β Ewigkeit:Fragments   作:影次

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決戦前、最後の打ち合わせって感じです。
ここ最近クレーム対応まがいのことして心を失ってきてるんでまたやる気が死ぬ前に完結させねば。


Fragments:決戦ブリーフィング

「一旦外見てこいよ、現状を端的に把握するためにな」

 

 司狼に言われボトムレスピットの外まで出てきた蓮は、その先に知った姿を見る。

「あ、藤井くん。起きたんだね」

「先輩……無事でしたか」

「うん、まあね。それより、遊佐くんに見てこいって言われたんでしょ。ほら、あれ」

 玲愛が空を見る。

 その視線の誘導に素直に従い、蓮もまた上空を見る。

 そして、正に現状を叩きつけられた。

「何だ、あれ……」

 天空に、二つの城があった。

 方や、黄金の輝きを放つ死者の王城。

 それと向き合うようにもう一つ、漆黒に染まった機械仕掛けの巨人城があった。

 どちらも悍ましいまでの死の気配を内包し、それを空から地上に振りまいてるかのようだった。

 そして、巨大なそれを知覚したことで、もう一つの違和感に気づく。

 この街から、命の気配を殆ど感じないことを。

「食われちまったらしいぜ、あのでけえ城にな」

 後ろから付いてきた司狼がそうぼやいた。

 今この街に、自分たち以外の生存者はいない、と。

「死者の城、あれはラインハルトの……」

「おう、そうだな。だが、やったのは黒い方だ。あっちもあっちで似たようなもんらしいぜ。なあ、櫻井のお嬢ちゃん」

 事情を知るものにそう投げかける司狼。

 同じように付いてきた螢はその呼びかけに呆れ半分怒り半分で対応する。

「舐めた呼び方はやめてくれないかしら。敬意を持って櫻井さんと呼びなさい」

「じゃあ螢ちゃんで」

「焼くわよ」

 螢が空を指差す。

 黄金の城ではなく、漆黒の城を指差して。

「ナコト・ファンタズマゴリア。私の保護者曰く、アルフレート・ナウヨックスの禁じ手。言うなれば、外付けのグラズヘイム、らしいわ。黒円卓の聖槍(ヴェヴェルスブルグ・ロンギヌス)を核として動く、贋作のグラズヘイム。細かいところはよく知らないけど」

「グラズヘイムの、贋作?」

 そんなことが可能なのか、しかし現実としてそれは存在していた。

 月明かりを背に、巨人の眼がこちらを見下ろし嘲笑っている、蓮はそう感じた。

「現状は認識してくれたようね。それじゃ話を始めたいのだけれど、いいかしら」

「話ってのは、何の話だ」

「決まっているでしょう。貴方が今抱いている疑問、おおよそをひっくるめた話。話をする前に疑り深い視線を向けないでくれる?」

 

「私はね。黒円卓の聖槍(ヴェヴェルスブルグ・ロンギヌス)を破壊しに来たの」

 

 

 

 

「賭けに勝ったなナウヨックス。見事、と言わせて貰おう」

「いやー、めっちゃ綱渡りでしたけどね」

 黄金の城、グラズヘイムの玉座にて。

 座するラインハルトの前に、三人の魔人が招集されていた。

 アルフレートは飄々と応え、ヴァレリアは恭しく頭を下げるも警戒を怠らず。

「…………」

 マキナはただ沈黙のまま壁に背を預けていた。

「安心するがいい。私は卿らを罰する為にこの場を設けたわけではない」

「は、それは……」

 ヴァレリアは怪訝そうに眉を歪める。

 このような場を設けられてしまった以上、地上での策謀など指先一つで消し飛ぶ埃同然であり、且つそれが一時の気まぐれで起こされてしまうであろうことをヴァレリアは知っていた。

「卿らは成し遂げたのだ。数多の危難を越え、ザミエルとシュライバーさえ封じてみせた。卿にとって、最高に近い形で最後のスワスチカを残すこととなった。私はそれを評価しないほど狭量ではないよ」

