ。


chapter7

 最近、意識を失っている割合が多い。

 研究区画最奥の『アレ』にも施した覚えのない改造が加えられている。

 既存の霊体向精神薬では効き目が薄くなっているようだ。

 一先ず次の品が出来上がるまで濃度を上げて服用することで間に合わせることにする。

 しかし、なんだろうね。

 よくよく考えると、僕は何でこんなに頑張っているんだろう。

 彼に対して、何を思っているんだろう。

 似ているから?

 運命だから?

 水銀の蛇であれば、よせよせそこに意味などないとか言うんだろうけど。

 それは違う、と僕は思う。

 意味はある、意味はあるのだ。

 今も狂気の狭間の奥の奥、微かに見えるその光景が、僕の原風景たるものであると。

 お前は誰なのか、一体どこから来たのか、今何処にいるのか、これから何処に行くのか。

 それはきっと誰であれ、忘れようとも失ってはならないものだと思う。

 

 まあ、鍵がかかったように思考の進まない自分についてはともかく。

 櫻井鈴との接触に成功した。

 スティールくんは十中八九ベイ中尉に破壊されるだろうけど、まあ必要経費だ。

 どうにも若い身空で戦場に飛び込むヤケっぱちぶりから想定はしていたが、かなり警戒心は高く、噛み付いてくる。

 どうにか手懐けなければなるまい。

 その気になれば彼女は一瞬で偽槍と契約をしてしまうだろう。

 そうなったら台無しだ、もう間に合わない。

 偽槍の性質、その詳細はもう見えている、なんともまあ悪食なものだ。

 まあ、その悪食さが付け入る隙なのだが。

 暫くは敵意も殺意も狂気も持たず、警戒心を解き譲歩を引き出すことに専心する。

 そうしなくてはならない。

 危うくまた発狂しかけたので、常に懐に薬を入れておくことにしよう。

 落日のあの日からもう何十年か、時間は驚くほど早く過ぎ去っていく。

 退屈なんて言っている間もない、僕は常に探し続ける、()にとっての最善策を。

 

 

『お前は誰だ?』わたしはえじそん

『どこから来た?』ちかせかいはわたしのあそびば

『今どこにいる?』こっけいなるいせかいのなか

『行き先は?』あきるまで

 

 

秘匿文書:アルフレート・レポート5

 

 

 

 

