β Ewigkeit:Fragments   作:影次

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よーしなんとか間に合ったぞ、ベア子回。
明日からまたお仕事です。果たして私は眠らずにいられるのでしょうか。


Last Fragments:炎よ、焼き焦がす怒りでなく、導きの光であれ

「ふん、笑いたければ笑え。この私があろうことかハイドリヒ卿の幕下から離れこのザマだ」

「笑いませんよ。今も、昔も。私が貴方に抱く思いは……敬意と失望だけです」

 鋼鉄の女傑が葉巻から紫煙をふかす。

 今やその心のみならず肉体さえ鋼と化した、しかし狂乱の只中にある白騎士とは違い確かな意思があるのが見て取れた。

「今ここに立つ私が抱く思いは二つ。天上にありしハイドリヒ卿に恥じぬ戦いを捧げること。そして貴様だけは、私の手で。それだけが、私に残った最後のものだ」

「そうですか。私もそのはずだったんですけどね、色々と抱えるものが増えてしまって。けど、それで良かったんだと思ってます」

 ただ二人しかいない数式領域の中で、交わす言葉は不思議なほど凪いでいて。

 何故なら、彼女らは知っていた。

 その身に秘めるもの、凄絶なる炎と雷の輝きを。

 だから、今更威を示す意味などなかった。

 エレオノーレにとってこの場は既に聖戦ではなく、しかしそれ故に今はベアトリスのみを見ていた。

 ベアトリスにとってこの場は既に聖戦ではなく、しかしそれ故に今はエレオノーレとの戦いにあるものの先を見つめていた。

「人は、一つのものに縋って生きてはいけないんですよ。少佐」

「渇望に全てを捧げた聖遺物の使徒の言う言葉ではないな」

「それは、貴方の、貴方達の目が曇っているだけです。蹂躙する力を手に入れて、それが頂点であると錯覚してしまった、哀れな方」

「ほざけ。貴様の如き手弱女が人生訓を語るなど千年早いわ」

「ならば試してみますか? 私ももう、出し惜しみする理由はありませんから」

 嘗ての上官を、憧れ続けた大炎を前に、ベアトリスはごく自然体な笑みを浮かべる。

 見得を切る様に軽快に腕を交差し打ち鳴らすと、その両腕には機械篭手(マシンアーム)が。

 腕を下ろせば、通過した腰元には機械帯(マシンベルト)が。

 そして右手を正面に突き出せば、紫電とともに雷の剣が来る。

「雷電、装神」

 さながら己を雷光とするように、戦士の誓約の言葉を掲げるように。

 彼女は鋼を纏い、雷を呼び出して。

「――さあ、やりましょう。貴方のいなかった私の半世紀は、まさに私の一生に足る時間だったことを思い知らせてやりますよ。今の私、貴方より強いですよ。ママ少佐!」

「たとえ永劫の時間があろうと、貴様は私のものだ。浮ついた反抗期は命を以て贖い、そして私がその生命を抱くことによって許してやろう――キルヒアイゼン!」

 そして炎が爆ぜ、雷が煌めいた。

 一切の動きなく突如爆ぜた空間の中を、ベアトリスは雷を纏い突き進む。

 形成時に展開した多重層電磁結界が飽和する炎の中砕かれていくのを感じながら、ベルト後部に取り付けた筒から黒針を掴み取る。

 魂を蓄えることができないベアトリスが持つ、力の供給手段。

 長い年月をかけベルトと剣より蓄積された余剰電力を宿す漆黒の鍵、三本。

「『ユピテル』ッ! 『レイゴン』ッ! 『ヴァジュラ』ッ!」

 それを、ベルト中央の五つの空洞に差し込んで。

 紫電は蒼く、そして金色の輝きへと変成していく。

 黄金の一閃が、飽和する炎を斬り裂いた。

灰燼の結末(カルシェール)を認めぬ限り、誰もがその心に黄金の輝きを持つ! 私の黄金時代(ゴールデンエイジ)は、今ここにある! 貴方が魅せられた世界は黄金なんかじゃない、滅びの末の灰燼だ! 黄金に、唯一絶対などあるものか!」

「我が心の黄金は、あの方に捧げたのだ! ならばこの身が灰燼であることに、何の諧謔があろうか! 私はあの方の炎に焼かれ続ける、あの方が唯一絶対なれば、あらゆる黄金は修羅道に集い絶対唯一を輝かせるための灰燼と化すがいい! それこそが、私の黄金時代(ゴールデンエイジ)だ!」