「は。しかし私の行いは、貴方の」

「卿が裏切ることなど一世紀前から知っていた、そうだろう?」

「…………」

 ヴァレリア・トリファの企みは成就を前にしている。

 それは即ち、ラインハルトが現世に帰還できず、機会を次に持ち越すということだ。

 しかし、当のラインハルト本人は愉快げにそれを許している。

「悲しいことに卿らのそれさえも、私にとっては既知でしかないが。しかし夢を抱え、成し遂げようとするその姿はたとえ既知であろうとも愛すべきものだ。故に、だ」

 ラインハルトが三者に視線を向ける。

 その場の全員に向けて、己の意思を告げた。

「誓おう。私は第八のスワスチカが開くまで、何もしない。励むがいい」

 静寂が、場を支配した。

 誰もがその言葉の意味を理解し、咀嚼し、それ故に何も言えなかった。

「我が愛しき軍勢たちよ、戦うがいい。勝ち取るがいい。それこそが愛だ。私がそれの何を否定しようか、止めなどせんよ」

「あー、それはつまり、全部許すよってことでいいっすか?」

「無論だ。卿が作り上げた、あの我がグラズヘイムの似姿もな。卿の目的が何であろうと、好きに振る舞うがいい」

「捕虜も自由に使ってよろしいと?」

 アルフレートが嫌らしい笑顔を受かべる。

 その様子にラインハルトは苦笑し、

「ああ、だが、ナウヨックスよ。あれらの誇りは、なるべく汲んでやれ。卿からすればより自由に、より悪辣に行きたいところであろうが」

「……あー、はいはいヤヴォール。閣下のご機嫌は損ねずに行きますよっと」

「まあ、そちらの軍門に囚われた時点で、あれらの望む戦いとはならんだろうが、私としても見応えのある戦いを望むよ」

「気が変わって聖槍落としてこないよう努力しまーす。えー、そんじゃあマキナ卿」

「……何だ」

 名前を呼びつけられ、マキナがアルフレートを睨む。

 その眼力に怯まず、アルフレートは提案を投げかけた。

「折角だし、ここは和平交渉でも行おうよ。各々の目的を邪魔しないためにさ」

 

 

 

 

 櫻井螢という少女は、黒円卓の縁者だ。

 櫻井武蔵を始まりとする、黒円卓の聖槍に呪われた系譜。

 その一族は黒円卓の下部組織によって常に監視され、両親は自分が生まれた時に殺され、籠の中で生贄となる日を待たされる、そのような運命だった。

 しかし、その運命は早々に破却された。

 とある男の手によって彼女とのその兄は黒円卓の監視から脱走した。

 彼女にとっては物心つく前からその男と、兄との放浪生活が常であり、物心ついた後も暫くそれが当然のことだと思っていて。

 やがて幼さが抜けきった頃、自身もこの放浪は何かがおかしく、自分たちは何かに追われているのだ、と理解できた頃、父親代わりの男から、全てを聞かされた。

 黒円卓という組織と、自身の血筋の因縁。

 そして、それがまだ終わっていない、ということに。

「まあ、私の身の上はこんなところよ」

 司狼がグラスに注いだ酒を何のことはないように飲みながら、螢は己を語る内容を、興味津々にグラスを取ろうとするマリィを抑えながら蓮は聞いていた。

「理解してくれたかしら。なるべく分かりやすく言ったつもりだけど。私と黒円卓の関係。黒円卓の聖槍、という聖遺物の持つ特性。その成れの果てがトバルカインだという事実。疑いたい部分は好きに疑ってくれればいいわ」

 この場において今更疑いなど何の意味もない、そう螢は割り切る。

 結局、誰も彼もが自分の都合なのだから。

「私の目的は、黒円卓の聖槍の完全破壊。そのために、復活したアルフレート・ナウヨックスを討伐しなければならない。協力してとは言わないけど、どうせ敵は同じでしょ。信用ならないならこっちは勝手にするから、そっちも勝手にすればいい」

「……まあこっちも、別にそれでいいけどよ。お前、戦えるのか」

「私も聖遺物の使徒よ。名誉のために言うけど食った魂は敵か悪人くらいだから」

 螢は指先に火を灯す。

 種も仕掛けもない。活動位階による現象操作だった。

「私は、色んな人に守られてきたから。守られてきた分、成し遂げないといけないの。別に貴方達のことを侮辱するわけではないけど、もし今回の戦いで貴方と黒円卓の決着がつかず、トバルカインが消え、黒円卓の聖槍が破壊されなければ、次のトバルカインに私か兄さんが選ばれることになる。怯えながら暮らすのは、もううんざりなのよ」