 暗い。

 ここはなんて暗いんだ。

 暗がりの中、視界は戻らないまま意識のみが徐々に浮上する。

 俺は、どうなったのか。

 そう、大橋で拷問器具を飛ばしてくるルサルカを相手に戦っていた。

 少し離れたところでは、ヴァルターと呼ばれていた男と神父さん……聖餐杯がやりあっていて。

 ルサルカのやり口、遠距離から徹底的に追い詰める戦い方に二の足を踏んでいたら、あちら側の神父が問いかけてきて、それから。

 そうだ、俺はあの黄金に、ギロチンを砕かれて。

 マリィと引き剥がされ、彼女はあの槍で貫かれて。

 他の皆はどうなったんだ、司狼は、ジャージ女……キルヒアイゼンは。

「藤井君」

「うおッ!?」

(うお)、とはご挨拶だね。君には私の顔が魚類に見えてるのかな?」

 視界いっぱいに、人の顔が映る。

 思わずのけぞりそうになるが、背中は硬い壁に密着し、両手足は何かに拘束されていた。

「ちょっとじっとしてて。鍵、外しにくい」

 そう言う彼女……氷室先輩は、俺の手足を縛る鉄枷を、その手に持った鍵束で開いている。

 その様子、その瞳からは相変わらず心のうちは伺い知れない。

「……何も聞かないの」

「聞きたいのは山々なんですけどね。色々と混乱してるんですよ」

「そう」

 俺はこの人に、どんな態度を示せばいいんだろう。

 先輩は、先輩だ。

 けれど、今もそう断言するにはあまりにあまりなことが起こりすぎた。

 そう混乱してる間も先輩は両腕を終え次は両足と、鍵を外していく。

 そして四肢の鉄枷全てが外され、自由になる。

 長期間拘束されていたのだろう、体の節々に違和感が残る。

 ……超人的な耐久力はなく、マリィの気配も感じない。

 やはり、あの時引き剥がされてしまったのか、だが何故俺は生きているのか。

「で?」

「……で、とは?」

 先輩が上目遣いでこちらの瞳を覗き込んでくる。

「君がそういうニュートラルな反応をするものだから、私としてはどうしたものかと困ってるんだけど?」

「どうしたものかって……」

「いっそ詰ってくれた方が楽だった」

 そんな風に言うものだから、俺もつい反射的に返してしまう。

「じゃあ、詰りませんし、聞きません」

「何で」

「なんとなく、ですけど。ああ、先輩だなあって、思ったからですかね」

「藤井君。私は悪い子なんだよ。ずっとずっと、見て見ぬふりをしてた。放っておいてほしくても、放っておいてもらえないって、うらみちお兄さんだって言ってたのにね」

「えっと……」

「そんな私がなけなしの勇気を振り絞って罵倒覚悟で藤井君の前にやってきたんだよ。なのに、藤井君と来たら何時も通り。『チィーッス。おはようございます氷室先輩』って何、なめてんの」

「いやそんなこと言ってないんですけど」

「それに等しい対応だったんだよ」

 眉間に皺をよせ、暗いため息を吐く先輩。

 何やら不当に呆れられている気がする。

 そりゃあ、俺は先輩と彼奴等の関係なんて分からないけど。

「何というか、ついこないだまでの俺と似てるんですよね」

「?」

「悩んでる、迷ってる、苦しんでる。先輩はこう普段何考えてるかいまいちよく分かんない人ですけど。そう言う感情が無いわけじゃなくて、表現の仕方がひねくれてる訳でもなくて。だから、信じられるんですよ」

