β Ewigkeit:Fragments   作:影次

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理想:これから帰宅後毎日書くぞ! もう社畜じゃないから六時に帰れるもんね!

現実:zzzzzzzzz


Last Fragments:餓狼の心が凍てつくのなら、剣を通し火を灯せ

「UUUUUUUUUUUUUUUUUUOOOOOOOOOOOOOON!!!!!!!!!」

 それは嵐だった。

 風無き場所、隔離された空白の世界に巻き起こる嵐。

 その軌跡は風が描くものではなく、流星の如き人が描くもの。

 しかし、それは星ではなく、餓狼だ。

 心の臓まで凍てつかせた、氷原の餓狼。

 その体躯は鋼鉄、下半身は車輪と化し、上半身は既に叫声を上げるのみの装置。

 餓狼が描く嵐の只中、台風の目とも言える場所に、二人は背を向け合い立っていた。

「完全にイッてやがるな、ただ暴れることしか頭の中にねえらしい」

「ナウヨックスがそういう改造をしたんでしょう。そのほうが強くなるのか、それともそのほうが都合が良かったのかは知らないけどね」

 司狼と螢は既に全身血濡れだった。

 吹き荒れる風の余波さえ肌を裂くこの場で、二人は何とか命を繋いでいた。

「白騎士、だったか? 絶対先制の創造、ただ最速で轢き潰すだけの狼。話に聞くのと実際に見るのとじゃクソゲー感が違うわな。で、おたくなんかいい考えある?」

「ないわよ。そういう小賢しいのは遊佐くんの領分でしょ。私が生きているうちになんとかしてくれないかしら?」

「おいおいこの女肝心なとこ丸投げしやがった。ストーリー終盤で加入するキャラとは思えねえ……ぜッ!!!」

 軽口を叩き合いながら司狼は突如斜め上へと発砲する。

 反動を考慮せずありったけの力で放たれたそれは嵐の中の敵にこそ当たることはないものの、反動で押し出された司狼の体は、そこを通り過ぎたものからかろうじて逃れた。

 あくまで体は、であるが。

「いって……これで持ってかれた腕何本目だ? 数えるのも億劫になってきたぜ」

 司狼の右腕は肩から抉り取られていた。

 嵐が止まり、上空に腕を削ぎ落としてくれた敵が見える。

 こちらの肉を削いだときのみそうして止まり、嵐の中から姿を見せるそれは、あろうことか司狼の右腕に食らいつき、咀嚼していた。

「ガフッ、ガフッ、ハ、ハハハ、ハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!」

「俺の腕がそんなに美味いかよサイコ野郎」

 鋼鉄の狼――かつてヴォルフガング・シュライバーだったものの成れの果ては、笑いながら肉を食み、骨を砕き、それを体の一部とする。

 冷たい鋼鉄の中に残された最後の欲望を前に、司狼はうんざりといった顔をする。

 そしてシュライバーが腕を食らっているうちに懐からアンプルを取り出し、

「よっと」

 それを失った腕の方の肩へと突き刺す。

 瞬間、アンプル内の薬剤が体内に注入される。

 融合型の魔人の持つ再生特性を著しく暴走させるその薬剤は遺憾なくその効能を発揮し、

「うし、問題なし」

 司狼は即座に失った右腕を再生させた。

 既に、何度も繰り返したことだった。

 病院にたどり着くや、前口上もそこそこに数式領域(クラッキングフィールド)が展開され、司狼と螢は蓮やヴァルター達とは分断されここに叩き込まれた。

 おそらく他の連中も同じように分断され、相応しい敵と相対しているのだろう。

 遊佐司狼と櫻井螢にあてがわれた配役は、最速の白騎士、その成れの果て。

 領域に叩き込まれるやいなや光速の突貫に襲われた二人は既に瀕死であり、その後瀕死のまま抗っていた。

「こんなゴキゲンな場所に叩き込んでくれた野郎の作ったモンで生かされてんだからたまんねえよな。おいなあ、そろそろ餌役変わってくれていいんじゃねえの?」

「え、無理。私貴方みたいに意味不明な直感とか何故か生き残れる運命力とかないから。あんなのが体掠めたら頭から粉々よ。盾はそっちがやって」

「ほんと役立たずで笑えるわ」

「人には向き不向きってものがあるの、よッ!!!」

 直後、螢が吹き飛ばされる。

 体の芯を捉えた突貫はまともに食らえば正しく粉々になっていただろう。

「……ったいわね、私はか弱い女の子なのよ……!」

 だが、そうはならない。

 直撃の瞬間剣を盾とした螢は、その直撃を受けても全身から血を吹き出すのみで生きていた。

「どこがか弱いだよ俺よりよっぽど対応できてんじゃねえか、やっぱ代われよ」

「見えてなんかいないわよ、半形成状態を維持して直撃の瞬間に緋緋色金(シャルラッハロート)を間に形成して滑り込ませて……後は来る衝撃を剣と全身に分散させて体外に放出、ダメージの八割を無効化してるだけ。衝撃を通した体内は内臓から神経までぐっちゃぐちゃになるけど、残ってるなら繋ぎ直せばいい。再生するよりはよっぽど楽よ」