 その眼差しは強く、瞳の中に確かな情熱があった。

 半信半疑だった蓮も、それを見て櫻井螢という少女の意思を理解する。

 両者の剣呑な雰囲気が若干薄れた。

 尚薄れるまでの間マリィは二人の間でおろおろしていた。

「私は私の情熱のままにここにいる。兄さんの反対だって押し切ったもの。あんな連中とはきっちりさっぱり縁を切って、こんなやくざ業界からは足抜けして、幸せなお嫁さんを目指すのよ」

「お前やっぱどっかズレてるよな」

「何よ。私の夢がおかしいわけ」

「このタイミングでそういう事言うのがおかしいっつってんだよ馬鹿」

 別に大多数の少女の夢を否定するつもりはないものの、つまるところ空気読め。

 ひょっとしなくてもこの女、空回りしている馬鹿なのでは。

 蓮はそう疑問を持つ、どことなく類似している金髪の赤ジャージを思い浮かべ、

「帰ったぞ」

「只今戻りましたー」

 丁度脳内イメージがそのまま帰ってきたのを見て、思いっきり眉をひそめた。

「ん、なんですかその反応は。お姉さんに失礼だと思いませんか」

「うるせえよ」

 ぷんすこという擬音が聞こえてきそうなベアトリスの振る舞いを見れば、蓮もそうせざるを得なかった。

 一方若干疲労の色が見られるヴァルターはその場の異分子である螢を見る。

「事情説明は終わったか、櫻井螢」

「ええ、つつがなく。そちらもお疲れ様です、ヴァルターさん、ベアトリスさん。首尾はどうでしたか」

「第六まではなんとか、だな。第七以降を仕込むには、時間も余力もない」

 蓮が眠っている間に諸々の紹介や情報交換は終えていたのだろう、自然と話を交わし、ソファーに座る。

「んじゃー、保留にしといた話の続きと行こうぜ。具体的には蓮、お前がオチちまった後何があったのか、そんでこれからどうするか、ってとこだ」

 司狼が改めてことのあらましを他の視点を交えて語る。

 司狼はルサルカがトバルカイン……アルフレートに潰された後その死の間際にルサルカの聖遺物と保有する魂の一部を掠め取り、その肉を食らい返し復活したこと。

 蓮達の後を追い途中で同じ方に向かう不審なバイクの女櫻井螢を見つけたこと。

 素性もそこそこに行く道に立ち塞がりちょっとそのバイクを貰おうとしたこと。

 苦節折々あって休戦協定を結び二人乗りで現場に向かい、黒い巨人……ナコト・ファンタズマゴリアが現れ蓮が気を失ったタイミングで戦場に乱入したこと。

 暴れる巨人と無精髭の男を背にヴァルターが殿につき、戦線の離脱に成功したこと。

「ちょっと貰おうとしただけ? 拳銃向けて脅迫の間違いじゃない?」

「まーまー固いこと言いなさんなって。ま、そんな感じでこの女と、気絶したお前と、妖怪赤ジャージで撤退したってわけよ。ヴァルターの兄さんもこの通り無事に帰ってきたわけで」

「……こっちもやることがあったからな。早々に帰還するわけには行かなかった。それも含めて、此処から先について話したいと思う」

 ヴァルターが指を組み、目を伏せる。

 若干の思考、内容の整理を行い、そして語り始めた。

「現在、スワスチカは七つ空いている。残るスワスチカは病院のみ。現在確定している敵は三人。ヴァレリア・トリファ、ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン、そして……復活したアルフレート。少なくともアルフレートは既に病院に陣取っている」

「神父曰く黄金錬成を歪め、ラインハルトを封じたまま儀式を完成させるって話だが……」

「どうだかな。まあ、それは今はどうでもいいことだ。俺が殿として確認したことだが、マキナはあの時アルフレートやクリストフとは敵対していた。しかし、ナコト・ファンタズマゴリアによるこの街の魂の簒奪を引き金として、ラインハルトがグラズヘイムを召喚した。その時点でマキナは争いをやめた。その後どういうやり取りがあったのかは知らないが、共倒れは期待しないほうがいい」