 そう、信じられる。

 この人と過ごした年月に偽りはないと、改めて思える。

「なら、ああ、きっと俺のために悩んでくれてるんだなって、そう思うのは自惚れですかね」

「自意識過剰、女誑し、ホストクラブめ。君はいつか刺されちゃうんだ」

「ええ……?」

 俺の精一杯のフォローに散々な言葉が返ってきた。

 けど、うつむいた状態から顔を上げた先輩の目の色は、先よりも暗くはない。

「ちょっと、意味分からないことを言うけど、聞いてくれるかな」

「何ですか」

「諦めがちな子供だったの。冷めてて、悲観的で、何もしない。だから、ああ、きっと酷いことになるんだろうなって、何も分からないなりに分かってても、何もしなかった」

 それは、その言葉はきっと、彼女自身を語っているのだろう。

 曖昧で断片的で、それでも彼女にとって大切な何か。

「けどね。思い出したんだ。ずっと昔。私は、『諦めない』ことを、確かに選んだの」

「諦めない、ですか」

「そう。らしくないなって、自分でも思う。十一年前のその時何があったのか、私はよく覚えてない。それから『彼』がいなくなって。益々分からなくなった」

 先輩の言葉を、今は黙って聞く。

 ところどころ不明瞭な部分はあるけど、きっと今大事なのはそこじゃない。

「一体、何があってそんなことを思ったんだろうね。全然思い出せないよ。けれど、私の中に、確かにそれがあるの。『諦めない』を選んだこと、それを今も思い出せること」

 胸に手を当て、確かにそこにあると。

諦めない、全く自分らしくないその言葉が、確かにそこにあると。

「……俺は、らしくないとか、思いませんよ」

 だから、きっと。

 この人は、背を押して欲しいんだと思った。

 一歩、一歩を踏み出すために、俺が求められているのなら、全く光栄なことだ。

 俺の人徳ってやつも捨てたもんじゃないらしい。

「いいじゃないですか、諦めない。先輩は何だかんだ強かな人だから、似合ってますよ」

「……今更とか、思わない?」

「まさか。今こうして、俺は先輩に助けられてる。何処が今更なんですか」

 未だ、全然遅くない。

 この人はきっと何だってできる人なんだ、何にだってなれる人なんだ。

 こんな地下でべそかいてるよりも、青空の下、屋上で、誰に憚るでもなく呑気に迷言をかましながらサンドイッチ食ってるのがお似合いの人だ。

「俺は逃げませんよ、あいつらから。諦めない。先輩は、どうですか」

「…………」

 先輩は瞳を大きく開き、その頬が色付く。

 薄暗い地下室の中で、彼女の顔がはっきりと見えた。

「そう、君は、そうするんだね」

 そして、彼女が、微かに笑って。

「分かったよ。君がそう言うなら、私も『諦めない』。思い出しちゃったからね」

 そう言って、背を向ける。

「先輩、どこへ」

「ごめんね。これ以上は、あの人達が許さないと思うから。けど」

 扉を開け、閉める前に、こちらを一瞥し。

「大丈夫。きっとまた会えるよ。藤井君、良き青空を」

「よき、青空を?」

「ずっと昔、『彼』から教えてもらった言葉。自由と再会の約束、だよ」

 そして、先輩は去っていく。

 しかし、一人になっても不思議と寒々しさは感じなかった。

 なんとかしなければ、そんな決意が轟々と燃えている。

 そう、すべて終わらせて、青空の下再会しよう、その約束の何と清々しいことか。

 

「ぐわー!?」

 

「!?」

 空いた扉の向こう側から何やら聞いた覚えのある悲鳴と、何かが倒れる音がした。

 体を打ったような鈍い音と、何かを落としたような甲高い音が重なる。

 そして、やや沈黙。

 暫くすると、気を取り直したようにコツコツと足音が聞こえた。

 その足音が近づき、そして直ぐ側まで迫り。

「どうも、藤井さん。テレジアがお世話になりました」

「あんたか」

 ランタンの明かりとともに現れたのは、金髪の長身、ヴァレリア・トリファ。

 曖昧な笑みは相変わらず、しかしなぜか眼鏡がずれて、髪の毛が若干ボサついている。

「今の所、貴方を害するつもりはありませんよ。……ハイドリヒ卿が、貴方との対話を望んでおられる。それが済み、貴方が我々の敵として復活するまではね」

「……そうかよ。で、どうしろって?」

「私についてきて下さい」

 ここで暴れた所で何にもならない、そんなことは馬鹿のすることだ。

 力は失い、マリィは奪われ、しかしそれでも残っているのは、俺が奴らの敵という配役を与えられていること。

 利用してやるしか無いだろう、それを。

 二歩程前に出ると、それを肯定と捉えたのか、神父は先導を始めた。

 

 

 

 

