β Ewigkeit:Fragments   作:影次

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お待たせニキ。休日は寝てたんだ、悪いな。
今回は黒円卓始動直前もとい黄金の野獣先輩爆殺大作戦を上層部がウキウキ計画する直前。
まあ前回と同じく閑話だよね、正直。
しかしベア子とママ上殿がイチャイチャしてる部分で半分費やしてるんだけどどういうことなの。


Fragments:1939~1941

 ラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒは飢えていた。

 ヴァルター・フリードリヒ・シェレンベルクは、飢えず、しかし求めていた。

 故に彼らは惹かれ合い、しかし歪んだ相似故に比較はならず。

 互いにその根幹は『理解できない己自身』であり。

 しかし求めるものが決定的に違っていた。

 獣殿はその起源である破壊の愛を自覚できないことにあり、それは先天的な問題だ。

 しかし我が眷属たる彼は、後天的な問題だ。

 そう、先天的な問題など生じようもないのだ、そのように創ったのだから。

 その原因は感情への憧憬であり、それを示す何者かがいなければ発生し得ないもの。

 だからこそ、私はあれを彼女のもとに導き託した。

 すべては、来るべき歌劇のため。

 そう、私は知っている。

 彼女は決してあれを見捨てはしない。

 ひとを慈しみ愛する彼女は、当代の覇者を阻む防御機構、対の聖遺物の次代に相応しいと選定され、それ故に先代を超え完璧すぎる機構と化していくあれを、決して見捨てない。

 必ずそれは起こりうるだろう。

 空虚の胸に孔を穿ち、白痴の心に感情という名の波が湧き出す。

 ああ、感謝しているよ、感謝しているとも。

 私はかつて、それを知らなかった。

 その輝かしい、美しき愛をこの目で見たからこそ、私は女神を求道から覇道へと変生させる術を見出したのだから。

 槍を阻む王冠をその身に秘めるカテリナ・リディア・シェレンベルクが、我が旧き息子、私がこの世界にて新たに創造した眷属、『黒の王』たるヴァルター・フリードリヒ・シェレンベルクにそれを受け継がせることで、あれは完成する。

 完成し、そして……破壊されるのだ。

 白痴の末端は母の愛によって人間性という不完全を得、不完全な完成に至る。

 そして、『月の王』たる彼もまた、それに呼応し目覚めるであろう。

 その時こそ黒円卓第十位が埋まり、第六位を外敵より守護する影が生まれる。

 どちらも主君を頂かぬ反逆の星にして、獣を落し女神の贄となる真なる供物の星。

 女神の地平への、礎。

 

 ふふふ、ははは、ははははははははは。

 げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら。

 

 

 神座、或いは黄金螺旋階段の果てにて 水銀、或いは月の嘲笑

 

 

 

 

「ここが先輩のハウスね!」

 どっかで聞いたような台詞を威勢よく玄関先で吠える人影があった。

「うーんこの後輩。佐官を躊躇いなく荷物持ちとしてこき使うとは将来有望だねえ」

「気にしないって言ったのはナウヨックス少佐じゃないですか」

「まあそうなんだけど」

 ベアトリスとアルフレートは非番に乗じ、ヴァルターの住まいへ訪問しようとここまでやってきていた。

 中央通りからはやや離れた、素朴さを感じる一戸建てである。

「ヴァルターさんは最近忙しそうですれ違ってますし……様子もちょっと変だし。少佐だって心配だと思いません? 日がな親友とか相棒とか自称してるんですから」

「そりゃあ、まあ。でもねえ……ヴァルターがなんか変になった時期が時期だろ? 色々嫌なこと勘繰っちゃうよなーって」

「それは……」

 そう、あの日だ、あのクリスマス。

 凶賊を追った結果黄金の輝きに目を焼かれ、この身柄を掌握されてしまったあの日。

 あの時誰もが、その身の歯車をずらされてしまったと実感した。

 ゲシュタポに所属し、何か生き急ぐように力を求めだした上官のことも。

 なにやらおどろおどろしい存在らしいアーネンエルベの女性のことも。

 苦悩し篭りがちになってしまった神父様たちのことも。

 そして……顰め面を通り越し何やら日々無味無感情になっている気がする先輩のことも。

「……さて。野獣先輩閣下があの宣伝省の胡散臭いのと何企んでるかは、さしもの僕もまだ知るところではないよ。断片的にしか見えてこないね」

「やっぱり、考えても仕方のないことですかね」

「まーねー」

 アルフレートは玄関先の植木鉢を弄りながら気のない返事を返す。

「というか今更なんですが……訪問しに来たのはいいんですけどひょっとして誰も居ないのでは? 少佐が妙に確信的だったんで乗っちゃいましたけど……って、何やってるんです?」