 黄金の城はただ現れたのみ、未だ沈黙を保っていた。

 それがラインハルトの意思であると、そう示していた。

「現段階でハイドリヒがこれ以上の動きを見せていないということは、この状況をハイドリヒが許したということだろうよ」

「どうする、べきなんでしょうか。ハイドリヒ卿と、ナウヨックス少佐と……」

 ベアトリスが僅かに当惑の色を込めて呟いた。

「というか、だいたいナウヨックス少佐はどういうつもりで、あの人が年々おかしくなっていた事はわかってますし、目的を論ずるのも馬鹿馬鹿しいのかもしれませんけど、それでも……」

「あいつの目的なら」

 ヴァルターが眉根を寄せ、斜め上を見ながら呟く。

 呆れた奴だ、そんなことを口走って言うような表情で。

「まあ、概ね察しはついてるよ」

「え? マジっすか先輩」

「だが結局の所、本筋とは関係ない話だ。気にしなくていい。アルフレートは俺が片付ける。アレの始末はこっちの責任だからな。結局の所やることは変わらないよ。全ての敵を滅ぼし、ハイドリヒを討たねばならん」

「気にしなくていいって……そういうわけには」

「いいんだ、気にしなくても」

 ぴしゃりとベアトリスの言葉を堰き止め、ヴァルターは螢を見た。

「あれの手札の枚数は未知数だ、恐らく乱戦になる」

「ええ。彼と貴方の因縁は承知しています。何が何でも戦わせろとは言いません。私よりも貴方のほうが強い。黒円卓の聖槍は確実に破壊すると保証していただけるのなら」

「そちらの戦力は?」

「兄は今も遠くの地で黒円卓下部組織の足止めに回っています。間に合うかどうか……諏訪原には保護者と私の二人で来ましたが……あの人は、後は各々勝手にしろと言ってどこかに行ってしまいました」

「どういった存在なんだ、その保護者とやらは」

「あの人曰く、ナウヨックス式の機関人間(エンジンヒューマン)、その試作一号。長年彼の片腕として暗躍し、相当深い部分まで把握していたらしいです。ナウヨックスの計画のことも。鋼鉄の男(マン・オブ・スティール)を名乗るあの人について、私の知ることは多くはありません。何か独自の思惑があって行動しているとしか」

「あてにするな、ってことだな。分かりやすくて助かる」

 ヴァルターがぐるりとその場を見渡す。

 蓮を見て、マリィを見て、司狼を見て、玲愛を見て、螢を見て、ベアトリスを見て。

 そして、おもむろに時計を出し、テーブルの上にセットした。

 

「――時間を取ろう。日付の変わり目と同時に最後のスワスチカに攻め入る。その間、最後の休憩時間だ。向こうが何か動き出さない限り、休むなり話したいことを話すなり、考え事に整理をつけるなり、やり残しのないように」

 

 

 

 