「先輩はどうしてる」

「先程すれ違いましたよ。……怒り心頭なようでしたので、私の出る幕ではないですね」

「その髪、先輩にやられた?」

「……ふふふ。彼女もすっかり強くなりました。よもや膝落としからの足払い、執拗に右足を取られ、ああもひっくり返されてしまうとは……」

「……あ、そう」

 この男のことが、分からない。

 あの大橋での問いかけと言い、先輩のことを想っているのか、それとも。

 ヴィルヘルムやルサルカはともかく、俺は神父とシスター相手にどうすればいい。

 彼らの敵と一緒くたに殺して、先輩の日常は帰ってくるのだろうか。

「色々と聞きたいこともあるのでしょうが、それはこの先にいる御方に。その後は……キルヒアイゼン卿やシェレンベルク卿に伺うといいでしょう」

「キルヒアイゼン卿ってのは、あのジャージ女……ベアトリス・キルヒアイゼンだったか」

「ええ、その通り。我ら黒円卓にあって誇りを胸に雷の聖剣を振るう騎士の中の騎士。美しき戦乙女。その技を、貴方も何度か見たでしょう」

「……ああ。あんたらとは毛色の違う奴だってのは身にしみたし、裏切ったってのも納得したよ。ただ、あんたらは何か思うことはないのか」

「思うこと、とざっくり申されますと……まあないといえば嘘になりますが。もとより我々は、過程を同じくすれど目的を違える者の集まりですから。それといって、特には」

「こうなることは分かってたって、そう言うのか」

「ええ、はい」

 きっと、未だ裏があるのだろう。

 しかしそれ以上問い詰めるのは情報が足りない。

 こいつらの過去に何があったのか、あの女が何故そんな集団に加わっていたのか。

 それは一先ず、後にすることにした。

「じゃあ、あのシェレンベルク卿ってのは……」

 突如乱入したあの男。

 キルヒアイゼンが親しげに名前を呼び、彼奴らが懐かしげに殺意を放っていたあの男。

 幾重もの黒い茨と、黒い剣を中空にて操っていた。

 あいつもまた、そうなのか。

「彼は……そうですね。我々にとっては特別な意味を持つ御方だ。まあ大なり小なり、黒円卓の団員はそういった役目を背負っているのですが」

 その話を振ると、神父の声色が若干変わる。

 何か、得体の知れないものについて話すような、喜悦と戸惑いの混じった声だと感じた。

「元より彼は、ハイドリヒ卿に敵対することを宿命づけられていた御方でした。ハイドリヒ卿はそれを認め、しかし祖国の落日までは同胞であると。彼もまたそれを認め、第十位の席についた」

「十位? 待て、それは……」

「シュピーネですか? 彼は言っていませんでしたか? 彼の性格であれば、自身が正当な十位であると宣言するような不遜はしない、そう思いましたが。ましてや、我々より先に彼の生存を確信していた身であれば」

「…………」

 そういえば、と奴の名乗りを思い出す。

 まあ、私はいと高き将軍閣下の席を預かる身ではあるのですが、とか。

 そんな事を言っていた、あの時はその意味を噛み砕く余裕もなかったが。

「あの日。第二次世界大戦の終焉、ベルリン陥落の時。シェレンベルク卿は戻らなかった。そして双首領閣下から何も言葉はなかった。我々の全てが、何某かを察しましたよ。ああ、彼は遂に、ハイドリヒ卿と戦ったのでは、と。そしてそれに破れ、死んだのだと、大半が思っていたことでしょう。しかし彼は帰ってきた。この半世紀を雌伏の時として」

「よっぽど怨まれてたんだろうな。それとも元から人望が無かったか」

 なんとなく分かってきたような気がする。

 仮に、こいつらは戦時中は国家のためにいくらか働いていた、時代によっては有益といえなくもない集団だったのかも知れない。

 その最終目的はともかく、色々な奴らが集ったのだろう。

 そしてその後、結局ボロが出て空中分解し始めた。

 何か恐ろしい目的意識で残るもの……これはきっと、この神父とかだ。

 なあなあでダラダラと楽しんでいるもの……これはルサルカあたりか。

 そして、付き合ってられないと決別するもの……それがキルヒアイゼンとか、シェレンベルクとか、そう言う奴らだった、と。

「半分正解、と言っておきましょうか。そうですね……一つは、我々は何れ決別することも念頭に置いた上で組織されていた、ということ。もう一つは……あの方々の関係に怨み、という感情はふさわしくないということです」

 こちらの言葉尻から思考を読んだのか、神父はその半分を否定する。

 それは何か、遠い日に思いを馳せるかのようだった。

「怨み? いいえ、いいえ、それは違う。私は知っている。彼らをつなぐ縁は、怨みなどというものでは断じて無い。もっと恐るべきものだと。そしてその事実を、あの時私は……」

 独り言じみたその言葉は真に迫った様相で、或いは何か悔いるように。

 しかし暫しして我に返ったように、その様子は元に戻る。

「……っと、失礼。つきましたよ」

 気がつくと、そこは細い地下通路ではなく、どこぞの城のような巨大な扉の前だった。

 不気味な威圧感が場を支配し、この先に待つ部屋がまともではないことを知らしめてくる。

「私はここまでです。この先までの同行は許されてはいない。最も、先んじてシェレンベルク卿が招きを受けここに入っているはず。孤立無援ではありませんよ」

 まあ最も、その程度の差があの御方に対して意味があるかどうかは疑問ですが。

 言外にそう言っているように聞こえた。

「かの御方、ハイドリヒ卿が何を思いこの場を設けたのか……その真意は、私にさえも分からない。故、心から言わせて頂きましょう。ご武運を」

 軽く頭を下げる神父を背に、扉に手をつく。

 そして、重い手応えを前に、その扉を開いた。

 