「んー? もうちょっと待って……あったあった」

 アルフレートが植木鉢の中から掘り出したのは、小さな銀色の何かだった。

「……って、それ、ひょっとしなくても鍵じゃないですか!?」

「有事の際は勝手に入ってもいいって言われてるんだよね。まあ、相棒の特権的な?」

「なにそれずる……じゃなくて、え、いいんですかこれ?」

「いいのいいの、さあ入ろうぜ」

「ええー……?」

 ベアトリスはゲシュタポに所属することになってから、アルフレートとの付き合いもまあそれなりになってきている。

 と言うよりこの上官は最近結構な頻度で庁舎内にいるので必然的に話すことになるのだ。

 暇なのだろうかといつぞや問いかけたらはぐらかされたのだが。

 この小男のやることに疑問符を浮かべ首を傾げるのももう何度目か。

 仕方なしに意気揚々と玄関に進むアルフレートについていくベアトリスだったが。

 アルフレートが鍵を挿す前に、扉が空いた。

「駄目ですよ、アルフレートくん。まずは誰かいるかどうか、確認からでしょう?」

「えっなんでいるの」

 扉から出てきたのは、ベアトリスより少し小さな少女だった。

 白磁のような肌、頭の後ろで束ねられた美しい灰金の髪、海の色を切り出したような青の瞳がこちらを静かに見つめている。

 まるでお伽噺から出てきたような、人形のように美しい少女だとベアトリスは思った。

「話し声、中まで聞こえてましたから。あなたとヴァルターの仲を疑うわけではないけれど、親しき仲にも礼儀あり、ですよ」

「う……まあ、その、まだいるとは思ってませんでした、はい。すいません」

 アルフレートが素直に謝罪を返す。

 はい、よろしい、と少女は言い、次にベアトリスへと体を向ける。

「あなたも、ヴァルターのお客様かしら?」

「あ、その、えーと、ヴァルターさんは私の先輩で……」

「まあ。可愛らしい後輩を持ったのね、ええ、ええ、いいことだわ。これからもあの子と宜しくしてくれると嬉しいです」

「あ、はい……その……」

 ベアトリスは何やら見知らぬ美少女が尊敬する先輩の家の中から現れて動揺していた。

 この人は一体誰なのか。

 髪の色が似ているし、妹さんだろうか。

 まさか恋人……え、お兄さんってそういう趣味?

 ドツボにはまりそうな気がするので、ベアトリスは思い切って聞くことにした。

「あの!」

「はい」

 威勢ばかり強い声に対したおやかに微笑みながら返事を返してくる美少女にくそう可愛いなかわいいいいいいと同性なのにやましい事を考えながらベアトリスが問いかける。

「私、ベアトリス・ヴァルトルート・フォン・キルヒアイゼンと申します。すいません、その……あなたはどちら様でしょう? 先輩との関係は……?」

「……ああ! そう、そうだわ。ごめんなさい、変に疑わせてしまって。アルフレートくんは知ってても、あなたとは初対面ですね。自己紹介から始めないと」

 少女はもっともだと謝罪し、互いに見やすいように一歩下がった。

「はじめまして。私はカテリナ。カテリナ・リディア・シェレンベルクと申します。ヴァルターは、私の息子です」

「あ、やっぱりご家族の方だったんですか。宜しくお願いします、いもう……いも……ゑ?」

 ベアトリスは硬直した。

 今、この少女は、なんと、言った?

「えっと、すいません。私の耳がおかしくなったのでなければ今……」

 そんな反応に少女、カテリナはクスクスと微笑みながら応える。

「ええ、はい。聞き間違いじゃありませんよ。私は、ヴァルターの、母です」

「……うそーーーーーーーーーーーー!!!!!!??????」

 うそー、うそー、うそー、うそー、うそー、うそー……

 こだまが響いたような気がした。

「えっちょっはあ!? だって、どう見ても私より若いようにしか、掛け値なしの超絶美少女じゃないですか!? もしやナウヨックス少佐の仕込みですか!? 私を騙そうったってそうは……」

「知ってる側から補足させてもらうけどね。間違いないよ。この人は正真正銘、ヴァルターの母君さ。いやー若作りなお母さんだよね」

「いやあんたが言うな」

 愉快げな二十代の少年ナウヨックスを見て、ベアトリスが一旦落ち着く。

 そう、この上官もそういう不思議生物だった。

 ならば、二十代の息子を抱えるどう見ても十代半ばにしか見えない母もありうる……?