 その半身を鋼に侵され、四肢が歯車と化そうとも、赤騎士は変わらない。

 己が敵に屈した証である鋼の腕を掲げ、その誇りを叫ぶ。

「我が魂の黄金にかけて、クロイツ式《回路》の起動を開始する! 現在時刻を記録せよ、大時計!」

 チク・タク、チク・タク。

 それは誘いの音、眠りではない何かに、人を無意識に誘う音。

 世界の果てで響く音、誰かが、どこかで嘲笑う音。

「聖槍十三騎士団黒円卓第九位、エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグ! 今や血闘の領域を、我が焦熱の赤が支配する――さあ、剣を抜くぞ」

 呼応する大時計を見届けて、エレオノーレが指を鳴らす。

「ッ!!!」

 変容する肉体。

 歪む体躯からせり上がる砲塔。

 それを目の当たりにしベアトリスの表情が歪む。

「ふん、まさかマキナと同じ気分を味わうことになるとはな。私の剣に要らぬ機能を付随させてくれたものだ、ナウヨックスめ」

 やがて、エレオノーレの全身そのものが砲塔と化し、際限なく肥大化していく。

 砲身はやがて世界から姿を失い、砲口から覗く闇しか見えなくなる。

「これは……」

 

『彼ほど真実に誓いを守った者はなく 彼ほど誠実に契約を守った者もなく 彼ほど純粋に人を愛した者はいない』

 

 闇に囚われたベアトリスの耳に、エレオノーレの凱歌が届く。

 己の知るそれとは全く違う創造の歌声。

 薄々、そうではないかと彼女は思っていた。

 

『だが彼ほど総ての誓いと総ての契約 総ての愛を裏切った者もまたいない』

 

 果たして、騎士の剣というものを、黒円卓にて彼女が振るったことが今まであっただろうか。

 否である。

 魔人となってからの彼女はそれを意図的に封じてきた。

 あの時、時間牢獄にて新たな力を得た時から、ベアトリスはその可能性を見ていた。

 

『汝ら それが理解できるか 我を焦がすこの炎が 総ての穢れと総ての不浄を祓い清める』

 

 騎士とは仕えるものなれば。

 これは彼女が仕えてしまったあの黄金への歌。

 己のみのものではない、捧げるための渇望。

 

『祓いを及ぼし穢れを流し熔かし解放して尊きものへ 至高の黄金として輝かせよう』

 

 闇の向こうに光が見える。

 しかし、それは闇にあるものを救う光ではない。

 闇に囚われしものを、闇ごと滅ぼし尽くす烈火の光。

 

『すでに神々の黄昏は始まったゆえに 我はこの荘厳なるヴァルハラを燃やし尽くす者となる』

 

 熱風が肌を焼く。

 闇の世界が真っ赤に染まる。

 全身が、世界のすべてが炎で飽和する。

 炎の槍が、剣が、弾丸が、砲弾が、全方位より飛来する。

 逃げ場無き、焦熱世界。

 

 

『創造――焦熱世界(ムスペルヘイム)激痛の剣(レーヴァテイン)

 

 

「お、おおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」

 瞬間、ベアトリスは雷となった。

 行き場も落ち場もない炎獄の中を只ひたすらに駆け抜ける雷となった。

 止まれば死ぬ、ただそう直感した故に。

 空間を満たす炎を多重層電磁結界で防ぎ、超圧縮された炎の武装を回避する。

「がっは……ごほ、想定はしてましたけど、とんでもない剣ですね……」

 ベアトリスは致命傷を受けることのみを回避しつつ周囲を索敵する。

 この世界は永劫燃え続ける、たとえ炎の刃、炎の弾丸を回避できようとも、燃え続ける世界そのものを回避することはできない。

 今も結界は電力を散らし、ベアトリスは確実にその身にダメージを蓄積していた。

 よって長期戦は愚策、一息に全力を込めエレオノーレの首を取るしかない。

 ない、のだが。

「い、ない……一体どこへ!?」

 何度周囲を索敵しても、ベアトリスはいるはずのエレオノーレを感知できなかった。

 これが覇道型の創造である以上創造が及ぼす範囲内に本体は存在するはず。

 だというのに、見つからない。

 打倒するべき人型が、どこにも見えなかった。

『私としても不本意なのだがね。これがナウヨックスに施された改造だよ』

 エレオノーレの声が響いた。

 それはどこから、という次元ではなく、世界そのものから響く声だった。

『私の肉体が砲身そのものとなったのは見えただろう? 私の本来の創造は世界を砲身の内部に見立て、閉鎖された空間を遍く焼き尽くすものだ。当然、そこには本来私もいるさ。私の炎で私は傷つかんがね』