 

 

 

 その暗がりも先に待つ何かを、目にしようとして、

「……うっ!?」

 まず感じたのが、威圧感。

 魂まで圧迫するような、黄金の波動。

 ただの人間であるならな相対しただけで食われてしまうかのような、獣の眼光。

 それを歯を食いしばり、耐える。

 すると、視界が開け、その正体が見えてくる。

 そこには、円卓があった。

 あいつら風に言うなら、黒円卓、とでも言おうか。

 多分アーサー王伝説にでもあやかったんだろう、漆黒の円卓の周囲を取り囲むように妙な印のつけられた席がある。

 この威圧感は、そのうちの一つから発せられたものだ。

 そこには、あの時見た黄金の鬣があった。

 不敵な笑みを崩さない、まるで笑っていることが常であるかのような、威嚇していることが常であるかのような、人間の形をした獅子がいた。

 俺は、そいつを目の当たりにして、

「……は?」

 周囲の様子を顧みれるようになったことで、ついそんなボケた声を漏らしてしまった。

 そこにあった光景、それは。

 

「……はあぁぁぁぁぁぁ………………」

「はっはっはっはっは」

 

 玉座に君臨しながら愉快そうに笑う金髪の男と、円卓に倒れ込み頬をつき死にそうなため息を付いている灰金の男だった。

「おっ、来たなツァラトゥストラよ。待っていたぞ」

 ラインハルトは俺を見るとその居住まいを正す。

 だが数秒前まで何か突っ伏してるこの男を見てニヤニヤしていた。

「……やっと来たか、はぁ……」

 突っ伏している男、ヴァルターは死んだ目でこちらを見るとのろのろ起き上がる。

「よし帰る」

「何だ、これからが本番ではないか。ツァラトゥストラもようやくやってきたというのに」

「こいつが来るまでの暇潰しじゃなかったんですかねえ」

「私は未だ暇だぞ。半世紀分の暇が貯蓄されているのだ、構え」

「死んでくれー死んでくれー」

「卿、私が暇している間、この半世紀で得難い経験を持ったようではないか。益々見違えたぞ。こうして相見えたからにはそれを語ってもらわねば夜も眠れんのだ」

「いちいち足から衝撃波を出して俺の足を擬似的に蹴ってくるんじゃない!」

「暇だったのだ。ザミエルの献身もマキナの鍛錬もシュライバーの奔放さも愛しい既知ではあったが、飽きるのだ。カールめ、割と許さん。このシャンバラで楽しめなかったら処刑も辞さない」

「全面的に自業自得じゃねえか」

「無論、卿の意気込みは相応しい場面で、という風情は分からんでもない。だが私は卿であれば二度、三度とそういった場面を迎えても絶えず高じさせてくれると信じているのだ、友よ」