 いやいやねーよ、御年何歳ですか超羨ましい。

「とりあえず、上がってください。立ち話もなんですし」

 カテリナが二人を手招きしながら玄関に向こうへと上がっていく。

 アルフレートがそれに悠々と続いたので、ベアトリスも駆け足でその後を追った。

 扉をくぐり、右隣に備えられている靴箱に靴を脱いで入れる。

 その正面にある扉を開けると、家庭的なテーブルと、その向こう側にキッチンが見えた。

 大きな窓からは眩しくない程度に日が差し込んでいる

「お茶をお入れしますので、椅子にかけて少し待っててください」

「あ、いえ、お構いなく……」

「私がしたいからする、では迷惑ですか?」

「……えーと、はい、頂きます」

 謙虚に断ろうとするベアトリスだったが、美少女の笑顔に完全敗北した。

 こんなの断れないじゃないですか、いやマジで。

 素朴な内装をキョロキョロ眺めたりと落ち着かないベアトリスをアルフレートがニヤニヤと眺めている。

 数分後、湯気の立つカップが二人の前に置かれた。

「ようこそ、我が家へ……というのは、ヴァルターが言うべきですね。ここは私の家、というわけではないから。けれど、息子の宅にこうして人が訪れてくれるというのは嬉しいわ。手前勝手だけど、ゆっくりしていってください」

「はい……えーと、カテリナさん、とお呼びしても」

「はい、どうぞお好きなようにお呼びください。私は、あなたをベアトリスさんと呼んでもよろしいですか?」

「可愛い」

「?」

「おっとげふんげふん、勿論です! 宜しくお願いします!」

 欲望ダダ漏れなベアトリスにアルフレートがカップを口元で傾けつつチベットスナギツネのような視線を向ける。

「ふーんそうかそうか、きみはそういうやつなんだな」

「なんですか、そういうやつって。私に文句でも?」

「別に? ただ小さくてきゃわいい大人ならここにもいると思うんだけどなー」

 わはーとアルフレートがカップを置いた手で自分を指差し笑った。

「ゲシュタポの問題児、いかれスパイ、くそったれ裏切りボーイと名高いナウヨックス少佐のどこに可愛げを求めろと??? 来世で生まれ変わってからやり直してください」

「このアマ……誰だい可愛い後輩に僕の有りもしない悪評を吹き込んだ悪魔共は」

「尊敬できる人とできない人の区別がついてしまうのは当然ですね」

「くすくす」

 ゲシュタポ色よりも先に、アルフレートをぞんざいに扱うべしという人間関係に慣れきってしまったベアトリスである。

 そんな言い争いにカテリナが楽しそうに笑う。

 ぐぬぬ、そんな口元に手を当てて小さく笑うとか可愛いに決まってるじゃないか。

 私にはできない、性格的に。

 ひょっとしてヴァルターさんもこういう女性が好みなのでは……?

 いやいや別に先輩の好みとか関係ないですし、多分。

 そんなことを考えるベアトリスだった。

「ヴァルターなのだけれど、今日帰ってこれるって。ひょっとして知ってて来たのかしら?」

「え、マジで。ラッキー」

「ほんとですか? じゃあ、待ってれば会えるんですね」

「そうね。あの子、最近忙しくて庁舎を経由してる暇もないって言ってたわ。ハイドリヒ中将に連れられて、色んな所に行ってるらしいし」

「僕ら抜擢組の出世頭だもんねー。我らが将軍(ヘル・ゲネラール)様は。ところで、不躾な質問になるんだけど、母君はなんでここにいるの? 僕が聞いた話だと年に一度、クリスマスに様子を見に来るってヴァルターは言ってたんだけど」

 アルフレートがそう聞くと、カテリナは困ったように笑う。

「そうですね。私も最初はそのつもりだったのだけれど……ちょっとヴァルターが心配になって。暫く、近くにいることにしたの。ヴァルターには迷惑をかけてしまうけれど」

「いやいや、こんな優しい母上に心配して頂いて、先輩もきっと感謝してますよ。いえ、絶対に、絶対ですッ!」

 ベアトリスが紅茶を飲みながら鼻息荒く主張する。

 この女、出会ってちょっと会話しただけでもうすっかりカテリナの味方になっていた。

「ふむ。心配になって、って言うけれど。母君から見て、今のヴァルターはやっぱり前と比べておかしい?」

 アルフレートはすっと表情を消し腕を組む。

 アルフレートも、ベアトリスも感じている違和感を、母である彼女は明確に感じ取っているのではないか、そう予想した上での質問だった。

「…………」

 カテリナは、それに眉根を寄せた沈黙で返す。

 それが遠回しに答えを語っていた。

「やっぱり、最近の先輩ちょっと変ですよね。反応が鈍いというか、なんというか。目の色が違う? 単に元気がないだけならまだいいんですけど、どうもそうじゃないような……」