 胃からせり上がってくる血の濁流を吐き捨てる。

 神経が途切れ動かない四肢をコンマ数秒で再接続し指と関節の動きを取り戻す。

 再び立ち上がった螢に、司狼は呆れた目を向けた。

「いや意味分からん。何人外バトルにまっとうな体術的なものを持ち出してきてるんだお前、俺のデジャヴの方がこの状況じゃまだ常識的だぜ」

「人間様の運動能力を舐めるんじゃないわよ。このくらいタツジンなら誰だって出来るわ。兄さんだって出来るし」

「マジかよタツジンこわ」

 嵐の中、こうして二人は軽口を叩き合い、背中を預ける。

 立ち向かうそれの荒唐無稽さを吹き飛ばすかのように。

「それで、いい加減この状況を抜け出す策は思いついたの? 何とか持たせてるけど……いい加減次か次の次くらいで死にそうよ。早くしなさい」

「ここまでスマートな他力本願されて怒らねえ俺って聖人か何かだよな。まあ、三手くらい前から考えついてることはあるんだけど」

「速く言いなさいよ」

「もったいぶりたいお年頃なんだよ。んじゃ、やってみますか……」

 腕の調子を確かめるように司狼は右腕を広げ、指を動かす。

 やがて指は虚空にある何かを握りしめるようなかたちとなり――

「手伝えよ、エリー。こっからが本番だぜ」

『ピンボールの時間は終わり? なら、出てあげるのもやぶさかじゃないわね』

 それは、虚空から現れる。

 司狼の掲げた手に重ね合わされる手が。

 既知感に感染された魂の同胞を、司狼は形成する。

「……魂の形成。本当、貴方っておかしいわ。一体何なのかしら」

「俺が何かって? 天才イケメン主人公様だよ覚えときな」

「やー、深く考えないほうがいいよ? こいつってこんなんだからさ」

 エリーは司狼の手を取っていない空いた方の手を螢に向ける。

「はい、掴まっといて。握手握手。離れないようにきっちりとね」

「……? はあ」

 螢は疑問を持ちつつもエリーの手を握り返す。

 そして、握った瞬間司狼の一部であるエリーの腕から鎖が飛び出し、螢の腕をがんじがらめに縛り付けあろうことか刃をその腕に突き刺して支えとした。

「……は? ちょ、痛いんだけど、何」

「ごめんねー、こうでもしないとふっ飛ばされそうだから」

 突然腕を串刺しにされ、えっこれって友達としてありなのかしらと大困惑する螢を傍らに、司狼とエリーは上空を見据える。

 幾度とない攻撃を受ける中気付いた、突貫の直前に聞こえる駆動音。

 キュラキュラと鳴るほんの微かな音を、二人は正確に聞き分けて。

「――ここだオラァ!!!!!!」

 瞬間、司狼は体内からあらゆる武装を放出した。

 四方八方に伸びる鎖、それに取り付けられた数多の球体、薬品。

 アルフレート・ナウヨックスの遺産である対魔人用超兵器群。

「ちょッ……きゃあ!!!???」

 螢の視界を閃光が焼き、鼓膜を爆音が潰した。

 霊的装甲を貫通するそれは味方に甚大な被害をもたらし、しかし鋼と化したシュライバーには毛程の効果もない。

 そう、毛ほどにはなく、爪先程度には効いた。

 煩わしげに身じろぎした瞬間を、鎖が掠める。

 そして螢は全身が抗いようのない力に引っ張られ、光の中に飛び込んだと錯覚した。

「――――!?」

 状況が把握できない、早急に潰れた五感を再生させる。

 再生させるたびに自身が恐ろしい状況に置かれていることを感じ始めるが、それでも螢は焼けた視界を戻し、破れた鼓膜を繋ぎ、今自身がいる世界を感じる。

「よう、いい御身分だったなねぼすけ」

「脳みそしっかり詰まってる?」

「……うっそでしょ」

 全身を襲う衝撃と激痛に晒されながら、螢は現状を認識した。

 三人を繋ぐ鎖は更に前方に伸び、疾走する何かを捕まえ引き摺られている。

 あまりの速度と衝撃に何も見えないが、螢は確信できた。

 今、この鎖は白騎士を捕まえているのだと。

「どう足掻こうが俺たちをぶっ殺す以上俺達のいる場所が通過点なわけだからな。後はたんまり罠張って、なんとかしがみつくって寸法よ」

「ま、おかげで半身ふっ飛ばされちゃったけどね。もう鎖握ってるのが精一杯」

 見るに、司狼とエリーは無残な有様だった。

 体が正中線から半分しか残っていない。

 融合型の魔人はこの程度では絶命しない、と分かっていても、この状況ではあまりに致命的な負傷だった。

 この二人はもう、現状を打開できないということなのだから。

「ごふっ……ってなわけで、命懸けで奴さんを捕まえてやったわけなんだが? お前からはそろそろなんかないわけ?」

「ごほっ……いい加減役に立ってよ真打ちさん? こんなんじゃ友情には値しないんじゃない?」

「……貴方達って本当に」

 鎖を握る手に熱がこもる。