 ヴァルターは時計を置くなり席を立ち、ベアトリスはそれに続いた。

 司狼はというとんじゃ酒盛りしてくるわと螢を連れて酒蔵の方へと消えた。

 各々それっぽい理由付けなどついでのことで、色々と話すこともあるのだろう。

 その場には蓮と、マリィと、玲愛だけが残った。

「レン、大丈夫?」

 怒涛の展開だった、この戦いに巻き込まれた時より尚も。

 心配し顔を覗き込んでくるマリィに、蓮は深呼吸をして応えた。

「ああ、大丈夫だ。ありがとう、マリィ」

「うん。次で、最後なんだよね」

「ああ。こっから先は一気に駆け抜ける。無理、させちまうかもしれないけど」

「いいの。一緒に無理するから、そう決めたから、ね?」

「……ああ、そうだな」

 最後の敵。

 アルフレート・ナウヨックス、底知れない不気味な小男。

 ヴァレリア・トリファ、黄金の肉体を持つ無敵の鎧を持つ男。

 そして、そう。

 その二人を認識して尚、蓮の脳内には一つの影がこびりついている。

 殺意をかたちにしたかのような、黒のストラを纏う巨漢。

 自分は、あの男を、知っている、ような。

「関係ねえよ、関係ねえ」

 例え、知っていたのだとしても。

 自分ではない自分が知っていたのだとしても、関係ない。

 自分は、藤井蓮なのだから。

 しかし、予感は既に確信だった。

 乱戦になる、とヴァルターは言っていた、もしそうであるのなら。

自分が戦うのは、あの男だと。

「勝つさ。そうだろ、マリィ」

「うん。勝とうね、レン」

 例えどんな因縁があろうとも、今この瞬間より尊いものなど無い。

 藤井蓮の戦う理由は、この刹那を守るため、ただそれだけのために。

 迷いが生じようと、水銀の思惑があろうと、それを振り切ることだってできる。

「ねえ」

 そう思いを馳せている二人に、冷水のような温度の低い声がかかる。

 放置されていたもう一人の声が。

「君たち私のことを存在しないものとして扱ってない? 見ない間に随分薄情な後輩になったもんだね、浮気者」

「え? いや……先輩なら気を使わなくても勝手に喋りだすかなって」

「ほとほと失礼に成り果てたね藤井くん。所詮私は二番目の女ってこと」

「いやあの……その……先輩、俺は、ですね」

 むくれる玲愛は困り顔から決意の顔に変わる蓮の表情を見て、ため息を吐いた。

「いいよ、分かってるから。藤井くんも、分かってて、選んだんだよね」

「……先輩」

「だから、いいよ。藤井くんは藤井くんのありたいままにあればいいの。私はただ、そんな君を好きでいるだけだから」

 私の愛は見返りを求めないんだよ、そう、普段の調子で返される。

「……納得してるなら、その手元の酒をこっちに渡してください。駄目ですよ、司狼の持ってくる酒なんて飲んじゃ」

「私の唯一の逃げ道を奪い去ろうというの。それだけは許されないよ」

「酔って忘れるだなんて高校生のすることじゃありませんって」

「私は大人だよ。そして大人には酔わないとやってられない時があるんだよ。会社での微妙な立場、下らない上司の戯言、貯まり続けるストレス、不眠症な夜。睡眠剤とアルコールはそんな全ての人類の味方なんだよ」