 それは恐怖の前段階の悪寒のような。

 別に、ヴァルターの対応が大きく変わったわけではない。

 今でもベアトリスにとってヴァルターは先輩であり、頼れるお兄さんで。

 しかしだからこそ、今起こっているなにかが良い変化だとは思えないのだ。

 そんな様子を見て、カテリナはほっと息を吐いて。

「ありがとう、二人共。あの子のこと、心配してくれるのね」

 嬉しそうに、しかし悲しげに笑う。

「でも、大丈夫。そう、そうね。あなた達がこれからもヴァルターを気にかけてくれるのなら、きっと大丈夫ですね」

 それは、悲壮ななにかを隠すような。

 しかし、その時のアルフレートとベアトリスには、分からなかった。

「あの子のこと、これからもよろしくお願いします」

 その言葉と同時に、玄関が開き、家主の返ってくる音がした。

 ベアトリスにとって、人としての最後の平穏の時だった。

 

 

 ヴァルター宅にて 後輩と親友と母の会話

 

 

 

 

「…………」

「…………」

 ガヤガヤと言葉の応酬が繰り広げられる会議室で、二人は沈黙を保っていた。

 そこは帝国の高官が集う場であり、沈黙しているのはラインハルトと、その付き人であるヴァルターだった。

 会議は一人の小うるさい将官ががなりたて始めた段階で主題がねじ曲がり、誰かこいつを黙らせろとほうほうから目配せが飛んできている。

 つまらん、そして下らんとラインハルトは思う。

 あの日、あの時から、この世界の矮小たるやを認識してしまった時から、ラインハルトの景色は一変した。

 景観が色づいたのは良いことだ、しかしそれと引き換えにどこまでも広大な空の下でさえ、まるで犬小屋のような手狭さを感じるようになった。

 それが煙臭い無能が喚く一室でなら尚更だろう。

「…………」

 ラインハルトは隣に視線をやり、テーブルの下でその足を自分の足で小突いた。

「ッ! …………」

 足を蹴られたヴァルターは一瞬びくつきつつ、その目を不満を訴えるかたちに変えてラインハルトを睨む。

 だが、ラインハルトにとっては逆効果であった。

「…………」

 げしっ、げしっ。

「ッ! ッ! …………」

 げしっ、げしっ、げしっ、げしっ。

(ぷるぷるぷるぷる)

 げしっ、げしっ、げしっ、げしっ、げしっ、げしっ、げしっ、げしっ。

 がたんっ!

 遂にヴァルターが無表情で立ち上がり、一秒後温和な表情を作って将官をなだめるべく向かっていった。

 その結果にラインハルトは大いに満足した。

 そしてヴァルターが口八丁でその場を修め、とりあえずその場を解散とした。

 こういった見栄ばかりの無駄な時間を会議という名目で費やすのも国家という集団の悪習であり、まあつまりはいつものことだった。

「御苦労だった、ヴァルター」

「思ってもいないことを言わなくて結構です、閣下」

「いいや? 思っているともさ、卿は優秀だ」

「…………」

 ヴァルターはラインハルトを睨む。

 あの日から、唯でさえ気に食わなかったのに今では非常に気に食わなくなったこの男。

 この身のうちを掻き毟る使命感のようななにかが、ヴァルターには分からない。

 それはあの日までなかったものだ。

 だが、それを受け入れている自分がいる。

「…………」

 そんな様子を、自覚のないヴァルターを、ラインハルトは見つめる。

 あの日解き放たれた自分とは違い、あの日囚われたヴァルターを。

「ヴァルター」

「なんです」

「つまらなくなったな」

「は?」

「さっさと私と同じ景色を知るがいい。今の卿は、見ていてつまらん。そのままでは総身腐り落ちるだろうよ」

「なにを言ってる」

「私を失望させるなよ、ヴァルター」

 そう言って、早足に進んでいく。

 ヴァルターは無感情にその背を眺め、結局『気に食わない』という結論のみに帰結した。

 

 

 会議室にて 目覚めた獣と眠りにつこうとする獣の会話

 

 

 

 