 シュライバーに引っ掛けているこの鎖だけは、今も砕けず千切れず三人を支えている。

 司狼が、この鎖だけは決して砕かせまいと魂のすべてを注いでいる。

「ええ、十分よ。最高の仕事だわ、二人共」

 そして、螢も。

 その四肢を失うことなく二人に庇われたことを認識したがゆえに、心に灯った熱が篝火となり、大きく揺らめいていくのを感じた。

 たとえ世界を違え、歴史を違えようとも、彼女の心にあるのは情熱の炎だった。

「後は任せて。ただ、断っておくけど……」

 剣を鎖に突き立てる。

 鎖の空洞に切っ先が収まり、小気味のいい音が鳴る。

「死ぬほど痛いけど、我慢しなさい」

「……はっ、誰に物言ってやがる」

 そして、祝詞が紡がれる。

 

『かれその神避りたまひし伊耶那美は 出雲の国と伯伎の国その堺なる比婆の山に葬めまつりき』

 

 火が灯る。

 私に賭けるものがいる、私に託すものがいる。

 ならばくべよう、高々と燃えるように。

 

『ここに伊耶那岐 御佩せる十拳剣を抜きて その子迦具土の頚を斬りたまひき』

 

 それはさながら連環の如く。

 冷え切った鋼の鎖に熱が通る。

 奔る赤熱が嵐の向こうにさえ届くように。

 これは、凍てつく狼の心臓を貫く、炎の抱擁である。

 

 

『創造――爾天神之命以(ここにあまつかみのみこともちて)布斗麻邇爾ト相而詔之(ふとまにうらへてのりたまひつらく)!!!』

 

 

 炎が疾走した。

 司狼の繋げた鎖を辿り、その肉体全てを炎と化した螢が鎖の道を燃やし走る。

 自らの肉体さえ巻き込んで炎上する鎖を、司狼とエリーは凄絶な笑みを浮かべながら見送って。

 連環が故に速度は意味を成さず、炎の道は確実に彼我の距離を縮め、そして。

 

「――捕まえたわよ、暴れ狼」

「――が、ああああああああああああああああああああああああ!!!???」

 螢は炎と化したままシュライバーの上半身を後方から羽交い締めにした。

 意味不明な叫声を上げるだけだったシュライバーが悲鳴を上げる。

 炎の抱擁を受けたシュライバーはその全身に炎を伝播させる。

「ああ、あああ、ああああああ!!!!!! 痛い、熱い、いたい、いたい、僕に触れるな、ぼくにふれるなあああああああああ!!!」

「ぐっ……!? 燃やした端から再生していく……どうやったら死ぬのかしら」

 正に、最速の騎士に対する致命打だった。

 しかし、それだけでは終わってはくれない。

 その性能のみを頂点まで引き出されたシュライバーは、如何に傷つけようとその膨大な魂の量で延々と再生していく。

 どこかに向けた恨み言を叫びながら、発狂した狼は燃えながら疾走を続ける。

「父さんも、母さんも、誰も、誰にも!!! 僕は触れられない、追いつけない!!! なのにどうして、どうしてええええええええええええええ!!!!!!」

「……貴方にも、色々あるのかも知れないけど」

 シュライバーの腕が振るわれ、螢の体もそのたびに消し飛んでいく。

 だが、心に灯る火が消えない限り、螢の炎もまた尽きることなく湧き出してくる。

 無論そんなものはただの比喩であり、エイヴィヒカイトである以上魂という燃料が尽きればそれまでだ。

 だが、それでも。

「けど、どうでもいいわ。だって知らないもの。貴方だって知らないから踏み躙ってこれたんでしょう。そして、きっとナウヨックスも貴方なんて知らないと思ったからこそ貴方をそんな有様にしたのね。最初から遊ぶことなく殺しに来ていれば私も遊佐くんも今頃粉微塵だったでしょうに」

「ああ、あああ、あああああああああ!!!???」

「我慢比べなら付き合ってあげる。貴方はここで、私と永劫燃え続けなさい。それが、哀れな貴方に私があげられる最後の温もりというものよ!!!」

「さわるな、さわるな、だきし、めないで、だきしめないでよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 そして、燃える流星があかあかと、軌跡も見えぬほどに空を赤く塗りつぶす。

 何分、何秒だろうか、情熱の炎は狼の心を燃やし続ける。

 しかし、根本的に、魂の量という絶対差を覆すことはできない。

 シュライバーの体が崩れ去っていくよりも速く、炎が勢いを失っていく。

 

 彼らは順当に抗い、順当に敗北する。

 だが、それでも。

 

 その時、空間を黒い茨が引き裂いて。

 その先から、永遠の刹那が流れ出して――

 




なんで螢ちゃんはこんなことになってしまったんでしょうか(まがお

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