「うらみちお兄さんは反面教師であって教師じゃないでしょ! もっと立派に生きれるルートを探して下さいよ」

「現在進行系で立派に生きる云々から最も外れてる環境にいる君と私が言えたことじゃあないよ」

「だとしてもです」

 結果、胸に抱き寄せたグラスは蓮に奪い取られ、ますますむくれる玲愛。

 ぶーぶー濁った音で抗議する玲愛を甘やかさない蓮。

 グラスに手を伸ばそうとするマリィ。

 マリィの手をはたき落とす蓮。

 玲愛を真似てぶーぶー言い出すマリィ。

 それに迎合する玲愛。

 そして合唱される文句の音。

 最終的に悪者的な扱いをされる蓮。

 悪者は額に手を当ててため息を吐いた。

「……くっ」

 そして、小さく笑みを零した。

「? どうしたの、レン」

「いや、この感じがな。何時も通りだなって」

 司狼にからかわれ、香純に説教され、玲愛のところに逃げ込みつつ対価として結局からからかわれる。

 この個性の塊のような面々の中の、貧乏くじを引く係。

 しかし、そんな空気が悪くなかった。

「確信したよ。この戦いが終わった後、マリィもきっと一緒に笑い合える」

「本当? 本当なら、嬉しいな!」

「勿論。ですよね、先輩」

「え? どうだろ、むしろお邪魔虫……」

「えっ……」

「ちょ、あんた」

「冗談、冗談だよ。そんな悲壮な顔しないで、悪い事してるみたいじゃない」

「悪いことじゃないですか……」

「すっかり甘いね、誰の影響だか知らないけれど」

「甘いですかね……? 影響……? ……まさかな、いや、俺はあの二人ほどではないから。ないない、あんな砂糖の嵐を巻き起こすダダ甘カップルとかじゃないから」

 お前もあの二人と遜色ないよ。

 きっと第三者がいればそのように言っただろう。

「まあ、ね。藤井くんが色々悪いと思っているのなら」

 玲愛が透き通った目で蓮とマリィを見つめる。

 余人には何を考えているのかわからないと称される、しかし二人にはそれが心から案じる目だと分かった。

「その子連れて、無事に帰ってきなさい。じゃないと、相性が良いも悪いもないよ。金髪ちゃんも、私とおしゃべりするのこれで最後なんて言わないよね」

「……! うん、うん! いっぱいおしゃべりしよう、センパイ!」

 その言葉に、マリィはこれ以上なく喜んで。

「分かってますよ。絶対に帰ってくるんで――待っててください、先輩」

 蓮も、同様に返す。

 愛すべき日常に帰る決意を大いに固めて。

「…………うん?」

 しかし。

 玲愛はその言葉に、何か小首を傾げた。

「藤井くん。今の言葉、りぴーと・あふたー・ゆー」

「は? 何かおかしいこと言いました? ただ、絶対に帰ってくるんで待っててくださいって……いてッ!?」

 玲愛は床に転がっていたヘルメットを無造作に投げつけた。

 殺意の欠片もない愛らしい害意に蓮は反応できず、ヘルメットは側頭部に当たり蓮の頭を揺らした。

「何を馬鹿なことを言っているのかね。君はアレだね? 最後の戦いを前にして私をお留守番させようとしているね?」

「え、まさか先輩、来るつもりですか!?」

「あたぼうよ」

「けど、先輩は……」

「私のことは概ねもう知ってるんだよね。この街のスワスチカってやつに捧げられる生贄だって。で、神父様は私を生贄にさせないって言ってたね」

 手の指を数え立てて玲愛は言う。

 それらの事実と、あの時感じた感覚を踏まえて。

「多分だけど、神父様は私の代わりに綾瀬さんを生贄にするつもりなんだよ。そして、そのために私に何かしようとしている」

「なッ、それは!?」

「だから、私を置いていったりしたらか弱い私は攫われちゃうことは分かるよね?」

「それは……そうかも、しれませんけど」

「何、守ってくれだなんて言わないよ。むしろその逆」

 玲愛は蓮の間近で膝を折り、視線を合わせる。

 瞳の中の輝きは、決意の色に満ちているようだった。

 

「神父様は、私に任せてくれないかな。藤井くん」

 

 

 

 

「で、何。何の用、遊佐くん」

「まあまあ本題に入る前に駆けつけ一杯」

 そう言ってグラスに新たな酒がつがれる。

 そのボトルと、グラスから香るアルコールの強さを感じ、螢が顔を顰める。

「さっきも思ったけど、駆けつけ一杯なんて言うようなお酒じゃないわよねこれ」

「けど飲めんじゃん。ま、蓮の方もヴァルターの兄さんの方も最後のロマンスがあるだろうし? こっちは空気を読んで余り者同士で寄り集まろうってわけ。思うに、それなりにいける口だろ?」

「ま、聖遺物の使徒であることを抜きにしても飲めるから別にいいけど」

 司狼と螢の二人はバーラウンジで酒の入ったグラスを傾ける。

 方やこの世の善悪全てに手を出そうと、当然浴びるように酒も飲んだ不良中の不良。

 方や長い諸国の放浪生活の中秩序も何もあったものではなく、子供の頃から飲酒も何のそのであった少女。

 当然のように少年少女の外見で酒を煽り始めた。

 どこかで誰かが螢、お酒なんて飲んじゃいけない、と言ったような気がした。

 しかし螢は無視した。

 何時だって苦労するのは兄さんなのだ。

「まあ、何だ。蓮もヴァルターの兄さんも、パイセンもジャージ女も、それなりの因縁があるわけじゃん? 最後の戦い、誰が誰と戦うことになんのか、ほぼほぼ決まってるようなもんだ」

 グラスの中の氷を揺らしながら、司狼はどこか別のところを見つめている。

 即ち、その時自分はどこにいるのか。

「俺はな、横槍をいれんのは大好きだが邪魔をしたい、ってわけじゃねえのよ。つまりだ……なあ、心当たりあるんじゃねえのか。今上がってる名前以外に、何が来る? 俺らの相手はそいつになりそうだろ」