「肉体が、砲身……まさか、まさか!!!」

『やつの呪いによって、我が肉体は鋼と化し、聖遺物と融合させられた。その結果がこれだ。私の肉体は砲身の中に溶け、今やこの世界そのものであり、どこにもいない。この創造そのものが私の全身なのだよ』

 それは、それを聞いてベアトリスは愕然とし、思わず足が止まりかけた。

 討つべき急所の位置を失ったのだ。

 エレオノーレが人の形を失い総体として創造そのものとなったのなら、必要なのはこの世界そのものを打ち砕く純粋な力押しのみ。

 だが、それを可能とするのは覇道創造同士の衝突のみ。

 己を維持することに長けた求道の領分ではない。

 ただでさえ万能の強者であったエレオノーレが、数少ない肉体という急所さえ捨て去った。

 それは、世界の片隅を雷光で斬り開いた所で成す術があるものなのか。

「ぐッ!? この……!」

 焦りと動揺に支配された一瞬を、炎の槍が貫いた。

 痛みで我に返ったベアトリスは肩を貫いた槍を握り潰し再動する。

「どこだ、どこを狙えばいい……どうすれば……!?」

 不安を口ずさみながら、視線を彷徨わせながら、ベアトリスは再び焦熱世界を走る。

 炎の刃を斬り落とし、炎の弾丸をくぐり抜け、体力を、魂を削る疾走は、しかしこの現状を変える手段にはならない。

 やがてはそんな思考さえもする暇なく、ベアトリスはただ無心で走り続けた。

 盾にした左腕が焼け焦げ、焦熱の風が体内を焼いていき、数秒ごとに動きは精彩を欠いていく。

「が、ごぼッ……」

 やがてベアトリスは血を吐き膝をついた。

 足が、止まる。

 進退窮まったことを認めざるを得なかった。

 急激に弱った体を炎が焼き、弾幕が迫ってくるのを感じる。

 そして、ベアトリスは最後の一撃に踏み切った。

 残り二本の黒針を取り出し、ベルト中央部に叩き込む。

「――『トール』、『ペルクナス』ッ!!!!!!」

 五つの黒針、全ての余剰電力がベルトに収められ、急速に電力をチャージする。

 全身から放たれる余剰放電が、一時的に熱を遮断し炎の弾幕を消し飛ばした。

 眼光さえも雷と化し、ベアトリスは剣を篭手に突き立てる。

 宝剣の雷さえも篭手に総結集し解き放つ、破城の雷を左腕にて振りかぶり、

「電、刃ッ!!!!!!」

『愚直だな。貴様は昔からそれしか脳がない』

 どこを見るまでもなくただただ結集した力を上空に解き放とうとするベアトリスに、果たしてエレオノーレは失笑したのか。

 しかしその言い草とは裏腹に、上空にはベアトリスの一撃を迎え撃たんと炎が渦き、巨大な砲弾を形成しようとしていた。

『貴様の渾身程度で私の剣は破れんよ。全く、無駄な攻撃というものだ。だが……受けて立ってやろう。貴様を真っ向からねじ伏せねば、貴様も己の間違いを認めまい』

 愚直、そう言ったエレオノーレもまた愚直だった。

 出来の悪い部下の全力を受け入れ凌駕する、そのために動いた。

 炎の渦にエレオノーレが際限無く力を注ぎ込み、そこに小さな太陽が生まれる。

 その光景を、ベアトリスは然と見て。

 

「――ええ、貴方なら応えてくれると思っていましたよ。ヴィッテンブルグ少佐」

『――何?』

 

 瞬間、ベアトリスは解き放とうとしていた雷を霧散させた。

 雷の流れを腕から足へと切り替え、上空へと飛び立つ。

 そして、形成途中であった炎の渦の中に、剣を突き立てた。

『何を――貴様これは……!』

「待ってましたよこの瞬間を……貴方が私に渾身の一撃を見舞ってくれる瀬戸際を! この瞬間のために私はひたすら逃げ回っていたんですからね!!!」

 ベアトリスが剣を突き立てた炎の渦は、エレオノーレが現在進行系で魂を注ぎ込み続けている場所だ。

 即ち、この創造内で現在最もエレオノーレとの接続が強い場所。

 射出された炎では繋がりが薄く辿れない。

 空間を満たす炎でも同じく。

 だが、これほど彼女が強く意思を向けている場所であれば、辿れる。

 魂の道から、エレオノーレの意志、その魂そのものに楔を打ち込める。

『小賢しいことを、だがここから何が出来……ッ!?』

 エレオノーレは即座に砲弾の形成を中断しベアトリスを切り離そうとする。

 だが、できない。

 それどころか、今エレオノーレの力は霧散していた。

 突き立った剣を起点に、己のうちにある無数の魂が散華していくのをエレオノーレは自覚する。

 