「生まれ変わったんならこの迷惑さも引っ込めてくれませんかねえ!」

「卿、ヴァルキュリアとは何処まで進展したのだ? ザミエルが気にしているぞ。私の愛は遍く全てに与えられるが何、卿らのものを否定するわけでは」

「黙れ、黙れ、黙れ!」

 何してんだこいつら。

 俺の心の中の意気込みが急激に萎んでいくのを感じた。

 何というか、デジャヴる、とでもいうのか。

 こういうやり取りを最近まで身近に感じていたような気がする。

 何処でだろうか、不思議と思い出せない。

「……何と言われようと俺は帰る。帰るからな」

「そうか、残念だ。では暫しその奮闘に期待していよう」

 げんなりした男、ヴァルターは席を立ち、俺に肩に軽く手を置く。

「外で待っている。話は追々。飲まれるなよ」

「…………」

 そう言って、隣を通り過ぎてく。

 あの男について知っていることは余りにも少ない、どう返したものか、信用していいのか、そんな事を考えているうちに、ヴァルターは出ていった。

 しかし、通り過ぎる瞬間、不思議な共感、共振のような何かを感じた。

「つれない所は相変わらずと言った所か。さて、待たせたなツァラトゥストラよ」

「ッ!」

 ラインハルトが玉座の傍らに肘を付き、悠々とこちらを見ている。

 茶番は終わり、そう言いたげに。

「席につきたまえ。卿の疑問、憤激、決意、その尽くを聞き、返そうではないか」

 そして、俺は七番目の席につく。

 俺の日常を奪った人でなし共、その首領に改めて相対した。

 

 

 

 

 教会の外に出た頃にはすっかりあたりも暗くなっていた。

 結局ラインハルト・ハイドリヒと話したことはというと、この一連の出来事は究極的にあいつのしょうもない退屈を紛らわすためのものでしかないということで。

 生かしておけないと益々決意を固め宣戦布告を行い、あいつを喜ばせただけだった。

 その座に辿り着き首を跳ね飛ばすその瞬間まで、ああして笑い続けるのだろう、あいつは。

「では藤井さん、お嬢さん。本日はこれにて。明日よりは、一層気を引き締めるのがよろしい」

「……言われなくとも」

 隣にはやつの下から帰ってきたマリィが、神父をじっと見つめている。

 様子が変というか、急に人間味が出てきたような気がするが、それは改めて話を聞こう。

「藤井さん。我々は敵同士。私もまた貴方にとっては首を落とすべき一人でしかなく、私にとっても貴方は盲目の生贄に過ぎない。ですが、改めて宣言します。私は、テレジアを愛している。彼女を害することは、決してありえないということを」

「ああ、分かったよ。マリィが信じるあんたを信じるさ」

「はい」

 何もかも不確かなものだが、今の俺はそれに縋るしかない。

 全てを抱え込めない二本きりのちっぽけな腕を恨めしく思う。

 しかし、人間は三本も四本も腕があっちゃいけない。

 人外に成り果てても人外でありたくないと思う俺と、無力な俺がせめぎ合っている。

「さ、あちらにシェレンベルク卿がいらっしゃる。合流し帰りなさい」

 敷地の門前に寄りかかり携帯を弄っている男の影がある。

 目覚めて敵の首魁に宣戦布告してほぼ見知らぬ男と帰れと来る、自分が殺人事件を起こしてるのではと疑った時と変わらない目まぐるしさだ。

 仕方ない、さっさと話を聞こう、とマリィの手を引き歩き出そうとして。

 

 ふいに、隣を駆け抜ける風を感じた。

 

「え?」

「え?」

 トリファ神父と声が重なる。

 隣を駆け抜けたそれの正体は、二輪車だった。

 何やらオーダーメイドらしき流線型のスクーターに乗った小柄な銀髪女性の姿が見える。

 簡素なヘルメットを被った氷室先輩は一旦ブレーキを効かせ俺達の目の前で停まり、こちらに人差し指と中指を向けて、

「バイビー」

 そして、そのスクーターはスクーターにあるまじき速度で一切騒音を出さず教会の門を越えてかっ飛んでいった。

「えっ」

「えっ」

 またトリファ神父と声が重なった。

 門前では携帯を弄っていた男が非常に訝しげな顔でスクーターが去っていった方向と俺達の方を交互に見ている。

 

 多分、一分ほど沈黙が続いて。

「テ、テレジアーーーーーーッ!!!???」

 神父の悲鳴が教会の庭に木霊した。

 なんでだ。

 

 

 教会にて レッちゃんの暴走

 




レッちゃんの思い出。
足払いをかけられる神父。
半世紀ぶりに獣殿はしゃぐ。
半世紀ぶりにヴァルター足を蹴られる。
まだまだ振り回される蓮くん。
そしてレッちゃんのプリズンブレイクなう。

さあこっからが独自展開だ。

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