「……意外と友達思いなのね」

 友達、という言葉にどこか自嘲するような反応を見せる。

 友情、蓮との関係を果たしてそう呼んでもいいものか。

 自分はそういうものなのか。

 だが、そのあたりの本能的な何かは一切合切ごまかして。

「さてね。で、どうなん?」

 司狼の問いかけに、螢は顎に手を当てて思考に入る。

 先の状況、自分の知る敵の情報を顧みて。

「……多分、だけどね」

 ややあって、口を開く。

 確証ではない、ないが、恐らく、といった表情で。

 片手間では絶対に済まない、命がけで相対するべきものがまだいることを。

 

「白騎士と赤騎士は殺されたのではない。奴の支配下に置かれたのよ」

 

 

 

 

「その、ありがとうございます。時間、作ってくれて」

「ベアトリスだけの問題じゃないよ。俺も、皆にも、必要なことだ」

「……ですか、ですね」

「俺も、あのバカについて整理しておくことはある。それを外に出さないだけでな」

「ナウヨックス少佐の目的、ってやつですか」

「…………」

 ヴァルターとベアトリスは個室の椅子とベッドに腰掛け向かい合っていた。

 思案からくる迷いを、たとえほんの僅かだとしてもそれぞれが感じていた。

「結論は変わらない。俺の言うことは変わらないよ。気にする必要はない」

「気にさせてくれないんですか」

「ああ、こればっかりはな。本当に関係のないことだ、本当にどうしようもない」

「ずるいです」

「悪い」

「許しますけど」

「苦労をかけてるか」

「苦労じゃないからいいです。だから……」

 だから、一つ。

 こちらからも、要求をする。

 ベアトリスはずっと悩んでいたことを、そしてこのままであればその悩みについて何かを言ってしまうのだろうヴァルターを。

 それを封じ込めるために、要求をする。

「ヴァルターさん。ヴィッテンブルグ少佐は、どうなってしまったのでしょう」

「それは……分からない。アルフレートのことだ、何をやったかも知れん」

「ええ。ですので、私は剣を向ける先を一つ、失ってしまったのかも知れません」

「そうだな。だから――」

 そう、それを、ベアトリスは遮った。

「きっと、貴方は尚も言うのでしょう。気にしなくてもいい、私は私のことを一番に考えて、って。だから、私はそれを拒否します」

 ベッドから勢いよく飛び降り、ヴァルターに近づく。

 頬に手を当てられる距離、視線と視線が合う距離まで、近づいて。

「私は、貴方の力になる。この先何が起ころうとも、それを絶対に諦めない。たとえこの身の全ての雷を散らしてしまうとしても、貴方と一緒に行くことを、許して下さい」

「……お前、それは」

「長年経って、また心が揺れちゃってたけど。私、欲張りだから。全部、全部手に入れる。だから、最後には絶対に駆けつけるから。絶対に、絶対。約束だよ」

「…………」

 そう、何があろうとも、だ。

 ベアトリスは、そう決めた。

 全てをこの手に、最後までたどり着く。

 あの日、誓ったときと同じように、もう一度。

「だが、俺は」

「大丈夫! 私、勝つから! 勝って、絶対駆けつける。だから……ね?」

 一瞬、迷いに彩られたヴァルターの瞳の中を、笑顔で覗き込む。

 私の為に、貴方の為に。

 その二つの天秤を強引に釣り合わせたベアトリスが、それを瞳を通して見せつけるかのようにしてくるものだから。

 ヴァルターもまた、いつかのように。

「――分かった」

 それは、諦めではないことを、知っているから。

 その手を伸ばして。

 

「頼りにしてる。俺を助けて欲しい、ベアトリス」

「はい。私が、貴方を救います。何があろうと、どこにあろうと」

 

 そして、二人は誓いの口づけをした。

 

 

 




この後エロゲー特有のピーがありますが割愛されます。



第八のスワスチカ決戦

ヴァルターVSアルフレート
蓮VSマキナ
玲愛VSヴァレリア
ベアトリスVS偽・赤騎士
司狼、螢VS偽・白騎士

こんな感じ

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