「今度は私の剣をを見せる番ですよ少佐――『どうか戦友たちよ 私の言葉を聞いて欲しい』」

 

 そして、ベアトリスが凱歌を歌う。

 エレオノーレの知るそれとは全く違う創造の歌声。

 新たな力を得ても、本質は変わっていないと思い込んでいた。

 

『貴方の言葉を聞いた ならば呼べ 私は来よう』

 

 果たして、騎士の剣というものを、黒円卓にて彼女が振るったことが今まであっただろうか。

 否である、彼女は己の騎士道を見失っていた。

 その中でもがき続けていた、今もそうであると、自分の知らぬ所で、自分ではない誰かの導きを得て再起したと、エレオノーレは思いたくなかった。

 

『輝きを持つものよ 嘗て見た尊き貴方に』

 

 騎士とは護るものなれば。

 これは彼女が見出した護りの誓い。

 己のみのものではない、己の愛を定義し、受け入れ、再誕した飢えに非ざる祈り。

 

『今こそ戒めを解き放ち 我が翼の後へ 我が盾の内へ 我が剣の示す先に続け!』

 

 闇の向こうに光が見える。

 それは正しく、闇に沈んだ魂を掬い上げ、導く標。

 正しき輪廻を指し示す、スクルドの導き。

 

 

『創造――未来世界(ウルザルブルン)極光の戦姫(アウローラ・スクルディア)

 

 

 そして、天使が舞い来る。

 稲妻は光と純化し、その背に極光の翼が顕現する。

 突き立てた剣はエレオノーレの力の流れを捉え、その魂を掴み取る。

 鎮魂の光が、炎を破り溢れ出した。

「終わりです。貴方の罪を、私が終わらせる。今、ここで」

『囚われた魂の強制散華、エイヴィヒカイトに対する特攻能力だと!? 貴様、道理でその身のうちに己以外の魂が……ぐぅ!!!???』

 エレオノーレの保有する数万の魂が、端から浄化されていく。

 始めは数人が。

 数人が解き放たれれば数十人が。

 黄金の輝きに魅せられ戦奴となっていた魂たちが、徐々に、少なくとも確実に指揮官の下から離れていく。

『ふざけるなよ、私は黄金の近衛、赤騎士だ! 私の保有する魂は私と同じく黄金に忠誠を誓った戦士のみ! 貴様ごときが奪い取れるはずが……!』

「忠誠? 本当にそうでしょうか。私には聞こえますよ、彼らの本当の声。それに私はヴァルターさんの聖痕を受け入れていますから。彼の聖痕は聖槍の聖痕を打ち消す効果があります。その力を乗せれば……黄金の魅了から、いくらか解き放つことも出来るんですよ!」

 ベアトリスが剣を更に突き入れる。

 炎の渦は激しく燃え盛り、突き入れた右腕は炎に呑まれ炭化していく。

 肉は完全に削げ落ち、しかし骨だけになろうとも彼女は決して剣を手放さなかった。

「貴方の総軍を、ここで離散させる! そして貴方を救い出す! その次はハイドリヒ卿だ! 私の力はそのために……総てを救うためにあるんだ!!!」

『抜かせ!!! させるものかよ、貴様ごときを、あの御方に近づけるものか!!!』

 炎が、光を飲み込んだ。

 それでも光は抗い続ける。

 その身が焼けても、朽ち果てようとも、炎に焚べられた哀れな魂たちを導き続ける。

 やがて焦熱世界は崩れ、ただ渦巻く炎の球と、抗い続ける光が数式領域に落ちた。

 ベアトリスは意識を失いながら、ただ救うべき魂へと手を伸ばし続ける。

 その果てに、遠からず死が迫っていようとも。

 

 だが、それでも。

 

 その時、空間を黒い茨が引き裂いて。

 

 その先から、永遠の刹那が流れ出して――

 




このマッチアップはとにかく戦ってぶつかるって構想しかなかったんですげー即興で考えました。
さて次はヴァルターですかな。

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