「……なんだ、これは」

 アドルフ・アイヒマンは十三号室で部外秘の作戦資料を纏めていた。

 このゲシュタポで匿う裏の裏の存在、その行動管理をこの男は早くから任されていた。

 それは魔女であり、吸血鬼であり、狼だ。

 カール・エルンスト・クラフトがまず手始めに始めた、魔人錬成の兆しだ。

「ハイドリヒ閣下は、このような者を使いなにを成そうとしている」

 あの日、瞳を黄金に輝かせ始めたラインハルト・ハイドリヒは文字通り人が変わっていた。

 成程、確かに。

 もとよりかの御方は人の範疇に収まるような存在ではなかったのかもしれない。

 しかしこれは違う、違うだろう。

 アドルフの胸のうちに燻る思いが生まれる。

 しかし、しかしだ、自身はあの金髪の野獣に忠誠を誓った番兵である。

 この男は、決してかの存在の利益とならない行動は取らないのだ。

 だからこそ、これより魔人たちは戦時中のドイツを席巻し、活動し続けるだろう。

 そして彼は、その下で燻る思いを抱き続ける。

「お、やーっぱり君が情報を握ってたんだねアイヒマンくん」

「!!!」

 自分以外誰もいない筈の室内に声が響き、アドルフは即座に反転し銃を抜いた。

「おいおい、同僚の声を聞き違えなんてしないでおくれよ。僕だよ、僕。僕さ」

「……ナウヨックス」

 そこには両手を上げ相変わらず食えない笑みを浮かべている小男がいた。

 手近な資料に軽い足取りで手を伸ばそうとするが、アドルフが先んじて回収する。

「部外秘だ。貴様といえども承認なきものに見せるわけにはいかん」

「かったいねえ……」

 弾かれた手をプラプラさせるナウヨックスの態度は相変わらずといったところだ。

 だが。

「……ナウヨックス」

「なーに」

「貴様は何故、ここにいる」

「んー? 意図が見えないなあ。それは単純にここにいることについて? それとも野獣先輩閣下に従ってること? それとも」

「すべて、すべてだ! 変わってしまわれた中将閣下のことも! 貴様が、人でもあの怪物共でもないわけのわからないなにかになっていることも! シェレンベルクのここ最近の様子も! 誤魔化しは効かんぞ!!!」

「……ひゅー、やるじゃん。水銀卿が言っていたもう少し融通の効く性格なら列席候補だったってのは嘘じゃないらしい」

 憤怒のうちに詰め寄るアドルフにアルフレートは驚き、そして賞賛した。

 水銀卿、と、確かな言葉を発したことを、アドルフは聞き逃さなかった。

「貴様……貴様もか! 貴様までも、ナウヨックス!」

「おっと勘違いしないでおくれ、僕はまだ魔人ってやつじゃないし、そっちの計画にも関わってはいないのさ。ちょっと勧誘を受けてるだけでね」

 両手を広げ、演じるように周囲を回り始める。

 まるで道化のように、まるで人形のようにアルフレートは回る。

「僕が首を突っ込む理由なんて『面白いから』以外ないだろう? 僕は変わらず動いているつもりだよ? 君だって僕がそういうやつだって分かってたろうに、なにを怒ってるのかね?」

「……貴様の興味を引くような沼を、あの男が用意していたというだけの話だろう。乗せられているとは思わないのか」

「思う。だけどね、僕の心が言ってるのさ。これでいい、ってね。だから、僕は進むよ。君と違って誇りも矜持も紙っぺらみたいなもんだ、君は人のまま苦悩するといい。そっちのほうが、いいだろう?」

「…………」

 その通りだった。

 アドルフ・オットー・アイヒマンは、決して魔人などという人を辞めたなにかの力など求めない、そんなものは祖国のためになりはしないと信じている。

 言われるまでもないことであり、遠回しにこっちは任せてくれなどというアルフレートに侮蔑の目を向けた。

「いつか、すべてに裏切られ喰い殺されるだけだぞ」

「知ってるさ、それは僕の十八番だからね」

「屑め」

「褒め言葉さ」

 運命は、既に定まっている。

 三者は分かたれ、人として生きるものと人でなしとして生きるものが道をゆく。

 それがどこに収束するのかなど分かりようがないし、分かっていいものでもない。

 知ってしまえば、おしまいだ。

「最後に、聞かせろ。シェレンベルクは、どちらだ」

「…………」

 その質問に、アルフレートは曖昧な笑みを浮かべ。

「……さて。どちらだろうね。あいつはこっち側の存在だけど、あいつの意思は――」

 

 

 十三号室にて 番兵と怪人の会話

 

 

 




ママ上殿の見た目は思いっきりモデルキャラがいるんだよね。
ぶっちゃけヴァルターとアルフレートより確固たるイメージを持ってる。
次か、或いは次の次で殺しちゃう人を何でこんなに優遇してるんだろうね、愛かな(真顔)。

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